戦国異伝供書
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第百十四話 人取橋の戦いその二
「よいな」
「軍議でお話された通りに」
「そうするぞ」
「では」
「皆死ぬ気で戦うのじゃ」
こう言ってだ、政宗は結城家の軍勢に向けて鉄砲を撃たせた、そうして多くの敵兵を倒しそれからだった。
さらに来る敵に長槍を向けまた撃たせた、そうして。
結城家の軍勢が退くとすぐに芦名家の軍勢が来た、彼等にもそうさせたが。
政宗は敵の動きを見てこう言った。
「まだじゃ」
「これからですな」
「うむ」
片倉に答えた。
「戦はな」
「まだ佐竹家も動いていませぬ」
「ではな」
それではというのだ。
「まだじゃ」
「この戦ははじまったばかりで」
「芦名家の軍勢を退けてもじゃ」
敵の主力の一つをというのだ。
「それでもじゃ」
「油断は出来ませぬな」
「勝ってじゃ」
そしてというのだ。
「勝鬨をあげる」
「その時まで、ですな」
「油断出来ぬ」
「そうした戦ですな」
「そしてこの度もじゃ」
「芦名家の軍勢を退けても」
「それでもじゃ」
まだというのだ。
「油断するでない」
「より大きな佐竹家の軍勢もいますし」
「五つの家はばらばらであるが」
「攻めて来ることは同じですな」
「それならばな」
「油断は出来ないですな」
「守りは固めたままじゃ」
敵を一度や二度退けてもというのだ。
「よいな」
「その様に」
「そして戦い」
そのうえでというのだ。
「敵が退くのを待つぞ」
「わかり申した」
「そしていざという時はな」
その隻眼を光らせてさらに話した。
「鉄砲騎馬隊をな」
「使いますな」
「時宗丸に預けたそれをな」
「さすれば」
「そして先陣の爺じゃが」
茂庭の話もした。
「このままじゃ」
「しかとですな」
「戦ってもらう、流石あの歳まで戦ってきただけはある」
十代の初陣から髪の毛がすっかり白くなり顔も皺だらけになるまでというのだ。
「かなりじゃ」
「お強いですな」
「だから先陣としてじゃ」
「茂庭殿には」
「戦ってもらう、だが」
ここでも隻眼を光らせて言った。
「死なせはせぬ」
「この場では」
「言ったな、死兵になってもらうが」
「死んでもらうつもりはない」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「爺にはな」
「命を捨てさせませぬな」
「何があってもな、ではな」
「このままですな」
「守って戦う」
こう言ってそうしてだった。
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