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好色男の筋

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第一章

                好色男の筋
 伊藤博文の女好きは日本の誰もが知っていることである、それで帝もどうかという顔で伊藤自身に言われた。
「そなたおなごのことはだな」
「はい、実は」 
 伊藤は帝に笑って答えた、申し訳なさそうな素振りはない。
「今もです」
「そうか」
「こちらのことは」
「どうしてもだな」
「離れられぬので」
「それは朕も知っておるが」
 それでもとだ、帝は伊藤に言われた。
「程はな」
「弁えよと」
「左様、そなたは過ぎる」
 その女好きがというのだ。
「民達も色々言っておるぞ」
「それは知っております」
 伊藤にしてもというのだ。
「ですから気をつけることは気をつけております」
「まことか」
「遊ぶことはします」 
 それはというのだ。
「数は」
「それはか」
「ですが相手はです」
 それはというのだ。
「選んでおります」
「だからだな」
「ご安心を。民が言うのは気にしていないどころか」
 伊藤は明るく笑って述べた。
「むしろ楽しんでいます」
「そうなのか」
「はい、民達も話の種が出来て喜んでいましょう」
「そなたの女好きをか」
「それはいいです」
「新聞はどうか」
「あれはどうも。臣のことは真のことは書いてよいですが」
「偽りのことをだな」
「文屋と呼んでいますが」
 帝に対してなので伊藤も言葉を選んで述べた。
「あの者達は好き勝手書くので」
「偽りを書かれるとだな」
「臣も腹を立てます」
「そうなのだな」
「それを怒ると口封じかと騒ぎますし」
 このことも言うのだった。
「何かとです」
「あの者達は厄介だな」
「腹を立てても言わぬ様にしております」
「左様であるか」
「ただ。今申し上げた通りにです」
 今度は率直な声で帝に言った。
「臣もこれで気をつけています」
「気をつけることはだな」
「そうしております。ですから」
「朕が気に病むことはか」
「しておりませぬ」
「なら安心していいな」
「左様であります」
 伊藤は帝に笑顔で話した、そしてだった。
 伊藤は女遊びを続けた、それは欠かすことがなく彼の周りには常に女がいた。それも一人や二人ではなく。
 幾人もの女を相手にしていた、それで彼と古くからそれこそ長州藩からのそれである井上馨は彼に料亭で政治の話をした後で彼に笑って言った。
「お主今宵もだな」
「この店を出たらだな」
「おなごのところに行くな」
「無論」 
 伊藤は井上に笑って答えた、細面で見事な髭を蓄えた顔が綻ぶ。
「それは忘れぬ」
「相変わらずだな」
「ははは、わし自身そう思う」
「おなごが好きだとだな」
「そうじゃ」
 井上の四角く口髭が目立つ顔を見つつ答えた。 
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