不死身の男
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「申し訳ないが」
「日の丸ですか」
「日の丸を使われますか」
「そうされますか」
「これでだ」
自分で足に日章旗を巻き包帯替わりにしつつ言うのだった。
「大丈夫だ」
「いえ、流石にです」
「もう無理かと」
「苦しいですね」
「身体中が」
「いや、わしはまだ生きることが出来る」
こう部下達に言うのだった。
「なら生きる限りだ」
「戦われますか」
「そうされますか」
「まだ」
「それでは」
「洞窟に戻ってな」
そしてというのだ。
「闘う、安心しろ」
「そうされますか」
「では我等がお助けします」
「今から戻りましょう」
「いや、こうして戻る」
這ってだ、彼は言うのだった。
「こうしてな」
「そうされますか」
「それは流石に無理かと」
「這われて進まれることは」
「そのお身体では」
「何度も言うが大丈夫だ」
まだこう言う船坂だった。
「だからな」
「それではですか」
「これよりですか」
「這われて」
「洞窟に向かわれますか」
「お前達は自分達で戻れ」
そうせよというのだ。
「よいな」
「そこまで言われるなら」
「それなら」
「我等も」
「ではな」
部下達を先に行かせてだった、船坂は這って洞窟に戻った。洞窟にいる上官は彼の部下達からその話を聞いて即座に言った。
「お前達はあの男を無理にでも引っ張って来るべきだった」
「はい、全くです」
「ああ言われても」
「それでも」
「生きていると言っても重傷だ」
歩けないまでのというのだ。
「だからな」
「申し訳ありませぬ」
「分隊長殿はあれでは」
「流石に」
「ここに生きて戻れる筈がない」
上官は確信した、しかし。
這って戻ってきた船坂に対して唖然として問うた。
「お主、英霊ではないのか」
「はい、こうしてです」
船坂は上官に顔を上げて答えた。
「無事にです」
「戻ってきたか」
「この通り」
「信じられぬ」
船坂を実際に見てもというのだ。
「まさか生きて帰られるとは」
「ではです」
「戦うか」
「最後の最後まで」
こう上官に言うのだった。
「そうさせてもらいます」
「わかった、ではだ」
上官は彼のその言葉を受けて表情を変えた、毅然とした顔になってそのうえで船坂に対して言った。
ページ上へ戻る