曇天に哭く修羅
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第四部
Bブロック 3
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Aブロックより長くなりますね。
「【帝釈天/たいしゃくてん】」
春斗が黒い直刀を右手だけで持った。
腰を落とした構えは威圧的で重苦しい。
「これが【魔術師】の俺が持つ【異能】で出せる最高速度。行きますよ、会長?」
【神速斬光・三ノ段】
消失。
そう言って良いだろう。
【魅那風流奥義・四天宵突】
眉間・喉・鳩尾・下腹部
正中線に位置する四つの急所を突く。
元々からして速さを要求される技だが神速斬光を合わせることで一瞬に完了する。
だが向子は笑みを崩さない。
春斗の突きが来るヶ所に黒い短鞭の先を持っていき、わけなく防いでしまう。
「ん~……江神くん。別に出し惜しみする必要は無いんだよ? 君が見せた分だけ私も見せてあげるつもりだから」
どうやら向子は春斗の全力を引き出す為に、敢えて時間を掛け、試合を引き伸ばしているらしい。
「……そうですか。では胸を御借りします」
春斗は祖父から好敵手だった【黒鋼】の話を何度も聞いたことが有る。
自分でも黒鋼の【練氣術】を真似てみた。
しかしやはり不完全。
本家黒鋼のようにはいかない。
だが彼には昔から修業に付き合ってくれた頼りになる幼馴染み達が居る。
彼等は黒鋼流を修めてきた闘技者だった。
《永遠レイア》
《エンド・プロヴィデンス》
二人の兄弟は春斗が練氣術を身に付けようとしていることを知って、自分達の使う黒鋼の練氣術を春斗に教え込んだ。
その結果として彼は黒鋼流練氣術をマスターするに留まらず、[江神式]とも言えるオリジナリティーを作り上げる。
「良い。良いよ江神くん。立華くんやクリスちゃんもだけど、君も可能性の塊みたいだね。その練氣術は黒鋼にも劣らない」
春斗は向子の前で黒鋼流の三羽鳥を発動。
魔晄の翼【音隼/おとはや】が生え、魔晄防壁が【盾梟/たてさら】に強化され、直刀を握る右手には金の爆光【禍孔雀/かくじゃく】が宿る。
「黒鋼は体術。江神は剣術。故に同じ練氣術では合わぬことも有ります。なので我々の方に合わせてもらいました」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
右手の金光が直刀に移る。
刀身が黒から白銀になった。
「体だけでなく外装も強化する。武器使いなら当然のことですよね? あまりやっている魔術師を見掛けませんが……」
確かにそうだ。
わざわざ外装にまで【魔晄】を付与して強化しようという魔術師は少ない。
しかし当然と言えよう。
メリットが少ないからだ。
魔晄を使ったところで外装の威力が上がるわけでもないし防壁で頑丈になるくらい。
(そうなんだよね~。江神くんみたいな例外を除いては。というか、外装に魔晄を使うなんて普通はやらないし)
練氣術の域まで魔晄操作を習熟した者ほど魔晄と外装を合わせようとしない。
それは何故か。
「魔晄外装は『魂』から出来ている。そこに自分から生まれたとは言え、魔晄という『異物』を混ぜるなんてやらないよ。外装の表面に展開して防壁を張るくらいならやるけどさ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
外装の外で使うなら解る。
元が魂でも既に固体化した物質として、道具として物質世界に成り立っている状態でエネルギー源としての魔晄を注ぐのも理解できる。
だが自身の魂によって構成された外装を構築する[構成]に魔晄を組み込むというのは魔晄操作の技術と知識を持つ者ほど理解しがたい。
向子は春斗の思想を何となく理解しているが、それを実行に移すかどうかは別。
「魔晄で[肉体]を強化できる。それならば[霊魂]から生まれた外装でも同じことが可能であるという結論に至るのは珍しいことではないと思いますが」
春斗は当然のように告げる。
「結論が出てもやらないからね普通。私も人のことを言えないけどさぁ~」
彼が『鬼』ではなく『人』だと聞いていた向子は春斗がこんな発想をする筈が無いと油断していたのか、隠すことも無く呆れている。
「君は想像を超えてきたね。実力はアタシの方が上だけど異端というか、突飛なところは江神くんの方が上じゃないかな」
向子は予測より春斗が上回ってきたことに驚くも、同時に嬉しくなっていた。
(立華くんが個人戦に出られなくとも良いライバルになってくれそうだ。その時は翔くんも一緒に立華くんの力を引き出してもらうよ)
後書き
_〆(。。)
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