曇天に哭く修羅
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第四部
Bブロック
前書き
Losや偽悪で戦闘が無かったけど、まさか別の話で戦闘することになるとは。
「貴女と戦えるとは願っても無い機会だ」
「そう言ってもらえると光栄だね」
Bブロック決勝。
1年生の《江神春斗》
彼は【龍帝学園】に入って今回の【冬季龍帝祭】が初めての公式戦参加となる。
しかし【夏期龍帝祭】で優勝した《橘花翔/たちばなしょう》に勝った。
それに《クリス・ネバーエンド》が入学当初から戦いを望み、《立華紫闇》が再戦でリベンジを狙う実力者。
長い黒髪を後ろで総髪にして束ねた美形の剣士は眼鏡の奥から覗く眼光を向ける。
対するは5年生の《島崎向子》
1年の時から生徒会長を勤め、4年連続で冬季龍帝祭を優勝し、【全領戦】の個人戦へ出場する世界的魔術師であり有名人。
龍帝学園の内部事情を知らない人は彼女こそ現在の龍帝で最強だと信じる者が多く、日本軍の中でも将官クラスの地位と特殊な立場を持つ。
龍帝の在る関東領域を守っている軍属の魔術師も、ほぼ全員が彼女の配下だという。
そして有名なのが、公式戦で【異能】と魔晄外装を出したことが無いということ。
軍の任務でも全く使わないので本当の実力を知る者は皆無に等しいと言える。
しかし異能無しでも強く、空間系の【超能力】を持つことが知られており、毎年のように個人戦で上位入賞するエリートなのは間違いない。
問題なのは本気を出さないことと、軍も学園も関係なく、ふらりと居なくなること。
「そうだね。江神くんなら良いかな」
向子は外装を喚び出す。
現れたのは馬上で使う黒い短鞭。
「それが会長の……」
春斗も黒鞘に納まった鍔無しの直刀を引き抜いて黒い刀身を露にすると、その切っ先を向子に向けた。
「では行きますよ」
「何時でもどうぞ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「持国天」
春斗が刀を下段にして構えた。
更に脱力して睨み据える。
それを見て向子は思う。
(プラン変えよっかな。今年は立華くんが個人戦に出るのは難しいかもしれない。クリスちゃんと翔くんでギリギリの試合になるくらいだし)
悠然とした動きで春斗が斬り込む。
繰り出される無駄の無い一刀は鋭い。
まるで為す術が無いようにも見える向子はまだ考えている最中だった。
(個人戦には出られなくとも団体戦で経験積んで成長すれば良いし、それでも足りないならアタシが彼をレイアくん達と一緒に鍛えるのも有りだと思う)
春斗は命中すると確信していた一振りを黒い短鞭で無造作にはたき落とされてしまい、度肝を抜かれる。
(なっ……!? あの距離とタイミングで迎撃が間に合うのか……!? 流石は島崎向子。ならばこれならどうだ?)
彼は腰を落とす。
そして柄尻を自身の腹に当てた。
【増長天】と呼ばれる構え。
春斗の威圧感が増す。
「魅那風流・飛車斬り」
武台の床を砕くほどの蹴足で彼我の間合いを詰めると外から眺める観客の目には無数の銀光が見て取れた。
向子の前で閃くそれは照り返す黒刀。
ひたすら続く斬撃。
それ等は全て弾かれ、逸らされ、躱され、春斗の前に立つ女に傷一つ付けられない。
(解っていた。この人が強いことは。だがこれほどか。俺が異能も超能力も行使していないとは言え、こうも簡単にあしらわれるとは……)
遠い。
向子との距離が。
かけ離れている。
互いの実力と技量が。
今の春斗は
『鉄拳の女帝』
『純粋なる強さの象徴』
とまで言われた今は亡き、『愚者のマリア』こと《白鳥マリア》と戦っても勝利を見いだせる域にまで至った闘技者。
(一度戦って秒殺された相手ゆえに彼女の強さを知っている。昨年あの者が敗死するまでは世界四強の上から二番手だった。そのマリアと比べても会長は異端に過ぎる……!)
春斗は後ろへ跳びながら首筋に打ち込むも、向子はヒョイと立てた短鞭で軽々と受け止めた。
後書き
個人戦の上位入賞は8位以内。この作中世界だと現代日本の学生魔術師で8位以内に入れたら卒業魔術師プロリーグでも世界20位以内を狙えるレベル。
現代(当代)の現役学生魔術師の強さ平均がトップ層だけでなく、魔術師史上第二の黄金時代みたいなものですしね。
一番ヤバかった世代は焔の祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》が戦っていた【邪神大戦】における最終盤の面子です。
負けかけてる【旧支配者】の軍勢は必死でしたし焔や紫闇みたいな『鬼』の気性持ち闘技者がうろうろして、神が参る者/イレギュラーワンもちらほら居た環境なので。
紫闇の1年から向子の5年が弥以覇と同時代なら、魔術師は強さ至上みたいなところが有ったので、かなり平均が上がると思いますよ。
全体の何割死ぬか解りませんが。
_〆(。。)
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