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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第270話「遍く世界の盾となれ」

 
前書き
地球に残った者sideです。
なお、基本的に椿を中心とした視点になります。
 

 












「かっ……!?」

 神力の籠った矢が、“天使”の眉間を射抜く。
 一人、また敵の数を減らす……が、一向に減った気がしない。

「……本当、多いわね」

 椿は、未だ眼前に集まる敵を見てぼやく。

「作戦上、周辺の敵が集まり切る前に突入だったからね……。あの時、周囲の敵を一掃出来た事の方が偶然だったんだろうね」

 隣まで飛び退いてきたとこよが、椿の呟きに返す。

「司の力で、この世界に来ている全ての神と“天使”が、私達の動きに気づいたって事ね。……生憎、次元世界なんて分類でいくつもの世界があるから、そこら中の神が集まってしまった……と」

「ここまで来ると、“八百万”も形無しだ」

 再び敵に斬りかかったとこよと入れ替わるように、紫陽が椿の傍に着地してため息を吐くように呟いた。

「はぁああああっ!!」

「ッ……!」

「吹き飛びなぁっ!!」

 視界の端では、プレシアの魔法の援護を受けながら、リニスとアルフが敵陣に突っ込むように攻撃を繰り出していた。
 他にも、アミタとキリエが自身の武器を巧みに扱い、肉薄されれば斬撃を、間合いを離せば銃撃を叩き込み、応戦している。

「く、ぅぅ……!」

 吹き飛ばされてきた蓮が、地面に叩きつけられる。
 刀を地面に突き立て、何とか着地するも、片腕が使い物にならなくなっている。

「ッッ……いくら傷を治しても、地力で負ける事に変わりありませんか……!」

 これまで、ずっと五体満足で戦い続けられている者はいない。
 誰もが一度は体の一部を欠損させ、その度に“意志”で再生させていた。

「回復も結界も支援も追いつかない……!」

 後方支援に努めている那美も、処理が追い付かなくなっている。
 彼女を守る久遠も、かなりボロボロだ。

「(まだ戦える。……けれど、物量差で押され続けている。これって……)」

 後衛且つ、全体を俯瞰するように戦場を見ていた椿だからこそ気づけた。
 実際は多くの“天使”達を相手取るとこよや紫陽でも、余裕さえあれば気づけたかもしれないが、今この場では椿のみが気づけていた。

「(……なるほど。“性質”を相殺されても、その力は権能並ね)」

 数えるのも億劫になる程の数の敵。
 そんな敵の群れに埋もれるように、一人の神がいた。
 その神は、何も一際目立つような存在感は出していないし、容姿も敵の群れに埋もれるようなものだ。

「(さしずめ、“物量の性質”かしら……)」

 だが、その神こそ、椿達を物量で苦戦させている原因だった。

「ッ!」

 神力の矢をその神に向けて放つ。
 当然だが、妨害されて矢は届かない。

「(まずいわね……。ここに来て、集団戦が出来る敵が現れた。……いえ、元々いたけど、ずっと用意していたって訳……!)」

 気が付けば、“天使”の数がさらに増えていた。
 それだけでなく、上空に無数の理力の弾があった。
 ……完全なる物量の暴力が、椿達を襲う。

「ッッ……!!」

 椿やとこよ、紫陽を含めた八百万の神々が、障壁を展開する。
 しかし、それでも物量の差に押される。

「(防ぎきれない……どころか、躱す事も……っ!?)」

 “ギリッ”と奥歯を噛み、食いしばる。
 “意志”を以って障壁を破られまいと維持し続ける。

「第、二撃……!?」

 弾幕の、僅かな隙間からそれは見えた。
 一度目が点による殲滅ならば、今度は線による串刺しだ。
 こうなると、余程“防ぐ”という事に強靭な“意志”を込めないと防げない。
 障壁を破られても耐える事は出来るだろうが、物理的ダメージすらこの場ではあまり受けるべきではない。

「っ……!」

 加え、第三撃がないとも限らない。
 ともなれば、誰かが相手を妨害するために突貫しないといけない。
 しかし、椿達は障壁の維持に精一杯になっており、それが出来る人員もほとんどが神界に突入しているためにこの場にはいない。

「(“出来そう”なのは……!)」

 周囲を見て、三人見つける。
 直後、考えるよりも先に同じ事を考えていた紫陽が叫ぶ。

「小烏丸!それとリニス、アルフ!……切り込めぇっ!!」

「ッ……!」

 “あれに突っ込めと言うのか”という思いよりも先に、三人は突貫する。
 簡単に言うが、当然ながら不可能に近い事だ。
 八百万の神々ですら防ぎきれない物量を抜けるなど、出来るはずがない。

「私が出来る限り捌きます!」

「リニス!詰めは頼んだよ!」

「はい!」

 そんな物量に、三人は躊躇なく突っ込む。
 蓮が前に出て、出来る限り且つ、最低限の弾幕を切り払う。
 そこへリニスが砲撃魔法で活路を開き、アルフがその身を盾に道を確保する。
 その上で、未だ先が見えない。だが、リニスがその先へ突っ込む。

「祈りの力、借り受けます……!」

 無論、無策ではない。リニスにも策はある。
 その手札を、今使った。

「祈りを現に……“意志”を以って貫かん!」

   ―――“Penetrate Prayer(ペネトレイトプレイヤー)

 司の使い魔だからこそ出来る、天巫女の力……その一端の行使。
 祈りと共に放たれた砲撃魔法が、弾幕に穴を穿とうと突き進む。

「ッッ!!」

 それだけに終わらない。
 リニスはその砲撃魔法に、後ろから突っ込んだ。
 まるで、砲撃魔法をその身に纏うかのように自身も突貫した。

「抜けてきただと……!?」

「“三雷必殺”!!」

 “物量の性質”を持つ“天使”が驚愕に目を剥く。
 そんな“天使”に向け、リニスは渾身の魔法を間髪入れずに三発叩き込む。

「バースト!!」

 さらに、魔力を一気に流し込み、敢えて魔法を暴発させる。
 それによって、三発の魔法は膨張し、疑似的な広範囲殲滅魔法と成す。

「ッ……!」

 しかし、その攻撃はさほどダメージにならない。
 “領域”を砕くには程遠く、ほとんど無意味に終わるだろう。
 加え、今のリニス達は孤立している。
 このままでは、三人とも圧倒的物量に押し潰されてしまう。

「―――ッ!」

 だが、その前に椿達が動いていた。
 リニス達に指示を出した直後には、椿やとこよを含めた弓矢を扱う神々や式姫、陰陽師が弓を構えていた。

「狙い澄ました一撃よ。……確実に射貫く!!」

   ―――“一矢神滅(いっししんめつ)

 それぞれが放った矢が、閃光となって駆け抜ける。
 圧倒的な物量を相手に、穴を縫うかのようにその矢はすり抜けていく。
 そして、標的のみを射抜く。

「か、ぁ……!?」

「ここだ!」

 その矢が中った事を認識した瞬間、紫陽が叫ぶ。
 そして、見計らったかのように、プレシアを筆頭に大魔法及び霊術が放たれた。

「くっ……!」

「はぁっ!!」

 それを妨害しようと、射抜いた相手以外の敵が立ち塞がる。
 しかし、同時にキリエやアミタ、突貫した蓮やアルフなど、近接戦や遊撃に優れた面々が肉薄して、反撃を繰り出す。

「ッ、っ……!」

 だが、椿達も無傷ではない。
 放たれていた圧倒的物量の弾幕は、そのまま着弾する。
 防御を捨てて反撃に出た結果、防御に力を割いていた面々は避ける事さえ出来ずに、悉くが蹂躙されてしまった。

「ぐ、っ、っの……!」

 歯を食いしばり、椿は立ち上がる。
 体中がボロボロになり、血もかなり出ていた。
 それは近くにいたとこよも同じだ。
 二人に至っては、防御と反撃を兼任していたのだ。
 辛うじて避ける……それすらできずに直撃していた。

「相変わらず、ふざけた力……!」

 敵の勢いを崩すために払った代償は大きい。
 それだけでなく、()()()()()()()()()()()()()()

「……もう、防ぐ余裕なんてないわね」

 眼前に広がるのは、交戦を続ける味方と敵の姿。
 そして、そこへ未だに降り注ぐ敵の弾幕だった。
 椿達の渾身の反撃は、敵を倒すとまではいかなかったのだ。

「死に物狂いで戦い続けてやるわよ……!」

 傷を“意志”で治し、椿は神力を迸らせる。
 四肢がもげようと、体を失おうと、全てを“意志”で覆らせる。
 そんな覚悟の下、体に力を籠め―――









   ―――同時に、神界の神々に対して重圧がかかった。







「なん、だ……!?」

「……!今よ!」

 敵の動きが鈍った。
 その隙を逃さずに、交戦している者は敵に渾身の一撃を叩き込んだ。

「……今のは……」

 明らかに動きが鈍った事に、椿達は気づいていた。
 そして、その原因が何か探ろうとしたが……

「ッ―――!?」

 上空に広がる巨大な光球が現れ、それどころではなくなった。

「纏めて消し飛ばすつもり!?」

 その光球を放ったのは、“殲滅の性質”を持つ神とその“天使”だ。
 発生から発射までの時間が明らかに短く、さらにはその範囲も海鳴市とその周辺の街を完全に消滅させられる程だ。

「(回避……間に合わない……!)」

 気づいた時には転移でもなければ躱せない所まで迫っていた。

「―――え?」

 しかし、その焦りは消え失せた。

「なっ……!?」

 味方からは呆気にとられた声が。
 敵からは驚愕の声が漏れる。
 だが、そうなるのも無理はないだろう。

「“何か”に、打ち消されてる……?」

 なぜなら、椿達を押し潰さんとしていた光球は、何かに止められたかのように、その場で停止していたからだ。

「何が、起きて……?」

『絶好のチャンスだよ!諸君!!』

 椿の呟きに答えるように、彼女の目の前にホログラムが出現する。
 地球以外のどこかにいるはずの、ジェイルからの通信だ。
 隣にはグランツもおり、二人の表情は違えど、どちらも歓喜に満ちていた。

「何が起きたんだい?手短に頼むよ!」

『説明しようではないか!』

『うむ、ジェイル君にやらせると長引く。では端的に言うと……敵の攻撃を止めたのは世界そのものの“意志”だ』

「……なるほど、ね」

 ジェイルを遮るように簡潔に言ったグランツ。
 それを聞いて、紫陽は納得したように頷いた。

「ようやく、一緒に戦ってくれるって事かい?なぁ!」

 空に、虚空に向かって紫陽は言う。
 それを聞いていたとこよと椿も、どういう事なのかは理解していた。
 元より、世界そのものの“意志”によって敵の“性質”は相殺されている。
 今度は、それに加えて戦闘の支援もしてくれているのだ。

『―――我が世に生ける者達よ―――』

 声が響く。
 男性のようにも、女性のようにも、子供にも、老人のようにも聞こえる声が。
 文字通りの“世界の意志”が、世界中に生きる者へと語りかけてきた。

「(この声、神々や英雄達を召喚した時にも聞いた……)」

 歴史に刻まれた英傑達を呼び出した声にも似ている。
 だが、今回は世界の“意志”のみの声だ。
 前回の鼓舞するような威厳ある声とは少し違う。
 全てを見守り、包み込む父や母に近い、そんな声だった。

『―――数多の世界より、助力を受けた。あらゆる世界が、今この状況を打破せんとしている。……故に―――』

 一拍置き、声は宣言する。

『―――此れより我が世は、遍く全ての世界の盾となる。我が世に生ける者達よ、汝らは敵を屠る矛となれ―――』

 その言葉と共に、静止していた光球は収縮し、大爆発を起こして消え去った。
 味方に被害はなく、それどころか爆発に巻き込まれた敵はダメージを負っていた。

「っ……!」

 世界の声に、敵の神々は狼狽えていた。
 世界そのものの“領域”は、神界に生きる神よりも強靭だ。
 イリスクラスであれば、さらにその上を行く事もあるが、基本的に世界そのものには勝てないようになっている。

「ッ―――!」

 そんな動揺の隙を突いて、一気に椿達は攻勢に出る。
 慌てて反撃する神々だが、その攻撃は風船の空気が抜けるかのように消えていく。
 今までは世界を保つだけに留まっていた世界そのものの“領域”が直接牙を剥いてきたために、あらゆる攻撃が阻害されているのだ。

「これなら……!」

 ただでさえ、平行世界の自身の力を上乗せされ、力が上がっている。
 その上で世界そのものから支援を得た事で、椿達はさらに力が高まるのを感じた。

「くっ……負けてなるものかぁっ!!」

 だが、敵もタダではやられない。
 全戦力を投入して、椿達を倒そうと襲い掛かってきた。
 最早なりふり構わないその姿勢に、だからこそ油断せずに、八百万の神々が真正面から迎え撃った。

「はぁっ!!」

「っ!」

「こいつら……!」

「さっきの攻撃をしてきた神だよ!」

 リニスやプレシア、蓮など魔導師と陰陽師、式姫もそれに参戦していく。
 椿ととこよ、紫陽も同じように向かおうとして……別の神が襲ってきた。
 “天使”と共に襲ってきたのは先ほど光球を放った“殲滅の性質”の神だ。

「“天使”共はあたし達が請け負う!」

「椿ちゃん!行けるね?」

「優輝達だって頑張ってるのよ。当然じゃない……!」

 後衛であるはずの椿が、一対一でその神と対峙する。
 他の“天使”は即座にとこよと紫陽が分断してくれたようだ。

「ぉおおっ!!」

「ッ……!」

 刹那、神が理力の剣で間合いを詰めると同時に薙ぎ払ってくる。
 椿はそれを神力で受け流しつつ、上を取る。

「ちっ……!」

 そのまま神力の矢を放つが、神がもう一振りの剣を作って切り払われる。
 至近距離で神力と理力が炸裂し、目を晦ませる。

「(今の私は、平行世界の私の力もある。弓矢だけじゃない。体術だって……!)」

 なのはやフェイトと違い、椿は平行世界からの恩恵はそこまで大きくない。
 しかし、それでも戦闘スタイルの不得手がなくなる程度には強くなっている。
 草の神としての権能を使いつつ戦えば、肉弾戦でも十分戦える。
 そう判断して、椿は神力を体全体に巡らせる。

「っ、はぁっ!」

「ッ……甘い!」

 体勢を立て直した所へ、神が突きの一撃を放ってくる。
 半身を逸らして回避すると同時に地面に手をつき、蹴りを放つ。
 突きを放った腕に命中させるが、もう片方の手で反撃してきた。

「どっちが……!」

「くっ……!」

 体を捻り、その反撃を二撃目の蹴りで相殺する。
 同時に、地面に手をついていた事で権能を発動させる。
 地面から蔓のような草を生やし、神の足を絡めとる。

「ならば……!」

「奇遇ね……!」

 圧縮された理力が槍となって椿へと飛ぶ。
 敵の攻撃は世界の“意志”で弱まるが、圧縮した事で防いでいるようだ。
 加え、“殲滅の性質”も表に出さずに内側に留める事で戦闘力を発揮している。
 だが、椿も負けじと弓矢を構え、神力の矢を弾幕として放った。

「おおっ!!」

「くっ……!」

 攻撃を相殺した際の閃光を利用し、神が突っ込んでくる。
 一撃目、二撃目は躱す椿だったが、三撃目は躱せずに防御の上から吹き飛ばされる。
 片手と両足で踏ん張り、地面を滑りながら勢いを殺す。
 同時に地面から神力の籠った草を生やし、攻撃として神へと差し向ける。

「無駄だ!」

「白兵戦に長けた神は、これだから……!」

 理力がナイフ程度の刃となり、草を切り裂く。
 そのまま椿は肉薄され、近接戦を強いられた。
 躱し、防御は出来るものの、防戦一方となり、間合いを離す事も出来ない。
 このままでは不利だと椿もわかってはいるが、敵は仕切り直しを許してくれない。

「はぁっ!!」

「ぐっ……!?」

 だが、だからこその隙を椿は逃がさない。
 防戦一方なのをいいことに攻撃に意識を割いていた所で、カウンターを放つ。
 導王流とまではいかなくとも、その動きを散々見てきた椿ならば、的確にカウンターを当てる事ぐらいは可能だ。

「(浅い!)」

「この程度!」

「っ、きゃあっ!?」

 しかし、耐えられる。
 さらにはカウンター後の隙を利用され、強烈な攻撃を受けてしまう。
 辛うじて防御は出来たが、直撃を免れた程度で、そのまま吹き飛ばされて後方にあった岩場に叩きつけられた。

「っづ……!」

 体を起こし、即座に横にずれる。
 寸前までいた所を、神の追撃が突き刺さった。

「ぉおっ!!」

「ぐっ……!」

 そこからの、薙ぎ払いが迫る。
 組んだ両手を薙ぎ払う腕に叩きつけ、反動で上に避ける。
 それでも、薙ぎ払う際の岩が当たってしまうが、無視して弓矢を構える。

「ぁあっ!?」

 だが、それは横から殴られた事で吹き飛ばされる。
 攻撃もギリギリ間に合わず、矢は頬を掠めるに留まってしまった。

「(体格差を何とかしないと……!)」

 振るわれる攻撃を躱し、動きを見極める。
 肉体ダメージを治せるため、徐々に動きを理解した分、被弾が減っていく。
 しかし、未だに決定打となる反撃は決められず、追い詰められていった。

「しまっ……!?」

 そして、ついに致命的な一撃を食らってしまう。
 再び壁に叩きつけられ、間髪入れずに首を掴まれた。

「終わりだ」

「ぐ、くっ……!」

 持ち上げられた体勢から、何とか反撃を繰り出そうとする。
 神力を込めた手刀及び蹴り、権能を利用した拘束を放つ。
 だが、その前に叩きつけられるように投げ飛ばされた。

「おおっ!!」

「ッ……!」

 反撃に出る間もなく、神から渾身の一撃が放たれた。
 “性質”を圧縮した事で世界の“意志”に相殺される事もなく、躱し切れない程の範囲で力の奔流が椿へと放たれた。

「いつまでも……嘗めるんじゃないわよ!!」

 一念発起。椿は一歩踏み込み、その力の奔流を真正面から受け止めた。
 足りない分の力を全て“意志”で補い、まるで当然のように相殺した。

「ぐっ……!」

 だが、それだけで満身創痍級の肉体ダメージを負う。
 手はもちろん、体中が余波でボロボロになる。

「ッ―――!」

 その体に鞭を打つように、椿は横に飛び退く。
 直後、神の追撃が寸前までいた場所を貫く。

「シッ……!」

 転じるように、椿は反撃に出る。
 迎撃の一撃を“意志”の下相殺し、肉薄する。

「ふっ、はぁっ!!」

 両手を防御に使い、脚を攻撃に使う。
 体術によって僅かな間攻防を繰り広げるが、その均衡は即座に崩れた。

「ふん!!」

 暴力的なまでの、腕の薙ぎ払い。
 その一撃はあまりにも強く、椿の相殺も空しく直撃した。

「油断したわね」

   ―――“花躯吹雪(かみふぶき)

 だが、椿はそのまま花へと変わり、神の攻撃は空ぶった。
 気が付けば、神の周囲には花が大量に舞っていた。

「くっ……!」

 数撃、椿は死角に回りつつ攻撃を放つ。
 それらを全て防がれたが、それで十分だった。

「っ……!」

 頭上からの踵落とし。それを弾かれる。
 椿はその反動を利用し、大きく飛び退く。
 同時に花の量を増やし、目晦ましとする。

「―――そこ!」

   ―――“一矢神滅”

 そして、間合いを離した所で、頭から落下しつつ弓矢を展開。
 神力を込めた神殺しの矢を放った。

「ぉ、ぉおおおおおおおおっ!!」

 しかし、そこに圧縮された理力がぶつけられた。
 戦闘にも長けた神なだけあり、完全に矢の穂先を捉えられた。
 花による目晦まし状態だというのに、全く意に介していない。

「っ―――」

 渾身の一矢が相殺されたのを椿も見ていた。
 矢が弾け飛んだのを見て、表情が強張る。
 ……そして。

「残念だった、な―――?」

   ―――“一矢神滅”

 神の後頭部を、神殺しの矢が射抜いた。

「真正面から倒す訳ないでしょう。冗談じゃないわ」

 神の()()から、椿の声が響く。

「なに、が……!?」

 薄れる意識の中、神は正面にあった魔法陣に気づく。
 そこは、先ほどまで椿がいた場所……その落下地点だ。
 椿は、その魔法陣を使って転移し、神の背後に回っていたのだ。

「いつの、間に……」

「さっき、攻撃を相殺した時よ。元々、なけなしの魔力しかなかったから、気づけなかったでしょう?」

 椿の回答を聞き、神はそのまま意識を落とした。
 先ほどの矢と、今放たれた椿のトドメが効いたのだろう。
 そのまま“領域”は砕け、神の体は霧散した。

「平行世界の力を集めて、ようやく戦える領域……か。“意志”で補えるとはいえ、相変わらずとんでもない力ね」

 周囲を見渡せば、戦闘の余波で荒れ果てた木々と大地が目に入る。
 極力肉弾戦ばかりだったが、それでもここまで被害が出ているのだ。

「そっちも、終わったみたいだね」

「とこよ、それに紫陽も。そっちも終わってたのね」

 そんな椿の下へ、とこよと紫陽がやってくる。
 二人も“天使”達を倒してきたようだ。

「まぁ、貴女達なら勝っていて当然ね」

「さすがに強かったけどね」

「あたし達でも、なかなか苦戦したよ」

 二人とはいえ、相手も複数だ。
 実際、かなり苦戦したようで、ボロボロな服装になっていた。

「……気が付けば、こっちの優勢ね」

「それぞれの戦いに勝ったみたいだからね」

「世界の“意志”からの支援がなけりゃ、最低でももっと長引いていただろうね」

 見上げれば、既に敵の姿がほとんどなくなっていた。
 世界の“意志”による支援が余程効いていたのだろう。
 あれほど苦戦した相手をものの見事に駆逐していた。

「後は残党狩りってとこさね」

「まぁ、油断しないように行こうよ」

 とこよと紫陽はそういって、他の者の援護に向かう。
 椿も、それに続こうとして、ふと振り返るように見上げた。

「(貴方達も、勝って帰ってくるのよ。優輝、葵……皆も)」

 神界に突入した者達を想い、椿は微笑んだ。
 後の戦いは全て彼らに託した。
 だからこそ、椿も自分の戦いを全うしようと、改めて戦場へと向かっていった。

















 
 

 
後書き
“物量の性質”…文字通り、物量に優れた“性質”。弾幕はもちろん、集団戦などにも長けており、椿達を数の差を以って苦しめた。

Penetrate Prayer(ペネトレイトプレイヤー)…天巫女の力を借り受けた砲撃魔法。祈りの強さに比例した貫通力を持つ。

一矢神滅…“確実に射貫く”、“神界の神を倒す”と言った強い“意志”と共に放つ矢の一撃。概念的、因果的効果が付与されているため、あらゆる妨害を突破できる。

“殲滅の性質”…文字通り、殲滅に関する事に長けた“性質”。対複数戦において本領を発揮でき、殲滅系の攻撃をいとも簡単に放つことが出来る。一対一でも弱くはなく、戦闘に長けている。

花躯吹雪…花を大量に生成し、自らも花に変わる事で姿を晦ます技。そのまま攻撃に転じる事も出来る攻防一体の性質を持つ。技名は“花吹雪”と“神”に掛けてある。


居残り組の戦闘はこれで終わりです。フローリアン姉妹とかの出番がほとんどないですが、そもそもここで出来る戦闘が少ないので……。
一応、椿と同じようにそれぞれが戦闘をしていたという事にはなっています。 
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