イヌカレたのはホノオのネッコ
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第参話「消防官新人大会」
前書き
3話目、ようやく原作主人公の登場です。
壱ノ章を完走したので、今日から弐ノ章をマラソンし始めました(笑)
配信終わるまでに予定してる最終話まで書き切りたいけど、これはまたレンタル頼りになるかなぁ。
2日後、12月12日は伴装者で純くんの誕生日回出すので、そちらもよろしくお願いしますm(*_ _)m
というわけで第3話、お楽しみください!
青空の下。公園の芝生に、二人の少年が立っていた。
「オレ、やっぱりヒーローになる!ヒーローになって、困ってる人達みんな助ける!!」
ギザ歯の少年が、赤いマントをはためかせる。
青いTシャツと相まって、その姿はまるで小さなスーパーヒーローだ。
「だったらオレは、シンラのお助けヒーローになるよ!シンラがみんなのヒーローなら、俺はシンラが困ってる時に助けるんだ!」
もう1人、所々ハネたくせっ毛の少年が、ギザ歯の少年に微笑みかける。
「オレのお助けヒーロー?」
「うん!やくそく!ヒーローは助け合い、でしょ?」
ギザ歯の少年の顔に、満面の笑みが広がった。
「じゃあさ、ハクジが困った時は、オレが誰よりも早く助けに行くよ!」
「ほんと!?」
「ああ、やくそくだ!」
その日交わした約束が、2人の絆になった。
少年達はその後、降りかかる困難にもめげずに、立ち向かっていったらしい。
そして、その少年達は今──
✠
「遂に明日だな、新人大会」
「絶対活躍するぞーっ!そして見事に、優勝してみせるっ!」
明日は待ちに待った新人大会。俺も古達ちゃんも、今から張り切っている。
「興梠、絶対負けないからな!」
「おう!俺だって優勝は譲らないから、覚悟しろよ!」
新人大会。それは年に1度、この時期に行われる消防庁の一大イベントだ。
入隊したばかりの隊員達の実力を、自他共に把握させる事が目的としたもので、つまるところ新米にとっては腕試しの場である。
新人達は自分の隊のメンツを背負い、優勝を目指す。まあ、隊のメンツを抜きにしても、順位があるなら一番を目指すのは当然だろう。
「おっ!張り切ってるなっ!」
「「烈火中隊長!」」
そこへやって来る烈火中隊長。
今日もいつも通り、にこやかな笑顔を浮かべて、そして熱血の炎を燃やしている。
「新人大会、燃えるよなっ!懐かしいぜ!」
「烈火中隊長は新人大会、どうだったんですか?」
「いやー、惜しくも優勝は逃しちまったんだよな~。あの時は悔しかったぜ!でも、全力で挑んだ結果だから満足だぜっ☆」
烈火中隊長の言葉には、全く曇りがない。
この人は本当に、心の底からその結果に満足しているんだろう。
皆が憧れるのも頷ける。烈火中隊長の熱苦しさは、後悔を残さない生き方の表れでもあるのだ。
「明日の大会、俺は来られないんだが、お前らの事は応援してるぜっ☆」
「えー!烈火中隊長、見に来てくれないんですかー?」
残念そうな顔をする古達ちゃんに、烈火中隊長は優しく微笑みかける。
「すまない環、その日はどうしても外せない用事が入っちゃったんだ。くぅ~……残念だぜ、年に一度の新人大会だってのによ~っ!」
「烈火中隊長……」
「でも、俺の分まで燃えてきてくれよっ!環、狛司、ファイトだぜっ☆」
「「はいっ!!」」
烈火中隊長が差し出した手に、俺と古達ちゃんも手を重ねる。
「ファイトぉぉぉぉぉッ!」
「「「いっぱーーーーーつッ!!」」」
円陣を組み、3人で重ねた手を高く掲げる。
これなら明日の大会は、全力で挑めそうだ。
「よぉし!今日は俺の奢りだぜっ☆ゲンを担いで、カツ丼食いに行くぞーっ!」
「いいんですか!?」
「明日の埋め合わせだっ!好きなだけ食っていいぞっ☆」
「ありがとうございますッ!」
「興梠、あんまり高いもん頼むんじゃねぇぞ~?」
「こういう時くらいはいいだろ~」
「何杯でも好きなだけ食え!俺もジャンジャン食うからなっ☆」
こうして、その日の夕食はカツ丼大盛りをおかわりした。
それにしても、新人大会か……。
久し振りに、アイツらにも会えるかな?
どの部署に入ったんだろうか。楽しみだ。
✠
新人大会、当日。
各部隊の番号が振られたテントが張られ、隊員達が右往左往している。
第2、第3、第4、第5、そして第8……医療部隊である第6と、浅草の自警団から組み込まれた第7以外の部隊が勢揃いだ。
各隊の大隊長、中隊長も、新人達を励ますために集まっている。
この大会は、他の隊との顔合わせの意味もあるから、ここで交流を深めておくのも悪くないだろう。
それから来賓席には、聖陽教会の司祭様に灰島重工の社長さん、皇国軍の大佐殿と、特殊消防隊に関わる各方面のお偉方が並んでいる。
礼服やスーツの中、1人だけ白衣のもじゃもじゃ頭がいるんだけど、灰島の研究員だろうか?
どんだけ白衣好きなんだろう。ひょっとしたら年中白衣なのかもしれない。
あと、消防庁のマスコット『119』も来ているようだ。
何度見ても思うんだけど……まもるくん、可愛いのか?
犬と猫のマスコットに、1人だけ混ざってる犬顔のおじさん……どう見ても浮いてるような──
「てめぇ!うちの大隊長に気安く話しかけてんじゃねーよ!……はにゃっ!?」
「わ!!違う!!ごめんなさい!!」
「何笑ってんだよ!変態!!」
って、この聞き覚えしかない声とやり取りはッ!?
慌てて声のした方向を見ると、古達ちゃんが男性隊員に胸を触られて……もとい、男性隊員の手が古達ちゃんの胸に触れてしまっていた。
「ああああああ待って待ってストーップ!!」
慌てて駆け出す俺。ラッキースケベられが理由で、他の隊とトラブルが起きてはたまらない。
全力疾走で駆けつけようとした俺は……
「ごめん、そこのお茶拾って!!」
通りすがりの隊員が落としたお茶缶を踏んずけ、派手に転んだ。
「どわあああああああああっ!?」
慌ててバランスを取ろうと、目の前にあった何かを掴む。
幸い、グラウンドに顔から突っ込む事態は避けられたようだ。
「はぁ、危なかった……」
むにゅっ♡
……ん?むにゅっ?
何やら手の先に、妙に生温かくて柔らかな感触が……ある……よう……な…………?
顔を上げると、そこにはきょとん、とした古達ちゃんの顔があった。
手の先を見ると、俺の両手は綺麗に古達ちゃんのズボンの中へと入っている。
……………………あ、これひょっとしなくても古達ちゃんのお尻だわ。
「にゃあああああああああっ!?」
「ごごごごごごごめん古達ちゃんッ!今離すk「何してくれてんだ興梠のド変態!!」待って今動かれるとぉわああああああっ!?」
「ひゃうっ!?」
手を抜く前に動かれたもんだから、古達ちゃんのズボンがそのままずり落ちる。
ついでにバランスを崩した事で、ズボンの下は思いっきり俺の顔の前に晒されてるんだけど地面に打った顎が痛ぇ!!
「チクショウ……いつもの“ラッキースケベられ”が発動するとは……」
「ふ、不幸だ……」
ズボンを履き直した古達ちゃんと2人、ガックリと肩を落として落ち込む。
他所の隊員の前でこんな醜態晒すなんて……。しかも地面に身体打った痛みで涙出てきたわ……。
「その口癖……!お前、狛司じゃないか!」
「え?」
古達ちゃんに絡まれていた隊員の声に振り返ると、その顔には見覚えがあった。
「久し振りだな!狛司!」
「森羅!お前だったのか!」
森羅が差し伸べてくれた手を掴み、立ち上がる。
釣り上がった赤目、短い黒髪、サメみたいなギザ歯。
間違いない、森羅だ!
「お前の不幸体質、変わってないな……」
「お前の方こそ、相変わらずみたいだな。それで、どこの部隊だ?」
「第8だ。新設だって聞いてたけど、結構いい所だよ」
「第8か……確かに、お前にはピッタリかもな。アーサーもそっちなのか?」
「相変わらずバカやってる。狛司は、やっぱり第1か。おめでとう、お前なら行けると信じてたぜ」
「ありがとな」
「興梠、お前そいつと知り合いか?」
再会を喜び笑い合う俺達を、古達ちゃんが不思議そうな顔で見つめる。
「ああ。こいつは森羅 日下部、俺の幼馴染だ」
「へぇ……」
「なあ狛司、こいつも第1の隊員なのか?」
「古達ちゃんか?俺と同じ第1の新人隊員だけど、何か疑問でも?」
森羅は古達ちゃんの方を見ながら、ボソッと呟いた。
「いや……防火コートはちゃんと閉めろよ……」
「しっ、仕方ねぇだろ!私の能力はこうした方が動きやすいんだから!」
「それは俺も思ってた。古達ちゃん、能力使ってない時くらい前は閉めた方がいいぞ。その黒ビキニ、男には中々刺激が強──」
「分かったよ!分かったからこっち見んな!」
俺が古達ちゃんに引っぱたかれた所で、競技開始5分前の合図が鳴った。
「そろそろ集合か」
「あっ、悪い。先行っててくれ」
「森羅?何処へ行くんだ?」
集合場所ではなく、反対側へと向かっていく森羅。
その先に居るのは……。
「バーンズ大隊長?」
俺達第1の大隊長、レオナルド・バーンズ大隊長。
年齢50歳でありながら、老いを感じさせない筋肉隆々な体格。眼帯で隠した右目、後頭部で結った白髪は、体格と相まってベテランの風格を放つ。
ちょっと迫力あるけど優しそうな表情には、何処か父親のような温かみを感じずに居られない。
エリート部隊を率いるに相応しい、威風堂々とした人だ。
「あの新人、第1の大隊長に用があるみてぇなんだ。興梠、心当たりあるか?」
「どうだろ?聞いてみなきゃ分からないな……」
バーンズ大隊長と森羅が何を話していたのか、俺達には分からない。
だが、少なくともバーンズ大隊長に軽くあしらわれた事は、遠巻きに見ていてもわかった。
森羅……何を話したんだ?
それと古達ちゃん、大隊長に絡みに行ったからって森羅を蹴るんじゃありません。飼い主をとられた猫じゃないんだから。
✠
「これから、火事場に見立てたあの建物に一斉に突入してもらう。障害を突破し、要救助者を助けてから、最も早く焔ビト役の隊員の元に辿り着け!」
試験官の説明を聞きながら、建物を見上げる。
外から見た所、内部には複数の階層が存在し、3つのエリアに分けられているようだ。
ご丁寧に『壱』、『弐』、『参』と書かれたパネルが付いている。
灰島が建築に携わってるらしいから、おそらく障害として用意されたトラップも、実際の火災現場を想定した本格的なものが用意されているのだろう。
「なるほど、攻城戦か!」
「攻め込むわけじゃねェだろ」
森羅が隣の騎士バカ玉葱頭にツッコミを入れている。
本当に訓練校にいた頃と変わってないな……。
「火怖い……火怖い……火怖い……消す!絶対消す!」
隣のやたら着膨れしてる背の高い隊員は……第2の所属か。
軍中心の部隊らしからぬビビりっぷりだけど、大丈夫だろうか?
「最も早く焔ビトを捜し出し、鎮魂せよ!用意はいいか?」
っと、そうこうしてる間に競技開始だ。
隊員達がそれぞれ、スタートダッシュに備える。
「スタートォォ!!」
試験官が指を鳴らすと同時に、その指先から炎が上がった。
後書き
本日の烈火:カツ丼奢ってくれた。
察しのいい人は気付いてるかもしれませんね……。
何が、とは言いませんが(笑)
次回はジョーカー戦。対人バトル描写だヒャッホイ!!お楽しみに!
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