テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ―そして、僕の伝説―
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第三十七話
「――へぇー…あのアルヴィンがねぇ…」
「えぇ…まぁ…はい」
――サレに捕まって数日。薄暗い牢屋で、僕は彼…バランさんと色々な話をしていた。
サレが一体何を企んで僕を捕らえたのかは分からないけど……一応食事は持ってきてくれる。
ただ何にせよ、暇な事には変わりないので、こうやってバランさんと話をしている。
話をしていて分かった事は…まずバランさんはアルヴィンと小さい頃からの仲らしい。結構昔のアルヴィンの事を教えてくれた。
後バランさんは…元々は別国の研究員だったらしく、研究所から自宅に帰る途中、サレに捕まってしまったとか。
捕まった当の本人は捕まっている事は特に気にせず、こうやって僕と楽しみながら話している現状だけど。
そして分かった事は…サレはアルヴィンを利用する為に…バランさんを捕まえたんだろう。
そしてアルヴィンは…サレにバランさんを人質にされ、僕を捕まえる事に協力されたんだろう。
問題は……何故サレが僕を、捕まえたのか。
サレの性格から何かを企んでいる事は分かるけど…一体何を。
「――うん。何か考え事かい、衛司君」
「――ぁ、いえ…。特に何も……大丈夫です」
「ならいいや。さて、今日は何をするかい?しりとり…は、昨日やったしねぇ」
「ははは……」
「――おい」
バランさんが捕まっている事など全く気にしていないように笑いながら出した言葉に、思わず苦笑いをしていると、不意に牢屋の外から声が上がった。目を向けると…兵士が無表情で立っていた。
「――出ろ」
「……僕だけ、ですか?」
「サレ様からは少年だけ、と聞いている」
僕を見ながら言ってきた兵士に問うと、無表情のまま兵士はそう答えてきた。
僕はバランさんの方を見ると、バランさんは何も言わず小さく一度頷いた。
「……分かりました」
「…出す以上は一度、拘束はさせてもらう」
牢屋から出され、兵士はそう言うと僕の手を手錠のようなもので拘束する。
武器である木刀が無いうえ、アルヴィンの人質としてバランさんが捕まっていると分かった以上、僕も抵抗する事は出来ないのでされるがままに拘束される。
「……出来れば早く帰ってきてくれないかな?僕も暇でたまらないからね」
「はは……それは相手側にお願いしてください」
後ろから、バランさんなりの安心のさせ方なのか笑いながらそんな言葉を出してきた。
僕はそれに苦笑いしながらも、僅かな安心感を感じそう応える。
そして僕は兵士に案内されるがまま…兵士の後ろについて歩いていった。
――それにこの兵士…さっきから『瞬き一つしない』のは…やっぱり……。
―――――――――――――
――兵士に案内されてついたのは、まるで会議室のような広々とした部屋であった。
そこにいたのは…不気味な笑みを浮かべるサレと、興味深そうに此方を見る研究員の風貌の男、そして…一瞬申し訳無さそうに此方を見た後、顔を逸らすアルヴィンが居た。
僕は一度、アルヴィンを見た後、サレに向き合った。
「やぁ、こうやってちゃんと面と向かって話すのは二回目かな、衛司君?」
「…そうですね。で、僕に何の用ですか…『サレ様』?」
話し掛けてきたサレに僕はいかにも不機嫌です、といわんばかりの表情でそう言ってやる。サレは僕の言葉に不気味に笑みを浮かべたまま口を開く。
「用があると言えば用はあるね。君はその為に、捕らえたんだから」
「それは……わざわざ兵士に『催眠』を掛けてまでする必要がある事なんですかね?」
僕のその一言に、この場にいる全員が驚いたような表情を浮かべた。…やっぱり、か……。
「へぇ……よく分かったね」
「…ずっと無表情で、瞬き一つしない人を見たら、誰だって不審がります」
表情を笑みに戻して聞いてきたサレにそう答える。
僕の言葉を聞いて、サレは一層笑みを深めた。
「フフッ…御名答。彼等は僕に協力的じゃあ無かったからね。こうして手伝ってもらうようにしたよ。…それに、催眠を掛けた理由は…これから彼等にはもう一仕事してもらいたいからね」
「…アナタは…一体何を…」
「――さて、それでアナタにしてもらいたい用ですが」
サレの深まった不気味な笑みに僕は僅かに恐怖を感じ言おうとするが…それは研究員の男の言葉に止められる。
僕に…『してもらいたい用』…?
「――アナタには我々が作成した『ある物』を扱ってもらいたいんです」
「…ある……物…?」
「えぇ、とても時間を掛けた、我々研究チームが作成した、最高の芸術品。アナタにはそれを……何が何でも、使ってもらいたいんです」
そう、僕に対して淡々と説明する研究員。研究員のその淡々とした喋り方と低い声に…思わず僕は僅かに後退りしてしまう。
「……嫌だ、と言いますと?」
「安心しなよ。君がOKと言おうと、言いまいと……始めから結果は変わらないから」
僕の返答に、サレは静かにそう言うと…此方にゆっくりと歩み寄り…僕の前まで来ると、僕の襟首を掴み寄せて来た。
「っ……一体…何を…っ!」
「フフッ…大丈夫さ。次に目が覚めた時は…君はぜーんぶ、終わってるからさ」
「っ…まさか…止めろ……離せえぇえぇぇぇっ!!」
――そうして、僕の意識は……持っていかれた。
「――……すまねぇ、衛司」
――アルヴィンは俯き、ただただ拳を握り締めていた。
―――――――――――――
―――『ヴェラトローパ』
「――っ!?」
「――…?どしたの、カノンノ?」
「…アーチェ。…ううん、何でもない。何でも…ないんだけど……」
――ヴェラトローパにて、ニアタと会うために歩いていたカノンノの様子がおかしい事に気付いたアーチェの問いに、カノンノは首を横に振ると、視線を空の下へと向ける。
「……今、衛司の声が聞こえた気がしたけど…きっと、大丈夫だよね……?」
そんなカノンノの言葉に応えるものはなく……ただただ冷たい風が、周りを吹き抜けていた。
―――――――――――――
「――……遅いなー…衛司君」
――牢屋にて、バランは鉄格子越しの先を見ながら、つまらなそうにそう呟く。
――結局この日以降、衛司がこの牢屋に戻ってくる事は……無かった。
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