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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第5章 魔術師の祭典
  第92話『ミーティング』

林間学校が終わった翌日、晴登と結月は学校へ足を運び、魔術室へ向かった。
なんでも、8月に開催される魔術師たちの大会、『全国魔導体育祭』についてのミーティングがあるという。
一体どんなものなのかと期待しながら、晴登は部室の扉を開いた。


「「おはようござ──」」


「それでそれで?!」

「ついに言ったのか?!」

「そうらしいっすよ。お、噂をすれば」


部室に入るや否や、副部長と部長の大声が耳に入る。
一体どうしたのかと見てみると、2人は伸太郎に詰め寄って、何かの話を聞いているようだった。いや、3年生だけじゃない、2年生もだ。
伸太郎がそれほど面白い話題を持っていたのだろうか。そう思って、晴登も一緒に聞こうとしたところで、はたと気づく。

さっき「噂をすれば」って言ったよな……? ちょっと待て、まさかその内容って……!


「「2人とも、おめでとう!!」」

「やっぱり!!」


朗らかに笑みを浮かべ、手を叩いて祝福してくる彼らを見て、伸太郎が晴登と結月の関係を話したことを察してしまった。


「暁君、何で言ったの?!」

「え、いや、先輩がめちゃくちゃ訊いてくるからつい……。あと別に口止めされてなかったし」

「ぐ、それはそうだけど……」


伸太郎の正論を受けてしまい、何も言い返せない。
もうこの際バラしちまえと思うかもしれないが、恥ずかしいからなんか嫌なのである。


「三浦、俺たちが知らないとでも思ったのか? 花火の噂のことを」

「絶対この林間学校で進展があると思ってたわよ」

「ぐ……」


そういえば、終夜も緋翼もこの林間学校には行ったことがあるのだった。花火の噂を知っていてもおかしくない。彼らもまた、野次馬だったという訳か。
彼らはやれやれと首を振ると、


「これでようやく、見ててやきもきすることはなくなるな」

「でも目の前でイチャイチャされるのは、それはそれで鬱陶しいわね」

「やっぱり爆発しちゃっていいですか?」


穏やかじゃない発言をしていた。というか主に伸太郎の発言が怖い。ホントに爆発できるから。

……これからどうしたらいいんだろう。







「さて、いじるのはこの辺にして、そろそろ本題に入ろうか」

「最初から入ってくださいよ……」


晴登の嘆きを聞き流し、終夜は話し始める。


「今日集めたのは他でもない。1週間後に開催される、『魔導祭』についての説明をする」


全国魔導体育祭、通称『魔導祭』。野球やサッカーなどの中体連のように、1年に1度の魔術の大会だという。


「大会は予選1日、本選4日の計5日間で行なわれる。予選の内容はランダムだが、本戦は毎年一緒、トーナメント形式の戦闘(バトル)だ」

戦闘(バトル)、ですか……」


魔術師同士の戦闘(バトル)。いよいよ、この魔術部以外の魔術師と戦えるのか。ワクワクする一方、緊張もする。


「そしてメンバーは4人、補欠が2人まで認められている。予選は4種類の競技があるんだが、メンバー4人それぞれが別の競技に参加するんだ」

「つまり、予選はソロゲーってことっすか」

「そう、残念ながらチームプレーは望めない。個々の実力で挑まなきゃいけないのが、予選のキツいところだ」


なるほど、それは確かにキツい。しかも予選と言うからには、そこで好成績を残さないと本戦には進めないのだろう。たった1人での実力勝負。責任重大だな。


「それで、メンバーはどうするんですか?」

「それは予選次第だな。メンバーは当日に決めるから、予選の内容を知ってから適任を選ぶのがベストだ。が、今のところは俺と辻、W三浦が出て、暁が補欠の予定だ」

「ま、それが妥当っすよね」


終夜の言ったラインナップに、伸太郎は自分でも納得する。予選がどんなものかはわからないが、少なくとも運動系では伸太郎は活躍できないからだ。
そこで晴登はふと、補欠が1人だったことに気づく。


「あの、2年生は……?」

「……残念ながら、魔導祭に出場できる条件は『魔術師』、つまり魔術を使えない奴は出れねぇんだ」

「あ……」


終夜の言葉を聞き、晴登は察する。魔術の使えない2年生には、この大会の参加資格すらないのだ。この大会にも出れないのだったら、2年生は一体何のために魔術部に所属しているのだろうか。
晴登が肩を落としていると──


「三浦、そんなに気に病むなよ」
「そうそう、わかってたことなんだからさ」
「先輩やお前らが出場するのを見るだけでも楽しいからいいんだよ」
「だから、俺たちの分まで頑張ってくれ」


2年生の先輩方が言葉をかけてくれた。
自分たちの方が辛いはずなのに、それでも彼らは明るく振る舞う。それに応えずして、どうするというのだ。


「わかりました! 絶対優勝します!」


晴登は高らかに優勝宣言。これが、2年生の代わりに戦う意味だ──


「「えっ」」

「えっ」


唐突な静寂。
見ると、2年生と3年生が呆気にとられた顔をしている。
何だこのテンションの差は。晴登も拍子抜けしていると、


「「……ぷっ、あははは!!!」」

「え!?」


2年生と3年生に大笑いをされてしまった。そんなにおかしいことを言ったつもりはないのだが……。


「ちょ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」

「だって優勝って! いや、別に目指すだけならいいけどよ……でも、ぶふっ!」

「部長〜!」


どうもツボに入ったらしく、終夜の笑いが止まらない。

そして彼は腹を抱えてひとしきり笑った後、息を整えながら説明してくれた。


「まぁ知らねぇなら仕方ねぇよな。言っておくと、俺らの去年の成績は『予選落ち』なんだ。つまり、そもそも本戦にすら進んでねぇんだよ」

「そ、そうだったんですか……」


ここで衝撃の事実が発覚。終夜や緋翼はかなりの実力者だと思ってたが、世の中にはそれより上がいるということらしい。
そうなると、さっきの晴登の啖呵は無謀そのものだ。これは恥ずかしい。

晴登が再び肩を落としていると、その肩にポンと手が置かれる。


「笑って悪かったよ。まぁでも──このメンツならもしかしたら、な」


そう言って、終夜はニカッと笑みを浮かべてみせた。






こうして概要を説明するだけで、ミーティングは終わりを迎えた。
今は久々に中庭に出て、各々魔術の調整をすることになっている。


「空を……飛びたい!」

「だったら飛べばいいじゃねぇか」

「ダメなんだよ! 少しでも角度がズレると、頭から地面に落ちちゃうから危ないんだ」

「ふ〜ん」


晴登の言葉に伸太郎が相槌を返す。
今日は彼だけじゃなく、終夜たちもいるのだ。秘めた願望を叶えるにはもってこいの日だろう。林間学校の時はこれができなくて遠回りをしてしまったが、必要になる時があるということはわかった。やはり飛行は習得しておくべきだ。


「部長たちは空とか飛べたりします?」

「いや、さすがにそれは無理だな。ただ身体能力を向上させて、ジャンプ力を上げることはできるぞ」

「うーん……」


確かに"風の加護"を使ってそれっぽいことはできるが、しかしそれを「飛ぶ」とは言えない。飛びたいのだ。鳥のように自由に空を舞ってみたい。


「私は飛ぼうと思えば飛べるけど……」

「飛べるんですか!?」

「う、うん。でも、あんたの参考にはならないと思う」

「そ、そうですか……」


せっかく手がかりが近くにあると思ったのだが、緋翼にバッサリと否定されてしまった。
それにしても、緋翼が飛べたこと自体初耳である。参考にならない飛び方ってどんなだろ……?


「そう肩を落とさないの。そういうことは、同じ風属性の魔術師に訊くのが一番よ」

「そうですよね……」

「いい機会じゃない。魔導祭で探してみなさいよ。風使いの1人や2人くらいいるでしょ」

「うーん……」


魔導祭までに会得したいのに、魔導祭で教えてくれる人を探すのは本末転倒である。
しかし、それしか手がないのもまた事実。我流じゃ全く上手くいかないのだから。


「じゃあちょっと見せてみろよ。さっきから口だけで、飛ぼうともしてねぇじゃん」

「だって落ちたら怖いから……」

「そんなこと言ってたらできるもんもできねぇよ。安心しろ、骨は拾ってやる」

「死ぬ前提!?」


伸太郎の意見はもっともなのだが、やはり恐怖が拭えない。頭から地面に落ちる恐ろしさは、ついこの前体感したばかりだ。2度とあんな目には遭いたくない。


「冗談だよ。落ちてきたらキャッチしてやる。……結月が」

「任せて!」

「他力本願じゃん……」


そう呟いて伸太郎を見つめると、彼はふいっと目を逸らした。
なんかこんなこと前にもあった気がする。いくら自分より力があるとはいえ、女子にすぐ任せるのはどうなのだろうか。


「じゃあやってみるよ?」

「ああ。見といてやる」

「落ちることは気にしないでね」

「わ、わかった」


伸太郎の分析と結月のバックアップ。何だかんだ悪くない布陣だ。不思議とできそうな気がしてくる。
よし、頑張るぞ……!


「ふぅ……」


深呼吸して、足の裏に力を込める。そして姿勢を崩さないように注意しながら、風で身体を浮かして──


「うわっ!?」

「おっと! 大丈夫?」

「ご、ごめん結月!」

「いいよ、気にしないで」


さぁ飛び立とうとした瞬間、重心が前に傾いてしまい地面に倒れそうになる。が、すんでのところで結月が受け止めてくれた。危ない危ない。
やっぱりバランスをとるのが難しいな。


「ついに人前でもイチャつき始めたか」

「ち、違っ! バランスとれなかったから……!」

「はいはい、わかったわかった」


結月に抱きしめられる晴登を見て、伸太郎が冷たく一言。必死に弁明するも、彼は聞く耳持たずだ。
傍からはそう見えてしまうのか。……これ以上失敗する訳にはいかないな。


「そら、もう1回」

「うん!」


気を取り直して、もう一度集中する。次こそはせめて1mでも──


「わぶっ!?」

「よいしょ!」

「……三浦、わざとじゃないだろうな」

「違うって!」


意気込んだ矢先に、再びバランスを崩して結月のお世話になってしまった。おかげで伸太郎に変な目を向けられてしまう。
おかしいな、このやり方でいいと思うんだけど……。


「……大体思ったけどよ、たぶんそのやり方じゃ無理だろ」

「えっ!?」


疑問を感じた瞬間に、伸太郎から指摘が入る。
まさか技術云々よりやり方に問題があるとは。


「だってよ、お前の飛び方は『地面に風を当てて反作用で飛ぶ』ってことだろ? それって低空飛行こそできても、空を自由に飛ぶには厳しいんじゃないか?」

「た、確かに……」

「だから鳥みたいに飛びたいんだったら、ジェットみたいに風を使う必要がある。今までのやり方とはガラッと変わってくるぞ」

「なるほど……」


予想以上に的確なアドバイスに、少し感心してしまう。さすが天才。
彼の言う通り、風を放つにも射程(リーチ)がある。だからこのやり方だと、高さが射程(リーチ)を超えてしまえば、たちまち浮力を失ってしまうということだ。

それにしてもジェットと来たか。本来なら空気を燃やすことが前提なはずだが、果たして風のみでも可能だろうか?


「ただ闇雲に風を放つんじゃなくて、こう……絞るようにしたらどうだ?」

「うーん……やったことないけどやってみる」


再び足裏に意識を集中。しかも今度はさらに魔力を凝縮しなければならない。絞るように……つまり、できるだけ風を細くするのだ。圧縮、圧縮──


「そして放つ……うわぁぁぁ!?」

「ハルトー!?」


一瞬だった。のしかかる強い重力を一瞬感じたかと思うと、いつの間にか空中に身体が投げ出されていたのだ。
見下ろすと、結月の姿が豆粒くらいになっている。それどころか学校の屋上まで目に入った。

……どうやら飛んだはいいが、飛びすぎてしまったらしい。というか、これでは"跳んだ"の方が正しいだろう。


「こっから飛ばないと……!」


びっくりして風を放つのを止めてしまったが、ここからが本番。晴登は再び足裏に魔力を凝集する。
そして身体を横向きにして、いざヒーローみたいに空を飛んで──


「いや無理! 落ちる!」


できる訳がなかった。下を向いた拍子に、身体が既に下を向いていたのだ。ここから横向きに身体を起こすのは、素人の晴登には不可能である。


「あーもう仕方ない!」


晴登は一旦飛ぶことを諦め、着地の準備に入る。我ながら素早い判断だ。あれほど頭から落ちるのは嫌だと言っていたのに、何だか慣れてしまった気がする。いや怖いけども。


「いくぞ……」


崖から落ちた時よりは高度が低いが、それでもかなりの勢いが出る。また本気で風を放った方が良さそうだ。


「ここだ!!」


地面に風が届くくらいの高さになったところで、晴登は右手に力を込める。大丈夫、いける──


「……へ?」


地上から5mといったところか。不意に落下が停止する。おかげで、思わず間抜けな声が洩れてしまった。
一体どうしたというのだ。まだ風を使ってすらいないのだから、止まるはずがない。
晴登は原因を探ろうとキョロキョロと辺りを見回していると、ふと寒気を感じて身を震わせる。


「大丈夫、ハルト?!」

「結月……!」


なんと、落下が止まったのは結月のおかげだった。地面から氷柱を生み出し、晴登の身体を巻き込んで氷結させていたのだ。まるで巨大な腕に掴まれた気分である。だが冷たい。

その後、何やかんやで安全に着地できた。


「ありがとう結月、助かったよ」

「もういきなり落ちてきてびっくりしたんだから……」

「ごめんごめん」


結月は大きく安堵の息をついた。
うん、今のはさすがに心配させたと思う。以後気をつけよう。


「で、どうだった?」

「案自体は良かったと思うけど、空中だとやっぱりバランスをとるのが難しいかな」

「勢いが強いから、自由に飛ぶのも難しいかもな」

「それちょっと思った……」


伸太郎の意見に首肯。
ジェットはスピードとパワーに関しては申し分ないが、これでは飛べたとしても鳥というより飛行機だ。晴登の理想とは異なる。
加減ができればいいのだが、会得したてだからコツがわかるはずもなく。これは違う使い道を模索した方が良さそうだ。


「となると後は羽を生やして滑空したり、それとも気球みたいに空気を温めたり……」

「うーん、めんどくさそうだからパス」

「ん? そうか」


伸太郎が次々と出す代案に、ついに晴登は待ったをかけた。
そこまで来ると、もはや晴登1人の力ではない。強欲だが、晴登がいつでも自由に飛べる方法が欲しいのだ。
だからもう緋翼の案にあやかろうと思う。


「残念だったね、ハルト」

「大人しく魔導祭で師匠探すよ……」

「目処が立ったら、また手伝うからね」

「うん、ありがとう結月」


結月の優しさが心に沁みる。飛べるようになった暁には、何かお礼をしなきゃいけないな。

それにしても、自分で言っといて「師匠」って響き、何かいいな。実に魔術師っぽい。


「楽しみだな、魔導祭」


空を見上げて、晴登は期待を胸に呟いた。
  
 

 
後書き
こっちが本編ですと声を大きくして言います。いよいよ始まりますよ、魔導祭編です!

と言っても、毎度の如く準備から入りますよ。いきなり大会とは行かせません。まずは起承転結の「起」という訳ですね。次回から始動します。

さて、実は今回はタイトル通り『ミーティング』がメインだったのですが、あまりに文字数が足りなかったので、急遽後半のパートを入れた次第です。まぁいつかはやりたかった場面なので、ここで入れられて良かったと思います。
……ん? ということは大会で……? そこはお楽しみに。

それでは、今回も読んで頂き、ありがとうございました! 5章もお付き合いよろしくお願いします! 
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