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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第269話「ただ突き進む」

 
前書き
優輝side。
時系列的には終盤も終盤です。
なお、話数的にはキャラ事に分割するので、最終話には程遠いですが。
 

 










「邪魔だ!!」

 目の前に迫る神とその“天使”に対し、優輝達が極光で薙ぎ払う。
 倒すとまではいかないが、突破するには十分だ。

「シッ!」

 撃ち漏らした者も、導王流を叩き込み、後方へと吹き飛ばす。
 決して足を止めずに、ただただ突き進んでいた。

「さすがに数が多いねぇ……!優ちゃん、どうするの!?」

「どこかでまとめて足止めする!ただ、その役目を担うのは……」

「儂らじゃな」

 ただ突貫するだけで、倒した訳じゃない。
 そのため、追手はますます増えていく。
 どこかでその追手をどうにかしない限り、イリスと正面切って戦えない。
 そのため、天廻達神界の神達がそれを請け負う事に決めていた。

「最低でも僕を、余裕があれば複数人でイリスと戦うつもりだ。……それ以外は、全員足止めの役を担う。わかってるな?」

「当然だよお兄ちゃん」

「うん。それに、私達の相手は……」

「もう、決まっている」

 優輝の言葉に、緋雪、司、奏が返事する。
 そして、その間にも追手は増え、そろそろ無視しきれなくなってくる。

「ソレラ!」

「はい!」

 それを見計らったように、ズィズィミ姉妹が集団から離脱する。
 まずは、二人で追手を阻むつもりだ。

「振り返る必要はない!行くぞ!」

 元々、囮にする作戦だ。
 予定通りだとばかりに、優輝達は振り返る事もなく突き進む。
 ただし、信頼の証とばかりに掲げるようにサムズアップをしながら。







「ッ!優輝さん……!」

「……堅いな」

 しばらく進むと、巨大な障壁に進行を阻まれた。
 一撃では破壊できなかった事に優輝は冷静に対処する。

「尤も、これだけ巨大なら、一点突破に弱い」

 二撃目が放たれ、障壁に穴が開く。
 そこから進めばいいのだが、そこで奏が立ち止まった。

「奏、勝ってこい」

「ええ……!」

 立ち塞がった神と“天使”に対し、分身で増えた奏が斬りかかる。
 これにより、優輝達は妨害されずに先に進む事が出来た。

「貴方の相手は、私よ」

「性懲りもなく、俺と戦うか」

「今度は、負けない……!」

 その神は“防ぐ性質”を持つ。
 以前神界に来た際に、奏が敗北した神だ。
 しかも、今度は眷属の“天使”もいる。
 間違いなく、以前よりも攻撃が通じにくくなっているだろう。

「なるほど、確かに以前よりも強くなっている。……だが」

「ッ……!」

 攻撃が止められ、奏は飛び退く。
 分身も一度戻し、改めて対峙する。

「どうあっても、お前の攻撃は通じない」

「……それでも、私の役割は果たしたわ」

 奏の目的はリベンジだ。
 だが、役割自体は飽くまで足止め。
 それさえこなしていれば、後は野となれ山となれだ。
 ……故に、奏に一切の焦りはない。

「後は、私が勝つだけよ……!」

「思い上がるなよ、人間……!」

 そして、再び奏は刃を障壁へと叩きつけた。









「……!」

 飛び退き、飛び退き、攻撃を躱す。
 即座に足場を展開し、それを蹴って突き進む。
 奏を囮にした後、再び優輝達は立ち塞がる神を無視して進んでいた。

「また数が溜まってきた……!」

「それだけじゃありません!」

「ッ!!」

 祈梨の声と共に、葵が前に出てレイピアを振るう。
 直後、レイピアを犠牲に理力の斬撃を相殺した。

「(“早い”……!)」

「逃さんぞ」

 追いついてきたその神は、あまりにも“早すぎた”。
 神だけではない。その眷属の“天使”も、また“早い”。

「ちっ……!」

「遅い」

 優輝と優奈が創造魔法を使おうとするが、先手を打たれる。
 創造魔法の発生箇所に理力を置かれ、相殺されてしまう。

「甘いっ!」

 しかし、二人も負けてはいない。
 相殺後に肉薄してきた“天使”を、後の先……カウンターで吹き飛ばす。

「足止めを食らう……司!!」

「わかってる!……でも、引き離せない!」

 動きが“早い”ため、司が引き付けようにもそうはいかないのだ。
 そして、悠長にそんな事をしていれば、他の敵に追いつかれる。

「天廻様!」

「わかっておる!」

 そこで、祈梨が動いた。
 天廻に声を掛け、空間を“廻す”。
 先手を取られようと、空間そのものを“廻す”事で、僅かに一手遅らせる。

「対象指定……ご武運を、司さん!」

 そして、祈梨が間髪入れずに“祈り”で司とその神達を転移させた。

「でも、追いつかれたよ!」

 緋雪が“破壊の瞳”で追手の攻撃を相殺しつつ、そう叫ぶ。
 結局、間に合わずに追いつかれてしまった。
 しかし、祈梨がそのまま追手に向かっていく。

「ここは私が受け持ちます!」

「……わかった。行くぞ、皆!」

 一つ一つの判断が命取りだ。
 決して間違わず、即座に決めなくてはならない。
 この場合の間違いは、下手に足踏みをする事。
 足止めする仲間を信じて、優輝達はさらに前へと突き進んだ。





「さて、ここから先には通しませんよ」

 残った祈梨がそう宣言し、同時に障壁が彼女の背後に出現する。
 それは、“この先へは通さない”という“意志”の顕れだ。
 最初に優輝達が神界に来た時と同じく、戦場を完全に分断させた。
 如何なる“性質”の持ち主といえ、これで祈梨を無視して進む事は出来なくなる。

「ほざけ!」

 一人の神が、理力の槍を手に纏い、突貫してくる。
 それを、祈梨は落ち着いて障壁で防ぐ……が、

「容易く破りますか……!」

 その障壁は紙切れのように貫かれてしまった。
 即座にその手を蹴り上げ、理力で吹き飛ばす。

「……私は、神としてはそこまで強くありませんからね……。久しぶりに、人間らしく戦ってみましょうか……!」

 理力の槍を形成し、シュラインと同じ要領でそれを握る。
 “領域”の削り合いではなく、白兵戦で戦うつもりだ。

「ぉおおおおっ!!」

「ッ……!」

 再び“貫く性質”の神が仕掛けてくる。
 先ほどと同じように、障壁を展開する。

「“貫く”に特化しているようですが……止められない訳ではありませんよ」

 多重に展開した障壁は、その悉くが貫かれていた。
 だが、多重に展開した事で勢いを削ぎ、止めていた。
 理力は祈梨に届かず、障壁によってむしろ拘束される結果になっていた。

「はぁっ!!」

 一突き。しかし、それはただの一突きに非ず。
 “祈り”と共に放ったその刺突は、幾重もの槍となって敵を貫く。
 さながら、ショットガンを放ったかのように、神に穴が開く。

「あらゆる“世界”が、貴方達の侵略に抵抗しています。……その“祈り”を、私も背負っているんですから、負けるはずがないでしょう」

 そして、その刺突を起点に、既に用意していた“祈り”が発現する。
 横殴りの流星群のように、極光が次々と神々へと放たれる。
 さらに、祈梨を中心に極光が立ち上り、肉薄してきていた“天使”を纏めて呑み込み、最後に祈梨を中心に衝撃波を放って吹き飛ばした。

「さぁ……覚悟なさい!」









「ッッ……!!」

 一方、祈梨によって転移させられた司は、“早い性質”の神と戦っていた。
 “祈り”による行動はほとんど行わず、魔力による身体強化と“意志”のみで、“早い”攻撃を的確に捌いている。

「なるほど、無暗に隙を晒さないのは賢明な判断だ。だが……」

「っ……ぐ、ぁあっ!?」

 放たれた極光を防ぎきれずに、司は吹き飛ばされる。
 どの攻撃も“早い”ため、躱すのが間に合わないのだ。

「だからと言って、勝てる訳ではないぞ」

「それぐらい、わかってる……!」

 ()()()()、劣勢だと司は確信する。
 このままでは、ここからの勝ち筋は見えないだろう。
 やはり、天巫女の力とは切っても切れないのだと、司は心の中で嘆息した。

「本当、早いんだから……!」

 飛び退いた司に、“天使”が一斉に襲い掛かる。
 “祈り”なしでは、その一斉攻撃は防げないだろう。
 それをわかっていて、“天使”達は襲い掛かっていた。

「なんの対策もしてない訳、ないよねっ!!」

 ……故に、司は“祈り”を開放する。
 シュラインの柄で地面を突き、瞬時に魔力を爆発させる。
 そこに、“祈り”によるタイムラグなど存在しなかった。
 事前に“祈り”の魔法をストックしておく事で、“性質”に関係なく発動できる。
 そのおかげで、先手を打たれても司は対等に戦えるようにしていたのだった。

「……ほう」

「今度こそ倒して見せるって、決めたんだから」

「事前に仕込んでいたか。だが、それで勝てるとでも?」

「やってみなくちゃ、わかんないよ!!」

 再び魔力のみの身体強化で、今度は司から仕掛ける。
 奏に続き、二人目のリベンジ戦が始まった。












「では、次は儂が行こう」

 優輝達の方では、再び数が増してきた神々を天廻が引き受けていた。

「さて、これまでまともに戦ってはなかったからの。……手加減は出来んぞ?」

 天廻を無視して進もうとする敵の座標を“廻し”、通さない。
 仙人のような出で立ちである天廻は、とても戦闘に長けているようには見えない。
 ……だが、その身から発せられる威圧感が、決して弱くないと断言させる。

「人の子が決死の覚悟で戦っておる。なればこそ、儂も老体に鞭打ってでもひと踏ん張りせんとな。覚悟せい、イリスの手先に堕ちた者共!」

 洗練された体術と共に、理力が迸る。
 その力の出し方には、一切の無駄がない。
 一撃一撃が、しっかりと敵を捉え、確実に“領域”を削っていく。

「ほれ、儂とて戦いの心得はある。……主らのような手合いは、以前も相手にした事があるんじゃよ。かつての、大戦でなぁっ!」

 “喝”と、理力が迸り、一斉に飛び掛かった“天使”を悉く吹き飛ばす。
 天廻はかつての神界での大戦を経験している。
 イリスと直接戦った訳ではないが、洗脳された神々をかなりの数相手取っていた。
 その経験がここでも生きており、安定した立ち回りで敵を捌いていく。

「魂を循環させ、世界の安定を計る。それが儂の神としての在り様。じゃが、それを脅かす事態となれば、儂も武器を手に取り、戦う」

 理力の杖が斬撃や刺突を払い、返しの一撃で“天使”の胸に穴を開ける。

「“性質”などと、役目ばかりに囚われていては決して先は見えぬ。それを儂はかつての戦いで知った。儂らは確かに“神”と呼ぶにふさわしい力は持っておる」

 放たれる極光を“廻し”、そのまま術者に返す。
 その間にも、天廻の独白は続いていく。

「じゃが、この世界からすれば、儂らも人間と変わりない。……与えられた役割のみを享受するなど、ただの停滞に過ぎぬ!」

 そういった“性質”もある。
 だが、だからと言ってそのままなのは、ただの“現象”に成り下がる。

「故に、儂らも殻を破らねばならん。人が限界を超えるように、儂らも“性質”を超克せねば先へは進めぬ。それを、彼奴はイリスを封印する事で示した」

 彼奴……それは、神であった時の優輝の事だ。
 “可能性の性質”は確かに一縷の希望すら掴み取る。
 だが、本来イリスとの戦いではその一縷の希望すらなかった。
 しかし、当時の優輝はその限界を超えた。
 “可能性の性質”としての神の限界を超え、イリスを封印して見せたのだ。

「……長々と述べたが……なに、言いたい事は単純じゃ」

 理力で薙ぎ払い、一度間合いを取って天廻は子供のような笑みを浮かべる。

「燃えておるのじゃよ。儂は、この戦いにな」

 世界を守るため、自身の限界を超えるため、天廻はその戦いに身を投じる。











「……では、私達もこの辺りで」

「ああ。頼んだ」

 さらにスフェラ姉妹も離脱し、再び増えていた追手を食い止める。

「さて、どこまで戦えるかですが……」

「やれる所まで、やらしてもらいましょうかねー」

 出来るだけ引き付けたためか、追手はかなりの数だ。
 しかし、その追手全てを、紅と蒼の二重結界で包み込む。
 二人の“紅玉の性質”と“蒼玉の性質”による結界だ。
 “性質”を利用しているため、そう容易く破壊する事は出来ない。

「動きが……!?」

「隙だらけですよー」

 それだけではない。
 “性質”を使った結界は、つまり仮の“領域”を展開している事になる。
 敵の“性質”を問答無用で相殺し、相手の有利を許さずに戦えるのだ。

「私達には貴方達を正気に戻す術はありません。……お覚悟を」

 加え、結界内の法則はスフェラ姉妹が基準となっている。
 ありとあらゆる優位性を以って、二人は大群を相手にする。

「……さーて、後は人間の方達に任せましょうか」

「心苦しいですが……それに賭けましょう」

 先に進んだ優輝達には、もう神界の神はついていない。
 残ったルフィナとミエラも、途中で離脱予定となっている。
 優輝と優奈は理力を扱えるものの、半分以上は人間のままだ。
 神界の神と人間には大きな差がある。
 その上でイリスに勝利する事を託すのは、不安があった。

「そうですねー。元々、相手を倒せば駆けつけていいとの話ですから」

「できる限り、早めに倒してしまいたいですね……!」

 それでも、二人は彼らに託した。
 きっと勝てると信じ、また彼女らも自身の戦いに身を投じていった。











「……あれで、雑兵とも言える軍勢は終わりみたいだな」

「イリスの手先がもう終わりって事?」

「いや……」

 突き進みながら呟いた言葉に、葵が反応する。
 しかし、優輝はそれを否定する。

「まだ僅かばかりだが、残っているだろう。……少数精鋭で突入する事は読まれている。となれば、それぞれに適した戦力を残しているはずだ」

「私の場合、“狂気の性質”の神だよね」

 奏に対する“防ぐ性質”、司に対する“早い性質”。
 そして、緋雪にも“狂気の性質”という弱点がある。
 以前に敗北した事もあり、相手にも確実に弱点だと思われているだろう。

「なのは達魔導師や、アリシア達陰陽師にも弱点はある。……そもそも、理力以外の力であれば弱点になり得るが……」

「……それって……」

「どんな魔法、霊術も、強力であれば力を集束させる必要がある。それに干渉されてしまえば、確実に高威力を封じられてしまうからな」

「……“集束の性質”」

「そうだ」

 それは、既になのはとフェイト、そして奏で倒した神だ。
 同じ“性質”の神もいるのだろうが、明確な弱点とは言い難い。

「尤も、今のは例えだ。実際その神はなのは達が倒したみたいだからな」

「弱点……あたしの場合だと、銀や聖属性の……」

「そういう事だ。種族や扱う属性の特徴による弱点を敵は突いてくる。遠距離近距離の得手不得手は何とかなるだろうが、それ以外は苦戦するだろうな」

「以前神界で私があっさりとイリスに洗脳された事も、その一端ですね……」

 アリサだと水や氷、すずかであれば炎や闇、フェイトであれば純水や絶縁体と言った電気を通さない“性質”だ。
 そういった“性質”相手では、直接的な戦闘では勝てないだろう。

「それでも、勝てない訳じゃない」

 弱点を突かれるのは確かに危険だ。
 だが、その上で勝つことも可能だと、緋雪は言った。

「はぁっ!!」

 そして、その直後に、前に出てシャルを振るった。
 そこに理力の爪が激突し、お互いの攻撃が相殺し合う。

「だから、私は勝ってくるよ!」

 攻撃してきたのは“狂気の性質”の神。
 以前緋雪が敗北した相手だ。
 その神はまさに狂気的な笑みを浮かべており、啖呵を切った緋雪を嗤っていた。

「転移!!」

 今回、神には眷属の“天使”もついており、緋雪はそれごと転移する。
 そして、優輝はそれを見送った直後、再び進軍を始めた。

「……次は、私達が止めます」

「わかった」

 そんな優輝と並走しつつ、サーラが言う。
 次は、サーラとユーリで足止めを担当するつもりだ。

「……いや、前言撤回だ。……まだ、眷属を残していたか……!」

 立ち塞がったのは、優輝と同じ姿をした人型の“闇”。
 そして、イリスの眷属たる“天使”達だ。

「あれって……あの時の……!」

 優輝の姿をした人型に、なのは達には見覚えがあった。
 それは、以前に戦った事のある優輝の偽物。
 当時は対策しようがなかった理力によって全滅させられた、イリスの尖兵だ。
 それが、今度は大勢となって立ち塞がっていた。

「……予想以上の数だな。ルフィナ、ミエラ、行けるか?」

「負けないようにするのは可能です。しかし……」

「多勢に無勢、ですね。確実に一人は抜けられます」

 元々、イリスの“天使”はルフィナとミエラで請け負うつもりだった。
 だが、ここに来てその数が予想以上に残っていたのだ。
 加えて、“闇”を用いた尖兵もいる。
 これだけの数を抑えるのは、二人では厳しいと言える。

「……優輝さん」

「……わかった」

 これまで足止めを請け負った天廻達と違い、足止め出来る“性質”でもない。
 そのため、ユーリが前に出た。
 即ち、自分達も足止めに加わる……と。

「頼んだぞ!」

「お任せを……!」

 ユーリが魄翼を展開し、ミエラとルフィナが理力を開放する。
 同時に、“闇”の尖兵が創造魔法で大量の剣を展開、射出を始めた。

「行ってください!!」

 それをユーリが魄翼で薙ぎ払い、サーラが砲撃魔法で穴を開ける。
 そこを優輝達は通っていき、阻もうとするイリスの“天使”をミエラとルフィナで妨害し、分断させた。

「“天使”は私達が」

「人形はお任せします」

「わかりました」

「お任せください」

 簡潔に言葉を交わし、四人は襲い来る敵を迎え撃った。











「……来たわね」

「……お前は……」

 一方、優輝達は再び別の敵に立ち塞がられていた。
 今度の敵は、二人の神とその“天使”。
 数こそ少ないが、だからこそ油断は出来なかった。

「貴方を待っていたわ。ユウキ・デュナミス」

「……知り合い?」

「いや……だが、何者かはわかる」

 洗脳されている様子ではないその女神は、優輝を敵視していた。
 その事で、葵が知り合いなのか尋ねるが、優輝は否定する。

「僕以外の、“可能性の性質”の神だ」

「その通りよ、ご同輩。私はレイアー・ディニティコス」

 まるで優奈を白銀の髪にして大人にしたような容姿の女神。
 彼女は、優輝以外で“可能性の性質”を持つ神だ。
 優輝と対になるかのように、“天使”もたった二人となっている。

「一応聞いておこう。……なぜイリスに加勢している」

「貴方を超えるためよ」

 優輝の問いに、レイアーは“ギリ”と奥歯を噛んで答える。
 その視線には、憎しみのような強い“妬み”があった。

「め、滅茶苦茶敵視されてるよ?」

「……ある意味、かなり人間らしいな、お前は」

「貴方に何を言われた所で、ちっとも嬉しくないわ」

 嫉妬の感情を抱えている事に、優輝達も気づいている。
 神界の神が、一感情でここまで敵視しているのだ。
 確かに、ある意味“人間らしい”と言える

「……優ちゃん。あたしが……」

「葵だけじゃ厳しい。……それどころか、これは……」

 女神だけでなく、もう一人の神と“天使”もいる。
 何より、目の前のレイアーは、他の神と違う強さを感じた。
 それこそ、優輝と同じような、一縷の希望を掴み取るような……

「……僕と同じ“性質”だ。戦うには、もっと戦力が……」

「……なら、行きなさい」

「っ……優奈?」

「ここから先は貴方だけで行くのよ」

 優奈が一歩前に出て、そう言う。

「最低でも貴方をイリスへと辿り着かせる。そのためには、これ以上足止めはしない方がいいわ。……行って!」

「―――わかった!」

 全員、覚悟済みだ。
 優輝はそう確信し、一気に突き進む。

「行かせ―――」

「させないわ!」

 レイアーが何かする前に、優奈が仕掛ける。
 同時に、全員が一斉に動き出した。

「ぉおおおっ!!」

「ッ、ほう……!」

 優奈を攻撃しようとしたもう一人の神に、帝が攻撃する。
 それを受け止めた神は、笑みを浮かべながら敢えてそのまま押されていった。

「シュート!!」

「はぁっ!」

 なのはの魔力弾とフェイトの斬撃。
 さらには葵のレイピアの連撃に、アリシア達の霊術が繰り出される。
 その攻撃を以って、完全に優輝とこちらを分断させた。

「その神はなのは達でやりなさい!私と葵、それと神夜でそれ以外を対処する!帝は見た通り、もう一人の神を相手するわ!」

「人数的に逆やあらへんの!?」

「いいえ、これが()()()()よ!」

 思わず叫んだはやてに、優奈は冷静にそう返す。

「私達で、“天使”を足止めする。……その間に、何とか神を倒すのよ」

 人数で見れば、“天使”を担当する優奈達の方がかなり不利だ。
 しかし、なのは達六人をぶつけなければいかない程、レイアーは強敵なのだと優奈の勘が警鐘を鳴らし続けていた。

「っ……!」

「余所見とは、余裕ね!!」

「はやてちゃん!」

 レイアーの攻撃を、何とかなのはが凌いだ。
 そこまで来ると、もう会話の余裕もない。
 優奈の言う通りの采配で、なのは達はレイアーと対峙する。

「人を見る目すらなくしたのね……。それとも、彼女らで十分とでも?今更人に負ける程、私は弱くないわ!!」

「……言ってなさい」

 レイアーに苛立たし気な声を余所に、優奈は自身の相手を睨む。
 “可能性の性質”の“天使”二名に、もう一人の神の“天使”三名。
 計五名の“天使”が、そこにいた。

「……という訳だから、何とかして足止めするわよ」

「そういうって事は……かなり厳しい戦いなんだね」

「ええ」

「そうか……」

 優奈と葵はともかく、神夜は“意志”以外で火力が出せない。
 明らかに苦戦する戦いに、三人は身を投じた。















「―――来ましたか」

「………」

 そして、神界における、イリスの領域。
 そこに優輝は辿り着いていた。

「わかっていた事だろう」

「ええ、ええ。貴方なら、ここに辿り着く事は出来る。そう確信していましたよ」

 そこにいるイリスから感じられるプレッシャーは、今までの比ではない。
 間違いなく、本体のイリスなのだと確信が持てた。

「本来であれば、分霊もぶつける所でしたが……」

「司の攻撃で消し飛ばされた、だろう?」

「……ええ。非常に、忌々しい事ですが」

 地球に進行してきていたりもした、イリスの分霊。
 それがここにも複数用意していたのだとイリスは言う。
 だが、それらは司が放った“祈り”によって、全て倒されていた。

「正真正銘の一対一だ」

「そのようですね」

 その言葉を皮切りに、イリスは静かに優輝を睨んだ。
 空気が変わり、戦いの予兆として理力が迸る。

「問答はいいだろう。……今度こそ、お前を倒す」

「始めましょう。……今度こそ、貴方を手中に収めますよ」

 先に動いたのは、優輝だ。
 数瞬遅れて、イリスが自然体になる。
 そして、歩を進め……優輝は、突貫した。

「お前の“闇”を止める!!イリス・エラトマ!!」

「貴方の“可能性”を潰して見せます!愛しき(憎き)ユウキ・デュナミス!!」

 “可能性”と“闇”がぶつかり合う。





   ―――最後の戦いが、始まった。













 
 

 
後書き
“貫く性質”…文字通り。今回の場合は物理的な意味合いに特化しているため、概念や意志などの“貫く”には比較的適していない。

“闇”の尖兵…117、118話で登場した優輝の偽物。その量産型。基本的に優輝と似た性能をしており、かなり強い。(以後“人形”と表記する)

レイアー・ディニティコス…“可能性の性質”を持つ、別個体の神。イリスを封印して見せたユウキを嫉妬するあまり、敵に回った。名前は勇気のギリシャ語から抜粋。姓は可能性のギリシャ語。


駆け足気味でイリスへと辿り着き、ついに最終決戦が始まりました。
なお、ここからしばらくは、各視点の戦いになるので、最終決戦の続きはかなり先になります。 
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