Fate/WizarDragonknight
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警察官まで……
さやかが、恭介に肩を貸しながら病室から出ていく。
同時に、可奈美の体がファントムの刃に引き裂かれた。
「ぐっ!」
白いオーラを貫通したダメージにより、可奈美の体がベッドに倒れこむ。柔らかい布を貫いた衝撃が、ベッドを真っ二つに割った。
「ヒヒ……」
猫の顔が、可奈美の顔面にぐいっと寄せられる。
「あの坊主の両手を斬っちまえば、ゲートは軽く絶望してくれるって思ってたのに、邪魔しやがってこのやろ……」
「ごめんね。それであの子が死んじゃうのは、ちょっと見過ごせないかな」
「俺面倒は嫌いなんだよ。さっさとアイツをファントムにして寝たいの。分かる?」
「だったらそのまま外に行ってくれないかな? 誰も止めないからさ」
「こちとら重い腰をどっこいしょって動かしてきたんだよ。ぶっ殺す方が楽だから」
「じゃあ、尚更さやかちゃんたちを追わせるわけにはいかないね。ここで倒すって方向性だから」
「ほんっとメンドクセエなあ。だったらお前が死への恐怖で絶望してくれよ」
猫の腕より伸びる、黄色の刃が、徐々に可奈美の首元に肉薄していく。
「ほらほらほらほら? 怖いだろ? 怖いだろ?」
「怖い?」
だが、可奈美の表情にファントムが望むような恐怖などなかった。
むしろ、その目はギラギラと。口元はにぃっと。
「冗談でしょ? 見たことのない、獣の剣術だよ?」
戦いを求める刀の乙女は、ファントムに逆に迫る。
「人間の体ではできない動き! 全く読めない剣の軌道! 私でも追いつけない速度! そんな相手と戦えるんだよ? 絶望なんてしてられないよ!」
「は? いやいやいや!? 違うだろ‼ ピンチだぞ? もっと、『助けてー』とか、『怖いよー』とか、そういう反応をしろよ!」
「ごめんね。それは無理かな!」
可奈美は、ファントムの腹を蹴り飛ばす。病室の床を転がったファントムを見下ろした可奈美は、千鳥を構える。
「さあ、次だよ! 次!」
可奈美は決して自らは動かない。たとえ相手が人外の相手であろうとも、相手の攻撃を受けて流す。
「ああもうっ! お前嫌い!」
ファントムは、また豪速で可奈美へ打ち込む。刃を反らした可奈美は、そのまま回転蹴りで、壁へ蹴り飛ばす。強化された肉体技は、コンクリートの壁を発泡スチロールのように粉々にした。
「このっ…… ん?」
再びこちらに迫ろうとするファントム。だが、廊下に投げ出された彼は、可奈美ではなく通路の方を見た。
「……ああもうっ! お前の方が、簡単に絶望してくれそうだ!」
なんとファントムは、そのまま廊下の先にいる誰かへ走り出してしまった。
「待って!」
まだ逃げていない人がいたのか。急いでファントムの後に廊下に出た可奈美は、
「アマゾン!」
その叫びを聞いた。
同時に、全身をぶあっと熱気が襲い掛かった。思わず顔を背けた可奈美は、ファントムが襲おうとしていた人影___そしてファントムは、足に根が生えたように動きを止めている___の姿に、言葉を失った。
「燃えてる……」
炎上している、人の姿。それはゆったりと歩行しながら、その姿をハッキリさせていく。
腰。そのベルトに手をかけている状態の彼より、紅の炎がゆっくりと消えていく。そして現れたのは、数日前にも表れた、青いサーヴァント。ベルトのスイッチを押し、その右腕から黒い刃が生えてきた。
青いサーヴァントは、そのままファントムに斬り込む。
「うわわっ! こっち来た!」
ファントムはその刃を受け止め、可奈美の方へ受け流す。
「え?」
結果、サーヴァント___バーサーカーの目線は、可奈美へ移る。その勢いを殺さないまま可奈美へ牙を突き立てることから、敵と認識されたのは間違いない。
「へへっ……じゃ、あとは頼んだぜ! 俺はゲートを追わなくちゃいけねえしな!」
ファントムは「あばよ!」と手を振り、廊下を走り去ろうとする。可奈美はそのあとを追いかけようとするが、バーサーカーがそれを許さない。
「お? ほう……コイツはラッキー」
バーサーカーの刃を受け止めた可奈美は、ファントムのそんな声を聞いた。
ファントムの行先である廊下。そこに、さやかの姿があったのだ。当然、その背には恭介を負ぶっている。
「飛んで火にいる夏の猫。わざわざ絶望しに戻ってきたぜ」
「さやかちゃん! どうして?」
だが可奈美の心配をよそに、さやかはファントムを指さしながら叫んでいた。
「ほら! こっち! こっちです!」
その声に現れたのは、警官。中年の男性の彼は、まさに可奈美を追い返した、あの警官だった。
「な、何だ!? この怪物は!?」
初めて見たに違いない、ファントムの姿に驚く警官。銃を発砲するが、そんなものはファントムには通じなかった。
ファントムは退屈そうにあくびをし、ゆったりとした歩調で近づく。
「悪いなあ。俺、そういうのは効かないんだわ」
横殴りにより、警官の体が床を転がる。そのまま、一歩一歩と、さやかたちに近づいていくファントム。
そして。
「よ、よせ……やめろ……」
警官が、立ち上がる。ファントムが怪訝そうな顔をしているが、それでも警官は、異形の怪物を睨んでいる。
「んだよ」
「危ない! 下がってください! 私が!」
可奈美がバーサーカーと距離を置く。同時に、バーサーカーも目線を可奈美から、ファントムたちへ移した。
「……いる」
「え?」
彼から漂う警戒心。それに、思わず可奈美は口を噤んだ。
「いる……アマゾン!」
「アマゾン?」
バーサーカーが動く気配を見せる。同時に、
警官の体に、異変が生じる。
「やめろ……ヤメロ……オオオオオオ!」
彼の体から噴出した蒸気。人間の体から鳴ってはならない音。
同時に、バーサーカーが可奈美から離れていく。ファントムを殴り飛ばし「痛え!」、警官へ飛び掛かる。
そして。
警察制服が、バーサーカーの手刀を受け止める。だが、人の手ならざるものの持ち主は、さっきまでの警官ではない。
「_____」
理性の飛んだ、ヒョウの姿の怪物だった。
「え!?」
すぐそばのさやかと恭介は、同時に驚く。だが、ヒョウの怪人は、バーサーカーをスイング。その拍子に、さやかと恭介を薙ぎ倒した。
投げられたバーサーカーは、そのままファントム、さらにその直線状の可奈美と激突。三人まとめて壁に打ち付けられる。
「うっ……!」
痛みに支配されながら、可奈美はヒョウの怪人が、そのままさやかを襲おうとするのを目撃する。
「ダメっ! ……八幡力!」
御刀より齎される、超常の身体能力。常人には到達できない力だが、それでものしかかる二体の異形を退けることは適わない。
そして、さやかが襲われる。まさにその時。
「さやか! 危ない!」
少女を突き飛ばした、患者の少年。
彼の腕___音楽家として、バイオリニストとしての生命線___が、すぐさまヒョウの牙の餌食になる、まさにその時。
竹の塊が、腕と怪物の間に挟まる。その形状を竹刀と認識した可奈美は、それが粉々にかみ砕かれている間に、腕を引っ込める恭介に安堵した。
「今の……」
竹刀が自然発生するはずがない。どこから来たのか。その答えは、廊下の奥。長い髪と白い不健康そうな肌の少女が、物を投げたままのポーズでいた。
「可奈美さん!」
自分の名前を呼ぶ少女。
すると、ヒョウの怪人が、目標をひ弱な少年から、食事を妨害した不届き者へ変更した。
刀使でも目を見張る速度。しかも、復活したファントムが妨害しようと攻撃してくる。
「オラァ! 無視すんじゃねえ!」
ファントムが回り込み、可奈美と刃を交わす。
「どいて! あの子が……!」
「別にあの化け物が絶望させてくれても構わねえよ! それでファントムが生まれんならなあ!」
「くっ……」
「ああああああ!」
「お前も動くんじゃねえ!」
さらに、ヒョウの怪人へ挑もうとするバーサーカーに対し、可奈美を投げ飛ばした。
「ダメッ!」
もう間に合わない。ヒョウの怪人が今まさに少女の身を引き裂こうとしたその時。少女は、手に持っていた点滴スタンドで、ヒョウの怪人の腕を流した。
「で、できた……!」
その結果に、ほかならぬ少女自身だった。点滴スタンドの台部分が丸々剃り落とされ、見るもシンプルな鉄棒へと化した。
「よ、よおし……!」
彼女は勇んで、ヒョウの怪人に挑む。
一撃目。効果なし。
「まだまだ!」
二撃目。効果なし。
三撃目。
ここで、ヒョウの怪人は、少女の狙いに眉をひそめた。
少女の攻撃は、全て同じ、右胸の位置に当てられていた。
「まさか……」
四撃目。五撃目。何度も何度も同じところへ行われる攻撃は、重なればダメージにもなるのだろう。だが。
「危ない!」
攻撃に夢中で、少女は気付いていない。彼女の頭上から、ヒョウの怪人が顎一つで食らいつこうとしていることに。
「迅位斬!」
高速の可奈美は、瞬く間に少女とヒョウの怪人の間に回り込み、その左手を切り落とす。
「______________」
ヒョウの怪人の悲鳴。それに耳を貸さず、可奈美は彼の体を斬り裂いた。
ヒョウの怪人は、そのダメージで大きく後退。さらなるもう一太刀により、恭介たちからより引き離された。
「うわあ……」
漏れた声に、可奈美は振り向く。腰の抜けた少女が、こちらをキラキラとした眼差しで見上げていた。
「大丈夫? 無茶するね」
「だって、私ずっと剣に憧れていたんだから! やっと立てたんだから、ずっと考えていた技だって使いたいよ! ね、可奈美さん!」
「う、うん……ねえ、どこかで会った?」
「私だよ! 私!」
少女が目を輝かせた。
それを見て、可奈美は言った。
「もしかして……木綿季ちゃん?」
「そうだよ!」
病弱なはずの少女は、これまででは考えられない元気な肉声で答えた。
「治ったんだよ! 私の病気が! だから……」
「うわっ! ごめん!」
言葉を言う途中で、可奈美は木綿季、そして地面のさやかと恭介を抱え、飛びのく。腕を失ったヒョウの怪人が、狂ったように暴れだしたのだ。
「うれしいけど、それは後にしよう!」
可奈美が千鳥を構えると同時に、また動きが生じる。
「うおっ!」
さらに、奥の方ではバーサーカーがファントムへ重い蹴りを放った。それにより、ファントムがヒョウの怪人に折り重なるようになった。
「今だ!」
可奈美は腰を低くする。白から赤へ変わっていく。体外を巡る熱により、可奈美の全身より陽炎が揺らめいた。
同時に、バーサーカーが両手をまっすぐ広げる。そして、駆け出し、その右足を前に突き出す。___それは、可奈美には、ウィザードのキックストライクにも近いものを感じた。
「太阿之剣!」
可奈美の千鳥より放たれる、赤い光の刃。それとバーサーカーの飛び蹴りが、ファントムとヒョウの怪人に同時に炸裂。爆発により、その二体は消滅していった。
「……」
可奈美の隣に着地したバーサーカー。ゆっくりと見上げた彼の黄色のゴーグルと、それを透かして見える赤い眼差しが、可奈美の瞳に映る。
そして、
「た、助かった……」
さやかの気の抜けた声が聞こえた。
「……ねえ。あなたは、一体誰なの?」
「……」
だが、バーサーカーは何も言わない。
静かな獣に対し、可奈美は尋ねる。
「ねえ。……あの動き……もしかして、あの怪物と同じ」
その時。可奈美の言葉はふさがれた。
「俺をアマゾンなんかと一緒にするな!」
すさまじい剣幕で、バーサーカーが迫る。胸倉を掴み、ぐいっと
「俺は人間だ! 次そんなことを言ったら……許さない……!」
「う、うん……」
黄色のゴーグルに隠された表情。言ってしまえば仮面の顔だが、それは可奈美には、まるで人間が怒りを示しているものと同じに見えた。
やがてバーサーカーは、可奈美から手を離す。一瞬目線を下に向け、可奈美の右手を見た。
「令呪……お前も、マスター……」
「そうだけど……」
「やめてよ……」
バーサーカーは、ふらりと可奈美から離れた。
彼は嘆くように顔を押さえる。
「俺は……俺は生きたいだけなんだ……戦いたくないんだ……っ!」
「見つけた!」
その時。廊下を走った、別の声。
「待って! バーサーカー!」
走ってくる、可奈美のサーヴァント。
友奈の姿を見たバーサーカーは、一目散にその場から退散する。窓をぶち破り、外へダイビングジャンプ。
「!?」
慌てて窓口に駆け寄る可奈美と友奈。だが、すでにバーサーカーの姿はどこにもなかった。
「バーサーカー……」
心配そうな友奈の声が、ビル風を突き抜けて可奈美の鼓膜を揺らした。
後書き
ハルト「……」←スタチューで動かない
まどか「うわ……っ! びっくりした!」
チノ「すごいです……何事にも動じない……まさに、無の境地!」
まどか「何言ってるのチノちゃん?」
チノ「これこそがきっとバリスタに必要な心構え……! まどかさん、決めました! 私、この人に弟子入りします! そうすれば、きっと何かが掴み取れそうな気がします!」正座
まどか「ちょ、ちょっとチノちゃん!」
ハルト(何やってるんだろうなこの二人……)
まどか「チノちゃん! ……だめだ、テコでも動かない……!」
チノ「どうすればそんな屈強な精神が身に付くのですか? 教えてください……!」
ハルト(動かないからこその芸なんだけどな……)
まどか「チノちゃん! そろそろ迷惑だよ! ……あ、何? え? 今アニメ紹介? ああもう……チノちゃん!」
チノ「教えていただけるまで動きません!」
まどか「ええ……? と、とりあえず、こちらです! どうぞ!」
___その時、生まれたときめきが 時空の波サーフしていく 不思議だね 今なら怖くない___
ハルト(放課後のプレアデスか……)
チノ「2015年の4月から6月放送のアニメですね。YouTubeでは2011年に配信されましたが」早口
まどか「魔法少女ものなのに……箒の音が、車のエンジン音なのが……特徴だね……チノちゃん、動かない……」
チノ「私にその精神を伝授していただくまで動きません!」
ハルト(俺よりも紹介の方を気にかけてくれ……)
まどか「はあ、はあ……無理……えっと、なんでも自動車会社のスバルが大きく関わっているかららしいね」
チノ「コクッコクッ」
まどか「主人公の名前もスバルちゃん。みなとって男の子とは、あそこの噴水みたいな場所でよく話すのも特徴だね」
チノ「そうですね」
まどか「もう紹介する気ないねこれ……チノちゃん。それ以上は迷惑……」
チノ「あなたは一体何者ですか? あなたみたいな精神の人に、ぜひお会いしたいです……!」
ハルト(君の家の下宿人だよ!)
チノ「教えてくれるまで、ここを動きません!」
ハルト(営業妨害だ! 助けてくれえええええええ!)
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