レーヴァティン
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第百七十八話 アルプスとドナウ川その四
「欲しいな」
「そうですか」
「じゃあな」
「まずはですね」
「ああ、東方を攻めるか」
こう言うのだった。
「ドナウ川を渡ってな」
「その北岸をですね」
「そういえば東に大国もあったな」
「寒冷の地に覆われたこの浮島で第一だった国が」
「一番の大国か」
「残念ですが今は我が帝国の方が大きくなったので」
その為にというのだ。
「第一の国ではなくなりましたが」
「今も大国か」
「左様です」
「じゃああの国も含めてな」
「まずは、ですか」
「東を攻めるか」
久志は腕を組んで述べた。
「そうするか」
「騎士団と王国はまだ戦ってるよ」
清音は両国の情勢の話もした。
「王国は北の国ともね」
「島の王国ともだな」
「そうよ」
まさにというのだ。
「そして騎士団も騎士団でね」
「王国以外にも敵はいるんだな」
「北方のバイキング達の王国とね」
その彼等と、というのだ。
「戦っているわよ」
「お互いに複数の敵を抱えてるんだな」
「ええ、だからね」
「俺達にも殆ど兵を向けて来なかったんだな」
「こちらの考えはわかっていても」
西の浮島の統一、即ちやがて自分達に攻めて来ることがわかっていてもだ。
「それでもね」
「攻めて行けなかったんだな」
「若し多くの兵を動かしたら」
その場合はというのだ。
「そこをね」
「それぞれ他の勢力に攻められるな」
「そうなるからよ」
「俺達には兵を向けられなかったんだ」
「そして今もね」
「そういうことか」
「ただしだ」
正が言ってきた。
「それぞれの勢力が講和すればな」
「俺達に兵を向けられるな」
「それが可能だ、連中にとって俺達は共通の敵だ」
「それならな」
「今も実は水面下でだ」
表面上はいがみ合い戦争をしていてもというのだ。
「外交交渉を行ってる」
「講和に向けてか」
「そうしている、しかしな」
「それでもか」
「どの勢力もこれまで長い間いがみ合ってきた」
そうして対立してきたというのだ、この浮島の各国の対立は根深いものがある。正は久志にこのことも話した。
「だからだ」
「いきなり仲良くとかは無理か」
「だからな」
それでというのだ。
「その交渉は長引いている」
「そういうことか、じゃあな」
「連中が講和をして手を結んでだ」
同盟を結んでというのだ。
「共に俺達に向かう前にな」
「俺達としてはか」
「連中を倒すか連中が勝てない勢力となる」
「それが大事だな」
「だからだ」
「ここはどうするか」
「アルプスを越えて連中を先に倒すか」
騎士団か王国かをとだ、正は久志の顔を見て彼に問うた、問うたその顔はこれ以上はないまでに強いものだった。
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