戦国異伝供書
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第百十六話 摺上原の合戦その十三
「米沢に戻ればな」
「飲まれますか」
「戦に勝てばと思っておった」
小次郎の言葉に答えた。
「奥にもそう言っておった」
「そうでしたか」
「それでな」
政宗はさらに話した。
「今もまだ控えておるが」
「出陣されてから」
「飲んでも少しであるが」
それをというのだ。
「米沢に戻るとな」
「その時にですな」
「心ゆくまで飲むとしよう」
こう言うのだった。
「いよいよな」
「そうされますか」
「うむ、ただ肴は別にじゃ」
これはというのだ。
「何でもよい」
「そちらはですか」
「塩なり何なりな」
「そうしたもので、ですか」
「飲む、奥を見つつな。そしてお主もな」
小次郎に今度はこう言った。
「お主の奥とじゃ」
「飲むことですか」
「そうせよ、そうすればじゃ」
どうなるかとだ、政宗は弟に言うのだった。
「これ以上はないまでに美味い酒が飲めるぞ」
「自分の妻の顔を見て飲めば」
「そうすればな、一人で酒を飲むのもよいが」
「越後の上杉殿がそうですな」
「あの御仁は奥方がおられぬからな」
「そうなっていますな」
「しかしそれは限られた話じゃ」
謙信の様なことはというのだ。
「だから奥の顔を見てな」
「飲むことですな」
「そうじゃ」
そうせよというのだ。
「この度もな」
「そうされますか」
「お主達も飲む酒も美味いが」
「奥方様をご覧になられて飲まれる酒もですか」
「美味い、だからな」
それ故にというのだ。
「この度はな」
「そうして飲まれますか」
「うむ」
実際にというのだ。
「その様にする」
「そうですか、ではその為にも」
「米沢に戻る、そしてな」
政宗は小次郎にさらに話した。
「論考も行うぞ」
「この度の戦の」
「それも行う、では米沢に戻るぞ」
こう言ってだった。
政宗は会津を全て手に入れてそのうえでことを収めると米沢まで戻った、そのうえで今度は酒を楽しみ論功も行うのだった。
第百十六話 完
2020・10・1
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