クラディールに憑依しました
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入団試験を受けました
宿屋の裏にある広場に移動して、アスナとデュエルをする事になった。
見物客はアルゴ、シリカ、リズベットの三人のみ。
コレだけ客が少なければアレでも行けるかも知れないな。
「取り合えず、攻略組でやって行けるかどうかを見るので――勝敗はあまり関係ありません」
「……ふむ? 無理だと判断された場合は?」
「わたしやリズに近付くのを辞めて貰います」
「………………そうだな、その時は攻略は諦めて――モンスター狩りでもしてるよ」
「では、もし合格したら――血盟騎士団に入って攻略組のサポートをして下さい」
……すっかりお仕事モードと言うか、副団長モードだな。
「なんか使い潰されそうだな」
「――それはあなた次第です」
「……それならさ、もしも勝ったら――お前の護衛と言う名目で直属の部下って扱いにしてくれ」
「どうしてそんな事を?」
「良く知りもしない奴に、使い潰されるのは嫌なんだよ……だから勝てたら――お前の権限である程度の自由行動も認めてくれ」
「……わかりました、わたしに勝てたら団長と相談の上で扱いを決めたいと思います」
「よろしく頼むよ」
「では、始めましょうか」
俺の装備は片手剣と盾にした、そして普段は絶対に使わないマントを羽織る。
基本は盾でアスナの攻撃を凌いで――罠を仕掛けながら防御に専念する。
コレなら俺からアスナを追いかける必要が無い、追着けないならアスナの足を止めさせて攻めさせれば良い。
問題は俺が足場を固定したままで、どれだけアスナの攻撃を凌げるかだ。
「両手剣はどうしたんですか?」
「お前のリニアーに対応する為だよ」
「得意武器で勝負しないなんて随分と余裕ですね」
残念ながら俺の得意武器は両手剣じゃねーよ。
アスナからデュエルが申し込まれる初撃決着モード――つまり一撃、それも剣道で言う一本と同じ様な決定的な一撃を決めなければ勝ちにならない。
カウントがゼロになり、アスナが挨拶代わりに刺突を打ち込んでくる――やっぱり速いッ!!
俺は左手の盾で受け流し、お返しに逆手に持った片手剣を大きく振り回し、横薙ぎでアスナに当てる。
STRだけが馬鹿高い俺の一撃を、アスナは細剣の武器防御で対応してよろけた。
「前よりも攻撃力が上がってる!? ――けど、逆手持ちでそんな大振りじゃ当たる物も当たらない!!」
「どんな戦い方をしようが――俺の勝手だろうがッ!!」
普通に片手剣を使えば盾で防いだ後に素早い攻撃に移れる――だが俺は盾を前に出しアスナから一番遠い位置に片手剣を構えて……罠を張る。
そして気付いた事がある、さっきからアスナは細剣を弾かれる度に体の前に突き出す様に持って来る。
そう――フェンシングの様に。
まぁ、それならそれで好都合、アスナの太刀筋に目が慣れてくると――ガキンガキンと打ち合う音から、ギャリギャリと刃と刃が削り合う様な音に変えていく。
「え!? ……アレって!?」
リズベットが罠に気付いたか――アスナからは隠しても外から見れば丸見えだからな。
「――言っちゃ駄目ですよリズさん」
そこまで言われてアスナが何も確かめない筈が無い、攻める角度を変えたり、盾や片手剣に何か仕掛けが無いか調べるように、スピードを押さえて慎重に打ち合った。
時には俺の後ろに回り込もうとするが、罠を見せる訳には行かない、盾で視界を塞いだりシールドチャージで嫌がらせを続け、絶対に背中には回り込ませなかった。
「ふム……器用なものだナ、盾と身体で視線を誘導して隠していル」
「本当にアスナさんからは見えて無いんですか? さっきからメニュー開いてますよ? ブラインドタッチって言うんですよね?」
「言うなよッ!! お前等俺の事嫌いだろッ!! バラすなよ――勝たせろよ!!」
「アスナ、気をつけて!」
「……何をする心算かは知りませんが――そろそろ本気で行きますッ!!」
苛立ったアスナがソードスキルを発動させる――発動には特定のポーズを決める為……来るタイミングが非常に判り易い。
盾で逸らしてるが、それでも裁ききれない分が俺のHPを少しずつ削っていた。
「――何それッ!?」
アスナが見て驚いたのは俺のHPだ、十秒毎の自動回復が削られたHPを直ぐに満タンにしてしまう。
自動回復のレベルを上げるには、敵の攻撃を受け続けなくてはいけない。
俊敏を上げてない俺は結果として何度も敵の攻撃を食らうので――バトルヒーリングスキルが簡単に上がった。
「あなた、今のレベルいくつ!?」
「二十八」
「――わたしより二つも上!?」
「むしろ俺より低いお前に驚きだよ!?」
――ちょっと、いや、かなりおかしいぞ? アスナはキリトよりレベルは低いが――キリトが一目置くほど戦闘センスがあった筈。
現在第十層だからキリトはプラス二十で――レベル三十前後の筈……それが、アスナのレベルが俺よりも下?
「……お前今で何時間起きてる? 何日寝てない!?」
「――それこそ、わたしの勝手だわ……それに、さっきからソードスキルを打つ度に反撃してッ!! 団長みたいでやり辛いわ!」
「あんな完璧超人と一緒にするなッ!! あの人には色んな意味で怖くて近付けんわッ!!」
「あなた、絶対βテスト参加してたでしょ? ゲームに慣れてる人の動きよソレ」
「あぁ、参加してたよ楽しかったねッ!! 今この危機的状況が面白くて仕方ないくらいになッ!」
「間違いなくあいつと同じね、何で男ってみんな馬鹿なの――――目も良い、フェイクも含めて全部先読みしてるでしょ?」
「お前がフェンシングのルールを引き摺って動いてるせいだよ、眠いんだろ? ギリギリで身体を動かしてるんだ――おかげで読み易い」
「――なら、コレならどう?」
アスナが身体を低くして足首を狙って細剣を横薙ぎにする――それもかなり深い、不味い、罠がバレる……それならッ!!
「なッ!?」
俺は飛び上がらずに片手剣を地面に突き刺して、横薙ぎされる筈だったアスナの細剣を止めた。
もちろん自分の武器を地面に突き刺せば、次の行動が遅れるのは目に見えている、愚の骨頂である事は間違いない。
「アスナ待ってッ!! 耐久度よ、細剣の耐久度を見て!!」
「え?」
「言うなよッ!! もう一寸だったのに!」
アスナが俺から一度離れて細剣の状態を確認する、刃がボロボロで――耐久度が無くなって折れる寸前だった筈だ。
「片手剣よ! そいつ同じ片手剣を何本も持ってて――細剣の耐久度を削ってたのよ!」
――そう、俺はフェンシングに拘るアスナの細剣から大量の耐久度を削り取っていた。
アスナが罠を仕掛けられてないかと剣や盾を慎重に調べている時も、出来るだけ多くの耐久度を削る軌道で剣を振り続けた結果だ。
「――――『予備の剣は持っておけ、落としたり折られたり奪われた時が大変だぞ』……あなたの言葉だったわね」
「そう言えば、そう言う事も言ったな」
「えぇ、そうさせてもらうわ」
アスナがメニューを操作して新しい細剣を取り出す。
「コレが作戦だったの? 残念だったわね、あなたの言った言葉で破られるんだから」
「教えられた事を素直に実践してるお前が偉いんだよ、だが――勝ちを諦めた訳じゃない」
左手から盾を抜いてアスナに投げつける――そうすれば、アスナは盾を叩き落した後、ソードスキルでトドメを刺しに来るだろう――そこが狙い目だ。
「武器を変えるなら待ってあげます」
「――もう勝った心算か? 甘いんだよッ!!」
予定通り、アスナに盾を投げ付け――地面に刺した片手剣の位置を視界の端で確認する。
「悪足掻きにしても、お粗末ね――わたしをこの程度で止められると思ってるのかしら?」
不満そうな顔でアスナが盾を叩き落しソードスキルを発動させようとポーズを取った――今だッ!!
アスナのソードスキルが届く前に、地面に突き刺した片手剣の柄頭――グリップエンドを踏みつけて高く後方に飛んだ……アスナを罠に嵌める為に。
「くッ!?」
アスナのソードスキルは俺が立って居た位置で空振り、ソードスキル終了の硬直状態に入った――だが細剣のソードスキルは硬直が短い。
普通ならディレイ――ソードスキルの硬直が続いている振りをして相手の油断を誘う所だが。
好戦的なアスナの性格だ、俺が着地する前にソードスキルを発動させて追撃を仕掛けて来るだろう。
「さぁ、此処から逆転の時間だッ!!」
硬直中のアスナが罠に気付かない様に、大声を出して空中で堂々とメニューを開く、そして出来るだけ大きな両手剣を取り出した。
アスナの視線を確認するが、空中に居る俺に釘付けで――目の前の罠にはまったく気付いていない。
「アスナっ!! 駄目っ!!」
リズベットが叫ぶがもう遅い。
俺を追撃する事に集中しているアスナは、もう何も聞こえていない。
――ソードスキルの硬直が解けた瞬間――アスナのリニアーが発動したが、俺に届く事は無かった。
「!? 嘘っ!?」
アスナがソードスキルを発動した瞬間――片手剣に足を引っ掛けて倒れたのだ、アスナの両足には片手剣による無数の傷が刻まれ、立ち上がる事が出来ない。
俺が背に隠し続けていた罠それは――アスナの細剣の耐久度を削った片手剣合計六本。
アスナの死角でメニューを開き――馬鹿高いSTRで全て膝下の高さまで突き刺して気付くのを遅らせた。
普段は絶対に装備しないマントを着けたのもこの為だ。
「それがソードスキルや麻痺毒などの――システムサポートが入るBADステータス『転倒』だ、落とし穴に掛かった様な物だと思えば良い」
「――――卑怯者っ!!」
「最高の褒め言葉をありがとう、とても嬉しいよ?」
俺は座り込んで身動きが取れなくなったアスナに両手剣を振り下ろし――勝利した。
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