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戦国異伝供書

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第九十七話 井上一族その九

 また飲んだ、そこでまた言うのだった。
「より楽しもう、それとじゃ」
「それと?」
「それとといいますと」
「肴に餅もあるが」 
 見ればそれもある、焼いたそれも見つつ言うのだった。
「何時食べてもよいのう」
「そういえば殿は餅がお好きですな」
「前から」
「左様でしたな」
「うむ、大好きでな」
 それでとだ、肴のそれも飲みつつさらに話した。
「民達の褒美にしておるが」
「今もですな」
「肴もですな」
「そちらもですな」
「お好きですな」
「そうじゃ」
 まさにと言いつつ餅を食いさらに言う。
「だからこの場にあるのもよい」
「左様ですな」
「ではまた飲まれる時があれば」
「餅もですな」
「肴にですな」
「欲しい、しかし飲むのはたまでよい」
 やはりこう言うのだった。
「毛利家は酒毒に祟られてきた家であるからな」
「古来より酒は毒とも言われてきていますな」
「薬にもなりますが」
「過ぎれば毒になる」
「よくそうも言われていますな」
「うむ、そして当家は酒を過ぎてきてな」
 そしてというのだ。
「そのうえでな」
「毒になってきた」
「だからこそ慎まれ」
「そうしてですな」
「わしも殆ど飲まぬ様にしておる」
 まさにごくたまにというのだ。
「その様にしておる」
「ですな」
「ではですな」
「今は飲まれても」
「また、ですな」
「飲まない様にする」
 再びそうするというのだ。
「わしはな」
「普段は飲まれず」
「そしてですな」
「そのうえで、ですな」
「こうした時にはですな」
「飲まれますな」
「その様にする、いつもこうして飲むとな」 
 深酒をすると、というのだ。
「身体を壊してしまうからな」
「慎まれますな」
「普段は」
「そうされますな」
「その様にする、では今はそのたまにであるからな」
 それでとだ、こう言ってだった。
 元就はまた飲んだ、この夜彼はかなり飲んでだった。
 本丸の自分達の間に戻ってそして妻に言った。
「いや、久し振りにな」
「飲まれてですね」
「いい気分じゃ、しかしな」
「今日はごく稀のですね」
「飲む時でじゃ」
 それでというのだ。
「またな」
「お酒を控えられますね」
「どうしてもな」
 それはというのだ。
「酒は普段はな」
「控えられますね」
「うむ、やはり毛利家にとって酒はよくないものだ」
「お父上と兄上のことを思うと」
「父上も兄上もお好きであった」
 その酒がというのだ。 
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