魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga8結界王は夢を見るか~Dream of Alice~
†††Sideルシリオン†††
失態を重ねている俺たち特務零課は、次の護衛目的である魔力結晶を“T.C.”から護るために行動を開始。第25管理外世界ヴォルキスへと向かうために零課の専用艦船“シャーリーン”に乗り込んだ。
「ヴォルキスまで3日かぁ。この移動が面倒なんだよね~」
「さすがに3日もあれば、T.C.も15番から22番の管理外世界で好き勝手できるよな」
「だよね。サクサクっとトランスポートで移動できればいいんだけど、あっちは管理外世界だから無理だし」
ブリッジの艦長席に座るシャルが頬杖をついて嘆息。標的がある場所が管理外世界に移っただけで“T.C.”に後れを取る可能性が非常に高くなる現状は、圧倒的な不利を俺たちにもたらしていた。
「転送魔法や転移スキルでの異世界間移動は基本的に違法だから、俺たちが使うわけにはいかないしな。始末書を処理するだけで何ヵ月かかることやら」
「あはは。こういう時は融通の利く上司が居てくれるといいんだけどね~」
シャルと他愛無い話をした後は、スタッフそれぞれに用意されている自室に戻る。ブリッジから出る際にシャルから、もっと一緒に居ようよ~、と袖を引かれたが、副官補佐のルミナとの交代時間が来たからジャケットを脱いで脱出してきた。
「あ、お疲れ様、ルシル」
「お疲れ様、セラティナ」
自室に続く通路を歩いていると、零課の後衛の1人であるセラティナとバッタリ。セラティナとは特別技能捜査課からの付き合いだが、彼女の魂である前世アリスとの付き合いはさらに長く、この世界で言えば6千年以上前、俺の時間感覚から言えば2万年近い。イリスのように前世の記憶を持っているわけじゃないが、それでも魔術師としての才は健在で、アリスの術式を魔法として扱えている。覚醒すれば普通に魔術師化できるだろう。
「珍しい。ジャケットはどうしたの?」
「シャルに取られた。今頃は俺のジャケットを羽織ってるかもしれない」
「ふふ♪ シャルって本当にルシルのことが好きなんだね。はやてのことや騎士トリシュタンのこともあって大変だと思うけど、泣かすようなことはしちゃだめだよ、男の子?」
「これでも努力はしているよ。ただ、それが上手くいくとは断言できないけど」
「そっか~。私はちょっと恋愛は判らないから相談には乗れないけど、そこは頑張ってとだけ言っておこう」
「ああ、頑張らせてもらうよ。最後の最後までね。・・・じゃあ俺はそろそろ行くよ」
「うん。ごめんね、引き止めちゃって」
「いや。こういう何気ないやり取りが、俺には宝物のようなものだから」
あとは失っていくしかない俺には、日々の生活が本当に眩しい思い出となる。リアンシェルトとの再戦でどれだけ失うのか、ガーデンベルグとの戦いですべてを失うか、それはその時になってからじゃないと判らない。今は願うしかない。少しでも思い出が残った状態で終戦を迎えたい、と。
「嬉しいことを言ってくれるね♪」
本当に嬉しそうに満面の笑顔を浮かべてくれたセラティナに、じゃ、と軽く手を挙げて去ろうとしたんだが、「ごめん。ちょっと時間くれない?」と呼び止められた。迷いが見える声色だったため、俺は「ん?」振り返った。
「えっと、笑わないで聞いてほしいんだけど。夢・・・の話で」
「流石の俺も夢占いは門外漢だぞ」
「ちーがーう。・・・アリスという名前に心当たりは?ある」
セラティナの口からその名前が出てドキッとした。俺の様子から知っているのだと判断したらしい彼女は「知ってるということは、ただの夢じゃないということか」と唸った。
「なら、シエルとカノンという名前にも・・・心当たりはあるみたいだね」
当たり前だ。シエルは俺の実妹の名前だし、カノンは愛弟子の名前だ。アリスという名前がセラティナの口から出て動揺したところにあの2人の名前を出されたら、いくら俺でも何も言えなくなってしまう。無言は肯定とよく聞くが、まさに今の俺の状況だった。
「夢の中だということもあって顔の輪郭は朧げだったけど、シエルの特徴はハッキリ思い出せる。銀髪に紅と蒼の虹彩異色。明らかにルシルの縁者でしょ? カノンは金色の髪がとても綺麗だったのは覚えてる」
(アリスの記憶を与えるのはさすがに・・・)
結界魔術の天才と噂されていたアリスは、その噂を耳にしたヨツンヘイム連合に拉致された。そして薬漬けにされて、俺たちアースガルド同盟との戦いを強いられていた。それだけでも十分辛い記憶だ。
さらにアリスの記憶には“アンスール”との時間という思い出もある。彼女が“アンスール”を脱退した理由は、メンバーが続々と戦死したことで精神をすり減らしたことにある。無理に笑顔でいようと振舞っているのが見ていられなくなり、生き残りの俺たちが相談して、アリスの記憶を消去してミッドガルドの騎士団に預けた。
彼女とはそれっきりだ。だからセラティナという子孫が存在することに驚きもあったし、アリスが普通に女性として幸せを掴んでいたことに嬉しさもあった。そんなアリスの記憶を、セラティナに与えてもいいのだろうか・・・。
「・・・ルシル。もしこれが夢じゃなくて前世の記憶というものなら・・・教えてほしい。アリスは、私と関係のある人間なの?」
真剣な表情のセラティナに俺は「判った」と頷くしかなかった。とりあえず通路のど真ん中でするような話じゃないため、「場所を移そう」と提案して、俺の部屋へと向かう。徐々に俺の部屋に近付くにつれて後ろを付いてくるセラティナがソワソワしだすのが判った。そしてとうとう目の前に来た時・・・。
「シャルやはやて、それに騎士トリシュタンから際どいアプローチを受けても手を出さないルシルだからこそ・・・変な気を起こさないって信じるからね?」
「ソワソワしていた理由それか!? 信じるからね?と確認している時点で疑っていると思うんだが! ・・・俺に襲われるかもしれないと疑われていたと知ってショックなんだが・・・」
いくらこの世界では俺よりセラティナの方が年上だと言ってもアリスと瓜二つである以上、彼女に欲情することなんて世界が滅んでもあり得ない。なんというか妹みたいな感じだ、うん。そう思っていたからこそ、そんな風に少しでも思われていたのはショックだった。
「あ、ごめん、なんかいろいろと緊張しちゃってて。自分に対して冗談を言って、気持ちを落ち着かせようって考えだったんだけど。別の冗談にしておくべきだってね・・・」
「あー、いいよ。あと、もし今の冗談に少しでも本音が混ざっていたなら、俺はこう返す。安心してくれ」
ドア横のパネルに触れて開けると、「おかえりー!」とアイリが元気な声で出迎えてくれた。元よりセラティナとは2人きりになることはないわけだ。俺が言った、安心してくれ、という言葉がどういう意味だったのかを察したセラティナは「確かに!」と笑った。
「――で、問題のアリスという名前についてだが」
アイリが淹れてくれたお茶で喉を潤してから、お茶を注いでくれたアイリに「ありがとう♪」と礼を言っているセラティナを見る。
「アリス・ロードスターという魔術師は、確かに実在した。俺のオリジナルである初代、シャルの前世であるシャルロッテ・フライハイトと同時代を生きていた。そして初代とは同じ組織に身を置く仲間だった」
「やっぱり」
「シエルは初代の妹で、カノンは同組織の仲間の名前だな。結論。セラティナが見たのはタダの夢じゃなく前世の記憶だ。・・・いつからアリスの記憶を見るようになったんだ?」
「確か・・・2年ほど前から妙な夢を見るな~程度で、名前と声がハッキリと判るようになったのは半年かな。最初は自分の目線は誰なのか、遊んでいる2人は誰なのか判らなかったし、口は動いてるけど声は無くて、顔の輪郭もモヤモヤしていて全然判らなくて、自分の体も勝手に動くから気味悪いし怖かった。だけど私目線の子と2人が一緒に過ごす時間が本当に楽しくて。いつの間にか夜寝るのが楽しみで仕方なくなってた」
「そうか・・・」
ヨツンヘイム連合との1000年に亙る戦争は、“ラグナロク“という災害で勝者なんてものは無い形で終結した。それから堕天使戦争が始まるまでの数年は、復興で忙しかったが平和で楽しかった。セラティナが見た記憶はおそらくその時期だろう。フノスが病死した時は沈んだ時期が少しあったが、フノスが自分の死で空気が悪くなるのは望まないと生前に話していたから、俺たちはいつまでも悲しみに沈まないようにしていた。
「で、顔や姿はつい最近。嬉しかったよ。ようやく全体像が判って、3人の掛け合いとかいろいろが面白くて、毎晩の楽しみになってる」
「(毎晩・・・頻度が高いな)そうか。もし・・・嫌な記憶を見るようになったら言ってくれ。どうにかして処置する」
「うーん、たとえば?」
「記憶を消す術式を持っている。複製術式の中にあ――」
――■■■■――
「なんだ・・・?」
「「ルシル?」」
アイリとセラティナが俺の顔を覗き込んできた。俺は「いや。なにか声がしたような・・・」と左手で頭を触れる。
――お前■■■■■■■■だ――
(なんだ、この声は・・・)
判らない。判らないが、「なんでもない。複製は使えないんだったよ。別の方法で対処する」と伝える。セラティナは「そうなの? 使えないって、不調?」と聞いてきたため、「そんなところだ」と首肯した。
(そうだ、俺は複製術式を使えないんだった・・・)
「ふーん。・・・でも、記憶は消さないでほしい。とても大事なものだと解かるから・・・」
「そうか」
「あのね、よかったらアリスのこと、もっと教えてくれない? もちろん記憶のこととかじゃなくてアリス自身のことを」
期待に満ちるセラティナの瞳に、俺は「じゃあ――」と、アリスの基本的な情報を伝えた。当時は珍しかった結界術式に優れた魔術師であったこと。それゆえに結界王と称されていたこと。シエルとカノン、さらに“戦天使ヴァルキリー”の年少組とはとても仲が良かったこと等々。
「・・・今日はありがとう、ルシル。おかげでスッキリ出来たんだけど・・・。ルシルは初代の記憶も持ってるということは、アリスと過ごした記憶もあるんだよね?」
セラティナの言葉に、俺の脳裏に次々と浮かんでくるアリスと思い出。セラティナは椅子から立ち上がろうとしていたが再び座り直した。
「嫌な思い出って、やっぱり辛かったり悲しかったりするやつ・・・?」
「ああ。俺でも思い返しただけで胸が張り裂けそうだ。アリスが組織を辞めたのは彼女の精神が仲間の死ですり減っていたからだ。アリスの憔悴しきった様子に、初代たちが彼女を可哀相に思って記憶を消したくらいだ」
「えっ、消したの!? アリスの記憶を!?」
「ああ。ヨツンヘイム連合に拉致された頃からアンスール壊滅までの記憶すべてを。もちろん、失った分の期間の記憶を補填することも忘れていない」
そこまで言ったところで俺とセラティナは「え?」と漏らした。自然と話していたが今のセラティナが消えているはずのアリスの記憶を見ることなど、俺が与えない限りは不可能だ。ドッと嫌な汗が全身から噴き出すのを自覚する。あり得ないことが今セラティナの身に起きている。
「ルシル、大丈夫? 顔色が悪いよ・・・」
「大丈夫、大丈夫だ。・・・セラティナ、なにか、何か他に見ていないか? 夢の中で気になったことは?」
「え? え? えー・・・うーん・・・、もう1人、子供が一緒に居るんだけど、顔も声も服装とかも判らないんだよ。アリス達と同じ背丈くらいだから十代半ばから後半くらい?」
「(となると、ヴァルキリー年少組は除外か。シエル達と年少組は特に仲が良かったが、年少組は10代前半以下の身体だからな)それ以外には?」
「それ以外は・・・思い当たるものは見てない・・・はず?」
「むぅ、そうか。・・・ところで、前々から気になっていたことを、この機会に聞きたいんだが・・・いつからサンダルフォンの聖域を始めとした術式名と術式効果を知ったんだ? いつ頃? どこで? 記憶を見始めたのは2年前だと言うし・・・」
「うーん、そうだな~・・・物心ついた頃には頭の中に魔法式が頭があって、名前も深く考えることなく浮かび上がってきたから、迷うことなくそのまま採用したの」
「その頃から兆しはあったんだな」
そもそも初めてセラティナと出会った時、彼女が一方通行の聖域を使った時点で気付くべきだったんだが、アリスの生まれ変わりという状況にそこまで気が回らなかった。その後もセラティナの存在が嬉しくて、疑問が頭から吹っ飛んでいた。いやまぁ、アリスの生まれ変わりなのだから記憶は無くても覚えているものはある、かもしれない・・・。
(なんかもう、混乱してきた)・・・じゃあ今後、なにか妙な記憶を見たら教えてほしい」
普通ならあり得ない事が起きている以上、何かしらの前兆かも知れない。堕天使戦争も終盤だというのに“アンスール”時代の問題がここで発生なんて、勘弁してほしい大問題だぞ。セラティナとアリスの記憶の問題を解決しないまま、堕天使戦争を勝ち抜いて“界律の守護神テスタメント”から解放されていいわけがない。
「わ、判った、うん」
そうしてセラティナは俺の部屋を後にした。残された俺はアイリに「お代わり貰えるか?」とコップを軽く持ち上げる。アイリは「ヤー♪」と嬉しそうに返事をして、手に取ったティーポットを傾けてお茶を注いでくれた。そのお茶を飲み、「勘弁してほしいな、本当に・・・」と嘆息した。
†††Sideルシリオン⇒セラティナ†††
2年ほど前から何度か見ていた夢の正体も、ルシルのおかげで無事に解決。夢の中での私の体は、私のご先祖様であり前世でもあるアリス・ロードスター。彼女は結界王と謳われていたみたいで、私は知らない間にアリスの結界術式と同じ効果の魔法と名前を使っていたみたい。それがなんだか嬉しい。
(シエルとカノンと一緒にいる4人目、今日こそ顔や名前、あと声もハッキリさせたいな~)
食堂で夕ご飯を食べて、大浴場でシャル達と、目的地まで遠いね~、って愚痴り大会を開いた後は、丸1日待機指示の明日に備えて就寝。ベッドに入って、「今日も良い夢を見られますように」習慣化した言葉を口にしてから目を閉じる。意識が眠りに沈み込んでいく感覚を得た。
「・・・ス・・・」
「ア・・・」
真っ暗闇の中、女の子2人の声が聞こえ始めた。もうこれが夢――記憶の中だってことを察する。いつも通りのことだ。アリスの記憶の中で、セラティナっていう自分を自覚できる。明晰夢って言うのかな。思い通りには動けないけど、シエルとカノン達とのやり取りは好きだから問題ない。しかも寝てから起きるまでの間、ずっと記憶を見ていたのにキッチリ休眠は取れて気分爽快。
「ほら、アリス。ソールスネスの街まで遠出するから、今日は早く出るよ」
「あ、うんっ」
「それではこれより、カノン、シエル、アリスの戦場の妖精隊は、本日の任務であるソールスネスの街の警備に入ります」
カノンがルシリオン(さすがオリジナル。身長以外が現代のルシルと全く同じ)にそう言った。ルシリオンは「ああ。気を付けて任務にあたってほしい」と返すと、彼の背後に控えていた大きな8本脚の馬の首筋を撫でた。
「兄様、スレイプニルを借りても本当にいいの?」
「もちろんだ。ソールスネスはグラズヘイムの極南だからな。飛翔術式でも半日以上かかるが、スレイプニルなら1時間もしないで到着するだろう。そんな場所にお前たちを送るのは気が引けるが・・・。すまないな、私たちも手が足りなくてな」
「いいえ。頼りにしてもらって嬉しいです」
「アリスの言う通りですよ、ルシル様」
「そうそう♪」
アリス達の居るこの世界は戦争で大きな被害を受けたらしく、今は復興の最中みたい。ルシリオンたち大人はライフラインの再生や建造物の再建を受け持ち、私たちは凶暴化して人や家畜を襲い、田畑を荒らす動物の駆除を受け持っていた。
「・・・ありがとう、シエル、カノン、アリス」
ルシリオンが見守ってくれている中でアリス達は「よろしくね」ってスレイプニルの首筋を撫でる。そしてスレイプニルに繋がれた4輪馬車に乗り込んで、クッションの敷かれたソファに座る。
「あれ? 兄様、コレらはまさか・・・」
「ああ、そっちの箱は今日の昼の弁当。そっちは夜の弁当。そっちは明日の朝の弁当。腐らないように封印処理してあるから、食べる時までフタは開けないように。一度フタを開けると解除されるからな」
「ありがとー、兄様!」
「「ありがとうございます!」」
魔法・・・じゃなくて魔術でわざわざ弁当箱の中身が悪くならないようにするなんて。すごい贅沢な使い方だな~って思った。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「「「いってきます!」」」
窓から手を振りながら挨拶をしたと同時、スレイプニルが一鳴き。最初はゆっくりと、次第にスピードが上がって、最後はとんでもない速度を出して、窓の外の景色がものすごい勢いで流れてく。それなのに馬車は全く揺れないから快適さは保たれたまま。
(私の飛行魔法のスピード程度じゃ見られない次元だ・・・)
私がそんなどうでもいいようなことを考えていると、シエルがジャケットのポケットから幾重にも折られた紙を取り出して、「じゃあ、おさらいしておこうっか」って広げた。それは地図だった。
「ソールスネスの街から届いた支援要請状には、猪と狼が凶暴化しているから助けてほしい、って書いてあったわけだけど。ソールスネス近くの森グリパルンドに棲息してる狼も猪も繁殖期じゃないから、家畜や田畑を襲うような真似がまずしないはずだし、人を襲うなんて聞いたこともないの」
「やはりラグナロクの影響でしょうね。生態系の変化が顕著のようですし」
右手であごに触れて唸るカノンに続いてアリスが「魔族も変異したようだし、普通の動物なら猶更だよね」って背もたれに体重を預けて溜息。“ラグナロク”っていうのは何なのか判らないけど、生態系が変異する災害なんて考えたくもないかも・・・。
「ラグナロクの所為でグラズヘイムもギムレーも野生動物が全滅寸前まで行ってるから、出来るだけ殺さずに済ませたいの」
「ではシエルの重力とアリスの結界の連携ですか」
「そっ。第1作戦はそのつもり! 頑張ろうね、アリス!」
「が、頑張るっ!」
それから目的に着くまで作戦を話し合うアリス達の声を聴いた私は、アリスの結界魔術を見ることが出来るかもしれないって興奮した。
「くぅー! 1時間ちょっとと言っても、さすがに座りっぱなしは辛いな~」
「クッションがあっても、ですね」
「伸びをするとあちこちから音がする」
馬車から降りると同時に伸びをしてパキパキと体を鳴らして、3人で笑い合う様子にホッコリする。ソールスネスの街の代表に挨拶しに行こうとしたところ、獣の遠吠えがどこからともなく聞こえてきた。
「挨拶は後みたいだね」
「ええ、そのようです」
シエルとカノンの表情がキリッと凛々しくなった。シエルは両腕に籠手を装着して、カノンは黄金の拳銃を2挺と携えた。アリスは特に装備は無いみたい。
「アリス、念のためにアレお願い!」
「判った!」
シエルのお願いの内容を察したアリスは、「無間防衛の聖域!」って結界魔術を展開した。決して狭くないソールスネスの街や田畑や放牧場、そのすべてを覆うほどの超広域結界。初めて見たのに、どうすれば魔法として発動できるかの構築式が頭の中に浮かんだ。やっぱり私はアリスの生まれ変わりで間違いないみたい。
「圧戒!」
ギンッと鈍い音がすると、森から飛び出してきた数十頭の狼の内、半数ほどが強制的に伏せさせられた。あれがシエルの重力魔術なんだ。
「ああ!! 半分も逃しちゃった!」
「わたしがフォローします!」
両手の銃から魔力弾を連射して、なおも突っ込んで来る残りの狼の行く手に着弾させた。それで狼たちは僅かに後退。でも重力の領域には入らなかった。
「陣取り城塞!」
横に長い壁のような結界を展開して、狼たちの進行を止めさせたアリス。その壁は少しずつ前に進み始めて、壁に向かって吠えたり引っ掻いたりしてる狼たちを徐々に重力の領域に押し返した。シエルが「重力を解除するから、警戒そのまま!」って指示を出す。
「「了解!」」
重力によって伏せられていた狼たちも壁に向かって体当たりをし始めたけど、壁は破られることなく森の入り口にまで進んで、狼たちを完全に森の中に閉じ込めた。
「今だ! 無間防衛の聖域!」
アリスは今度は森全体を覆う結界を展開して狼を隔離。一先ずは狼の進行は止めることが出来たみたいだ。でもこれで終わりじゃない。結界をこのまま維持するなんて、アリスでも出来ないはずだし。そんなことを考えてると、いつもの顔も声も姿をハッキリしない4人目が現れていたことに気付いた。
(あれ? 何だろう、今回は・・・服がなんとなく判る。・・・桃色の外套と神父服・・・?)
ということは、女の子なんだと思う。神父服は女性が着るものじゃないけど、さすがに桃色ばかりとなれば男性じゃない・・・はず。その子はアリス達の元に近寄ってきて、アリスに向かってこう言った。
「彼の力になってあげて。新たなる結界王、セラティナ・ロードスター」
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