魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第53話:顔合わせ
前書き
どうも、黒井です。
読んでくださりありがとうございます。
奏と翼、ツヴァイウィングの2人のライブを間近に控えたその日。颯人と装者3人は徐に弦十郎によりブリーフィングルームに集められていた。
突然の事にやや戸惑った様子を見せる響と、弦十郎の口からどんな話が出るのか各々予想する颯人、奏、翼の3人。
彼らが一足先にブリーフィングルームで思い思いに想像していると、弦十郎が入室してきた。彼が部屋に入ると、4人は意識を切り替え彼に注目する。
「皆、突然の招集すまなかった」
「いえ、問題ありません」
「ただいきなり呼び出した理由は気になるよ」
「何かあったんですか?」
「……おっちゃん何か良い事でもあった?」
まず真っ先に何かに気付いたのは颯人だった。彼は弦十郎の纏う雰囲気がどことなく明るいのを、持ち前の洞察力で見抜いた。
いの一番に颯人に見抜かれ、弦十郎は小さく笑みを浮かべると部屋の外に待機させていた2人を招き入れた。
「良い事、か。確かに良い事だな。2人とも、入ってくれ」
弦十郎に呼ばれブリーフィングルームに入ってきたのは、透とクリスの2人だった。部屋に入るなり透は4人に笑みを浮かべながら軽く頭を下げ、対照的にクリスは何処か居心地悪そうな顔で透の陰に隠れていた。
2人の登場に驚く4人。その中から代表して奏が弦十郎に問い掛けた。
「旦那? この2人って……」
「うむ、紹介しよう。今日から二課に所属し共に戦ってくれる事になった、雪音 クリス君に北上 透君だ」
〔北上 透です。よろしくお願いします〕
「…………よろしく」
弦十郎からの紹介を受け、改めて(筆談で)自己紹介をする透。対して、クリスはぶっきらぼうに挨拶するだけであった。
一切口を開かず筆談で済ませる透と、ロクにコミュニケーションを交わそうとしないクリスに颯人、奏、翼の3人は何とも言えない顔になったが響だけは違った。驚きから立ち直った彼女は歓喜の笑みを浮かべながら2人に抱き着いたのだ。
「わはぁ! よろしくねクリスちゃん! 透君!」
「わ、ばっ!? 引っ付くな!? 透からも離れろ!!」
心底嬉しそうに抱き着き2人の仲間入りを歓迎する響に対し、クリスはそんな響を押し退け透から引き剥がそうとする。対する透はと言うと響を引き剥がそうとするクリスを宥め、それどころかクリスと響の手を取ると2人の手を繋がせた。
「と、透?」
透の行動に困惑するクリスと響だったが、自分に向けて微笑みながら頷き掛ける透を見てクリスは彼が何を思っているのかを理解した。恐れるな、と言っているのだ。正確には、警戒する必要はないと言いたいのだろう。
現時点でクリスが信頼しているのは透だけであり、それ以外の者は警戒対象だ。故に、響のフレンドリーな姿勢はクリスにとっては過剰接触であり親密さよりも先に警戒心を抱かせてしまう。
透はそれを是正しようとしているのだ。
それを理解したクリスは、激しく目を泳がせた。透の言いたい事は分かる。響達と仲良くすべきと言うのは、分かって入るのだがどうしても心が一歩踏み出す事を躊躇してしまうのだ。
透が信じるからと弦十郎について行くことを決めたクリスだったが、響達は明確に敵対していた相手だったのでどうにも納まりが悪かった。
暫しバツが悪そうと言うか、気恥ずかしそうにしていたクリスだったが再び透の顔を見て、彼の微笑みを見ると意を決したように響の目を真っ直ぐ見て口を開く。
「透がお前らを信じるって言うから、あたしもお前らと一緒に戦ってやる。あのオッサンにも言ったが、透に感謝するんだな!」
精一杯理性を導入して仲間に加わる事を告げるクリスだったが、その言葉は何とも上から目線で恩着せがましいものとなってしまった。彼女の様子に弦十郎は内心で『本当に捻てるな』と呆れていた。
しかしそんな強がりも響には通用しなかった。
「うん! 透君ありがとう! クリスちゃん、これからよろしくね!」
「だぁぁぁッ!? 振り回すな!?」
満面の笑みでクリスの手をぶんぶん振る響。
予想外の響の対応に、クリスは本気で響を引き剥がそうとするが喜びに突き動かされた彼女はちょっとやそっとの事では離れない。寧ろ感極まって再びクリスに抱き着く始末だ。
クリスにとてもフレンドリーに接してくれる響に、透は自分以外にクリスに親しくしてくれる者が出来た事に喜び2人の様子を微笑ましく見ていた。
「透、笑ってないで助けてくれ! お前らもこの馬鹿何とかしろぉっ!?」
堪らず透のみならず、颯人達にも助けを求めるクリスだったが当然ながら誰も助けない。一見すると2人の少女がじゃれ合っているようにしか見えないのだ。透を含めた全員が2人の様子を暖かい目で見るだけであった。
「誰か助けろぉぉぉっ!!」
しつこく抱き着いてくる響に、堪らずクリスは叫び声を上げるのだった。
***
たっぷり一分響に抱き着かれた辺りで、流石にそろそろ精神的にしんどいだろうという事でクリスは救出された。奏と翼に宥められて響が離れ、解放されたクリスは精神的に疲労したのか椅子に座って俯いている。
女性陣を他所に、颯人は自分とウィズ以外で初めての味方の魔法使いである透に話し掛けていた。何だかんだで、彼も気軽に話せる魔法使い仲間は欲しかったのだ。
「よっ! こうして話すのは初めてだったな? 明星 颯人だ、よろしくな」
〔よろしくお願いします〕
敵対した事も忘れたかのように親しく接する颯人に、透もにこやかに笑みを浮かべながら筆談で挨拶を返す。
メモ帳に丁寧に書かれた挨拶の一文に、颯人は思わず首を傾げた。
「えっと、透……でいいか? お前ってもしかして──?」
見た所シャイだとか他人と接するのが苦手なようには見えない。そんな彼が口を開かず筆談で会話を済ませている事に、颯人は半ば確信しつつ言葉をぼかして問い掛けた。
透は透で、颯人がまだ明かしていない喉の傷に気付きつつあることを察して、薄く笑みを浮かべると首に巻いているマフラーを少しずらした。この為に説明の文章を書くのは手間だし、態々文にするのは少し辛い。何より見てもらった方が手っ取り早い。
マフラーに隠されていた痛々しい傷跡を見て、颯人は全てを察すると何も言わずにマフラーを引っ張り上げて傷跡を隠した。これはあまり他人がジロジロ見ていいモノではない。
「……悪かった」
颯人が素直に頭を下げると、透は気にしていないと言う様に首を左右に振った。それを見て颯人は肩から力を抜いた。
こうして直に話して数分しか経っていないが、2人は既に互いに仲良くなれる事を確信していた。
それはこの2人がある意味で同志だからだろう。勿論、同じ魔法使いと言う意味ではない。
颯人も透も、1人の女性を愛しその相手の為に全力を注げる男だった。互いに相手を似た人物だと、ある種のシンパシーを感じていたのだ。
「色々あったが、これからは仲良くやっていこう。宜しくな」
親愛の意味を込めて手を差し出す颯人。握手を求めていると分かり、透は笑みを浮かべながら頷きその手を取ろうとした。
「ちょっと待った!」
その瞬間、それまで響と共にクリスと親睦を深めようとしていた奏が割って入ってきた。突然2人の悪手を妨害した事に、クリスは奏が透の事を信用していないのではと疑い噛み付いた。
「おい、透に何か不満でもあるってのか!?」
透を理不尽に疑われたと思って不機嫌になるクリスだったが、奏はそれに構わず透と握手をしようと差し出している颯人の腕を掴む。そして彼の手を掴むと、容赦なく引っ張った。
すると彼の右手はいとも簡単に抜けたではないか。その光景にクリスだけでなく、颯人と握手をしようとしていた透も響と翼の2人も驚愕した。
「えっ!? か、奏さん!? 颯人さんの手がッ!?」
「あっ! 落ち着いて立花! 颯人さんがどういう人か忘れた?」
傍から見ると奏が颯人の右手を引き千切ったとしか見えない光景に混乱する響に対し、翼は颯人の性格や特技から状況を正確に理解していた。
要は颯人が何時もの如く手品で悪戯を仕掛けようとして、それを奏に看破されたと言うだけの話である。
横からネタ晴らしをされたことで颯人は一瞬不満そうな顔をしたが、しかしその顔は直ぐに不敵な笑みに変化した。
「良く分かったじゃないか。流石だよ奏」
「こいつで痛い目に遭った事、忘れちゃいないからね」
「ふ~ん…………でもなぁ、詰めが甘いんだよなぁ」
「へ?」
颯人の言葉に奏は不穏な何かを感じた。この時点で颯人は何かを仕掛けている。
それが何であるか? 真っ先に気付いたのは奏ではなく傍から彼女を見ている響だった。
「わっ!? 奏さん、手がッ!?」
「手?」
響が何の事を言っているのか一瞬分からなかった奏だが、直ぐにそれが颯人から引っ手繰った偽物の手である事に気付きそちらに目を向けた。
奏の手の中にある偽物の颯人の手…………それからは導火線が伸びており、しかも残りの長さは極僅かと言う状態だった。
「ゲッ!?」
まずいと思った時にはもう手遅れだった。導火線の火が手の中に入ると、甲高い音を立てて切断面が破裂。紙吹雪と共に『大成功』と書かれた旗が飛び出て揺れていた。
小さくとも目の前の起こった爆発に、寿命が縮む思いをして胸に手を当てる奏。颯人はそんな奏を見てケラケラと笑い転げていた。
「て、テメェッ!? 透に何てことしようとしてんだ!?」
黙っていないのはクリスだ。特に何か被害が出るようなものでは無かったとは言え、悪戯を仕掛けられた事自体が黙っていられることではなかった。
「次透にふざけた事したらただじゃおかないからな、このペテン師!!」
「待って、ペテン師は止めて。殴っても良いけどペテン師だけは止めて頂戴」
「そうだな、ペテン師じゃないな。こいつは…………ただの悪戯野郎だッ!?」
クリスのペテン師発言に流石に黙っていられなかったのか必死になる颯人だったが、落ち着きを取り戻した奏がそんな彼の背後から掴み掛ると彼の首に腕を回して絞め上げた。
「ぐぇあ!? か、奏ちょっとタンマ!? これマジで苦しい!?」
「安心しろ、加減はしてるから。クリスやっちまえ!」
「おっしゃぁ!!」
奏が押え付けて身動きが取れない颯人の腹に、クリスが容赦なく拳を叩き付ける。透と響は止めるべきではと慌てたが、翼と弦十郎はたまにはいい薬だと放置を決定。折檻される颯人を黙って見ていた。
結局颯人が解放されたのは、いい加減見かねた透と響が強引にクリスを止めてからの事であった。
***
一頻り騒いだところで、弦十郎が奏達を宥め真面目な話に移行した。一番の本題は、クリスの証言により確実となったフィーネの正体である。
「そんな……フィーネと言う女の正体が櫻井女史!?」
「それ、マジなのか旦那?」
「残念だがマジだ。綿密な調査の結果、了子君の行動には幾つか不審なところがあった。それらとクリス君の証言から、フィーネの正体が了子君であると明らかになった」
フィーネの正体……それは櫻井 了子その人であった。彼女は二課の主任研究員として活動する裏で、クリス達やノイズで様々な騒動を起こしていたのである。
その了子ことフィーネは、透とクリスが二課に参加する前後で行方を眩ませていた。流石に自分の正体を知る者が居るのに、二課に居続ける様なリスクは冒さないらしい。
「フィーネ……了子さんが何処に行ったのかは、分からないんですか?」
「完全に行方を眩ませていてな」
「大方ジェネシスが匿ってんだろ。透を始末したい連中と俺らが邪魔なフィーネが手を組んだってんなら、それくらいの便宜は図るだろうな」
そうなると完全にお手上げである。魔法を使えば容易に海外に逃げられる。隠れ場所を求めるフィーネにとっては最適の隠れ蓑だ。
「カ・ディンギルに関しては何か分かったのか?」
「そちらに関してはまだ、な。目下調査中だが……」
この手の事に関しての知識人であった、了子の離脱はかなり痛い。様々な資料を漁ってはいるが、カ・ディンギルの正体を探るのは今の所手探りも同然であった。
その後も装者と魔法使いを交えて行われる今回の一連の騒動への対策が練られていく。少しずつだが、事態は確実に進展していた。
後書き
と言う訳で第53話でした。
原作よりも早くにクリスが二課に合流しているので、フィーネ=了子である事はこの時点で全員が知る事になりました。黙っておく理由があんまりないですからね。情報共有大事。
二課側が戦力的に余裕が出たように見えますが、フィーネ側も魔法使いと手を組んでいるのであんまり戦力差は変わってない。どころかむしろ悪くなってるかも。まぁ主人公側だけが一方的に強くなるのはつまらないので。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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