魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga19-A本局襲撃~5th wave~
†††Sideシャマル†††
対“T.C.”に備えてシャルちゃんが組んだ作戦を実行した私たちチーム海鳴と特騎隊。私とザフィーラ、それに特騎隊のクララちゃんは、“T.C.”の目的である保管室へ続く通路にて待機中。
「ザフィーラ。今日のヴォルフ・ヤークトの調子はどう?」
「ああ。さすが第零技術部のデバイスだ。試作型とは言えぬほどきちんと機能している。おそらくアインスのナハト・リヒトも問題なく稼働しているだろう」
「そう。・・・間に合って良かったわね。そのデバイスがあれば、あなたやアインスも魔法に神秘を付加することが出来るもの」
ザフィーラの両腕にはいつものガントレットじゃなくて、カートリッジシステムが搭載されたガントレット、“ヴォルフ・ヤークト”を装着されている。スバルやギンガのリボルバーナックルからスピナーを取り除いたようなデザインで、純粋な格闘戦を行うために余計な機能は付けられていない。
「ああ。役立たずでは終わりたくはないからな」
「そうね。ルシル君の宿敵が居る組織だもの。家族として協力してあげたかったわずっと」
オーディンさんも、ルシル君もずっと追いかけてきていた“エグリゴリ”のガーデンベルグ。リアンシェルトを救い、ガーデンベルグを救い、最後に“ユルソーン”っていう神器を破壊すればルシル君は、セインテストの宿願から解放される。けどそれはルシル君の死を意味する。はやてちゃんの恋を応援はしたい。家族としてルシル君を喪いたくない。それは確か。だけどルシル君の死という運命を変えられないのなら、私は最後まで関わりたい。私たちの知らないところで旅立つことだけはさせないし、させたくなかった。
「そうだな。エグリゴリの救済は主オーディンの願いでもある。主オーディンと共に果たせなかったが、今度こそは必ず・・・」
ザフィーラとそんなことを話していると、「っ!?」ゾクッと背筋が震えた。クララちゃんも「ヤバい! 来るよ!」と身構えた。ザフィーラが私とクララちゃんを庇うように前に躍り出て、「カートリッジロード!」を行った。私も“クラールヴィント”からペンデュラムを伸ばして待機。
――シャマル。旅の鏡で連中に奇襲を掛けてみてほしいの。通用するなら一気に戦力削れると思う。あ、でもダメだったとして大丈夫! わたし達は勝つから!――
シャルちゃんの期待に応えたい。はやてちゃん達の負担が少しでも減らすことが出来れば、その分“T.C.”の壊滅が容易になる。私だって夜天の守護騎士の1人。役立たずではいたくないもの。決意を新たにグッと身構えて、プシュッとスライドドアが左右に分かれた。
『こちら保管室前通路のシャマル! 幹部を視認! レオン! フォード! アーサー! 以上!』
本作戦に参加してるみんなに全体思念通話で報告する。ガーデンベルグが現れないかもしれないというのは想定内。ただ、プリムスが居ないのは気になるわ。
『了解! クララ先輩、手はず通りに!』
『了解!』
思念通話を切り、私たちの前に立つレオンと、その巨体ゆえに横に並べず彼の後ろに立つフォードとアーサーを睨みつける。3人は少し周囲を見回した後、フォードが「お前らだけか?」と不機嫌そうに言った。
「そう委縮させるでないわ、フォード陛下。主力はどこかに控えていると見える。そうだな。我々を分散させて各個撃破と言ったところか」
「手段は転送の魔法でしょうね。レオン陛下、フォード陛下。どうします?」
「決まってんだろアーサー」
「うむ。決まっておる!」
「案内せよ!」「案内しやがれ!」
レオンとフォードは両手をだらりと下げて無抵抗を装う。続いてアーサーも「誰が俺たちを転送するんだ? 早くしてくれ」なんて言ってくる始末。力を抜いて突っ立っているその様から本当に交戦する気はないみたいだけど、『どうする?』って聞かざるを得ないほどに私は困惑している。
『罠とも限らんが・・・。我とクララで接近する。シャマルは隙を見て旅の鏡を使え』
『『了解』』
ザフィーラはクララちゃんの盾となるように位置取りで、警戒しながらレオン達に接近する。ザフィーラも人間形態時の身長は高い方だけど、レオンはさらに高い。だからザフィーラの陰で魔法なんて発動できない。でも視線がザフィーラとクララちゃんに向いているのは確か。あとはタイミングね。
「私があなた達を主力の待つ場所に転送する」
「うむ。では早速転送してもらおうか。フォード陛下、アーサー。誰が相手になろうが恨みっこはなしだ」
「ああ」「はい」
「なら目を閉じてくれる? あ、攻撃魔法も捕縛系の魔法も使わないから安心していい」
クララちゃんの言葉は嘘じゃないわ。私の旅の鏡は転送系だから、攻撃にも捕縛にも該当しない。でもそんなことを言われて疑うなっていうのも無理があるわよね。チラッと様子を見ると彼らは疑うこともなく、ううん、疑う必要すらなく仕掛けられても問題ないって風に堂々としていた。
「別に構わんぞ? 戦争に正々堂々などというルールは無いからな」
「ただし覚悟はしろよ? そっちが仕掛けないから俺たちも仕掛けない。攻撃だろうが捕縛だろうが、その他の魔法も敵対行為として認識し、反撃する」
フォードの放つ殺気に私とクララちゃんは「ぅく・・・!」思わず身を引いてしまった。そんな私たちを見てレオンが「よさないかフォード陛下」と諫め、フォードは小さく嘆息してから殺気を収めた。そんな2人にクララちゃんが「転送もダメなわけ?」ってフォードを睨みつけた。
「は?」
「もうよいフォード陛下。このようのなつまらん問答は無用。構わんよ、攻撃だろうと捕縛だろうと、他の種類のものであろうと。そのすべてを真っ向から跳ね返すのみ。ではフォード陛下。貴公が先に飛ばされよ」
「はあ!? 高説垂れておいて尻込みですかレオン陛下!?」
「違うわい! 我らの転移とはどこが違うのか見てみたいだけだ」
「・・・、まぁいいや。お前が俺たちを飛ばすんだろ? ならさっさとしろ、のろま」
急かされて少しムッとしているクララちゃんは「ぶっ倒れされてくれば?」とフォードに吐き捨てて、そっと右手で触れた。転移スキルの発動されてフォードの姿が一瞬で消失。レオンは「普通だな」と目に見えてしょんぼり。
「それで? 次は誰が死地に行くの?」
「アーサー」
「判りました。次は俺だ。頼む」
アーサーがクララちゃんの前にまで来て、目を閉じて軽く俯いた。それを確認してクララちゃんがアーサーに触れるかどうかというところで、私は転送魔法・旅の鏡を発動。狙いは幹部の中で最強らしいレオン。彼の注意は今はアーサーに向けられているわ。
「む?」
アーサーが転送された瞬間を狙っての奇襲。レオンは自身の胸から伸びる私の手を見て、ほんの一瞬だけ目を見開いたけどすぐに穏やかなものに戻って、「面白いな。だが、なんのための魔法だ?」と首を傾げた。
「鋼の軛!」
そこにザフィーラの拘束杭が床、左右の壁、天井の4面から十数本と一斉に突き出された。普段の使い方である突き刺しての拘束ではなく、掠るようなギリギリの軌道でレオンの体のすぐ側を通過させ、お一人様の牢屋とした。どれだけ時間が稼げるか判らないけど、この隙にリンカーコアを見つけないと。レオンのリンカーコアを手に入れるべく右手を旅の鏡に出し入れを繰り返す。
(無い・・・無い! どこにも無い! うそ・・・! リンカーコアがどこにも無い!?)
レオンは恐ろしいほどに巨体だから、手の平サイズのリンカーコアを探し出すのは難しいと思っていたわ。でも違う。どこにも無い。リンカーコアがレオンの体内に存在していない。それまで大人しく拘束され、私の旅の鏡を受け入れていたレオンが「もうよいか? 痛みは無いとはいえ腹を探られるのはあまり気分が良くはない」と言って、軽く身じろぎをした。たったそれだけで魔術化しているザフィーラの鋼の軛が折れた。
「おのれ・・・!」
――狼王の鋼鎧・剛――
「鉄破震砕打!」
ザフィーラの全身を覆う薄い魔力膜。さらに両腕を覆う魔力が膨れ上がって、その状態での拳打を繰り出した。初撃の右拳はレオンの鳩尾付近に直撃したけど、デバイスと肉がぶつかった音とは思えない音――金属の衝突音が通路に響く。レオンは直立不動のまま、「ふん」と鼻を鳴らした。
「っ! おおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ザフィーラが連続拳打を繰り出し始める。そのどれもが普通の魔導師相手なら必倒の一撃にも拘わらず、レオンはその場から1歩も後退することなく、ザフィーラの猛攻を涼しい顔で受け続けた。その間にも私はリンカーコアを探すために右手を忙しなく動かし続けるのだけど・・・。
「ダメ! やっぱりリンカーコアがどこにも無いわ! ごめんなさい!」
どうやっても探し当てることが出来ず、私はそう叫んでしまった。レオンが「当然であろう」なんて言いながら私の体より太い右腕を、虫を払うように高速で振るった。ザフィーラは咄嗟に両腕を掲げて防御したけど、「ぅぐ!」弾き飛ばされてしまった。
「牙獣・・・!」
でもザフィーラは壁に叩き付けられる前にくるりと体の向きを変えて、保管室へ続くドアに着地。
「走破!!」
そしてドアを蹴って、レオンへと跳び蹴り姿勢での突進を繰り出した。レオンはザフィーラの蹴りの直撃を受けた瞬間、「むんっ!」大きく胸を張って、ザフィーラを弾き返した。魔法を魔術化できるのはこの場だとザフィーラだけ。私とクララちゃんは戦力にならないし、私に限っては旅の鏡も不発で終わったことで一番の役立たずだわ。
「もうよいだろう? 早く我を主力の元に転送するがよい。そこの男では我に傷1つ付けることも出来ぬ」
「それは試してみなくては判らんぞ!」
ザフィーラが神秘カートリッジを3発連続ロード。床を蹴って、「崩牙!」と突進してから繰り出すのは、爪で薙ぐかのような魔力を発生させる左フック。レオンは右手の甲でその一撃を受けた。ザフィーラはすかさず右フックを繰り出すけど、レオンは左手の甲でそれを防御。
「おおおおおおおお!!」
共に両腕が塞がれている中、ザフィーラはレオンの腹と胸と顔面を順に蹴って駆け上がり、爪状の魔力を纏う両手を振り下ろした。さすがに鼻を踏まれたことでよろめいていたレオンはその一撃を受けて「むごっ!?」と呻き声を上げて、どすん!と両膝を突いた。
「そのまま沈め!!」
――龍牙――
内から外へと左腕を振るい、腕に纏う巨大な魔力の爪でレオンを薙ぎ払ったザフィーラ。直撃を受けたレオンが殴り飛ばされて、入り口の監視室へ続くドアに叩き付けられた。そこにザフィーラの飛び蹴りである「牙獣走破!」が、ドアにもたれかかったままのレオンへ迫る。
――パトリオタ――
とここで、レオンの全身が赤い魔力で覆われたかと思えば、「ぐおっ!?」と呻き声を上げてザフィーラが吹き飛ばされて、「きゃあ!」悲鳴を上げる私とクララちゃんの間を通り過ぎ、保管室に続くドアと激突。勢いはそれで収まらずドアを破壊して、トランスポートを通り過ぎて奥の壁に激突した。
「む? 殺さぬように精いっぱい手加減をしたのだが思いのほか吹っ飛んだな」
「ザフィーラ!」
壁にもたれかかって座り込んでいるザフィーラの元へ駆け出そうとした私だったけど、「我はともかく、貴様らは殺す気で来んと勝てんぞ?」とレオンが首をコキコキ鳴らした。私はその言葉を背に受けながら「ザフィーラ!」の元へ。意識はあるようで、「シャマル。回復を頼む」と言ったから、私は頷き返して「癒しの風よ!」と治癒魔法を発動した。
「殺す気でって。私たち管理局員は公務員なんだから、人は殺せない。そもそも、いくら相手が凶悪犯でも殺すわけないでしょ? あなたも、大人しく捕まってしっかり罪を償いなよ。それが人ってものでしょうが」
「あぁ、なるほど。そこから認識の齟齬が起きているのか。・・・お前たちは我らの正体についてどういう風に考えているのだ?」
「・・・大昔の魔術師の生まれ変わりでしょ? 前世や先祖の記憶と魔術を受け継いだ現代に生きる人の人格を、過去の記憶であるあなた達が奥底に追いやっている。で、こうして悪さをしている。違う?」
「そういうことになっていたのか。我らを普通の人間として見ているのだな。ふむふむ。ならば・・・」
クララちゃんの話を聞いたレオンは、自分たちが人間じゃないっていう風なことを言い出した。少し考えに耽った後、何を思ったのか全身を覆っていた魔力膜を解除。さらにいきなり壁を殴って大きく破損させた。どんな質量兵器でも魔法でも破損できないほどに強固に作られた壁を、ただの力のみで破壊したことに戦慄する。
「うそでしょ・・・。純粋な腕力のみで破壊した・・・」
その異常にクララちゃんも後ろに下がった。そんなドン引きしている私たちの様子なんて気に留めることもなく、レオンはナイフのように鋭く剥がれた壁の破片の1つを引き千切ると、「まぁ実際に見てみるがいい」と言って、その破片で自分の太い腕を掻き捌いた。
「「っ!!?」」
「見えるだろう? 生物であることを示す赤い血は流れん。溢れるのは、我を形作る魔力だ」
傷口から漏れるのは確かに赤い血じゃなくて魔力。しかも治癒魔法を使っていないにも拘わらず傷口がすぐに閉じた。
「我らは生まれ変わりではない。お前たちも薄々は感付いていたのだろう? 我らの戸籍が無いことに」
レオンは破片をポイッと投げ捨てて薄く笑った。当然そんなことを知らない私は、“T.C.”捜査の専門部隊となっている特騎隊の一員であるクララちゃんを見た。
「確かに。私たちはずぅーーーーっと、あなた達の身元を調べていたけど終ぞ判明しなかった。じゃあ生まれ変わりじゃないとするなら、あなた達の本当の正体が気になるんだけど?」
「そこまで教えてやる義理は無い。さぁ、そろそろ無駄な問答をやめ、我を転送するがよい」
ザフィーラの治癒を終えた私は、「クララちゃん・・・」の方を見て首を小さく縦に振った。ザフィーラの負傷は治せたけど、万全な状態でレオンと戦えるかとなれば無茶、無理と断じるしかない。ザフィーラも理解してくれているようで黙ったまま。クララちゃんも小さく頷いて、「とっととくたばれ」と言い捨てながらレオンに触れ、転移スキルで彼を飛ばした。
「人間じゃない、か・・・。魔力で体が構築されているなんて、まるでルシル君やエグリゴリのような・・・」
「あながち見当外れではないかも知れんぞシャマル。ミミル――いやパイモンか。あの女が健在であれば、新たなエグリゴリを開発できたとしてもおかしくはない」
「でも、レオンを始めとした幹部たちは過去に実在した魔術師なんでしょ? ルシル君も、幹部たちは人格から魔術、神秘などなど何から何まで同一だっていう話だったじゃない。さすがに当時を生きていないパイモンには造れないんじゃない?」
「じゃあクローンとか? あーでもクローンなら人としての肉体があるか~。クローンを生み出したうえでエグリゴリに改造なんて無駄な工程を踏むわけもないし・・・」
“エグリゴリ”のように魔力で体を構築している。本物と言われてもおかしくないほどに当時のレオン達と同一の幹部たち。クローンの可能性は低い。となれば、信じたくないけどありえないと捨てきれない可能性が出て来たわ。
「作戦も最終段階に入ったとはいえ、レオン陛下のお喋りには困ったものですわ」
「「「っ!」」」
監視室側のドアが大きな音を立てて倒れると、呆れた風に首を小さく横に振るプリムスが姿を現した。ううん、それだけじゃないわ。彼女の後ろにはフードを目深に被って素顔を隠している男性が1人。特騎隊からもたらされているデータには無い人物。幹部たちは素顔を晒しているようだし、アグスティンではないと思う。
「この方が気になります? ではご紹介しますわ。我らT.C.が主――王ですわ。あ、名前は伏せさせてもらいますわね」
「「「っ!!」」」
私の考えをプリムスが察したみたいで、フード男の正体を明かした。まさかここでいきなり“T.C.”のリーダーと遭遇するなんて。ザフィーラは「ならば貴様を捕らえればよいのだな」と言って立ち上がって、リーダーに向かって行こうとした。
「「ザフィーラ!」」
「お止しになった方が宜しいのでは? わたくしと王、2人を相手に勝てるおつもりですか? いえ・・・」
――破滅の猛獣――
「わたくしの幻術も在るので3対多ですわね」
「出たー! 幻獣!」
クララちゃんが叫んだ。リーダーとプリムスの前に現れたのは2つの顔を持つ大きな狼。アレは幻で、実際にそこに居るわけじゃない。けれどプリムスの幻術はあまりにも強大すぎて、幻術の攻撃を受ければ脳が勝手に実際に受けたと誤認してダメージを受けるそう。しかも幻術だからこちらかの干渉は一切できないという、魔導師どころか魔術師でも勝てない相手・・・。
「あ、あなた達の目的は・・・?」
「わたくしもあなた達の各個撃破作戦に乗せられようかと思いまして。王は、後ろの転送機から保管室へ向かいますわ。狙いは・・・判りますわよね?」
王は素性を少しでも隠すためか一言も喋らず、プリムスが代わりにそんなことを言った。これはまずい。幹部2人を相手にまともな戦闘なんて出来ない以上、応援が必要だわ。そういうわけで、『こちら保管室前通路!』と全体思念通話。
『T.C.のリーダーがプリムスと共に出現! プリムスは各個撃破作戦を受け入れ、リーダーは保管室への進入を目論んでいるわ! 指示を乞う!』
『了解! クララ先輩! リーダーを優先的にわたしとなのはの元へ転送して! シャマル、ザフィーラ! 少しあなた達に危険を強いるけど、少しの間プリムスを引き付けておいて!』
『『了解!』』『了解した!』
思念通話が切れるとほぼ同時、私とザフィーラは「鋼の軛!」とプリムスとリーダーを隔てるように拘束杭の壁を作り出す。クララちゃんが「プリムス! あなたを転送する!」と駆け出した。
「ええ。よしなに」
幻獣を消失させたプリムスは無抵抗を示すように直立不動となった。そんな彼女に駆け寄るクララちゃんの右手が伸ばされる。そして触れるかどうかと言ったところでクララちゃんの姿が消えた。目の前で突如クララちゃんが消えたことでプリムスも「あら?」と目を丸くした。
「先にリーダーを転送させてもらったから」
クララちゃんはプリムスの直前で転移して、リーダーの背後に出現。その奇襲に反応しきれなかったリーダーに触れ、クララちゃんはシャルちゃんとなのはちゃんの元に転送させた。プリムスもそれに気付き、「あらあら」と苦笑い。
「まぁこちらの仕事はほぼ終えていましたし、問題ありませんわ」
プリムスの言葉に「仕事?」と聞き返した私に、彼女は「少しばかり捜査資料を拝見させてもらいましたわ」と素直に答えてくれた。まさか答えてくれるなんて思わなかったから、今度はこちらが目を丸くした。
「罪状に本局データベースへの不正アクセスを追加。なら、どの捜査資料を見たのか答え――」
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 第1から第3拘置所にて脱獄が発生! 繰り返します! 第1から第3拘置所にて脱獄が発生! 手の空いている魔導局員は、脱獄囚の確保を願います!』
言い切る前にそんなアナウンスが流れた。“T.C.”の襲撃の最中に複数の拘置所で脱獄。これが偶然とは思えないわ。私たちの視線を受けたプリムスは「陽動ですわね。わたくし達お得意の」と微笑んで見せた。
「さぁ。わたくしも転送してくださいな。わたくし達を待つ主力を、脱獄させた犯罪者の確保などに回したくありませんので」
プリムスはそう言って両手を広げながらクララちゃんへと歩み寄っていった。
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