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戦国異伝供書

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第百十三話 鬼計その十

「凌げばじゃ」
「周りは勝ちとみなしますな」
「そうなればよいからな」
 だからだというのだ。
「皆じゃ」
「生きることですな」
「死兵となってもな」
「まさに死中に活ありですな」
「そうじゃ、だから川も渡り」
 そしてというのだ。
「背水の陣を強いてな」
「戦いますな」
「だがわしは兵糧は捨てぬ」 
 政宗は笑ってこうも話した。
「それはせぬ」
「項王ですな」
 茂庭はその話を聞いてすぐに微笑んで述べた。
「それは」
「うむ、背水の陣は二つあるな」
「史記ではそうですな」
「韓信がしたものとな」
「項王がしたものですな」
「韓信はただ川を渡ってじゃ」
 そうしてというのだ。
「すぐ後ろに陣を敷いてな」
「敢えて退路を断ち」
「そして兵達に戦わねば死ぬことを教え」
「全力で倍の軍勢と戦い勝ちました」
「そうした、そして項王はな」
 この人物の背水の陣の話もした。
「川を渡り敵の要害を攻め落とす為にじゃ」
「三日分の兵糧を残し他は全部捨てさせましたな」
「三日のうちに敵の要害を攻め落とさせねば死ぬ」
「皆そうなる」
「その様にしてじゃ」 
 兵を韓信が率いるそれ以上に追い込んで死力を尽くさせてだったのだ。
「戦って勝った」
「そうしましたな」
「項王はそうしたが」
 しかしというのだ。
「流石にな」
「殿もですな」
「そこまではせぬ」 
 やはり笑って言った。
「兵糧は置いてな」
「そうしてですな」
「戦う」
「左様ですな」
「兵糧は観音堂山城に置き」
 七千人分のそれをというのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「背水の陣とする、そして観音堂山城にもな」
「兵を置きますな」
「そちらはこの者に任せる」 
 留守政景を見て話した。
「その様にな」
「わかり申した」 
 細面で細い目の男が深々と頷いた、彼こそが留守である。
「それでは」
「宜しく頼むぞ」
「城はしかと守ります」
「城には五百の兵を置く」
「そうしますな」
「高倉城には五百おる」
「我等は六千で川を渡りますか」
 留守は政宗に問うた。
「そうしますか」
「左様、鉄砲隊も鉄砲騎馬隊も連れて行ってな」
 その六千の兵でというのだ。
「戦う」
「六千、対する敵は三万ですな」
 小次郎が言ってきた。 
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