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曇天に哭く修羅

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第四部
  Dブロック 3

 
前書き
あっさりですが幕引き。 

 
自らの内に宿る【上位存在】を支配した紫闇は肉体を侵されず、無詠唱かつ何の代償も支払わずに【神が参る者/イレギュラーワン】としての能力を使えるようになった。

制限時間は無く、【魔晄(まこう)】も消費しない。

しかも複数を同時にだ。


「【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】」


【融解】を発動中の紫闇が時間の流れを緩め、何もかもを停止させていく。

しかし焔は違った。

通常より遅いが十分に動けている。


「流石、と言うべきか……」


彼女は魔術師の【異能】を持っておらず、この試合では【超能力】も【大筒木】に由来する写輪眼などの力も使用を禁じていた。

なのに動ける理由は単純。

基礎能力が高いから。

だが紫闇はそれより上の基礎能力。

恐れるに足りず。


(ただでさえ【真眼】で動きを読まれてるのに下のスペックじゃ無意味だよ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇は焔が【打心終天(だしんしゅうてん)】でカウンターを取ろうとしていることを気の流れによって察知していた。

真眼の修業で学ぶのだが、『気』というのは魔晄の源であるとされ、肉体の『生命力』であり、生きていく為には不可欠。

これは肉体に有る数十の【関門】から放出されて常に全身を巡っている。

気というものは、生き物が動いたり考えたりすると、流れが僅かに変わるらしい。

流れの変化は見間違いで済ませてしまうようなものなのだが、真眼を最終段階まで修めた者には捉えられるものなのだという。

つまり今の紫闇は焔の考えや動きを完全に先読みして準備・対応できるのだ。


(だからこうなる)


打心終天が決まりそうなタイミングまで引き付けてから回避して、空振りした焔の体勢を崩させると、血脈の刃で上から頭を、下から逆袈裟に斬った。

だが焔は本能で以て強引に体を退く。

浅く斬られながらも難を逃れた彼女は転がって武台の床へと倒れ込む。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふ、ふふっ。ふふふふふふ。くはははははははっ! ふうー、危ない危ない」


焔はのそりと起き上がる。


(楽しい。そして嬉しい。自分の弟子がここまで強くなって自分のことを追い込んでくれる。師匠冥利に尽きるというものだね。本気を出せないのが残念で仕方ないよ)


氣死快清(きしかいせい)】で出血を止めた焔は魔晄を全開にして、暴嵐のような勢いで襲い掛かるも紫闇は涼しい顔で回避。

今の彼はどう動けば避けられるのか直ぐに解ってしまうので、焔のようにスペックが下の体術使いは特に相性が悪かった。


「そろそろ見せてやるか。【気の流れ】を利用した攻撃を……。とは言っても『気功』を使ったりするわけじゃあないんだが」


気は【関門】から発生する。

関門が有る場所を見極めて攻撃を行う。

(しか)るべきタイミングで。

すると破壊できるのだ。


(ここで【神が参る者/イレギュラーワン】として覚えた最後の能力が役に立つ)


焔が右の拳に魔晄を集めた。

【禍孔雀/かくじゃく】だ。

黄金の魔晄が外装から放たれる。

焔は右ストレート。

紫闇も青い魔晄を帯びた右ストレート


「【神討つ拳狼(フェンリスヴォルフ)】」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人の拳が衝突した結果、焔の外装は砕け散り、右手の骨も粉砕された。


(治らない……)


氣死快清が働かない、と言うより右手に魔晄が流れない状態になってしまったようだ。


「右手の関門を壊した。少なくともこの試合で使えるようにはならないだろう」


神討つ拳狼を使わずとも打ち合って勝つ自信は有ったが焔に対してはこの方が良いだろうという判断で使わせてもらった。


神討つ拳狼(フェンリスヴォルフ)】の能力。

それは拳に魔晄を集中・凝縮させ、魔晄・外装・異能・超能力などを無効化して破壊してしまう力を持った高威力の一撃。

概念系能力の側面を有しており、拳に込められた魔晄を上回るような概念でなければ物理的な事象も問答無用で無効化してしまう。

打ち消す力の量が多かったり、規模が大きかったり、複雑な仕組みの能力だったり、格上の相手には効きが悪くなるが、それでも強力。


「つくづく恐ろしい奴になったね紫闇」

「この半月で互いの差が埋まるどころか逆に追い抜いたけど最後まで()るよ焔」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


確かに勝ちたかった。

彼女を超えたかった。

その後を追い、背中を見てきた。

だがもうどうでも良い。

焔は自分より弱くなり、戦って面白い相手ではなく、勝って当たり前と言われてしまうような三下になってしまったのだ。


(真眼で本気を出してないのは解る。けど『今の』焔が出せる限界なのも解ってるんだ。だからもう良い。今日のところはこれで)


紫闇の目が胸部の辺りに有る最も大きな関門を見据えながら拳を握る。


「黒鋼流真打・【覇天焔武(はてんえんぶ)】」


決めれば体に流れる魔晄が全て止まり、人間なら確実に死ぬ最終奥義。

それを6割ほどの力で放つ。

喰らった焔の体は武台を包む結界を硝子のように砕いて飛んでいき、観客席に激突すると、そのまま席を削りながら登っていく。

そして最上段の壁に叩き付けられると一つのクレーターに無数の亀裂を走らせながら、運動エネルギーをゼロにした。

10カウント無しのTKO。


(焔)


紫闇は涙が(あふ)れて止まらない。


(俺はお前が憧れの一人だった。お前よりも強くなりたいって思ったのは嘘じゃない。けど───)

「俺は、お前に越えられない『壁』で在ってほしかったんだ。矛盾してるけどな……。だから、今度は本気で戦ってくれ」


霞む目の真眼でそれを見た焔は苦笑い。


(ああ……また今度ね……)


彼女は意識を手放した。
 
 

 
後書き
後は後日談を書いて終わりにしても良いところまで来ています。

原作の時系列だともう最後の2ページくらいしか書く部分が残っていません。 
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