天才少女と元プロのおじさん
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中村希の憂鬱
6話 可愛い奴めー
先週集行われた中間試験の結果が返ってきた。最終的に確定した平均点や順位などが、自身の点数の纏められたプリントに記載されていた為、一部の者は喜びやホッとした様子を見せている。
正美はというと、赤点をとらなければ気にしない性質なので、受け取った結果はすぐ鞄に仕舞いスマートホンを弄っていた。
「正美さん、ヨミさん達のクラスへ行きませんか?」
休み時間、白菊が正美を誘う。白菊の横には稜も立っていた。
「うん、良いよー。すぐに片付けるから、ちょっと待ってて―」
正美は前の授業で使っていた教材をロッカーにしまうと、白菊と共に詠深達3人の教室へ向かった。
「正美さんは試験どうでした?」
「だいたい平均点前後だったよ。白菊ちゃんは?」
白菊は正美に聞き返されると、目に見えて落ち込む。
「現国と古文以外は赤点ギリギリでした……」
「へー、以外。白菊ちゃんはそつなく点数とるイメージだったよ。ま、得意科目があるなら良かったじゃん!」
「それだけが救いです……」
「稜ちゃんは……イメージ的では全教科赤点ギリギリだけど、どうだった?」
正美の言葉に稜は握り拳をワナワナさせた。
「……正美、私の事嫌いだろ?」
「そんなことないよー。弄りがいのある可愛い娘だよー」
正美は稜の頭に手を伸ばし、よしよしと頭を撫でる
「嬉しくねぇ!」
それを受け、稜は抗議の声を上げるも、その手は振り払わない。こんな風に弄られはするが、稜も正美の事が決して嫌いではないのだ。
目的地は同じ1年の教室なので、すぐ到着する。詠深達3人の教室の前で希が浮かない顔をして立っていた。
「……ねぇ、白菊ちゃん」
正美は野球部のみんなを下の名前で呼ぶようになっていた。白菊ちゃんと打ち合わせをした正美は希に気付かれぬよう、ゆっくりと希の背後に迫る。
次の瞬間、希の視界は暗転する。第三者の手に目を覆われたのだ。
「だーれだー?」
「ひゃ、正美ちゃん?」
目から手が離れ、希が振り返ると、そこには笑みを浮かべる白菊がいた。
「残念、白菊ちゃんでしたー!」
「……まったく、なにしよーと?」
白菊の後からひょこりとにへら顔を覗かせた正美に、希は呆れるように二人に尋ねる。
「それはこっちの台詞だよー。アンニュイな雰囲気を漂わせてさー」
「何かお悩みですか?」
白菊が心配そうに言うが。
「何でんなかよ。それじゃあ、うちは戻るね」
希は踵を返し、歩き出した。
「中へは入らないのか?」
「うん。次ん準備があるけん」
稜が希に聞くが、希は行ってしまう。
希を見送った3人は教室へ入ると、詠深、芳乃、伊吹が固まって話をしていた。詠深と芳乃は机に突っ伏してとろけている。
「よーヨミ!中間どうだった?」
凄くいい笑顔で稜が言う。詠深は自分と同じ仲間だと思っているのだ。
「ふっふっふ。来ると思ってたよ……じゃーん」
詠深は中間テストの点数を広げて稜に見せつける。学年401人中29位。現国の68点が最低点で、ほとんどの科目が高水準。数Ⅰと世界史に至っては100点満点である。
「ウソだろ?……仲間だと思ってたのに……」
稜は紙を受け取ると、涙目になった。
「文武両道……尊敬します」
横から詠深の点数を覗いた白菊も溢れる涙を抑えきれない。裏切られた……。2人の表情がそう物語っていた。
「稜ちゃん……まさか赤点取ってないよね?」
「そ……それは大丈夫……」
じーっと稜の目を見つめて問い詰める芳乃に、稜は思わず顔を逸らす。
「芳乃ちゃーん……無表情怖いよー……」
感情の無い芳乃の表情に、正美すらも若干引いていた。
稜の言葉に芳乃は安心したように笑顔になる。
「な~んだ。稜ちゃんが大丈夫ならみんな大丈夫だね」
「おーいそれどういう意味ですか?正美と言い、芳乃と言い方……」
自分の成績が決して良くない自覚のある稜は強く出れない。
「あはっ。可愛い奴めー」
正美は再び稜の頭に手を伸ばし、よしよしと頭を撫でた。
「嬉しくねぇ!」
稜もまた、抗議の声を上げるのだった。
「ところで、何を話してたの?
「それが、全然勝てないなぁって。これ、練習試合の結果なんだけど……」
正美の問いに、芳乃は詠深の机の上を指さす。詠深の机には複数のスコアが表示されたスマートホンが置かれていた。
「あー……」
稜は納得いったような反応を見せる。
「しかしよく試合受けてくれるよな。ほとんど1年のチーム相手にさ」
「監督が頑張ってくれてるし。それと……負けてるとはいえ格上相手にいい試合してるからね」
稜の疑問に芳乃が答える。
「でもまぁ、私は楽しいよ。1年からいっぱい試合に出れてさ!」
な、白菊に同意を求める稜であった。
「同感だけど勝ちたいよ、やっぱ」
詠深はまたとろけてそう言う。
「え?うちまだ1回も勝ってないの!?」
合宿後に入部した為、新越谷でまだ試合をしていなかった正美は驚愕の事実を知る。
「実はそうなんだ~」
芳乃は正美にスマートホンを渡した。
「ヨミちゃんやタマちゃんに希ちゃんがいるのにどうして······あー······」
試合相手を見て、正美は納得する。スマートホンには、名門校やそこそこ名の知れた学校が並んでいた。
「てか、こんな所と練習試合を取り付ける先生って何者······」
「なんか、うちが埼玉4強時代の頃のOGらしいよ」
正美の疑問に稜が答える。
「いやいや、埼玉4強どころじゃないでしょー、これ。他県の代表校とかあるじゃん!?」
正美が突っ込むが、詠深はまあまあと宥めた。
「おかげでこんなに試合できるんだから。ありがたやありがたや~」
後書き
本作品を書き始めてから稜ちゃんが凄く可愛いです。
……何か後書で書こうと思っていたのですが、何だったかしら?
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