泣くことはない
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第三章
「じゃあ巴先輩?」
「三年のあの人に相談して」
「そうする?」
「それがいいわよね」
「じゃあね」
こうした話をして彼女達はとりあえず動いた。男組はこのことには気付いていない。
すみれは寮の自分の部屋、下は畳でちゃぶ台に似た机と座布団が三つずつある部屋の中で布団を敷いていた。その布団を頭から被ってそのうえで出てこなかった。その彼女にだ。
布団の外から声がしてきた。彼女より二つは上の声だった。
「すみれちゃんいい?」
「巴先輩ですか?」
「そうよ」
穏やかな優しい声での返事だった。
「いいかしら」
「すいません、今は」
「そのままでいいから」
先輩の声はここでも優しい。
「お話しましょう」
「はい・・・・・・」
すみれは布団の中でこくりと頷いて答えた。
「わかりました」
「話は聞いたわ」
先輩は布団の中のすみれの横から言う。
「軟式野球部の子にふられたのね」
「酷いんです、急に別れ話を切り出されて」
「彼の方からね」
「はい、休み時間に呼び出されて」
それで別れを告げられたというのだ。
「本当にいきなり」
「そうなのね」
「私、浮気とかしないですし」
すみれはそうしたことは嫌いだ。だから自分でもしないのだ。
「彼に意地悪もしませんでした。けれど」
「言われたのね」
「そんな奴とは思わなかったって言われていました」
「思いあたるふしはあるかしら」
先輩は優しい声のままで問うてきた。
「すみれちゃんで」
「それは」
「あるかしら」
「多分ですけれど」
すみれは暫く考えた。そこからこう先輩に答えた。
「この前他のクラスの男の子の態度が酷くて怒って」
「それでどうしたの?」
「階段の上から怒鳴りつけたり校門で待ち伏せして皆で陰口を言ったりしました」
「他にもそういうことしたわね」
「はい」
すみれは布団の中で小さく頷いた。
「席を何人で囲んで怒鳴り散らしたりとか意地悪みたいなこともしました」
「そうしてきたことを言われたのね」
「酷過ぎるって言われました」
「そのことはじめて言われたのね」
その他のクラスの男子生徒への攻撃の非をだというのだ。
「彼氏だった子に」
「私間違ってました?」
「その男の子はすみれちゃんに何かしたのかしら」
「私と同じ一年の娘に友達がいてその娘が彼を振って彼が騒いだんです」
「その娘のこと?」
「振られて嫌だったとかそんなことをぐだぐだと」
言っていたのですみれはその子に怒ったというのだ。
「それでそうしました」
「その子すみれちゃんには何もしてないわね」
「してません」
すみれはまた布団の中で頷いた。
「全く」
「そうよね。それでもすみれちゃんそこまでしたのね」
「許せなかったですから」
その彼をとだ。だからそうしたというのだ。
「皆、よくやったとか言ってくれてたのに」
「あのね。それは皆が間違ってるのよ」
すみれを褒めた彼女達がだというのだ。先輩は穏やかな声で話しながらすみれが持て囃されて有頂天になっている姿も想像した。
そのうえでこうすみれに言うのだった。
「その子はすみれちゃんのお友達によくないことを言ったのね」
「はい、振られて」
「振った理由はどういったものかしら」
「太っていたから」
すみれはまた布団の中から答えた。
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