魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第8章:拓かれる可能性
第257話「戦いを前に」
前書き
例えるならば、ゲームで最終決戦前に仲間や街の人達と会話する的な回です。
優輝の説明が終わった後、皆は作られた個室にそれぞれ戻って休んでいた。
そんな中、なのはは用意された部屋とは別の部屋に向かっていた。
「……なのはかい?」
「うん」
部屋をノックすると、中から士郎が返事する。
中に入ると、そこには士郎の他に桃子がベッドに寝ていた。
「お母さんは……」
「………」
士郎は無言で首を振る。
イリスと分離してから、桃子は未だに目を覚ましていないのだ。
「……そうなんだ……」
その事実に、なのはは少し落ち込む。
「……っ……」
だが、それはすぐに収まった。
桃子が微かに身じろぎをしたからだ。
「……ここは……?」
「桃子!?」
「お母さん!」
桃子が目を覚まし、二人はすぐさま傍に寄る。
「あなた……それに、なのはも……」
「……体は大丈夫なのか?」
「ええ。……心配をかけたみたいね」
桃子は体の調子を確かめるが、特に不調は感じられない。
若干意識がぼんやりしているが、それは単に寝起きだからだ。
「……何が起きたのかは、イリスさんを通じて知っているわ。そのイリスさんが、全てを投げうって消えてしまった事も」
「お母さんは、依り代にされていた事を知ってたの?」
「いいえ。なのはがそうだったように、自覚なんてなかったわ。だけど、分離する時に知識が流れてきたの。だから、理解が出来るだけなの」
避難場所からイリスの所までの間に、桃子はイリスから知識を受け取っていた。
イリスがどんな存在なのかも、依り代がどういう事なのかも理解していた。
それこそ、話を聞いただけの緋雪や司よりも詳しい程だろう。
「そうか……」
「それより、ここはどこなの?」
「ここは優輝君が創り出した施設の一室らしい。……街どころか、アースラも破壊されたらしくて拠点は作るしかなかったみたいなんだ」
「なるほどね……」
士郎の説明を聞いて、桃子は少し考えこむ。
イリスから受け継いだ知識から、優輝の行動を推測しているのだ。
「なのは、彼から何か聞いていない?これからどうするのか、とか……」
「あ、うん。聞いたよ。……今度、イリスを倒すためにもう一度神界に行くって」
「……やっぱりね」
なのはの言葉に驚く士郎を余所に、桃子は納得する。
「知ってたの?」
「ええ。優輝君なら……いえ、イリスにとって彼なら絶対にそうする存在だから、もしかしたらと思ってね」
イリスと自分は別の存在である事は分かっていた。
それでも、桃子はイリスの知識や感情を知っている。
そこから優輝ならどうするかを推測していた。
「なのはも行くのね?」
「……うん」
既に覚悟は決まっている。
なのはも、ルフィナの知識を持っている。
そこから考えても、“絶対に勝てない”とは思わない。
否、例えそうだとしても、戦わないという選択肢はなかった。
「っ……」
士郎は“危険だ”と止めようとして、寸前でその言葉を止めた。
なのはの覚悟を理解したからこそ、止める事が出来なかった。
「……止めても無駄みたいだね。だけど、これだけは聞いておくよ」
「…………」
「なのはは、何のために戦うのか、はっきりさせているかい?」
「何の、ため……?」
それは、覚悟だけで突っ走っていないかの確認だった。
“戦わなくちゃいけない”という事実を受け入れているだけではいけない。
士郎はそう考えて、戦う“理由”をはっきりさせておきたかった。
「……世界を守らなくちゃいけないから……」
「………」
「……ううん」
最初の答えに、一瞬士郎は“まずい”と思う。
だが、なのはの言葉は続いていた。
「……違う、そうじゃなかった。……私は、私の帰る所を……お父さんやお母さん、家族や友達を守りたいから、だから戦うの」
「なのは……」
ありきたりな答えだ。
だけど、ありきたりだからこそ、その身を投げ出す事はないと、士郎は確信した。
「……あなた、私たちもなのはを信じましょう」
「……ああ。……父さん達は待っているぞ。なのはが帰る場所は、なのはがいないと意味がないんだからな。絶対に帰ってくるんだ」
「うん……!」
そう言って、士郎はなのはの頭を撫でる。
そして、ふと思い出したように激励の言葉をなのはにかける。
「なのは、御神の剣は、守る者のために力を発揮する。……まだ全てを教えた訳じゃないけど、それでもなのはならその力を発揮できるはずだよ」
「お父さん……うん、分かった……!」
今のなのはは、士郎達にとって“守られる存在”ではない。
同じ御神の剣を会得し、“守る存在”へと変わっているのだ。
だからこそ、激励の言葉を掛けた。
「そのためにも、今は体を休めなさい。まだ、時間はあるんだろう?」
「うん。そうするよ」
そう言って、なのはは部屋から退室する。
心配だった母親も無事目を覚ましたため、後は戦いに備えるだけだ。
「………」
次に向かうのは、同じく神界に向かう皆の所だ。
優輝の話を聞いた者の内、皆が皆個室に戻った訳ではない。
聞いた話について、今後について、話し合う人もいるだろう。
そんな人達がいる場所へ、なのはも向かっていた。
「あ、なのは」
「桃子さんはどうやった?」
「私が行った時にちょうど目を覚ましたよ。特に不調もないみたいだし、もう大丈夫そうだったよ」
向かった一室では、フェイトやはやて、アリシアなどいつもの面子がいた。
はやてが開口一番に母親である桃子の事を聞いてきたので、もう大丈夫だとなのはは心配させないように返答する。
「ほな、一応シャマルを向かわせておくわ」
「ありがとう。はやてちゃん」
「構わへんよこれくらい」
軽いやり取りの後、なのは達を真剣な雰囲気が包む。
「……多分、次の戦いで決着がつくわ」
少しの沈黙を挟み、はやてがそう切り出す。
「同感ね。一度目の戦いでは大きな敗北。二度目は戦力を増した上で撃退。……そして、今度はこちらから攻め入る番。結果がどうであれ、決着はつくでしょうね」
「加えて、優輝達曰く私たちが防衛しているだけでも、他の神がイリスを倒すから……うん、本当に最後の戦いだね」
泣いても笑っても、最後となる。
そのため、なのは達の気持ちもより一層引き締まる。
「問題は、今度の戦いは一度目と同じように、敵地に乗り込む事だよ」
「相手の土俵で戦う……不利な状況になるのは当然だよね」
霊術を用いるアリシア達からすれば、相手の土俵で戦う事のまずさが良く分かる。
なのは達も、相手の得意分野で戦う事がまずいのは分かっていた。
「……その事なんだけどね?」
「何かあるの?」
そこで、なのはが思い出したように話を切り出す。
「ルフィナさんからの知識なんだけど……多分、攻め込む際にとんでもない事をして、相手の有利な状況を壊すと思うよ」
「とんでもない事……?」
「……この“世界”を神界にぶつける。……少なくとも、ルフィナさんからもらった知識から考えたら、そうするみたい」
言葉のまま受け取った所で、フェイトやはやてにはピンと来なかった。
「つまり、相手の“領域”にこの世界の“領域”をぶつける事で、“性質”の力を相殺……もしくは、軽減するって事ね」
「椿ちゃん……うん、その通りだよ」
会話に入って来た椿が補足する。
それによって、他の皆も理解出来たようだ。
「確かにその方法なら、相手の陣地ではなくなるでしょうけど……同時に、こちらの陣地でもなくなるわ。完全に対等な立場で相手を倒さないといけない」
「一度目は相手の有利、二度目はこちらの有利。……お互い有利な立場で戦ったからこそ戦力差が良く分かったと思うけど、そうなればどれほど苦しい戦いになるかも分かるよね?」
二度目は本来なのは達の方が有利だったのだ。
その上で、あれ程の苦戦を強いられた。
今度は、そんな有利すらもない状態で戦わないといけない。
いくら不利ではないとはいえ、その差は大きい。
「っ………」
すずかが息を呑む。アリサが冷や汗を流す。
アリシアも、フェイトも、はやても、その“差”を理解して奥歯を噛み締める。
「……それでも、勝つよ」
だが、なのはは、なのはだけは違った。
戦力差が大きいのは分かっている。苦戦どころか勝てるか怪しいのも分かる。
……ただ、それでも“勝つ”と、既に決意を固めていた。
「そうでなければ、戦いにはならないから」
「その通り」
感心してか、望んだとおりの答えだったからか、椿は手を叩く。
直後、椿から神力がにじみ出るように放出される。
「最早、単純な力による勝敗はあり得ず。この先は全て我ら汝らの意志により決する。心せよ人の子よ。敗北を悟らぬ限り、真の敗北はあり得ない」
それは、椿としてよりも、神としての言葉だ。
今更神一人の力に圧倒されて言葉を失う程、なのは達は弱いままではない。
それでも、椿が“神として自分達を激励した”という事実に息を呑んだ。
「……まぁ、私も神として信じてるわ。いつだって、人は限界を乗り越える。過去の英雄達がそうだったように、現代の貴女達もやって見せるとね」
神としての振る舞いを引っ込め、椿はいつも通りにそう言った。
「生命はいつだって環境に適応しようとする。人間だけでなく、様々な動物が年月を掛けて進化したようにね。……その中でも、とりわけ人間は別格だよ」
続けて、葵は言葉を挟む。
葵もまた、式姫として長年人を見てきているため、その言葉には重みがあった。
「逆境において、人が取る選択肢は大きく分けて二つ。恐怖や絶望に呑まれて諦めるか、それでもなお立ち向かうか、のね。そして、後者の選択をした者は少なからずその限界を破る。……時には、あり得ない程の力を発揮して」
「……私達にも、それが出来ると?」
「もうやっているじゃない」
アリシアの言葉に、椿が半ば呆れながら即答する。
「いくら神界の法則があったとはいえ、貴女達は常に限界以上の力を発揮し続けていたわ。気づいてる?一度目の神界への進行前に比べて、今の貴女達は数段強くなっているわよ。それこそ、際限なく、ね」
「ぁ……」
最初に気付いたのはアリシアだ。
自身の操る霊力は普段細かく操れる分を最大火力としている。
だが、その細かく操れる霊力の量が大きく増えていた。
それこそ、制御を度外視した最大火力を上回る形で。
「限界以上の力を使っても後遺症が残らない事によって、成長すると同時に常に限界の一歩先を行っていた。……そんな事をすれば、嫌でも強くなるわね」
「それは……確かに」
魔力及び霊力操作やその総量だけではない。
無造作に技を放てるように、発動までの過程がごく自然なものになっていた。
魔力変換資質を持つフェイトに至っては、まるで電気そのものを我が物にしたように操れるようになっている程だ。
「だから、そんな気負わなくていいわ。……貴女達なら、きっと勝てるもの」
「……そうだよ」
椿の言葉に同意するように、なのはが言葉を発する。
「理屈なんて、もう関係ない。……勝つんだよ、皆で」
「……そうね。なのはの言う通りだわ」
なのはに続けるように、アリサがそう言って笑みを浮かべる。
「所詮、相手は神の如き力を持つだけで、無敵ではないのよ。だったら、勝ち目はある。あたし達はそれをモノにすればいいのよ」
「………」
理屈関係なく、“ただ勝つ”。
無茶苦茶な事を言っていると、言った本人も思う程だ。
だが、それでも皆の戦意に火を付けた。
「……もう、何も言わなくても大丈夫そうね」
「じゃあ、あたし達は行くね」
そんな様子を見て、椿と葵は立ち去ろうとする。
「そういえば、二人はどうしてここに?」
「司や奏達を探してたのよ。そうしたら、貴女達がいたって訳」
「単に通りすがったって感じなんだよね。実は」
「そうだったんだ……」
「じゃ、貴女達も休んでおきなさいよ」
そう言って今度こそ二人は立ち去る。
「色んな人に影響を受けたのでしょうけど……本当、強い子達ね」
「環境と……優ちゃんの“性質”のおかげだろうね。もしかしたら、あたし達の影響もあるかもしれないよ?」
「……そ、そう?」
少し後押ししただけだった。
それだけでなのは達がもう手出しの必要がない程にその強い精神性を見せた。
その事に、椿と葵は感心していた。
「……ここね」
そんな事を話している内に、司と奏がいる部屋に二人は入る。
「椿ちゃんと葵ちゃん?」
「その様子だと、しっかり体は休めているようね。でも、同時に考え事で悩んでいる……とも見えるわね」
「あはは……見抜かれてたんだ」
「これでも神の端くれよ」
「あたしも、結構長生きしてるしね」
そう言って、椿と葵も司の近くに座る。
見れば、司の他にも奏がいた。
「司と奏の二人だけかしら?」
「ううん、緋雪ちゃんも一緒だよ。今は飲み物を取りに行ってるんだ」
「飲み物も創造したのね優輝は……」
「なんでもありになったよねー」
元々創造魔法は魔力と創造する物の構造さえしっかりとしていれば何でも創れた。
それでも、構造が複雑な物は時間も魔力も掛かっていたのだ。
だが、今ではこうして建物丸ごと創造という事も出来るようになっていた。
「それで、悩んでいる事は……あぁ、貴女達の弱点を突いて来る神の対策ね」
「そ、そこまで見抜いてるんだ……」
「貴女と奏、そして緋雪。三人共弱点を突かれて負けたんだもの。考えれば共通点から大体は予測がつくわよ」
「確かに……」
いくら“意志”を強く保っても弱点を突かれる事に変わりはない。
何かしら対策を練るか、開き直るかしなければ確実に“意志”を折られてしまう。
それを避けるために司達は考えていたのだ。
「緋雪ちゃんはもう克服したんだけど、私と奏ちゃんはね……」
「緋雪の場合は……あぁ、狂気ね。確かに、優輝を助ける時に完全に克服していたものね。……狂気を生み出すそもそもの恐怖心を克服したのよね?確か」
「うん。そうだよ」
返答したのは件の緋雪だ。
飲み物もちゃんと取ってきており、司と奏に渡す。
「二人はいいの?」
「私達はいいわ」
「そっか」
緋雪も座り、五人で一つのテーブルを囲む形になる。
「確か、司が負けたのは祈りの力を阻止してくる程に行動が“早い”神だったわね」
「奏ちゃんは攻撃を確実に“防ぐ”神で……」
「私は“狂気”だね。今は狂気を持っていないから、まともに戦えるけど」
司の場合は、攻撃までの僅かなタイムラグ。
奏はその攻撃の軽さを。
それぞれ弱点を突かれ、敗北していた。
「奏ちゃんは、一応対策があるんだけど……」
「……その場合は、分身も盾にされた」
奏は“溜め”さえあれば強力な攻撃が放てる。
しかし、その時間稼ぎに分身を使わなければならず、なしでは阻止される。
そして、例え放ててもその時は分身を使われて、防がれてしまう。
「どちらも“どこをどうすればいいか”までは分かっているんだよね」
「でも、その肝心の手段が思いつかないって訳ね……」
司の場合は祈りの力を使うタイムラグを無くす、またはそれ以外の攻撃手段。
奏の場合は敵の防御を貫通しうる且つ、分身の時間稼ぎを必要としない技。
対策の術自体は既に思いついているのだ。
だが、それらを実現するための手段が足りない。
「奏はまだ現実的に何とか出来そうだけど……」
「司ちゃんは、別の攻撃手段はともかくタイムラグを無くすっていうのは難しいね。元々、天巫女の力は“祈り”のプロセスが必要なんだし」
そう、いくら司が“祈り”を早く使っても確実に攻撃までタイムラグがある。
“祈り”という行動を挟む以上、どうしても遅くなるのだ。
そして、どれだけ攻撃までの時間を短くしても、手順として存在する以上、弱点を突いてきたその神は割り込んでくる。
「普通の魔法とかを使うにしても、決定打にはならないんだよね……」
「これは……なるほど、一手足りないのね」
「うん」
司にしても、奏にしても、どう対策すればいいのかは分かっているのだ。
だけど、決定打が足りず“手段”にならない。
「……奏の方はともかく、司は系統が違い過ぎて司自身が閃かない限り突破法が思いつかないわね……」
「……あ、そうだ司さん。祈梨さんには相談しなかったの?」
「祈梨さん?……あ、そっか、同じ天巫女なら……」
同じ天巫女兼、神界の神である祈梨。
彼女に聞けば何かアイデアの一つでもあるかもしれない。
「ちょっと、聞きに行ってくるね!」
「ええ。行ってらっしゃい」
「じゃあ、奏ちゃんは奏ちゃんで考えないとね」
司は立ち上がり、祈梨のいる場所へ向かっていった。
残った面々は、奏の弱点克服のため、もうしばらく話し合う事になった。
「祈梨さん」
「司さん、どうかしましたか?」
程なくして司は祈梨を見つけ、早速尋ねていた。
「―――それで、祈梨さんなら何か対策があるのかなって……」
「なるほど……確かに、そういった手合いの神は、私にとっても天敵です」
祈梨も基本的には司と変わらない。
同じ神を相手にすれば、悉く天巫女の力を阻止されるだろう。
「ですが、妨害に関する“性質”よりはマシと考えられます。“早い性質”であれば、その本質は飽くまで先手を取るだけ。……妨害が本質ではありません」
「先手を取られた上で、力を行使すれば……?」
「はい。対策自体は、それだけで十分です」
要は、先手を取られて攻撃されても“祈り”を止めなければいい。
完全なゴリ押しではあるが、“意志”一つで出来る事だ。
単純だからこそ思いつかなかったが、確かな対策だ。
「しかし、一つ問題が」
「え……?」
「先程も言った通り、先手を取る手合いならばいいですが、弱点を突いて来るのであれば、確実に妨害に関する“性質”の神も来るかと」
「それは……確かに」
前回はまだ弱点を突いてきたにしては緩いと祈梨は言う。
天巫女の力を封じるには、先手を取るよりも妨害する方が効果的だ。
先手を取るだけでも妨害になるが、やはり本質が妨害である方が強い。
そして、その“性質”で来られればそれこそ司の天敵となる。
「前回の場合は、攻撃に怯んだ事で妨害を受けていたようですが……妨害に関する“性質”だと話が変わります」
「……問答無用で、天巫女の力の発動が“妨害”さられる」
「はい」
実際は天巫女の力だけでなく、あらゆる攻撃が妨害されるだろう。
それがどれほど厄介なのか、司は口にせずとも理解出来た。
「でも、それって私どころか皆にとっても……」
「そうですね。予備動作のある動きは全て妨害される。そうなればほとんどの攻撃が発動できません。……ですが、こちらにとって弱点になるように、相手にも弱点はあります。いえ、厳密には、どの“性質”にも共通するのですが……」
「その弱点って……?」
「認識外の事象には“性質”が適用されない、という事です」
誰しも、全く意識していない場所や方法による干渉は反応出来ない。
それは神界の神も同じで、認識外からの干渉には事前に対処できないのだ。
「優輝さんがイリスの分霊に仕掛けた“無意識の隙”も同じです。認識外であれば、ほとんどの神は事前に対処できない……つまり、“妨害”はされません」
「ほとんど、っていう事は例外もあるんだよね?」
「当然です。それこそ、“無意識の性質”などは認識外からの干渉であろうと、無意識のまま対処してしまいます。尤も、そういった“性質”だと逆にゴリ押しのような攻撃も通じますけどね」
「相性の問題……」
「その通りです」
事実、祈梨が例に挙げた“無意識の性質”の場合、“妨害の性質”を完封出来る。
“性質”同士であれば、それほど相性の問題が顕著になる。
「要は相手に認識されないように攻撃手段を用意すれば、倒すことができます」
「認識されないように……か」
「その方法自体はいくつかありますが……」
「大丈夫。そこから先は自分で考えるよ」
光明が見えた。
そう思った司は、祈梨に礼を言って自室に戻る事にした。
敵に認識されないように攻撃手段を用意する。
そのために、司は色々策を練る事にしたのだ。
「………」
各々が、来る戦いのために戦術を練っている。
それを、優輝は通りすがりながら横目で見ていく。
「……ん?」
「あ」
途中、神夜と遭遇する。
誤解が解けているとはいえ、神夜は未だに優輝に対して苦手意識がある。
そのため、気まずい沈黙が二人の間を漂った。
「ぁ……と、何してたんだ?」
「皆の様子を見て回ってただけだ。……最後の戦いが近いからな」
「そうか……」
会話が続かない。その事でさらに気まずくなる神夜。
「……少し、話をしないか?」
「え?」
それを察してか、今度は優輝から声を掛けた。
近くの部屋に入り、対面する形で座る。
「神夜。お前が僕に対して苦手意識を持っている事は理解できるし、無理に直せとは言わない。そこに関してはお前に任せる」
「あ、ああ……」
飲み物を創造魔法で創り、神夜に渡しながら優輝は言う。
「聞きたいのは次の戦いについてだ。……今のお前は転生特典を奪われ、今は並の魔導師より少し強い程度でしかない。今までの経験からそれ以上の強さを発揮する事は出来るだろうが、神界での戦いにおいてはかなり厳しいぞ」
「……分かってる」
そう。今の神夜はかなり弱くなっている。
“意志”で先程の戦いは乗り越えたが、それでもギリギリだ。
意地で戦っていたにすぎないため、どうしても最終決戦にはついていけない。
「帝のように“可能性”を拓いたならともかく、このままではまずい。ソレラに特典を戻してもらう事も出来るが……」
「戻せるのか!?」
「授けた張本人だ。剥奪が出来るのなら、再度授ける事ぐらい可能だろう」
転生特典が戻ってくるかもしれないと、神夜は驚く。
しかし、優輝は“だが”と続ける。
「だからと言って、それで勝てるかはわからない」
「……なぜだ?」
「特典の力は、“可能性”を拓けない。ソレラの力を大きく超える事も出来ないし、飽くまで“特典”の枠に収まっているんだ。その力が借り物である限り、な」
「………」
神界で帝が見せた力も、飽くまでギルガメッシュとエミヤの力を際限なく使う事で出来ただけに過ぎない。
実際、二人に出来ない事まではその時は発揮出来ていなかった。
「借り物、か……」
「それで戦う事も止めはしない。どうあってもお前の選んだ選択だ。……お前が本当にしたい事のためにする最善手ならば、誰も止めはしないさ」
選択を委ねられ、神夜は一度自分の掌を見つめる。
今一度自身を振り返り、どうするべきか考えていた。
「話はそれだけだ。悪いな、時間を取らせて」
「いや……ありがとな」
「……礼なんていらないさ。元を辿れば、僕の責任でもあるからな」
“自分が原因だ”と優輝は言う。
かつての神夜なら、その事で優輝を責め立てただろう。
だが、今はその気にならなかった。
「(イリス……俺の性格を利用して、俺にあんな事をさせた元凶……)」
“その鬱憤をぶつけてやれ”と、帝に言われた。
“本当にしたい事ならば止めない”と、優輝に言われた。
自分に魅了なんて力を与えた元凶に仕返ししたいと、常々思っていた。
「ッ……!」
その想いは積もり、一つの“意志”となる。
元凶たるイリスに一発入れるため、何が何でもそこに辿り着くという“意志”に。
「……なんだ。これなら大丈夫だな」
その“可能性”の力を、部屋から立ち去った優輝も感じていた。
「“可能性”は満ちた。……こっちは、もう万端だぞ?」
戦いの前準備は終わった。
ここからが反撃だと、優輝は神界のどこかにいるであろうイリスに笑みを向けた。
後書き
という訳で8章最終話です。
次からはようやく最終章に入ります。
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