戦国異伝供書
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第九十八話 三本の矢その二
「天下もな」
「それもですか」
「望まぬことじゃ」
「山陽と山陰の十国ですか」
「それでよしとするのじゃ」
「今当家は五国の主です」
隆景は落ち着いた声で父に述べた。
「この安芸と備後、美作、備中にです」
「備前のな」
「合わせて百万国を超える」
「それだけの家になったな」
「そうしてですか」
「後はな」
残るはというのだ。
「石見とじゃ」
「周防、長門に」
元春も言ってきた。
「出雲と伯耆ですな」
「その十国でじゃ」
「よいですか」
「天下の六十六の国のうち十じゃ」
それだけの国々だというのだ。
「六分の一近くじゃ」
「そうなりますと」
「充分であろう」
「はい、そこまでになりますと」
隆元はその通りだと答えた。
「それは」
「かつての山名家に近いな」
「六分の一殿と呼ばれた」
天下の六十六の国のうち十一国の守護となったことからこう呼ばれた。
「それに近いならな」
「それで、ですか」
「よいとな」
その様にというのだ。
「わしは思っておる」
「そうなのですか」
「うむ、しかしな」
ここで元就は隆元を見て彼に問うた。
「お主としてはじゃな」
「周防と長門は」
この二国はとだ、隆元は父に微妙な顔で答えた。
「大内殿のお国なので」
「だからじゃな」
「あちらを攻めることは」
どうしてもというのだ。
「それがしとしてはです」
「頷けぬな」
「大内殿にはよくしてもらいました」
人質としてあちらにいた時にというのだ。
「何かと」
「学問を教えてもらってじゃな」
「その他にも何かと」
よくしてもらったというのだ。
「ですから」
「そうじゃな、しかしな」
「それでもですか」
「戦国の世じゃ、何かあればな」
「裏切りもですか」
「それもじゃ」
まさにというのだ。
「ならいであるからな」
「それで、ですか」
「周防と長門もな」
この二国もというのだ。
「手に入れるぞ」
「やがては」
「しかしわしも実は大内家は強く攻める気はない」
「当家の敵はあくまで、ですな」
「尼子家じゃ」
この家だというのだ。
「やはりな」
「それで、ですな」
「周防と長門はな」
この二国はというのだ。
「大内殿が大丈夫であればな」
「それで、ですか」
「よい」
そうだというのだ。
「これといってな」
「左様ですか」
隆元は元就の話を聞いてほっとした顔になった、そうしてそのうえで父に対してその顔で言うのだった。
「それは何よりです」
「うむ、それで尼子家はな」
「倒しますな」
「あの家には策を仕掛けらえたこともある」
「叔父上に謀反をですな」
「そそのかしもしてきた」
元就は眉を顰めさせて話した。
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