教師への道を歩む
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四宮と桜
営業中の厨房はとても慌ただしい。だから客がいる限り厨房が慌ただしくならない事はない。
そして今、僕はその慌ただしい厨房で料理を作っている。
「仕上がったか?桜」
眼鏡を掛けた細身で赤髪の男が自分の作業をこなしながら聞いてきた。
「終わってるよ。次の作業に取り掛かってるところ」
それだけ聞くと満足そうに微笑んでいた。普段は不愛想な顔をしている彼が微笑む事はとても難しい。俺は女じゃないから分からないけど多分、一般女性が見たら一発で惚れるぐらいの破壊力はあると思う。
「OKだ。十分」
時間は経ち店の客入りが減ってきた。
ここはフランスにあるSHINO'Sという料理店。僕が何でこんなところにいるのかと言うとそれは店主である四宮の手伝い。四宮とは学生時代からの付き合いで一応、仲が良い。同学年という事もあったり他にも色々と要因はあるけどまあ、そこら辺は省いても、今でも学生時代の付き合いが続いている。
一週間ぐらい前に四宮から「来週空いてるか?」って聞かれたから「まあ、空いてるよ」と言ったら「フランスの俺の店まで来い」と言われた。普段は海外に行く余裕なんてあまりないんだけど今回に関してはちょうどなっていたから行けると返事したら「待ってる」とだけ返事が来た。
そして、長いフライト時間とタクシーの移動時間を経て店にたどり着くと四宮は着いて早々に「金を出すからここで一週間働いてくれ」と言って来た。まあ、そうだろうな~と思ってはいたから難なく承諾して今に至る。
だけど普通、「ここまで呼んで悪かった」とか一言ぐらいあっても良いと思うのは僕だけかな。
まあ、四宮が普通に礼を言ってくるなんてほとんどないし期待もしていないからな。
「ねぇ、しばらく来れなくなるかもしれないけどいい?」
僕は唐突に今日の片付けをしている四宮に聞いた。
「何でだ?」
「遠月の総帥からちょっとお誘いが来ててね。教師にならないかってね。最初に誘われた時は別にそんな気はないから断ってたんだが総帥はしつこくて....渋々」
「....お前が珍しいな。人の頼みを引き受けるなんていつもは引き受けないお前が引き受けるなんて」
「まあ...僕もね。色々思う事があってね。あの学校での事は今でも鮮明に憶えている。君や水原、乾、ドナートとかと一緒に過ごしていた日々はね」
昔はよく5人で集まったりしたな。お互いにお互いの料理を食べ「こうしたらいいんじゃないか」とか「この食材はこう活かした方がいいんじゃない」とかよく言い合ったものだ。今では遠い昔の事のように感じられるけどまだ10年ぐらいしか経っていない。
「...........お前が決めた事なら俺が文句言えるわけねぇだろ。元々、無理言って手伝ってもらってるんだからよ。お前も俺に大丈夫か?何て聞かなくていいと思うぞ」
「..じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
四宮のところに手伝いに来れないのは悪いけど、総帥にお願いすれば僕の休日の日ぐらいは手伝えるかもしれないし。
「でも、そうなると乾と水原がうるさそうだな....」
これから起こる未来でも想像しているのか四宮は天を仰ぎながら言った。まあ、あの二人....いや、特に乾はいつも騒がしいから特に変わりはしないだろう。
「大丈夫だと思うけどな。乾も水原も僕が居ない位じゃ変わらないと思うけどね」
「はぁ~相変わらずお前は......いや、止めておくか。これはいつもの事だし今に始まった事じゃないしな。でも、いつから行くんだ?それによって店の方のシフトも考えなきゃいけないからな」
「そうだな~総帥には4月には来てくれと言われているから...二週間後くらいかな。まだ、任されてる仕事もあるしそれを放り出しては行けないからね」
決まっている仕事もあるからそれはやらないといけないし教師になったらこっちの仕事はそんなに出来なくなってしまうからね。
「まあ、シフトもそうだけど少し寂しくなるな......」
そうだな。寂しく..............。
「おいおい、四宮なんか悪いものでも食べたの?どうした調子でも悪いの????」
寂しいなんて四宮には似合わないだろ。もう出会って14年~15年ぐらい経ってるけど四宮が寂しいと言ったところは見た事もない。
「何でもねぇよ!只....俺がやってるのはフランスでだからな。乾とかは日本でやっているから会おうと思えば会えるだろうが。暫くは絶対に会えねぇからな」
「気持ち悪い。電話番号とか知ってるんだから掛けようと思えば掛けられるし他にも連絡手段はあるから」
「.....確かにな」
「注文入りました」
そんな話をしているとウェイターが気まずそうに僕たちに言った。
どうやらお客さんが来たみたいだ。
「じゃあ、話はここまでにしよう。暫く、来れない分気合入れて働きますか~」
「頼む。じゃあ、今日はいつもより仕事を多く回すから覚悟しとけよ」
「....うわぁ......まあ、お手柔らかに」
その後、いつもと比にならないほどの仕事が回されたのはまた別の話。
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