Fate/WizarDragonknight
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エピローグ
「おかしい……おかしい……」
幸輝の体を背負いながら、由乃は足を引きずる。
すでにアナザーウィザードになるための道具は壊され、戦う力も残されていない。そもそも令呪もない。
「どうしてこうなったの……? どうして……?」
愛しのユッキーの体が重い。
ウィザードにやられた傷が重い。
まだ、幸輝のために作り替えた空間は残っている。速くモノクマを見つけて、もう一度マスターにならせてもらわなければ。
そう思っていた。
「……?」
その時、
赤黒の空間が、波打った。
「何?」
固形物である壁が粉々になり、弾けた。液体のように全面が穴を作り、
そこから女の子が現れた。
「え?」
ピンクの髪と、白いスクール水着。ピンクのヘッドホンと、首にかかるゴーグル。全体の印象として、おおよそこの場にはそぐわない、可愛らしい服装だった。
さっきまでの嘆きは、全て吹き飛ばされる。なぜここにこんな人物がいるのかと。
そして、彼女の手元を見て、由乃の疑問は恐怖へ変わった。
先に刃が付いた、ハルバード。
その刃先を認識した途端、由乃はどことなく察した。
終わった___
逃げようと思えば逃げられたのかどうか、もう分からない。
そうして。
スク水少女のハルバードが、由乃の首の付け根を割いた。
「あ……」
倒れる体から、幸輝が離れる。
彼の亡骸に手を伸ばすも、もう死期の近い少女には、何もできなかった。
「ユッキー……」
物言わぬ想い人への手。それは、たとえ出血性ショックという自然の摂理が由乃を襲ったとしても、止まることはない。
光が消えた眼差し。しかし、少女の手は、永遠に少年に届こうとして、届くことはなかった。
気絶していたようだった。
ハルトは、すでに変身の解けた体を見下ろして唖然とする。
「あれ? 俺は……」
周囲には、キュウべえの他に誰もいない。主を失った椅子が、ただ空しく放置されているだけだった。
「あの子は……?」
『元アナザーウィザードのことかい?』
キュウべえがハルトの肩に飛び乗る。小動物ならば感じる重さがなく、まるで動く人形のようだった。
『我妻由乃は、どこかへと逃げていったよ。全く。逃げるなら、一人で逃げればいいのに、あの死体だなんて無駄な荷物を抱えて』
「……」
キュウべえの言葉で、ハルトは玉座を見つめた。先ほどまであった少年の亡骸がなくなっている。
やがて、空間の景色が歪んでいく。
「あの子は……どうなるんだろう?」
『我妻由乃のことかい? さあ? 彼女はもう聖杯戦争の参加者ではない。どうなっても、僕には興味ないね』
「……お前は……」
ハルトは嫌悪の表情をキュウべえに示す。しかし、この無表情妖精はそれを無視しながら、歩み去る。
『ウィザード。これで君は完全にウィザードとして復活した。でも、これはまだ始まりだよ』
「始まり……」
『聖杯戦争は、基本七体の英霊による生き残り。だけど、すでにこの聖杯戦争はその反中を越えている』
「どういうことだ?」
『すでに七体以上の英霊だって僕たちは確認している。本来あるクラス……セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシン。このうちセイバーとアーチャーはまだ召喚されていないけどね。他のクラスも大勢召喚されている』
「何が言いたい?」
『君の味方はライダー、ランサー。そして、先ほど衛藤可奈美が召喚したサーヴァント。その三体だけだ』
「可奈美ちゃんが……?」
空間が揺らぎ始める。赤黒の空間となっていた中学校は、その主を失い、元に戻り始めている。
「おい! ハルト! ……だったっけ……?」
飛んできた声に振り向く。するとそこには、青いダウンジャケットの青年がいた。コウスケに肩を貸している彼は、なんとかこちらに歩いてきている。
「えっと……アンタは……」
初めて見る顔に、ハルトは戸惑う。だが、青年はニコニコ笑いながら、
「ああ、この姿だと初めてだったな。俺は城戸真司。ほら、龍騎……お前のサーヴァント、ライダーだ」
「ああ……」
ハルトは納得した。
その間に、キュウべえはどんどん遠くに離れていく。
「あ! キュウべえ!」
『覚えておくんだね。ウィザード』
ハルトの呼びかけに、キュウべえは足を止めた。
『君が選んだ道は簡単じゃない。戦いを止めるということは、残りのサーヴァント全てを無力化するということだよ。君にできるのかな?』
キュウべえはゆっくりこちらを見返す。
ハルトはゆっくりと、フレイムの指輪を見下ろす。
真司もコウスケも、黙ってハルトを見つめていた。
そして。
「できるよ!」
その言葉は、ハルトからではない。部屋の入口……まだギリギリ異空間のままの中学校である場所の入り口にいた、可奈美からだった。
「できるよ! 私たちなら!」
彼女も体はボロボロであった。服装もあちらこちら擦り切れており、自分だけで立つこともできていない。彼女がいるのは、支えているもう一人の少女___赤髪ポニーテールの、おそらく可奈美のサーヴァント___がいたからだ。
「止めて見せるよ! 私絶対!」
「そうだよ!」
その隣。白いガングニールの響だが、彼女もまた無傷とは言い難い。装甲の無数の箇所にヒビが走っており、響自身も無数の傷がその身にあった。
「私たちは、手をつなぐために戦う! キュウべえの思い通りにはいかないよ! ね! コウスケさん!」
「へへ、そうだな……」
響の声に、真司の肩のコウスケが力なく笑った。
ハルトは皆の声を受け、立ち上る。
「確かに楽ではないかもしれない。でも、俺たちはそれでも叫び続けるよ」
やがて、異空間より、元の中学校の割合の方が多くなる。
この空間という非日常はもう終わる。
最後に、ハルトは宣言した。
「この聖杯戦争を止めるって」
『……そうかい』
キュウべえはそれだけ言って、立ち去った。
その姿が見えなくなると同時に、完全にその場所は中学校の屋上となった。
キラキラ光る太陽。その中、見えなくなったキュウべえの声が聞こえてきた。
『だったらやってみればいい。君の思うほど、この聖杯戦争は甘くないよ』
次回予告
「お姉ちゃんどこ?」
「ほむらちゃん?」
「ボク、また外に出たいなあ……この体じゃあ……」
「ねえ! 私と一緒に、立ち合い! ……じゃなかった、剣の練習してみない?」
『なああああ! クソッ! 今回の処刑人は外れだ外れ! 好き勝手に行動しやがる!』
「困ったときはうどん! 健康にもいいんだから、きっと〇〇〇くんも気に入るって!」
「な、なんだこの怪物どもは⁉」
「ファントムじゃない……?」
「恭介⁉ 嘘……うわあああああああ!」
「そんな……みんな……どうして……?」
『キックストライク プリーズ』
「どうしたら、貴方に伝えられるんだろう?」
「君は何を守るというのだ? 今日よりも悪くなる明日か?」
「俺が守るのは……みんなの、生きる希望だ!」
「見ろ! この美しい世界を! 一握りのものだけが、明日へのチケットを手に入れる!」
「イグナイトモジュール! 抜剣!」
「俺は最後まで生きるよ……、〇〇〇〇!」
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