曇天に哭く修羅
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第四部
Bブロック 2
前書き
_〆(。。)
[飛車斬り]による乱撃を事も無げに防ぎ続ける《島崎向子》に対して《江神春斗/こうがみはると》が【異能】を発動。
「【重転じ軽変ず】」
春斗の速度が上がった。
しかしそれだけではない。
(重く……)
向子は短鞭で打ち返す刀の質量が増えたことに気付くが敢えて無視。
鞭に込める力を上げる。
(まだだぞ会長)
二人の打ち合いは拮抗しだす。
今まで弾かれていた春斗の斬撃は跳ね返されること無く向子の鞭打と鬩ぎ合う。
「あ~、何かやってるねこれは」
(どうしたもんか)
彼女が思案する間も春斗は緩めない。
(貴女に加減は要らないだろう)
上段に構えた春斗の直刀が大気を引き裂いて半円を描きながら縦一閃に落ちる。
プロリーグのトップランカーとして列する魔術師でも御目に掛かれない一撃。
向子は短鞭を横に寝かせると、振り下ろされた刀を支えるようにして受け止めた。
「何の能力か解らないけど、この程度の弱体なら問題ないよ。互いの基本ステータスに絶対的な差が有るわけだしね」
向子の言う通り二人には差が有る。もはや隔絶と言っても良いだろう。
試合になる時点で判っていたことだ。
向子が最初からスペック通りのステータスを出していれば既に終わっていた。
(重転じ軽変ずは重量の概念に干渉する)
これによって少しはマシになった。
春斗を軽くして速さを上げ、斬撃を重くして威力を上げておき、向子は重くして動きを鈍らせ、彼女の鞭打を軽くして圧を下げている。
その上で春斗の斬撃を受ける時は春斗を重く、向子が鞭打を当てる時は向子を軽くすることによって重量の差で有利になるよう仕向けた。
それでも向子の方が有利。
解りきっていたことだが実際に試し、体感してみることで、改めて春斗は重い知る。
地力では勝てないと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(四の五の言っている場合ではないな)
「【神速斬光】」
春斗の【魔晄神氣】
その力は『高速運動』だ。
この力で高速移動している時はブレーキが効かないという欠点を抱えていたが、既に春斗はその致命的な弱点を克服していた。
「おっ、良いね」
急激に速度を増した春斗を見て僅かに頬を緩めた向子は楽々と回避して反撃へ。
カウンターで顔に短鞭を振る。
会場に居る人間の殆どは目視できない。
そんな速さに抗って春斗は首を傾けた。
鞭をやり過ごしながら後ろへ飛んで着地。
「多聞天」
春斗が刀の柄を顔の側に置く。
切っ先は向子に向いた。
「神速斬光・二ノ段」
彼の体に力が漲る。
「魅那風流・刺突貫仏」
先に出した飛車斬りが多撃必殺の乱舞技なら、こちらは急所狙いの一撃必殺。
春斗が踏み込み疾風のような早駆け。
明らかに速くなった。
どうやら神速斬光には底が有ったらしい。
狙い澄ました刺突が向子の喉を穿つべく、矢のように放たれる。
(無駄だけどね)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
向子の喉仏に刀の先端が容赦の欠片も無く猛然と食い込むも、伝わってくる感触と共に硬質な音が鳴り響いて刃の前進が阻まれた。
「言ったはずだよ。私と江神くんはステータスが違い過ぎるって。生身の肉体なら兎も角として、きっちりと【魔晄】を使って防壁を張り、身体強化をしたら、その攻撃が通るわけないじゃないか。威力こそ有るけど物理的に出すオーソドックスな刺突と何ら変わらないんだし」
向子は春斗の繰り出した必殺になり得る一撃に対し、奇を衒うこと無く、王道で正統派とも言える、『明確な実力差』によって真っ向から受け止め凌いで見せた。
闘技者としての格付けは済んだと言って良いが、それはあくまで基本性能という面であり、魔術師としての勝負は終わっていない。
「まったく……。ここまで差が有るとなれば、逆に開き直りもし易いと言うものだな。ここで全てを出し尽くすことになるかもしれん」
春斗は目の前に立つ高い壁に対して試行錯誤しながら楽しそうに笑っていた。
後書き
o(__ )
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