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戦国異伝供書

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第百十四話 人取橋の戦いその十一

「まだまだ戦うぞ、よいな」
「はい、それでは」
「今は勝ちを祝いますが」
「それが終わればですな」
「また動くのですな」
「そういうことじゃ、これで終わりではないことはな」
 最初の一歩に過ぎないことはというのだ。
「覚えておく様にな」
「わかり申した」
「このこと肝に銘じておきます」
「そのうえで、です」
「今は、ですな」
「しこたま飲むのじゃ、飲むべき時は潰れるまで飲んでじゃ」
 そうしてというのだ。
「翌朝頭が痛いと苦しむことじゃ」
「殿、深酒はよくありませぬ」
 片倉はこのことは咎めた。
「殿は時折その様に飲まれますが」
「それはか」
「はい、慎まれるべきです」
「だから時折じゃ」
「それ故にですか」
「よかろう、時々深酒をする位ならな」
 それならというのだ。
「別にな」
「まあいつもよりは遥かにましですが」
「そして朝二日酔いだとな」
 その時はというのだ。
「すぐにじゃ」
「水浴びなり湯浴び等をしてですな」
「風呂がなければ川に入って身体を清めつつな」
「酒も抜きますか」
「そうする、それでじゃ」
「二日酔いは終わらせますか」
「そうする、そこまで考えて飲んでおるのじゃ」
 こう言いつつまた飲んだ。
「その様にな」
「では今も」
「そうして飲んでおる」
「覚悟のうえですな」
「そうじゃ、では飲むぞ」
「まあ今はよいかと」
 片倉は主の言葉に折れる様にして述べた。
「そこまでお考えなら」
「ではな」
「して殿、肴の魚の干物ですが」
 今度は成実が言ってきた、勿論飲んでいる。
「実に酒に合いますな」
「塩気が利いておってのう」
「左様ですな」
「これはよい、しかしな」
「しかしといいますと」
「別に魚の干物がなくともじゃ」
 それでもというのだ。
「塩なり梅なり味噌なりがあればな」
「それで、ですか」
「よい」
「そういったものを肴にするので」
「そうじゃ」
 こう成実に話した。
「あるものでよい」
「肴については」
「それでな、上杉殿もな」
 謙信の話もした。
「毎晩多くの酒を飲まれるというが」
「その肴は、ですか」
「塩とか梅でな」 
 そういったものでというのだ。
「質素らしい」
「酒を飲まれていても」
「そうじゃ」
 それはというのだ。
「質素だという」
「そうなのですか」
「わしはやがて上杉殿も家臣にする」 
 天下を手に入れる、それならば彼も家臣になるということだ。政宗は既にそうしたことも念頭に置いているのだ。
「その上杉殿を知ってな」
「そうしてですか」
「やがて用いる」
 家臣としてというのだ。
「そうする」
「そうですか」
「だから知っておる、あと織田殿はな」
 信長はというと。
「これが酒はまるで飲まれぬそうじゃ」
「そうなのですか」
「どうもな」
 これがというのだ。
「あの御仁はな」
「酒は、ですか」
「それで茶や甘いものが好きという」
「意外ですな」
「しかしな、そのことも覚えておいてじゃ」
「織田殿を降したならですか」
「その時は菓子を振舞ったりしてな」
 その様にしてというのだ。
「対する、その者それぞれを知り」
「そうしてですな」
「接するのが主ですな」
「そうじゃ、では今は祝おう」 
 こう言って政宗はまた飲んだ、そうしてだった。
 政宗は宴が終わると次の日朝早くに風呂に入った、そのうえで酒を抜いてから軍勢を率いて意気揚々と米沢に帰った。すると万雷の歓声を浴びた。それが何よりの勝ちの証だった。


第百十四話   完


                  2020・9・15 
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