レーヴァティン
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第百六十四話 幕臣その九
「牢に入れられた者は数多い」
「信じられないですね」
「そうだな、だがこの世界ではそこまででなく」
それでというのだ。
「俺もだ」
「禁じられることはですね」
「しない、元々この浮島はそちらには寛容な様だしな」
同性愛、それにはというのだ。
「だからな」
「いいですか」
「そうだ、これを法で禁じるなぞ」
「絶対にですね」
「しない、むしろ何故罪か」
同性愛がそれになるか、というのだ。
「俺には理解出来ない」
「確かに。私もです」
お静もこう述べた、尚今お静は公には北政所と呼ばれる様になっている。英雄の正室であるからそう呼ばれているのだ。
「そのことは」
「そうだな」
「その人の趣味で」
それでというのだ。
「法に触れることはです」
「何もないな」
「教えにも」
「少なくとも仏教や神道ではそうだな」
「左様ですね」
「それは西の浮島でもだ」
そちらでもというのだ。
「ギリシアの神々の教えではいいのだ」
「そちらの教えでは」
「そうだ、そちらではな」
「同性であってもですか」
「愛があってもいいが」
しかしというのだ。
「耶蘇教ではな」
「よくないとされていますか」
「この世界の耶蘇教でも好ましくないとされているが」
「旦那様の起きた世界では」
「かつては絶対のことでだ」
何があっても許されないことでというのだ。
「若し行えばな」
「死罪もですか」
「あった」
「そうでしたか」
「だがそれはな」
「旦那様としてはですね」
「絶対に許されないこととはな」
到底というのだ。
「思えない」
「あくまでその人の趣味ですね」
「それだけのことでな」
「罪に問うことはないですね」
「それ自体ではな」
こう言うのだった。
「幕府の誰も罪になるとはな」
「思っていないですね」
「むしろ耶蘇教の、起きた世界でのそのことを俺から聞いてだ」
英雄は実際に幕臣達の話した時のことを思い出しつつお静に話した、その話を聞いて時の彼等の顔は忘れられない。
「誰もが信じられないという顔になった」
「そうでしたか」
「この浮島の誰もがだ」
「そうは思えないので」
「罪には問わない」
「そう定めることもないですね」
「全くな、これを許さないと言う者にも何もしないが」
それでもというのだ。
「法で定めろと言うならな」
「旦那様は受けられないですね」
「そのつもりはない」
一切、そうした言葉だった。
「俺に決定権がある」
「将軍であられるので」
「それはしない」
全く、というのだ。
「認めることはしない」
「それを法とすることは」
「一切な、しかし思うことは」
「そのことは、ですか」
「それぞれの教えで認めることと認めないことがある」
「そのことを知っておくことですね」
「同性愛も然りだ、だがその教えを絶対としてな」
そのうえでというのだ。
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