戦国異伝供書
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第九十八話 三本の矢その六
「厄介なことがある」
「大内殿が無事に安芸まで来られるか」
「そのことがじゃ」
「問題ですな」
「安芸まで来て頂ければ」
その時はというのだ。
「お助け出来るが」
「安芸まで来られればのことなので」
「周防、長門から出られぬならな」
「動けませぬな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「そこが問題じゃ」
「左様ですな」
「どうしてもな」
「忍の者を送りお助けしますか」
志道は鋭い目になって主に問うた。
「ここは」
「いや、そうしてもな」
「それでもですか」
「おそらく周防と長門は血を血で争う場になる」
「そこに忍の者を送ると」
「大内殿をお助けするどころかな」
それは出来ずにとだ、元就は苦い顔で話した。
「貴重な忍の者を失う」
「そうなるからですか」
「忍の者も送れぬ」
「では大内殿の運と逃げ方次第」
「それ次第のことじゃ」
元就が出来ることではないというのだ。
「残念じゃがな」
「そうなりますか」
「うむ、だからな」
それでというのだ。
「我等はな」
「ここは、ですな」
「見ておるだけじゃ」
そうするしかないというのだ。
「よいな」
「それでは」
「うむ、その様にしてな」
「待ちますな」
「そうする」
「それでは」
「待つぞ」
こう言ってだった、元就は。
今は兵達を安芸の国境に置いて義隆が来た時に備えた、そして程なくして陶は謀反を起こした。それでだった。
義隆は逃れようとした、だが。
元就はその話を聞いて苦い顔で述べた。
「致し方ない」
「左様ですな」
「逃れきれず腹を切られたとか」
「そうなってはですか」
「致し方ありませぬな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「大内殿のご冥福を祈ろう」
「そうするしかないですな」
「我等は」
「こうなっては」
「それしかないですな」
「うむ、しかしな」
それでもとだ、元就は家臣達にあらためて言った。
「これでじゃ」
「我等はですな」
「これからですな」
「陶殿に対してどうするか」
「それですな」
「大内殿から文を受取った」
元就はその文を出して述べた。
「仇を取ってくれとな」
「その様にですか」
「腹を切られる前に書かれたものですか」
「それを受取られたなら」
「それならばですな」
「大内殿はお助け出来なかったが」
そして確かな旗印は得られなかったがというのだ。
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