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失われた信頼

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第二章

「そうしたことはないですね」
「セクハラのことですね」
 校長室に呼ばれた先生は校長の席に座る校長の前に立ち述べた。
「そのことですね」
「言いにくいことですが」
「そうですか」
「それにです」
 校長が先生に問いたいことはまだあった。
「セクハラや生徒への暴力のこと」
「最近飲酒運転の話も出ていますが」
 校長と先生の間に少し距離を置いて立つ教頭も言ってきた。
「あと不倫の話も」
「こうしたお話は」
「正直困ってます」
 これが先生の返答だった。
「全てです」
「事実無根ですか」
「それなら探偵でも誰でも雇って調べて下さい」
 先生は真摯な顔で己の前に座る校長、そして立ってそこにいる教頭に言った。
「教育委員会にも答えます」
「そうされますか」
「確かに生徒を怒る時は厳しいことを言っています」
 これは事実だというのだ。
「しかしです」
「それでもですか」
「暴力は振るっていませんし生徒にセクハラをしたこともありません」
 無論他のこともだというのだ。
「全くありません。最近色々言われていますが」
「しかし最早保護者の間でも問題になっていまして」
 教頭がこう先生に言う。
「それで」
「ではPTAの前にも出ます」
 そして身の潔白を証明するというのだ。
「そうしますので」
「そうされますか」
「はい、是非共」
 先生には本当に身に覚えのないことだった。だから実際に保護者の前でも教育委員会の査問めいたことにも全て己が出て答えた。これで疑いが完全に晴れたかというと。
 残念ながらそうではなかった。信じてくれる人もいたがそうではない人もいた。そして噂は流れ続けていた。
 しかもさらにエスカレートしていく。今度は先生の大学時代のことまで出て来る。とにかく歯止めが効かない状況になっていた。しかもだ。
 お世辞にも背はあまり高くない先生が自分よりずっと背の高い生徒を床で背負い投げにしただのいう話もあり大学時代にはやはり運動神経のよくない先生が大学の女子寮に忍者の様に忍び込んでそうして下着を盗んだとかいう話もあった。そうした話を聞いて流石に校長と教頭も奇妙に思った。
 それでだ。二人で先生にこう言うのだった。
「あの、段々絶対に有り得ない話になっていますし」
「柔道の心得のない先生が長身のあの生徒を床に背負い投げとか」
「しかも女子寮に忍び込んで下着泥棒です」
「これはちょっと」
「異様に思えますが」
「あの」
 先生は自分にいぶかしんで話す校長と教頭にこう話した。
「一ついいですか?」
「はい、何でしょうか」
「何かありますか?」
「ネットで私のことを書いている書き込みを調べてくれますか?それに噂の出所を」
 そうしたことをだというのだ。
「じっくりと」
「書き込みのIPですか」
「それをですね」
「それに噂の出所です」
 調べて欲しいところはこの二つだった。
「お願いできますか」
「はい、わかりました」
 校長は先生の細い目を見ながら答えた。目の光は確かで顔立ちは校長の知っている穏やかなものだった。何処も卑しいものはない。
 それで校長も頷いた。そのうえで。
 教頭と共に先生のことを書いている掲示板の書き込みを調べてもらい探偵まで宿って噂の出所も調べた。これは先生を入れて三人だけで行なわれた。その結果あることがわかった。
 ネットの書き込みも噂の出所も全て同じだった。その基はというと。 
 平屋だった。彼の自宅と彼が顧問をしている剣道部からだった。全てそこからだった。
 これを知り教頭は眉を怒らせて校長に言った。 
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