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クラディールに憑依しました

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責任を取りました

「………………納得行かないわ」
「――気持ちは解らなくも無いが、勝ちは勝ちだ、諦めろ」
「本当にアスナさんからは見えてなかったんですか?」
「………………えぇ、この人が踏み台にした片手剣と空中で出した両手剣に気を取られて――足元の罠には全く見えてなかったわ」
「ごめんねアスナ、もっと早く教えてあげれば…………」
「――――良いわ、わたしが気付かなかったのがいけないんだし」


 落ち込んでるアスナを他所に、地面に突き刺した片手剣を引っこ抜く。
 ……しかし、地面や壁に刺すのはOKで、掘ったり斬ったり壊したり出来ないのは微妙だな。


「お前がちゃんと睡眠をとってたら結果は変わって筈たぜ? きっとお前も予備の剣を全部出して『わたしの細剣は後五本も残ってるわ!』とか言ってさ。
 俺の剣も盾も――鎧の耐久度も全部削り取って高笑いしてただろうよ」
「しないわよ、そんな悪趣味な事」
「はいはい、それに、『今度はデュエル無しで圏内戦闘で二回戦』って言い出さない時点で、疲労は相当なもんだろ?」
「………………まぁ、とりあえず合格です、約束通り団長と相談してみるわ」
「では――よろしくお願いします『アスナ様』」


 …………時が止まった。


「あ、アスナ様? ――――ちょっと止めてよ!? 何!? 凄い気持ち悪い!!」
「これからはお仕事の上下関係だ、俺が勝ったんだ、仕事では狂信者を演じさせて貰うぜ――アスナ様」
「止めて!? 新手の嫌がらせ!? 何でそんな事するの!? 気持ち悪い!! 気持ち悪いよ!?」
「はいはい、お仕事お仕事、ギルドの連中の居ない所――このメンバーの前ではコレまで通りだ、出来るだけ大人しくして黙ってるから、そのつもりでな?」
「――――――――なんで!? 何でわたしは負けたりしたの!? こんなの嫌……絶対に嫌ーっ!!」

「喚くな、それ以上は何も要求しねーよ」
「――ふム? それなら上乗せを提案して良いかナ?」
「ん? 何かあんのか?」
「とりあえズ、部屋に戻ろうカ――此処でする話ではなイ」


 広場の片付けを終えて、リズベットの部屋に戻るとアルゴが要求を話し始めた。


「要求と言うのは他でもなイ、このシリカも血盟騎士団に入れてくレ」
「シリカちゃんを? どうして?」
「さっきの話に戻るガ、目撃者が複数居ると言っただロ? 一部にはバレていて第九層から言掛かりや、無茶な要求をしてくる者が増えてきタ」
「――――ふーん、殺されたい奴が居るみたいだな?」
「……お前がそんなんだからシリカが言い出せなかったんダ――周りを良く見てみロ」


 アルゴの言葉に周りを見回してみると――アスナ、シリカ、リズベットの顔が真っ青だ。
 ……あれ? さっきアスナとリズベットが驚いてたのはシリカの大声のせいじゃない? ――俺の表情のせい?


「心の奥底から出したらいけなイ、ドス黒い感情が表に出てるゾ――奥へ戻しておケ」
「………………SAOでは感情を隠し難いんだったな、気を付けよう」
「そうしてくレ――兎に角、このままではレベルを上げる前に厄介事がやってくル」
「それでウチに入団させて保護して欲しいと? 血盟騎士団は攻略組よ? シリカちゃん今レベルはいくつ?」
「二十です――やっぱり足りないですよね……これでも、がんばって上げた方なんです」

「信用できるギルドを紹介したらどうだ?」
「駄目ダ、まともな所は噂の種を受け入れる気は無いシ、他はあからさまに身体を要求してくる所ばかりダ――女性プレイヤーの少なさは致命的だヨ」
「ふむ、NPCへの身体接触は警告が出た後、衛兵がくるからなー、そう言うお店があったら儲かったろうに」

「……………………そうだナ」
「買わんぞ? 場所も聞かん」
「解ってル」


 やっぱり、有る所には有るか……倫理コードの事を知ってて、金になると解れば商売にしようって連中も出てくるだろう、いや、もう出て来たのか。


「――話を戻して良いかしら? シリカちゃんの事だけど、わたしの付き人という名目で団長に頼んでみるわ……それならボス戦に参加させられる事も無いでしょう」
「良いのか? ギルド内からも反発は出るだろ?」
「ギルドに所属している全員が戦闘員と言う訳でもないのよ、わたしも含めて普段はギルド運営のサポートをしてるわ、そっちを手伝って貰いましょう」
「一生懸命がんばります!」
「早速だけど団長の所へ行きましょうか、第十層でのギルドホームを探してる途中で無理を言って抜けて来たから……無責任な事しちゃったわ」
「そら悪かったな」
「まったくよ」


 こうして攻略ギルドの一つ、血盟騎士団のホームを尋ねる事になった。
 さてさて、団長様とのご対面だ。


 血盟騎士団団長室にて。


「ふむ、それではクラディール君がアスナ君の親友に誤解され、それを解く為にアスナ君を呼び出したという事かね?」
「はい、忙しい時期にとんだご迷惑をお掛けしました、俺の配慮が足りてませんでした」
「第八層での睡眠PKの話は私の耳にも聞き及んでいる、そこのシリカ君が謂れのない言掛かりを付けられていると言うのであれば――私も一肌脱ごうじゃないか」

「シリカちゃ――彼女の入団を認めて貰えるのですか?」
「あぁ、クラディールとシリカ君の入団を認めよう…………クラディールはアスナ君の護衛をシリカ君に関しては君達二人で見るように、それで構わないかね?」
「はい、ありがとうございます…………良かったわね、シリカちゃん」
「お世話になります――アスナさん、これからよろしくお願いします」


 アスナとシリカが喜んでいるが、俺としては団長様にいくつかの条件を飲んで貰わなきゃならないんだよな…………。


「さて、アスナ君、シリカ君、君達二人は退室してもらおうか、私はクラディールと少し話がある」 
「…………はい、わかりました失礼します――行こう、シリカちゃん」
「あ、はい、失礼しました」


 シリカがペコリと頭を下げて退出した後、団長と二人になった。


「それで、ご用件は何でしょうか?」
「君が何か話したそうにしていたからね、コレで良かったのだろう?」
「――えぇ、助かりました、できれば彼女達には知られたくない条件を許可して頂きたいのです」

「何かね?」
「シリカの扱いに関してですが、私がパワーレベリングをした後、中級者プレイヤーのPTに混ぜて、そこで知識の摺り合わせをさせる心算です。
 目ぼしいプレイヤーが居ればその引き抜きも兼ねて、その行動許可を頂けますか?」
「良いだろう、面白い試みだ――励みたまえ」

「そして最後に………………」


 この条件は絶対に許可を貰って置かないといけない、そして団長からの返事はOKだった。


「待たせたか?」
「特に待ってないわ、団長との話は終わったの?」
「あぁ、シリカの扱いに関して細かい所を詰めてきた」

「それで、どうだったの?」
「問題ないよ、団長様は太っ腹だ…………シリカはどうした?」
「今向こうの部屋でウチの服を選んでる所よ、そろそろ戻る筈だけど」


 向かいのドアが開くと、白のジャケットに赤いラインの入った――――血盟騎士団のユニフォームを着たシリカが現れた。


「ど、どうですか?」
「凄く似合ってるよ、シリカちゃん」
「ほ、ホントですか?」
「あぁ、良く似合ってる、アスナに妹ができたみたいだ」
「あ――ありがとうございます」


 シリカが血盟騎士団に入団した…………本来なら有り得ないこのズレが、この先どう変わって行くのか判らない。
 けど――出来るなら、少しでも多く、誰もが幸せなエンディングを迎えられたら…………まぁ、それは無理な話だけどな。 
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