魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第268話「本番開始」
前書き
神界突入組Sideです。
「っ………!」
神界に突入した者の内、ほとんどが神妙な表情をしていた。
何せ、神界に来るのは二回目だ。
そして、一回目は無残な敗退を余儀なくされた。
それで何も思わない訳がない。
「ほぼ短期決戦だ。後続の敵が来る前に、一気に突っ走る」
優輝がそう言って、神界の奥……イリスがいるであろう方角を睨む。
「では、我らはここに留まる」
「アインス、皆を頼んだで」
ここまでついてきたディアーチェ達マテリアル三人と、はやてとリインを除いた八神家がそこで立ち止まる。
他にも、光輝や優香など、元々ここに留まる者は立ち止まっていた。
「父さん、母さん」
「ここは頼んだよ」
「任せろ」
「貴方達が戻ってくるまで、私達がここを守るわ」
優輝と緋雪の言葉に両親の二人は頷く。
「皆に託す。勝って、無事に帰ってくるんだ」
「僕らは僕らで守り抜いて見せるよ」
クロノとユーノがそう宣言し、なのは達も信頼して頷き返した。
「行こう」
元々決めていた人選だ。
会話も短く切り上げ、優輝達は先へと足を進めた。
「行ったな」
「ああ。後は作戦通り、私達がここを守るだけだ」
優輝達を見送り、残った者はそれぞれ束の間の休息を取る。
司の一撃でしばらく敵は来ない。
加え、優輝達が進行方向にいる敵を倒すか足止めする手筈だ。
そもそも神界側の出入り口は敵にとってそこまで重要ではない。
そのため、敵が来るまで確実に時間があった。
「とは言っても、ここからが本番だよ」
「ああ。さっきまでは、こちらが圧倒的に有利だった。けど、ここからは相手も“性質”をふんだんに使ってくる。……最初にここに来た時のように、一筋縄じゃいかない」
ユーノとクロノが精神的疲労を解消しながら呟く。
「なんだ、怖気づいたか?執務官」
「いいや、再確認しただけだ。あの時はまだ神界は未知ばかりだった。でも、今はある程度理解が出来る。……人は未知を恐れるからな。そうでないのならば、何とかなる」
「何もわかっていなかった一度目ですら、その気になれば戦えた。なら、あの時より戦える僕らなら、負けないよ」
ディアーチェの軽口に、二人は“否”と答える。
当然だ。既に、ここにいる全員は覚悟を決めている。
「あーあ、ボクもオリジナルについて行きたかったのになぁ」
「ダメですよレヴィ。今は我が侭を言う時ではありません」
「わかってるよシュテるん。ボクだって、どうするべきかは良くわかってる」
シュテルとレヴィがそんな会話をしているのを余所に、ディアーチェがアインスとシャマル、ユーノに話しかける。
「今の内に我らの陣地を作っておくぞ」
「陣地……そうか、“領域”ともなれば、私達にとって有利な場所にするだけでも、効果が見られる訳だな?」
「でも、生半可な強度だとあっさり壊されるんじゃ……?」
ここまで戦ってきただけあって、神界に対する言外の意図も汲み取れる。
だが、それでも強度が足りないとシャマルが言う。
「たわけ。普通に陣地を作った所で壊される事ぐらい、我とて想定しておる」
「……僕らの世界と同じ事をするんだね?」
「その通り」
理解した様子で言うユーノに、ディアーチェは不敵に笑う。
「ズィズィミ姉妹や、天巫女はその精神を世界そのものに同調させる事で防御や強化を行っていた。……さすがの我も、世界そのものと同調などは出来ぬ。だが、この場に作る結界……陣地程度ならば、貴様らでも可能であろう?」
「なるほど……それならば術者の“意志”が折れない限り、私達に有利な状況に持ち込めると言う訳か。……して、その魔法は?」
「む?そんなのある訳なかろう?」
“何を言っておるのだ?”と言わんばかりに返すディアーチェに、尋ねたアインスはしばし言葉を失った。
「そんなお誂え向きな魔法などない。そも、貴様もそんな魔法を知らないのであろう?であれば、予め専用の術式を組み立て、新たな魔法として創るしかあるまい」
「そ、それはそうだが……では、どうするのだ?」
当然ながら、そのための魔法などディアーチェは創っていない。
「今まで、敵は散々理論や理屈を無視してきたであろう。なればこそ、我らもその理屈を無視し、今この場で“領域”を創り出せばよい事よ」
「……無茶苦茶な」
「でも、その方が効果はあると推測できるんだよね……」
理屈、理論を無視した魔法の創造。
机上の空論どころか、妄想として一蹴されるような案だ。
しかし、この場においては、不可能とは言えない。
「基礎の結界はそのままに、そこに“意志”を上乗せする。それによる仮の“領域”展開で……敵を迎え撃つ。覚悟はよいか?我は出来ておる」
「僕も行けるよ。ここまで来たなら、とことんやってやる」
「……無粋な問いだな。無論、出来ている」
「はやてちゃんに任されたのだもの。これぐらいはやって見せないとね」
そういうや否や、四人で結界魔法を展開する。
本来であれば、四人がかりの結界なため、十分な強度だと言える。
しかし、神界では物足りない。
そこで、四人で“意志”を上乗せする。
「我らの“意志”を束ね、“領域”と成せ!」
「神すら通さない結界をここに!」
「「顕現せよ!!」」
―――“καταφύγιο”
詠唱の必要はない。これは、四人の意志表示だ。
その“意志”が結界に同調し、仮の“領域”と化す。
そこに理屈や理論はなく、ただ“意志”のみでその効果を発現させた。
それは、最早事象の創造だ。
「我や黒羽共が個々で展開した所で、さすがに複数の神に勝てるなど到底思っておらぬ。だが、我らの“意志”を束ねれば、その限りではないであろう」
「……それなら、あたしらも一緒にやった方がいいんじゃねーのか?」
四人の様子を、戦闘準備しながらも見ていたヴィータがついそう呟く。
「たわけ。四人に絞ったのは我らが飽くまで後方支援だからだ。前衛で直接戦う者にさらに負担は課せぬ。貴様らは、ただ目の前の敵を倒す事に集中すればよい」
「要は役割分担よヴィータちゃん」
「……わかった。最後の砦を任せるって訳だな。攻撃はあたしらが中心って事か」
ヴィータもベルカの騎士だ。
何が重要で、何をすべきかなどはすぐに理解できた。
周りも、それぞれどう立ち回るかを改めて考え、戦闘準備を終わらせる。
「さて、出来る限りの術式は仕込んだが……これの内、どれくらいがまともに機能してくれるやら……」
「半分機能すれば上場だろうな。奴らの殲滅力を前に、ただの魔法術式程度では気休めにしかならないだろう」
「……だろうね。ディアーチェ達の結界と違って、全部に“意志”は乗せられない。シグナムの言う通り、半分残れば良い方……か」
仮の“領域”と化した空間内には、夥しい程の魔法術式が刻まれていた。
しかし、そのどれもが普通の魔法によるものだ。
いざ戦闘が始まれば、ほとんどの術式が発動する前に消し飛ぶだろう。
クロノもそれをわかってはいたが、ないよりはマシだと判断し、仕込んでいた。
「なまじ、術式ばかり仕込むよりも“意志”の再確認の方がいいかもな」
「……そうね。私達の場合、それもいいかも」
光輝と優香も、それぞれ自身の“意志”を再度固める。
割り振られた役割を全うするため。
そして、自分達の子供が、ちゃんと帰ってこられるようにするために。
「結局は、そこに集約されるな」
「変に複雑に準備するよりわかりやすいよ」
「……そうだな」
時間は緩やかに過ぎていく。
しかし、神界では単純な時間は度外視される。
―――つまり
「ッ、ザフィーラ!!」
「承知!!」
神界の奥から、極光が迸る。
遠距離からの理力の攻撃だ。
それを防ぎに出たのは、盾の守護獣たるザフィーラだ。
「ぉおおおおおっ!!」
障壁を展開しつつ、全力の身体強化と共に極光を殴りつける。
“意志”で強さが左右される今、“盾の守護獣”を自負するザフィーラは、それこそ全ての戦闘行動が“盾”として作用する。
「ッッ……むんッ!!」
その作用により、殴りつけるだけで防御と相殺を兼ねる事が出来る。
“意志”と相まって、単純な出力差を埋めるが―――足りない。
故に、さらに一歩踏み込み、第二撃を叩き込んだ。
「ふぅぅぅぅぅ………!!」
極光は打ち払われ、ザフィーラは残心と共に息を吐く。
そんなザフィーラに襲い掛かる影、その数三つ。
「殺った……ッ!?」
「読み通りだ」
「させないよ」
転移と共に、“天使”が“性質”を振るって攻撃しようとしていた。
しかし、すかさずシグナムとレヴィが割り込んだ。
その“天使”は“切断の性質”を持ち、あらゆる防御すら切断してしまう。
だが、側面からの攻撃にはその“性質”が作用されず、攻撃は弾かれた。
「疾うに、五体満足で攻撃を防げるなど、毛頭思ってないッ……!」
「ぎ、貴様……!?」
残りの一人は、ザフィーラが左肩から先を犠牲に右手で首を掴んでいた。
さらに、“鋼の軛”で全身を串刺しにし、少しでも拘束していた。
「がっ!?」
「ご……!?」
直後、敵に攻撃をされる前に、“意志”の籠った攻撃が“天使”を襲う。
シグナムが割り込んだ方の“天使”には、光輝と優香の魔力の一撃が。
レヴィの方には、シュテルとクロノによる魔力弾が。
そして、ザフィーラの方は―――
「吹ッ飛べ!!!」
ヴィータがグラーフアイゼンによって頭を遥か遠くへと吹き飛ばしていた。
「術式起動!」
「まさか、早速使えるとはね!」
間髪は入れない。
すぐさま用意していた術式の三割を起動。
残っている“天使”二名を滅多打ちにする。
「はぁあああっ!!」
「せぇいっ!!」
そこへ、追撃。
“意志”を込め、確実に“領域”を削る。
ここまでの戦いで神界の者との戦闘にも慣れていた。
反撃を許さず滅多打ちにすれば―――この通り。
「消えた……倒したぞ!」
「こちらもだ!」
絵面としては、誘い込んでのリンチだろう。
だが、そのおかげであっさりと“天使”二名を撃破した。
残った一名も、戻ってきた時には体勢を立て直していたため……
「ば、馬鹿な……!?」
二人の二の舞となり、倒された。
「ッ、来る!!」
しかし、それだけで終わりではない。
遠くから極光を放った者、或いは先ほどの“天使”の主が残っている。
「ぉおおおおおおっ!!」
再び迫る極光を、ザフィーラがまたもや防ぐ。
だが、今は片腕を失っている。“意志”で生やすにも、初手は先ほどよりも弱くなるのは当然だった。
「っ、助かる!」
そこで、ユーノとアインスが援護する。
障壁及び支援魔法がザフィーラに掛けられ、片腕分の時間を稼ぐ。
「見えたか、シャマル」
「ええ!捉えたわ!」
その間に、シャマルが敵を捉えた。
クラールヴィントを使った“旅の鏡”によって、遠くの神を見つけていた。
「ならば、仔細なし」
―――“Sturmfalken”
そんな“旅の鏡”へ、シグナムが矢を叩き込んだ。
本来、“旅の鏡”は空間同士を繋げる訳ではない。
飽くまで、転移魔法の一種だ。
対象の場所へ送り出すモノと違い、取り寄せるための転移魔法。
それが“旅の鏡”で、こちらからは小規模……それこそ、シャマルの手や魔力弾数個ぐらいしか飛ばせないはずだ。
「(しかし、それを可能にするのが神界だ)」
シャマルはここに来て“旅の鏡”をアレンジしていた。
それこそ、神界限定だが空間同士を繋げていたのだ。
だからこそ、シグナムはそのまま矢を放ったのだ。
「来るぞ。シュテル!」
「わかっていますよ」
空間同士を繋げたのならば、向こうも気づいている。
さらに、シグナムの攻撃が叩き込まれたため、確実に反撃が来る。
……それがどこから来るのか、ディアーチェは予測していた。
「なッ―――!?」
「読み通りだ。蛮神!!」
「奔れ赤星、全てを焼き消す焔と変われ……!」
―――“Luciferion Breaker”
現れる場所。それは即ち、シャマルが“旅の鏡”を使った場所だ。
既に術式を破棄していようと、空間を繋げた事実は残る。
その名残から敵は転移していたが……そこへ、シュテルの集束砲撃が決まった。
「っづ……!くっ!」
「でぇりゃああああああっ!!」
シュテルの攻撃を耐え抜いた所へ、レヴィが斬りかかる。
それを障壁で防がれ……ヴィータが、それごと叩き潰した。
「邪魔だ!」
「がっ……!?」
直後、ヴィータが微塵に斬り刻まれた。
“切断の性質”によって斬られたのだ。
「なに……!?」
「へ、へ……逃がさねぇってな……!」
本来ならば即死……だが、それでは終わらない。
ヴィータが“意志”により、手から頭までのみを再生させた。
そして、そのまま神を羽交い絞めにする。
「ごっ!?」
「ヴォルケンリッターを……嘗めるなよ……!」
間髪入れずにザフィーラが渾身の拳を顔面に叩き込む。
さらにシグナムが斬り、アインスの魔法が神を打ちのめす。
「あたしだって、伊達に騎士やってねぇよ!!」
体術でヴィータはその神を地面に倒し、喉を全力で踏み込んだ。
斬り刻まれた体も、“意志”で既に復元していた。
「縛れ……“鋼の軛”!!」
「戒めの鎖よ!」
そして、ザフィーラが拘束魔法で神を串刺しにし、ヴィータが飛び退いた。
加え、ユーノも拘束に参戦し、より身動きを取れなくしていた。
「お、のれ……!」
「滅せよ!!」
刹那、待機していた全員が砲撃魔法を放ち、神を呑み込んだ。
以前なら、これでも倒し切れなかっただろう。
だが、神界の神との戦いに慣れ、限定的とはいえ有利な“領域”を作り出している今ならば、それで倒し切る事も可能だった。
「まだだ!!」
「ぬぅ……!」
しかし、神は耐えた……否、切り裂いた。
“切断の性質”を利用し、攻撃を凌いだのだ。
「断ち切れ!!」
「ッッ!!」
“性質”を伴った理力が迸り、全員が斬り飛ばされた。
防御も無意味で、誰もが攻撃を食らった。
「っ……!」
「足掻くな!」
唯一、片腕だけに被害を抑え、回避したレヴィが斬りかかる。
だが、障壁にあっさりと防がれ、バルフィニカスごと再度斬り飛ばされた。
「ッ!?」
「足元注意だ……!」
その隙を生かし、いち早く復帰したシグナムがシュランゲフォルムに変えたレヴァンテインを神の足に巻き付け、体勢を崩させる。
「ぉおおおッ!!」
間髪入れず光輝がデバイスを胸に突き刺し、地面に縫い付ける。
さらに、優香が追いすがるように杖を神の顔面に突きつけ……
「打ち上げよ!」
―――“Atomic Explosion”
魔法陣を展開。強力な魔法で仕留めようと掛かる。
「無駄だ!」
だが、デバイスに魔力を集束させた瞬間、斬り飛ばされた。
「……掛かったわね」
「ッ……ぁ……!?」
……尤も、優香もそれは想定していた。
デバイスに魔力を集束させたのはブラフ。
魔法の発動起点は、デバイスではなく神の背後……地面だ。
対処を間違い反応が遅れた神は、魔力の爆発をまともに食らった。
「行け、“スティンガースナイプ”!!」
攻撃で打ち上げられた所を、クロノが狙い撃つ。
一発で複数の対象を倒す誘導弾、それを五つ。
本来ならば出来ない程のコントロールで、巧みにそれを操る。
さらには、一発一発に圧縮した魔力はクロノの全魔力分だ。
貫通力、威力共に並外れている。
「(砲撃魔法だと容易く切り裂かれる。だからこそ、誘導弾で射貫く!!)」
四肢を、頭を、体を、次々と貫通させる。
神も何度か“切断の性質”で魔力弾を打ち消そうとするが、他の者による牽制や、クロノの操作でそれは叶わずにいた。
「……ミッドチルダでは、ここまで身体欠損はなかったんだけどね……!」
「“性質”の相殺が減っているためか。……“意志”で再生できるとはいえ、こうも容易くやられるとはな……」
斬り刻まれた体は、既に再生している。
尤も、斬られた部分は“意志”による光に包まれており、まだ再生途中だ。
五体満足な力は発揮できない。
「けど、だからって負ける訳じゃねぇ」
「ヴィータちゃんの言う通りよ」
それでも、“意志”は健在だ。
そう言わんばかりに、未だ倒せずにいる神に攻撃を仕向ける。
射撃魔法、砲撃魔法、広範囲殲滅魔法、拘束魔法に結界魔法。
あらゆる魔法が飛び、神を打ちのめす。
例えあらゆるものが“切断”されようと、その度に攻撃を放つ。
防御は元より無意味と断じ、回避が最小限のダメージに抑え、ただただ攻撃する。
全ては、相手の“領域”を削るために。
「……終わったか」
かくして、ようやく神は倒された。
一度仕留め損なったものの、“領域”は削れていた。
ならば、反撃に出られても倒すのにそこまで時間はかからなかった。
「思いの外、苦戦せずに済んだか」
「戦闘中は苦戦どころではなかったけどねー」
あっけらかんと感想を述べるレヴィ。
しかし、勝ってしまえば疲労含め回復できるのが神界だ。
勝てるのならば、それだけで十分と言える。
「……思ったより数が少なかったな」
「大半は司によって殲滅されている。残りも先に進んだ者達が請け負うから、必然的にこちらに来るのはそれらから漏れた者になる。……少ないのも当然だ」
ヴィータの呟きに、アインスが答える。
敵の数は、確かに今までに比べて僅かだ。
先ほどのも、一人の神とその眷属しかいなかった。
イリスの軍勢が攻めてきた入り口の割には、確かに数が少ない。
「尤も、それも最初だけであろう。戦っている内に、敵の数も増える」
「そうですね。このインターバルも、いつまであるやら」
時間の概念も曖昧な神界だと、その内絶え間なく敵が来る事になる。
それも、確実にディアーチェ達の“意志”を折るために。
「つまる所―――」
「第二陣!!来るぞ!!」
「ぉおおおおおおおっ!!」
ディアーチェの言葉を遮るように、クロノの声が響く。
同時に、ザフィーラが再び攻撃を防いでいた。
「―――本番は、ここからという訳だ」
多数の魔法陣を展開させながら、ディアーチェは不敵に笑い、敵を睨んだ。
釣られるようにシュテルとレヴィも笑い、各々の武器を握り直した。
「来い!イリスの尖兵どもよ!我らの世界へは、何人たりとも通さぬ!」
刹那、転移してきた“天使”の一人が、ディアーチェに肉薄する。
首元への理力の一閃。不意打ちに近いその一撃は、回避できず……
「遅いぞ、塵芥」
「ッ……!?」
「加え、周りも見えておらぬ」
命中する前に、バインドによって止められていた。
さらに、それを予期していたのか、レヴィが“天使”を切り裂く。
加え、シュテルとディアーチェが展開した魔力弾が命中する。
「人間に負けるはずがないという驕り。それが貴様の敗因よ」
「ぁ、ぐ……!?」
悲鳴すら上げさせないとばかりに、魔力弾とレヴィの斬撃が“天使”を襲う。
“性質”も、僅かばかりにディアーチェ達の結界によって相殺されているからか、発動前に潰されていた。
「はぁっ!!」
「ぶっ潰れろ!!」
ディアーチェ達以外も、各々“天使”や神を相手に戦っていた。
どれもが一歩間違えれば敗北必至な相手だが、それと互角に戦い、追い詰める。
間違いなく、ディアーチェ達の“意志”が敵を上回っていた。
「通らない……!?」
「通さないよ……!」
本来ならば防ぎようのない攻撃。
それを、“意志”によって相殺に持ち込む。
不退転の覚悟を決めたその“意志”ならば、圧倒的地力の差を覆せる。
意識せずとも、そんな“意志”を、全員が発揮していた。
「ぐ、ぉおっ!!」
「ただの、人間に……!」
そうなれば、最早負ける道理はなかった。
慢心は元からなく、油断もしない。
どんなに勝ち目が薄くとも、その“意志”が負ける事を許さない。
故に、どれほど苦戦しても、最後には敵を倒す事が出来る。
「……次!!」
ボロボロになりながらも、クロノが次の相手を探す。
イリス攻略作戦における戦闘。その本番は、ここからだと言わんばかりに。
後を、優輝達に託すために、戦い続ける。
後書き
καταφύγιο…“聖域”。四人による結界に“意志”を上乗せし、仮の“領域”として成り立たせる結界魔法。四人の“意志”が強靭な程、その結界の硬度も増す。
“切断の性質”…文字通り、様々なものを切断できる。空間や概念なども切断できるが、戦闘において切断が関わらない行動は不得手となっている。
Luciferion Breaker…なのはBoA参照。GODでは頭に“真”が付くが、本編でBoAがなかったのでそのまま。なお、威力等はなのはに影響されてか原作より強い。
Atomic Explosion…指向性を持たせる事の出来る広範囲殲滅魔法。指向性があれば、砲撃魔法のようにも扱える。
イリスへと向かうのは優輝、優奈、緋雪、司、奏、帝、神夜、葵、ユーリ、サーラ、なのは、フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずか、ミエラ、ルフィナ、天廻、スフェラ姉妹、ズィズィミ姉妹の計23人です。
神界の入り口に残ったのは本編の地の文に書いたメンツで、他は居残り組です。
実は、神界の入り口に残った組は、居残りや突撃組に比べて敵の数が少なく済んだりします。元の世界に残っている神は居残り組が止めますし、神界も司の一撃と突撃組がある程度請け負うため、必然的に数が少なくなります。
なので、振り分けた人数もここが一番少ないです。
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