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ダタッツ剣風 〜業火の勇者と羅刹の鎧〜

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第3話 ならず者の集まり

 砂漠の町からオアシスに渡る道とは、真逆の方角にある冒険者ギルド。砂漠地帯の入り口と町の中間に位置するその集会所は、この近辺に活動拠点を置く「ならず者達」の溜まり場と化していた。

「……これが、先程話した件の報酬だ。今すぐ支払えるのはこれだけだが、成功した暁には私の懐からも加えさせてもらいたい。故郷を失った世界で、金だけ抱えてのうのうと生きるのは忍びないからな」

 そんな彼らの剣呑な視線に飲まれながらも、爺やは毅然とした面持ちを崩すことなく、今出せる精一杯の資金を詰めた袋をテーブルに置く。金貨が擦れ合うその音が、冒険者の収入としては破格の条件であることを物語っていた。

 荒事を得手とする冒険者にとっては、これ以上ない好機である。だが結局は、命あっての物種だ。報酬に釣られて身の丈に合わない仕事を引き受けては、長生きなどできない。

 信頼に足る経験を積んだ強者ほど、安易にこういう話には乗らないものなのだ。ましてやここにいる冒険者達は、砂漠という過酷な環境で冒険者稼業を営んできた修羅の者。
 一歩間違えなくとも死にかねない世界を歩んできた彼らが、すぐさま首を縦に振ることなどあり得ない。盗賊団の噂が、町の外にまで広まりつつある今となっては、なおさらだ。

「……っ」

 やはり、難しいのか。そんな胸中を語る爺やの視線が、金貨の詰まった袋に向かった瞬間。
 その袋を、一人の少年が手にする。

「……ジブンは引き受ける。その気がある人は、後から来れば良い」
「……!?」

 銅の剣に木の盾、擦り切れた赤茶色の服、そしてくたびれた真紅のマフラー。そんなみずぼらしい姿を持つ黒髪の少年が、真っ先に声を上げたのだ。
 最初に引き受けたのが彼だったことにも、このような場所にガウリカと同い年くらいの少年がいたことにも、爺やは驚きのあまり言葉を失っていた。一方、周囲は少年の行動にどよめく気配もなく、ただ静観している。

「き、君は……?」
「ジブンはダタッツ。つい昨日、このギルドに泊めてもらったばかりの流れ者ですよ。冒険者ではありませんが、相応の働きが出来れば構わないでしょう?」
「それはそうだが……いやしかし、我々が助力を仰ぎたいのは戦に秀でた冒険者達なのだ。名乗り上げてくれた君の気持ちは嬉しいが、だからといって……」

 良い噂を聞かない冒険者ギルドに、このような殊勝な少年がいたことは僥倖だったのかも知れない。が、今は人格云々よりも実力を最優先せねばならないのだ。
 残念ながら、周囲の冒険者達と比べても一際小柄なこの少年では、到底戦力にはなりそうもないのである。切れ味の悪そうな銅の剣を一瞥する爺やは、ため息をつくしかない。

「……ダタッツ、まずはお前から挨拶に行ってやりな。上の階で飲んだくれてる連中も、シバき起こさなきゃならないからな」
「わかった。皆も来れそうか?」
「あぁ、行けたら行く」

 それ絶対来ないやつ。そう思いながら頭を抱える爺やの前では、ダタッツという少年と冒険者達が、親しげに言葉を交わしていた。
 少年は昨日このギルドに来たばかりだという話だったはず。荒くれ者揃いの冒険者達と、なぜこれほど打ち解けているのか。

「話は決まりですね。皆も後から来てくれるそうですから、ジブン達は町に戻りましょう。ガウリカさん……でしたっけ。その人もきっと、お爺さんの帰りを待ってるはずです」
「……ほ、本当に彼らが引き受けるというのか? 君は一体……」
「今話した通り、昨日来たばかりの流れ者ですよ。さ、行きましょう」

 歳不相応に大人びた笑みを浮かべながら、腰に提げた銅の剣を手に走り出すダタッツ。そんな彼の背を慌てて追う爺やは、躊躇いがちに冒険者達の方を振り返りながら、ギルドを後にするのだった。

「……相手はこの近辺で名を馳せる、最強の盗賊団……か。久々の大仕事だな」
「なんだ、珍しくやる気になってやがるな」
「あんな大金をぶら下げられちまったらな。……ほら、行くぜ。グズグズしてると、取り分全部ダタッツの野郎に掻っ攫われちまう」

 その様子を見送り、しばらく経った後。冒険者達は重い腰を上げ、次々と自分達の装備に手を伸ばしていく。
 口では面倒だ、なんで嫌われ者の俺達が、と文句を言いながらも。得物を手にした彼らの眼には、確かな闘志が宿されていた。

 ◇

 ――戦いしか取り柄がないような者達が、その道で生計を立てていくために生み出された冒険者稼業。そこで生きている者達には、騎士道精神のような綺麗な道義などない。
 あるとすれば、それは「強い者が正しい」というシンプルにして野蛮な不文律だけだ。

 そして、昨日。宿を探してここへ迷い込んできたという少年に、冒険者ギルドがどういう場所なのかを思い知らせようとした一部の者達が、揃って返り討ちにされた時から。
 ダタッツという少年はすでに、彼らを動かすに足る「強者」として、認められていたのである。
 
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