提督はBarにいる。
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雀蜂は鎮守府を殺す毒針足り得るか?-side A-
「ほう?アメリカの新鋭艦をウチで、ねぇ」
『あぁ、先方からの要請らしい』
防衛圏構想実現の為のゴタゴタが漸く落ち着いてきた頃、ブルネイにある日本大使館からそんな連絡が入った。内容としてはアメリカが日本にライセンス生産を頼みたい新規の艦娘2名を、実験的にウチの艦隊に先行着任させて運用データを取りたいとのこと。
「そういうのは内地の鎮守府の方が良いんじゃないのかねぇ?ウチは最前線とは言わないが、安全性は保証しかねるぞ」
『まぁ、そう言うな金城。これは日米両政府からの要請でもある』
「……それ間違いなく軍事よりも政治的な意味合いの強い案件じゃないですかーやだー」
電話口の相手の大使は、昔からの顔馴染み。公式的な場でもない限り砕けた口調でも問題ない。
『お前には悪いが断りきれんのだ。お前が大分やらかしたお陰で、向こうの政府はガタガタだ……最悪日米同盟が瓦解しかねない』
「ちっ、わーったよ。ウチとしても戦力が増えるのは歓迎すべき話だからな。んで?アメリカさんから送られてくる艦娘の艦種は?」
『戦艦と正規空母が1隻ずつの予定だ。確かサウスダコタとホーネットだったか』
「ほーん、相変わらず米帝様は金があるこって。新規の艦娘を建造するだけでもかなりの額がかかるだろうに」
『それを搾り取った奴の吐く台詞じゃないな、全く……何はともあれよろしく頼む』
「アイアイ、任された」
ガチャリ、と受話器を置く。偉くなると色んな柵(しがらみ)に絡め取られて身動きがしにくくなるなぁ、と思わず溜め息が漏れる。
「新しい艦娘が来るのか?」
そう切り出してきたのは、今日の秘書艦当番の長門だ。
「あぁ、アメリカの新造艦娘が2人な。サウスダコタとホーネットらしい」
「サウスダコタ……確か霧島と至近距離の殴り合いをしたやつだったか?」
「あぁ、それとホーネットは秋雲の逸話に出てくる空母だな」
駆逐艦『秋雲』の逸話として有名な物として、夜間に探照灯を照射して沈みかけの空母をスケッチしようとした、という物がある。その空母というのがホーネットだ。その逸話の影響か、秋雲は同人誌やら絵を描くのが趣味の奴が多い。
「って、秋雲の話は今関係ないやな。それよりアメリカから来るって新人だよ」
「何だ、何か疑わしいのか?」
「いやぁ、俺結構あの国と揉めてるからなぁ。何かこう……どうしても疑いの目が、ね?」
「それは提督が後ろめたいだけでは?」
「うるせぇなぁ大淀ぉ、だから調べさせんだろ?」
「成る程、それで青葉が呼ばれたんですか!」
「そう言う事だ。頼めるか?」
「それはまぁ……これ次第ですかね?」
そう言って青葉はニンマリと笑いながら、親指と人差し指で輪っかを作る。
「わ~ってるって。ボーナスは払うさ」
「やった!一晩飲み放題も付けて下さい!」
「……仕方ねぇなぁ」
「やっふー!それでは青葉、潜入調査……いや、取材に出発しま~す!」
そう言い残して青葉は脱兎の如く飛び出していった。
「……ちゃっかりしてやがる」
「提督の指導の賜物ですよ」
「だから一言多いんだよ腹黒眼鏡」
それ以上の言い争いは無意味と判断したのか、大淀は溜め息を1つ溢すと書類に向かい始めた。俺も手を動かすとしよう。
そうして連絡を受けてから10日後、鎮守府にアメリカからの輸送船団が入港したと報せが入る。どうやらブルネイに寄港した後で、そのまま日本へと向かうらしく補給と船員達の上陸・休養を求めているとの事。寝起きにそんな報告を受けて、手早く指示を出す。
「補給と上陸は許可を出せ。ただし、上陸する連中には監視を付けるのを忘れるな。余計な場所に入ろうとしたら躊躇せずに拘束しろ」
さぁて、新入りさんの面を拝みに行くとしますかね。
「やぁやぁ、労働に励んどるかね?諸君」
執務室に入るなり、やる気の無さそうな表情を作って気怠げに挨拶をかます。
「おはようございます、提督。そちらにいるのがーー」
「あぁ、アメリカからの新入りさんだな。よろしく」
俺の執務机の前に立つ2人の美女。片方は勝ち気そうな雰囲気で星条旗をイメージしているのか青と赤のツートンカラーのストレートな髪。今までの艦娘にもたまにいた、奇抜な見た目のタイプだ。
もう片方も美人ではある。が、此方はオーソドックスなウェーブのかかった金髪で、美人ではあるが隣の女性に比べて印象が薄い。何処にでも溶け込めて、消えてもパッとは思い出せなさそうな、そんな矛盾を感じさせる見た目。
「サウスダコタだ」
「ホーネットよ」
「あ~、すまんが俺ぁ寝起きでな。ちょいと一服してからまた来てもらえるか?その間に鎮守府の施設を一通り案内させるから」
そう言って待機していた3人に目配せをする。
「Hi!アイオワよ、よろしくね」
「サラトガです、会えて嬉しいわ」
「そして、ワタシがテートクのwifeにしてこの艦隊の旗艦の金剛デース!よろしくお願いシマース!」
「ま、適当にぐるっと案内してきてくれや」
「ハイハーイ、お任せネ~。さぁさぁ、善は急げデース!」
そう言って金剛が新任2人をぐいぐいと引っ張っていき、その後をアイオワ達アメリカ艦が追いかけていく。
「……行ったか?」
「そのようです。どうでした?2人の印象は」
「サウスダコタは直情型っぽいな、良くも悪くも真っ直ぐというか。寧ろ俺はホーネットの方に何か含む所を感じたが……」
そう聞いて大淀が大きな溜め息を漏らす。
「ホント、何でそういう変な勘は良く働くんでしょうかね?提督は」
そう言って取り出したのは1通の大きな茶封筒。青葉のサインらしき物がある事から、青葉に頼んでおいた調査結果の報告書だと解る。早速封を開け、中の紙をペラペラと捲りつつ目を通していく。
「……へ~ぇ、あのホーネットは諜報組織のエージェントの可能性アリか。まぁそうだろうな、恐らくはCIA辺りか?」
CIA。アメリカ中央情報局の略称で、通称はラングレー。主な仕事はアメリカの政策方針を決定するための外交情報等の諜報とされているが、アメリカと敵対する指導者の暗殺や拷問、親米政権樹立の為の戦闘への参加等の直接的な戦闘に関わる部署もあるとされている。
「CIAは大統領直属の組織ですからね、あの大統領ならやりかねないでしょう」
「俺あのオッサンにとことん嫌われてそうだしなぁ。大統領辞める直前でもそれぐらいの嫌がらせはしてきそうだ」
今は選挙戦で負けて不正だって騒ぎ立ててるんだっけか?あのオッサンも往生際が悪いねぇ全く。
「目的は鎮守府の破壊工作でしょうか?それとも情報の漏洩?」
「それとウチの艦娘の引き抜き工作とかもあるかもなぁ。なんのかんの言って、ウチの連中は経験豊富だしな」
自慢になるかもしれんが、ウチの艦娘はどの娘も他の鎮守府に所属が変われば一線級の戦力を張れるだろうと自負している。それに蓄積されたノウハウが他国に漏れれば、世界的なスパンで見れば戦力の底上げになるかも知れんが、そうなると日本に対する裏切りだとか騒ぐ奴がいそうだ……特に横須賀のモアイ像辺りが。
「まぁ、ウチの娘達に限っては提督を裏切るだなんて万に一つも有り得ませんが」
そう豪語したのは加賀。
「ですね。皆さん提督の事大好きですし?それに裏切ったりしたら報復が恐ろしいですし」
「おい腹黒眼鏡、それだと俺が恐怖政治強いてるみたいじゃねぇか」
「いえ、報復するのは艦娘の皆さんですよ?」
「……そっちの方がこえーよ」
とりあえず、案内した連中に任せてみますかね。
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