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沈んだ家庭から

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第一章

                沈んだ家族から
 島田奈美はこの時本当に沈んでいた、それでだった。
 両親の睦夫と良子にこう言った。
「もう無理なのね」
「ああ、もうな」
「あの子は飼えなくなったの」
 父の睦夫も母の良子も娘に堪えた、皆沈んだ顔だ。
「お父さんがリストラされたでしょ」
「それでお金がないからな」
「それでね」
「もうな」
 その為にというのだ。
「トミは飼えなくなったの」
「だから他の人に渡すの」
「そうなの」 
 奈美は沈んだ顔のまま応えた、茶色の髪は短く顔はそれ程悪くないが表情が暗く背中も曲がってしまっている。小学生だがより老けている様に見える。
「それじゃあ」
「今からな」 
 眼鏡をかけた父が言った。
「里親探すな」
「うちもね」
 母も言ってきた、茶色の毛が乱れて顔は沈みきっている。
「売ってね」
「そうしてなの」
「引っ越すから」
「お仕事見付かるといいね」
 父にとだ、娘は言うだけだった。そして。
 トミ、家の飼い犬で茶色のポメラニアンの雄の彼は奈美の親戚の家である田舎の神社に引き取られることになった。
 奈美からその話を聞いてだ、神社の娘であり彼女の従姉である京香は言った。奈美より背が高く黒髪が奇麗な中学一年の娘だ。
「トミのことはね」
「大事にしてくれるのね」
「神社と犬は相性がいいみたいだし」
「そうなの」
「狛犬でしょ」
 神社のそれを見て話した。
「そうでしょ」
「だからなの」
「そう、だからね」 
 そのトミを見つつ話した。
「任せてね」
「ええ、じゃあね」
「絶対に大事にしてね」
 そしてというのだ。
「幸せにしてあげるから」
「お願いね」
「そしてね」
 京香は従妹にさらに言った。
「奈美ちゃんのお父さんもね」
「お仕事がよね」
「早く見付かる様にね」
 その様にというのだ。
「お願いするから」
「そうしてくれるの」
「神様にね」
 こう約束するのだった。
「そうするから」
「それじゃあね」
「ええ、今は辛くてもね」
 例えそうでもというのだ。
「きっとね」
「よくなるの」
「雨ばかりじゃないでしょ」
 世の中はというのだ。
「そうでしょ」
「また晴れるわね」
「だからね」
 それでというのだ。
「落ち着いたらね」
「その時はなの」
「また来て」
 そうしてというのだ。
「それでね」
「トミと会ってもいいのね」
「何時でもいいけれど」
 神社に来てトミと会うことはというのだ。 
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