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あの日の約束

作者:永沢 喬
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序章の序章

「あ、あのー… これから、よろしくね?加賀さん」
 
 俺の目の前に立ち、凛とした姿勢で弓を構えてジッと俺を見据えている加賀さんに、困惑しながらも笑顔で挨拶する。
 
「これからなんて必要ないわ」
 
 冷たく言い切った。
 どうやら俺は全くと言っていいほどこの鎮守府に歓迎されていないらしい。
 
「やめなさい、加賀さん!」
 
「赤城さん…」
 
「仮にもこの方は私達の上官なのよ?」
 
 仮にも…ねえ。
 着任初日からここまで毛嫌いされているとは、前任は一体何をしでかしたんだか…。
 
 赤城に宥められて、ようやく構えていた弓をおろした加賀はこちらをキッと睨みつけ、ペコリと頭を下げた。
 
「申し訳ありません」
 
 なんとも不服そうだ。
 他の艦娘達も、『嫌悪』を露骨に表している。
 先行きが不安ではあるが、できる限り笑顔で問いかけた。
 
「まあとりあえず、執務室まで案内してもらえるかな?赤城さん」
 
 この鎮守府に辿り着いてすぐ、門の前で待ち構えていた加賀に捕まったせいで俺はまだ大荷物を抱えたままなんだ。
 
 ああ、帰りたい…。
 
「私が、ですか…」
 
 うわぁ、すっげえ嫌そうな顔だなオイ。
 いやだって加賀のこと止めてくれたじゃん。
 他の艦娘は俺と目が合うとすぐに逸らしちゃうし…。
 
「まあまあ、そんな嫌そうな顔せずに頼むよ、赤城さん」
 
 精一杯の笑顔を見せると、やや不機嫌ながらも俺を執務室へと案内してくれた。
 

 × × ×

 
「ふぅ…。いやマジで前任は何やらかしたんだよ。嫌われすぎだろう」
 
 執務室に着き、この提督自らお茶を入れ一息ついてから引き継ぎ用の書類に目を通す。
 
「オイオイまじかよ…」
 
 何も書いてないんですがそれは…。
 廊下ですれ違った駆逐艦の娘こ達も挨拶どころか目を合わすことすらしないし
 我、提督ですぞ?
 
「まあいい、とりあえずこの鎮守府にいる艦娘達の資料を見てみるか」
 
 …ふむ、現在この鎮守府にいる艦娘は10人か。
 思った以上に少ないな。
 それにしても不可解な点が幾つかある。
 赤城、加賀が揃っていながら遠征しかおこなっていないのはどういうことだ?
 出撃した回数は0。しかし練度は極めて高い…。
 何か出撃出来ないような事情でもあったのか?
 
 まあなんにせよ…
 まずは信頼を得ることからだな。
 
 ゆっくりと深呼吸をして、館内放送のマイクのスイッチを入れ、なるべく刺激しないよう穏やかに言った。
 
『この鎮守府の全艦娘に告ぐ。ヒトゴーマルマルに執務室に集まってほしい。よろしく頼む』
 
 さて、15時まであと10分だが何人集まってくれることやら。
 
  …
 
「失礼します」
 
 赤城を筆頭に、先程資料で確認した艦娘全員が集まってくれたことには流石に驚いた。
 
「急に集まってもらって悪いな。今か…」
「用があるのなら早くしてもらえるかしら?こちらも暇じゃないので」
 
 カッチーンときたね。
 俺の言葉を遮っておいてよく言うよこのクール気取りの一航戦は…。
 ともあれ俺も大人だ。
 いちいちこんな些細な事で言い合うつもりもない。
 
「すまんすまん、1人ずつ自己紹介してほしくてな。左側から順に頼むよ」
 
「金剛デース…」
 
「榛名です」
 
 おお、俺はこんなにも冷めた表情をした金剛と榛名を見るのは初めてだ。
 金剛、榛名は提督LOVE勢だなんて吹聴したバカはどこのどいつだ全く。
 
「翔鶴です」
 
「瑞鶴よ」
 
「ども、恐縮です青葉です」
 
「僕は時雨」
 
「私、荒潮です」
 
「鳳翔です」
 
 スムーズに鳳翔まで自己紹介が終わったところで、加賀が流れを切った。
 
「あの〜…加賀さん?」
 
「何?」
 
「自己紹介を…」
 
「必要ないわ」
 
「……まあそうだね。君には着任早々手厚く歓迎してもらったからな…。
 よろしく、加賀さん」
 
「気安く呼ばないで」
 
 彼女が心を開いてくれる気がしません。
 
「赤城です」
 
 以上、10名か。
 
 実際こうして1人ずつ顔を合わせて改めて分かったことは、皆程度の違いはあれど俺を通して提督というものに嫌悪を感じていることだな。
 
「えーっと、至らぬところも多いと思うが、精一杯やっていくつもりだ。これからよろしく」
 
「………」
 
 静寂。圧倒的静寂。
 
 何か言いたそうな瑞鶴がキッと俺を強く睨みつけ、静かに執務室を出て行った。
 それに続いて翔鶴、荒潮と次々に執務室を後にする。
 俺、本当にここでやってけるのか心配です。
 
 
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