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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第99話

~2F・ブリーフィングルーム~



「あら?私達に何か御用ですか、リィンさん。」

「いえ……用というか、珍しい組み合わせで、一体どんな話をしていたのか気になっていまして……」

「まあ、確かにリィンじゃなくても誰でも気になるよな、このメンツだと。」

「皇族に天使、魔神、貴族、歌姫と何の関連性もない組み合わせだものねぇ。」

プリネの疑問に答えたリィンの答えを聞いたクロードとドロテアは苦笑していた。



「うふふ、最初はレンとプリネお姉様、エヴリーヌお姉様がレジーニアお姉さんとルシエルお姉さんのお話の相手になっていたのだけど、そこにリィンお兄さんみたいにレン達の様子が気になったクロード達も話に加わって今に到るって事よ。」

「レン皇女殿下とプリネ皇女殿下がレジーニアとルシエルの話し相手を……?一体何の為に……」

「あたしは”メンフィル帝国”の知識を求めて二人に声をかけたんだ。この船の中で”メンフィル帝国”の事を最も知っていると言っても過言ではないのは皇族であるそちらの二人なのは明白だからな。それと”魔神”の事も研究できるいい機会でもあったから、彼女にも声をかけさせてもらったよ。」

「……わたくしはレジーニアとは別の意味で”メンフィル帝国”の事を知る為にお二人に声をかけようとしていた所にレジーニアが現れましたから、二人揃って説明を聞いていたのです。」

レンの説明を聞いて不思議そうにしているリィンの疑問にレジーニアとルシエルがそれぞれ答えた。

「レジーニアは”研究者”として”メンフィル帝国”の事を知る為だと思うが……ルシエルは一体何の為にメンフィルの事を知りたいと思ったんだ?”レジーニアとは別の意味”って言っていたけど………」

「……リィン少将も既にご存じのように、わたくし達”天使”にとって”魔族”は決して相容れない存在で、その逆も然りです。しかしメンフィル――――――いえ、”闇夜の眷属”はその中に”魔族”に部類される種族の者達も含まれていながらも、”魔族自身が魔族と呼ばれる事を忌み嫌い、秩序と調和を重んじている”との事ですから、そのような存在は天使の一人として知っておくべきと判断し、お二人に声をかけたのです。”秩序と調和を重んじる事”は天使として同意できる考えですので。」

「なるほど……ちなみにクロードや先輩達はどうして話に加わったんですか?」

二人の答えを聞いたリィンは納得した後クロード達に視線を向けた。



「フッ、天使族と交流できる等滅多にない機会だからね、偉大なる祖父上と父上の跡継ぎとして天使族の事を知る為にも話に加わらせてもらったのさ。」

「僕もフェルディナント君と似たような理由だよ。リィンも知っているように、”光と闇の共存”を理想としている事から様々な種族が存在しているメンフィル帝国に所属している天使族は数が少ない為、天使族と接する機会なんて滅多にないからね。僕の見聞を広げる為にも話に加わらせてもらったのさ。」

「俺は二人みたいな大層な理由じゃないただの”興味本位”さ。俺も機会があれば天使族と話をして天使族の考えとかを知りたいと思っていたんだよ。」

「私の場合は新曲を思いつく切っ掛けになればと思ってよ。天使族にしか伝わっていない”聖歌”を私達なりにアレンジした歌もまたメンフィルの理想である”光と闇の共存”を示しているから、メンフィルだと人気が出そうでしょう?」

「なるほど……それにしても、エヴリーヌ殿まで二人の話し相手を務めているなんて意外ですね。エヴリーヌ殿はプリネ皇女殿下のようなエヴリーヌ殿自身と親しい関係にある人達以外の人達との交流は避けているように見えたのですが。」

フェルディナント達の話を聞いて納得したリィンは意外そうな表情を浮かべてエヴリーヌを見つめて訊ねた。

「レジーニアがしつこいから、仕方なくプリネ達と一緒に話に付き合っていただけ。それよりもレジーニアの主はリィンなんだから、後でエヴリーヌ達に迷惑をかけないようにしつけておいてよ。」

「す、すみません、レジーニアがエヴリーヌ殿にご迷惑をかけてしまって…………本来でしたらレジーニアの主であり、また灰獅子隊の軍団長である自分が二人の疑問に対して色々と答えるべきでしたのに、自分の代わりに二人に色々と教えて頂きありがとうございます、両殿下。」

自身の疑問に対して若干嫌そうな表情を浮かべて答えたエヴリーヌの答えと指摘を聞いて申し訳なさそうな表情で謝罪したリィンはプリネとレンに感謝の言葉を述べた。



「ふふ、気にしないでください。一人でも多くの天使族の方がメンフィルに興味を持ち、メンフィルの思想に理解して頂く事は皇家の者として歓迎ですので。」

「それも”天使”や”大天使”のような下位じゃなく、中位の”能天使”なんだからただでさえ天使族の人達は基本的に”魔族”と見ている闇夜の眷属(レン達)の話をまともに聞いてくれる事は滅多にないのに、天使としての位階は中位でそれも戦闘型の天使であるルシエルお姉さんがレン達の事を知りたいって言ってくれたのだから、それに応じるのがレン達皇族の役割よ♪」

「……それで二人とも両殿下から満足できる話を聞けたのか?」

「ああ。むしろもっと知りたい事が増えた事で、研究者としては本望な状況だね。」

「……わたくしは今まで魔族は決して相容れない存在だと思っていましたが……魔族の中にはわたくし達天使のように秩序と調和を重んじた上”魔族と一緒にされたくない”と思う者達も存在している事は理解できました。そしてその中にはわたくし達のような”光”に属する陣営との戦いに敗北したり、迫害されて落ち延び、平穏な生活を求めている者達も存在している事も。」

「そうか……」

二人の答えを聞いたリィンはレジーニアとルシエルに確認し、レジーニアは興味ありげな表情を浮かべ、ルシエルは静かな表情でそれぞれ答え、二人の答えを聞いたリィンは口元に笑みを浮かべた。



「ま、天使の中にも”はぐれ魔神”化したり”堕天使”になる天使がいるように、魔族の中にも色々な連中がいるって事だな。」

「クロード……そこでわざわざルシエルさん達が不快になるような事を言う必要はないだろうが。」

「いえ……彼が言った事もまた事実で、わたくしも気にしていませんからどうかお気になさらず。――――――そもそも、そこのレジーニアも”闇”に堕ちかけて”堕天使”になりかけていたのですから。」

「心外だな。確かにあたしは君や周りの天使達からは”異端”だと思われていたが、あたしもあたしなりに”正しい天使”を務めてきたつもりだ。その証拠に今までのあたしの”正義”が認められてあたしの位階は君と同じ位階へと上がったし、翼だって君と同じ白き輝きを取り戻しているじゃないか。」

からかいの表情を浮かべたクロードの指摘にローレンツは呆れた表情で指摘し、静かな表情で答えたルシエルは真剣な表情でレジーニアを見つめ、見つめられたレジーニアは心外そうな表情を浮かべて答えた。

「貴女の位階が上がったのも、翼が輝きを取り戻したのも”守護天使契約”によるものでしょうが。」

「そういえば……その件で少し気になっていましたが……レジーニアさんの翼は出会った時は黒くくすんでいましたが、リィンさんと”守護天使契約”を交わすと輝きを取り戻しましたけど……やはり、レジーニアさんの翼が輝きを取り戻したのは”守護天使契約”が深く関係しているんですか?」

レジーニアの言葉に対して呆れた表情で指摘したルシエルの話を聞いてある事を思い出したプリネはルシエルに訊ねた。



「ええ。レジーニアが”導く”相手であるリィン少将が”天使としては異端である考えを持ちながらも、そのような異端な考えを持つレジーニアを自分を導いてもらう天使として受け入れた事”でレジーニアの”異端な正義”も認められて、翼も輝きを取り戻したのでしょう。――――――とはいってもそのような例は今まで聞いた事がない為、今の話はあくまでわたくしの仮説ですが。」

「ふむふむ……それもまた興味深いな。ルシエルの仮説を確かめる為にもまたあたしみたいな天使を見つけたら”守護天使契約”を結んでみてくれ、主。」

「いや、相手の意思も無視してそんなことはできないって!?というか、俺の意思も考えて欲しいんだが……」

「それ以前にレジーニアお姉さんみたいな”変わった考えを持つ天使”さんを見つける事自体が難しいのじゃないかしら♪」

「た、確かに……」

「そもそもレジーニアみたいな自身の”欲”を強く持っている天使が”未だに天使でい続けられること”の方が不思議なくらいなんだけど。」

ルシエルの仮説を聞いて考え込んだ後自分を見つめて頼んできたレジーニアのある頼みに冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンは我に返ると疲れた表情で指摘し、からかいの表情を浮かべたレンの言葉を聞いたプリネは苦笑しながら同意し、エヴリーヌは呆れた表情で推測した。



「それにしてもリィン君の”タラシ”が酷いのは昔から知っていたけど、それが天使に限らず”竜”に”魔神”、果ては”女神”にまで発揮している状態になっている事を知った時はお姉さんも驚いちゃったわね♪」

「むしろあれ程多くの女性達を射止めておきながら、”修羅場”に発展していないのが不思議なくらいだよ。」

「まあ、そのあたりはエリゼさんが上手く纏めてくれているからじゃないかい?恐らくだがエリゼさんが”正妻”になるだろうからね。」

「エリゼがシルヴァン陛下の後継者のリフィア殿下の専属侍女長を務めているという立場もそうですが、何よりも重度な”シスコン”のリィンが愛する妹達を”正妻より下の立場”にする事の方がリィンが恋愛方面に鋭くなる事よりもありえない出来事ですもんね。」

「(ううっ、まさかとは思うが黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)のみんなに限らず、Ⅶ組のみんなも俺の事をそんな風に見ていたのか……?)そ、そういえばフォルデ先輩やステラから聞きましたけどローレンツ先輩も婚約されたそうですね?」

からかいの表情を浮かべてリィンを見つめるドロテアの言葉に続くように若干呆れた表情を浮かべたフェルディナントの疑問に答えたローレンツの推測に同意したクロードはからかいの表情でリィンを見つめ、話の的にされたリィンは冷や汗をかいて反論せず疲れた表情を浮かべた後話を逸らすためにローレンツを見つめてある事を訊ねた。



「ああ。君にもその件についての便りを出すつもりではあったのだが、彼女と婚約したのは今回の戦争が始まる1ヵ月前で、その頃はエレボニアは内戦の最中だったからね。当時愛しい妹を助ける為にエレボニアで活動していた君を気遣うと共に空気を読んで、彼女との婚約の件についての知らせは内戦終結後に送るつもりだったのさ。」

「そうだったんですか……ちなみにお相手の女性はどんな方なんですか?フォルデ先輩やステラからは”凄い美人の女性”だとは聞いていますが……」

「フッ、マリアンヌはそんな単純な言葉で評価できるような女性ではないよ?彼女は信仰心が篤く、鳥獣と話す事が好きな奥ゆかしい清楚な女性さ。」

リィンの指摘に対してローレンツは髪をかきあげて自慢げにある人物についての説明をし

「信仰心が篤いという事は、もしかしてローレンツ准将が婚約されている女性は何らかの宗教の熱心な信者か、シスターなのですか?」

「ええ。マリアンヌ嬢は”青の月女神リューシオン”を崇めている教会に務めているシスターです。ちなみに彼女の実家は貴族で、爵位は”男爵家”です。」

ローレンツの話を聞いてある事が気になったプリネの疑問にクロードが頷いて答えた。



「”リューシオン”………光属性に大きな恩恵を与える青き月を司り、清き存在を連想させる事から人間達の女性の多くからの信仰を集めている”光陣営”にして別名は”処女神”とも呼ばれている女神ですか。」

「フム…………確か君も”闇夜の眷属”の子孫との事だから……光陣営の神を信仰しているシスターが闇陣営に所属する君と婚約するなんて、それもまた興味深い事実じゃないか。」

「レジーニアさんの”主”であるリィンと比べれば大した事はないと思いますが………そもそも、メンフィルは光と闇、どちらの勢力でもありませんし、マリアンヌは種族や陣営等を気にするような狭量な女性ではありませんよ。」

クロードの説明を聞いたルシエルは静かな表情で自身が知る情報を口にし、興味ありげな表情を浮かべたレジーニアに視線を向けられたローレンツは苦笑しながら答えた。

「ハハ……俺もローレンツ先輩達の事は言えませんが、メンフィルは他国の上流階級の人達もそうですが、光と闇、どちらの勢力にとっても異色を放っている存在に見えるのでしょうね。」

「まあ、”貴族”が存在する国は”血統主義”が大概の上”光と闇、どちらの勢力に所属している事が当然の事実”のようなものだから、そんな国からすれば”実力主義”かつ光と闇の共存させているメンフィルは色々な意味でおかしく見えるだろうな。」

「そうね……私もフェル君のご両親に挨拶しに行った時も正直驚いたわよ?フェル君から予め”そういった心配は無用”である事は伝えられていたとはいえ、平民で、それも孤児院出身の私をメンフィル帝国でもトップクラスの地位の貴族の子息のフェル君の”正妻”になる事をあっさり受け入れた上、歓迎までしてくれたもの。」

「フッ、そもそも祖父上も平民からの叩き上げでその功績が認められて貴族の爵位を承った上、母上は元”傭兵”なのだから、我が家には”血”で人の価値を見極めるような心の狭い考えは誰も持っていないのさ。」

苦笑しながら答えたリィンの指摘にクロードと共に同意したドロテアの話を聞いたフェルディナントは静かな笑みを浮かべて答え

「うふふ、結局は身分だとか種族だとか”下らない事”を気にしている人達は”愚か”って証拠よね♪実際、メンフィルはその”身分”や”種族”を気にしていない事で発展しているんだから♪」

「レン……幾ら何でもその考えは偏見だと思うわよ………」

小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンのとんでもない意見にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中プリネは呆れた表情で指摘した。



「そうかな?あたしは彼女の言っている事は真理を突いていると思うよ?種族や身分のような非生産的な意見を気にしなければ、多方面から様々な”意見”や”答え”を知る事で”研究”が捗るだろうからね。」

「”天使として異端者”である貴女がそれを言っても何の説得力はないのですが?」

心底不思議そうな表情を浮かべて指摘したレジーニアの意見にリィン達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ルシエルはジト目でレジーニアに指摘した。



その後ブリーフィングルームから退室て徘徊を再開したリィンは訓練区画でディミトリ、イングリット、ツーヤ、レーヴェ相手にそれぞれ一対一で訓練しているクルト、アルティナ、セレーネ、デュバリィを見つけた。



~2F・訓練区画~



「覚悟はいいか?おぉぉぉぉぉ……ッ!砕け散れっ!!」

ディミトリに向かっていったクルトはクラフト――――――業刃乱舞をディミトリに叩き込み

「……っ!やるな……!行くぞ――――――ハァァァァァァ…………!全てを貫く!」

対するディミトリは槍でクルトのクラフトを防御して槍越しに感じる凄まじい衝撃や槍では防御できなかった部分の攻撃を受けてクルトに感心した後全身に闘気を纏って凄まじい連撃をクルトに繰り出し

「く……っ!?」

ディミトリの反撃に対してクルトは双剣で必死に防御していた。

「そこだっ!!」

「しまっ――――――!!」

止めの一撃に放った強烈な突きによって自身の得物である双剣が弾き飛ばされたクルトは自身に突き付けられた槍の刃を見ると目を見開いた。



「お覚悟を――――――コッペリオンオーダー発動!!」

「――――――!!」

「甘い!―――見えた!雷光一閃突き!!」

アルティナの指示によってクラウ=ソラスが発生させた足元からの無数の霊力の刃を前へと跳躍する事で回避したイングリットはクラウ=ソラスに雷光の如くの速さの凄まじい一撃をクラウ=ソラスに叩き込んだ。

「!?」

「クラウ=ソラス!?――――――あ………」

「勝負あり、ですね。」

イングリットの凄まじい一撃によって吹き飛ばされたクラウ=ソラスを見て驚いたアルティナは一気に詰めよったイングリットが自身にが突き付けた槍を見ると呆け、イングリットは勝利の宣言を口にした。



「ライトニングプラズマ!!」

「!十六夜―――突!!」

セレーネはツーヤの頭上に雷の雨を発生させたがツーヤは前に跳躍して攻撃範囲から逃れて回避した後セレーネ目掛けて抜刀による衝撃波を放ち

「ハッ!聖なる光よ――――――ハァァァァァァ…………ッ!!」

自分に放たれた衝撃波を側面に跳躍して回避したセレーネはツーヤに向かいながらレイピアに力を貯め込んで光の魔力を纏わせた後ツーヤに近づくと薙ぎ払い攻撃を放った。

「一刀両断―――華氷!!」

対するツーヤは刀に氷の力を宿した後広範囲を両断するクラフトで対抗し、二人のクラフトがぶつかり合うと衝撃波が発生し、二人をそれぞれ後退させた。

「キャ……ッ!?………え。」

「今回はここまでだね、セレーネ。」

衝撃に怯んだセレーネは自身が衝撃に怯んでいる隙に一気に距離を詰めてツーヤにとってもう一つの得物である籠手を自身に突き付けられると呆けた表情を浮かべた。



「オオオォォォォォ……豪炎剣!!」

「むんっ!荒ぶる焔の一撃よ……鬼炎斬!!」

剣に闘気による炎を纏わせて斬撃を放ってきたデュバリィに対してレーヴェは業火をまとった斬撃を放った。

「あぐっ!?くっ………これならばどうですか!?」

自身が放ったクラフトでレーヴェが放った一撃に対抗できなかったデュバリィはダメージを受けたがすぐに立ち直って分け身を発生させてレーヴェを包囲し

「…………………」

対するレーヴェは目を細めて自身の包囲しているデュバリィ達を見回してデュバリィ達の次の行動に注意していた。

「斬!!」

「そこか―――獅子衝撃波!!」

「な―――ぐっ!?――――――!!」

デュバリィが分け身達と同時にレーヴェに襲い掛かると本物を見き分けたレーヴェが自らの闘気を体にまとい、獅子と化して本物のデュバリィに突進攻撃をし、レーヴェの攻撃に驚いたデュバリィはダメージを受けて呻いた後自身に魔剣を突き付けたレーヴェに気づくと目を見開いた。



「4組共に勝負あり、だな。」

「ふふ、どの組み合わせも中々の手合わせでしたね。」

「ええ、そしてデュバリィにとっては記念すべき”100敗目”の手合わせにもなるわね。」

「それのどこが”記念”なのですか、エンネア!?」

一方手合わせの様子を見守っていたアイネスは静かな表情で呟き、オリエの感想に頷いたエンネアは苦笑し、エンネアの言葉を聞いたデュバリィは顔に青筋を立ててエンネアを睨んで声を上げた。



「ハハ……どの組もお互いに善戦した手合わせだったな。」

「お兄様。」

「お疲れ様です、リィンさん。」

苦笑しながら自分達に近づいてきたリィンに気づくとセレーネは目を丸くし、アルティナはリィンに労いの言葉をかけた。

「それにしてもクルトとアルティナは珍しい相手と手合わせをしていたよな?二人ともディミトリ達とはノーザンブリアでの作戦が終わった時に挨拶をした程度だろう?」

「最初僕達はルクセンベール卿とレオンハルト大佐に鍛錬の相手を務めて頂いていたのですが、そこにディミトリ中佐達やデュバリィさん達がいらっしゃって、ディミトリ中佐達がせっかくの機会だからという事で僕達の鍛錬相手を務めて頂けたのです。」

「ディミトリ達が……?」

自分の疑問に対して答えたクルトの説明を聞いたリィンは不思議そうな表情でディミトリ達に視線を向けた。



「今回の戦争の最初の戦い―――クロスベル迎撃戦から八面六臂の活躍をしているリィン隊―――それも様々な事情によって”義勇兵”として参加しているクルト達の実力は前から気になっていたんだ。」

「それで私達が鍛錬の為にここに来たときクルトさん達が既に鍛錬していらっしゃっていましたから、ちょうどいい機会だと思い、手合わせを申し出たんです。」

「そうだったのか………それで実際に手合わせをしてみてのディミトリとイングリットの感想はどうなんだ?」

ディミトリとイングリットの話を聞いて納得したリィンは興味本位で二人に尋ねた。

「期待していた通り―――いや、それ以上の強さだった。クルトは実家が騎士の家系であるから幼い頃から剣を振るっていただろうが……それを含めても15歳という若さでは考えられない強さの持ち主だな、クルトは。」

「アルティナも人形を操って戦うという変わった戦闘スタイルとはいえ、味方の支援もなく”騎士”である私相手にここまで粘るとは予想もしていませんでした。」

「……恐縮です。」

「わたし自身は称賛される程強くなっているとは思えないのですが。内戦の時は一人で多数を相手にしていましたし。」

ディミトリとイングリットの称賛を聞いたクルトは謙遜した様子で答え、複雑そうな表情で答えたアルティナの答えを聞いたリィンとセレーネ、デュバリィはそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「ふふっ、セレーネも以前の鍛錬の時と比べれば接近戦も腕前が上がっているね。」

「そんな……お姉様と比べればまだまだですわ。」

ツーヤの称賛に対してセレーネは謙遜した様子で答え

「…………………」

「ちょ、ちょっと!?この流れですと貴方も私の今の実力を称賛する場面じゃありませんの!?」

レーヴェが黙り込んでいるとレーヴェだけ何も言わない事に困惑しているデュバリィがレーヴェに指摘した。



「ほう。俺を”一方的に好敵手扱い”しているお前がその俺に評価して欲しいのか?他の3組のように俺もお前の事を評価すれば、五月蠅く言ってくる事は目に見えていたから敢えて黙ってやっていたのだが。」

「んなっ!?」

そして挑発するかのように口元に笑みを浮かべて答えたレーヴェの答えを聞いたデュバリィは驚いた。

「まあ、その点に関してはレーヴェの言う通りだから反論できないな。」

「フフ、デュバリィにとってレーヴェはマスターの域に届く前に超える必要がある”壁”だものね♪」

「な、な、な……っ!ありえませんから!二人とも突拍子もない勘違いをしやがるなですわ!!」

納得した様子で呟いたアイネスとからかいの表情で答えたエンネアの言葉を聞くと口をパクパクさせたデュバリィは我に返ると二人を睨み、その様子を見ていたリィン達は冷や汗をかいて脱力した。



「フフ…………―――――それにしても先程の手合わせを見て感じましたが、ディミトリ中佐もそうですがイングリット少佐もとても僅か1年の訓練で身についたとは思えない熟練した動きでしたが……もしかしてお二方の実家は”ヴァンダール”や”アルゼイド”のような武家の家なのですか?お二方とも貴族出身とは聞いていますが。」

「いえ、私の実家は貴族ではありますが、家族は護身用の嗜みとして修めている程度で、私自身が子供の頃から騎士に憧れて鍛錬を続けていただけです。」

「自分の実家はオリエ殿の推測通り、代々”騎士”の家系です。とはいってもオリエ殿やクルトの実家の”ヴァンダール”のように、昔からの名門武家という訳ではなく、”騎士爵”からの叩き上げの家ですが。」

「え………ですが、ディミトリさんのご実家の爵位は”侯爵家”ですわよね?という事はもしかして、ディミトリさんのご実家は戦功を挙げて、それが評価されて今の爵位に到っているのでしょうか……?」

オリエの疑問にイングリットと共に答えたディミトリの話を聞いて目を丸くしたセレーネは推測を口にした。



「ああ。ディミトリの実家―――”ブレーダッド家”はリウイ陛下達の反乱によって建国されたメンフィル王国よりも前のメンフィル――――――”旧メンフィル王国”から存在していた家で、リウイ陛下達による”メンフィル王国”建国後ディミトリの先祖達が代を重ねるごとに戦功を重ね続けた事を評されたお陰で徐々に爵位が上がっていって、今の地位に到っているという話だ。」

「ちなみに”ブレーダッド家”の現当主であり、ディミトリの父君はシルヴァン陛下直轄の親衛隊を率いる”皇帝三軍将”の一人――――――”大軍将”ダグラス将軍閣下なんです。」

「そ、そうだったのですか……”ブレーダッド”のファミリーネームを聞いてもしかしてと思っていましたが、やはりダグラス将軍のご子息だったのですね……」

「”皇帝三軍将”という事はリィンさん達”黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)”の担当教官でもあったセシリア将軍と同じ立場の人物ですか。」

リィンとイングリットの説明を聞いたツーヤは目を丸くしてディミトリを見つめ、アルティナは真剣な表情でディミトリを見つめた。

「……”大軍将”殿か。道理でどことなく見覚えのある槍捌きな訳だな。」

「その口ぶりだと、レーヴェはその”大軍将”とやらと手合わせをした事があるのか?」

静かな表情で呟いたレーヴェの話を聞いてある事に気づいたアイネスはレーヴェに訊ねた。



「ああ。プリネ皇女の活動範囲は基本的に帝都(ミルス)を中心としている為親衛隊副長の俺も当然帝都(ミルス)に滞在している事が多く、そのお陰で”空の覇者”を始めとした帝都(ミルス)に常駐しているメンフィル軍の”将軍”クラスの者達との手合わせの相手を務める機会を頻繁にもらえた。――――――フッ、彼らと手合わせをして”剣帝と呼ばれていた俺ですら井の中の蛙である事を何度も思い知らされたな。”」

「なあっ!?」

「えっと……その口ぶりですと、もしかして手合わせの結果はレーヴェさんにとっては厳しい結果だったんですか?」

レーヴェの話を聞いたデュバリィは驚きの声を上げ、リィンは苦笑しながらレーヴェに訊ねた。

「ああ。勝利できたのは”魔道軍将”だけで、他は”全敗”の上、その唯一勝利できた”魔道軍将”にしても何度も挑んでようやく”勝利”を掴めたようなものだという無様な結果だ。正直な話、”剣帝”の二つ名を返上したいと思ったのは一度や二度ではなかったな。」

「………………………」

「あのマスターが”いずれ自分を超える剣士になる”と期待している”剣帝”である貴方がそんな散々な結果になるなんて……」

「フフ、我らの予想を遥かに超えた相当な”化物”揃いのようだな、メンフィル軍の上層部達は。」

「アハハ……期待を裏切るようで申し訳ありませんが、あたしに関してはその人達の中には含めない方がいいですよ。」

静かな笑みを浮かべて語ったレーヴェの話を聞いたデュバリィは驚きのあまり口をパクパクさせ、エンネアは目を丸くし、アイネスは不敵な笑みを浮かべてツーヤを見つめ、見つめられたツーヤは冷や汗をかいて苦笑していた。



「そんな凄まじい方々の一人であられるセシリア将軍から直接教えを受ける事ができたお兄様達は本当に恵まれていたのですわね……」

「道理でリィンさん達も”化物”のような使い手揃いへと育った訳ですね。何せ担当教官自身が”化物”のような強さなのですから。」

「ハハ、メンフィルからすれば俺達なんて”化物”と呼ばれるような強さじゃないさ。」

驚きの表情を浮かべたセレーネと疲れた表情を浮かべたアルティナに視線を向けられたリィンは苦笑し

「今の話を聞いて僕達のメンフィル帝国に対する認識が”まだ甘かった事”を思い知りましたね……」

「ええ…………フフ、機会があれば私達も手合わせをしてみたいわね。」

驚きの表情を浮かべて呟いたクルトの感想にオリエは静かな笑みを浮かべて同意した。



その後セレーネ達の鍛錬に混ぜてもらったリィンは鍛錬後徘徊を再開して仲間達との交流を深めた。



そして翌日から活動を再開した”灰獅子隊”は翌々日に”連合本陣”から重要な要請(オーダー)を出され、それを承諾した。



本陣から出された新たなる重要な要請(オーダー)。それはクロイツェン州に駐在しているメンフィル帝国軍本陣と共に帝都(ヘイムダル)近郊の町にしてⅦ組にとっての母校であるトールズ士官学院があるトリスタに侵攻する―――――”トリスタ占領作戦の協力”であった――――――

 
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