天才少女と元プロのおじさん
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目指せ全国編
4話 ずっとそんな野球をしてきたからさ……
前書き
誇示報告頂きありがとうございます。
修正いたしましたので、個の場にて報告させていただきます。
コミックの球詠選手名鑑を参考に主人公のプロフィールを作ってみました。
~三輪 正美(みわ まさみ)~
ポジション ーー ベンチ 日替り
右投げ両打
バッティングフォーム ーー スクエアスタンス
ピッチングフォーム ーー スリークォーター
学年 ―― 1
背番号 ―― 11
誕生日 ―― 7月23日
身長 ―― 143cm
出身チーム ―― ウィングス(現在も在籍中)
好きな動物 ―― ハリネズミ
趣味 ―― 映画鑑賞
進学理由 ―― 通学と学力
正美が入部した翌日、守備練習で正美は全ポジションを回る事となった。守備は一通り出来るという事で、ポジション毎の実力を知りたいとの芳乃から要望があった為だ。
サードからファーストまで順々に守備位置を移動して、外野はライトからレフトへ。最後にノックを上がったらキャッチャーのポジションに着く流れとなっている。
ノッカーを務める藤原先生がバッターボックスに入った。
「センセー、私硬球初めてなので最初は緩いのお願いしまーす」
「分かりました」
打合せ通り、1球目はボテボテのゴロが転がってきた。硬球の弾み方を確認しつつ、捕球してバックホームする。
次に受けるのはサードのレギュラー理沙。彼女には私が受けた者より速い打球が飛んできた。
――結構、鋭い打球だなー。普段からこんな厳しいノックを受けてるんだー。
正美は全ポジションを回らなければならないので、サードで数球ノックを受けると、次はショートへ移る。稜が正面の打球を処理した後、藤原先生は正美に対して三遊間を抜けるギリギリのエリアに鋭い打球を放った。稜であったならば飛び込んでようやく処理できる打球を、正美は逆シングルでグラブに納め、素早く1塁へ送球する。
「もう強い打球も大丈夫そうね」
藤原先生は目の色を変えた。
「あの打球をいとも簡単に……」
「稜……あなた、レギュラー陥落の危機ね」
稜が正美のプレーに唖然とすると、菫はそんな稜に憐みの視線を向ける。
「えぇ、そんな~。ねえ、正美は控えでいいんだよね!?」
「あはっ」
必死に詰め寄る稜に対し、正美はただ笑いかけるだけだった。
「お願いだからもう一度控えでいいって言ってよ~」
騒ぐ稜に藤原先生から雷が落ちる。稜はその後、涙目でノックを受けた。
全ポジション一通りノックを終える。普段守ることの多いショートとセンターの評価が特に高かった。もっとも、他のポジションでも高いポテンシャルを発揮しているのだが。
「凄いよ!どのポジションも予想以上だよ~!」
芳乃はツインテールをピョコピョコするほど興奮していた。
「基本的には理沙先輩と伊吹ちゃんが登板する時にサードかレフトを守ることになるけど、それ以外でもここぞと言う時には代走で入ってもらうから、どこでも守れるように準備してね」
「あいあいさー」
「休憩が終わったらシート打撃するから、ピッチャーお願いね」
ベンチに戻り、水分補給をしながらキャッチャーの珠姫に持ち球を伝えると、二人でサインを決める。
正美の動く球種はツーシーム、スローカーブ、チェンジアップ、高速シンカー、カットボール。
正美と珠姫はみんなより早めに休憩を上がると、投球練習をしながら打ち合わせをした。
「タマちゃん、どんな感じ?」
ホームの回りに張られたネット裏から、芳乃は珠姫にボールを受けた感想を聞く。
「うーん······。速さは普通だけどノビは良いよ。コントロール良いし、緩急を使えるから打たせてとる組み立てになるかな」
走攻守三拍子揃った正美である。どんなピッチングを見せるのかと思っていた珠姫だが、意外にも普通だなといった印象を抱いた。
「そうなんだ。みんな~、そろそろ始めよっか。最初は希ちゃん!」
芳乃の指示のもと休憩が終わり、希意外が守備につく。
「それじゃあみんなー、後ろは任せたよー」
正美はそれぞれの守備位置に向かうメンバーの方を向き、右手を口に当てて声を上げた。
希がバッターボックスに入って構えると、正美はセットポジションから余計な力の抜けたしなやかなフォームで投げ込む。内角の高速シンカーを希は見逃し、0ー1。
珠姫からボールが返ってくると、サインに頷き、2投目を放つ。ストライクからボールへ落ちるチェンジアップにバットが止まり、1ー1。
次も順調にサイン交換が済み、3球目を投げる。内角高めのストレートを希はセカンドへ打ち上げた。
二打席交代で回す為、希は再び構えをとる。その鋭い眼光が正美を差した。
次の打席は希がセンターに弾き返し、菫と交代する。菫はショートゴロとサードライナー、怜はキャッチャーフライと右中間の長打、稜はサードゴロと三振。ここで正美はマウンドを降りたため、成績は8打席投げて被安打2の長打1となった。
「一度も首を降らなかったけど大丈夫だった?」
練習後、珠姫は正美に自身のリードについて確認した。
「全く問題なし!気持ちよく投げられたよー。それに私、首振らないから。私の被打率は山崎さんに掛かってるよー」
「人を頼っちゃ駄目なんじゃ無かったっけ?」
珠姫は笑いながら、昨日、正美が言った言葉を言う。
「あはっ。これは一本とられましたなー」
正美もおかしそうに笑った。
「あと、私の事は珠姫でいいよ。私も正美って呼ぶから」
「りょーかい!」
二人でベンチに戻ろうとすると、希が正美の事を呼び止めた。
「ねえ、このあと自主連に付き合うてくれん?」
「いいよー。何するー?」
「ティーバッティングばお願い」
希と正美はグランドの隅にネットを出して、ティーバッティングを始めた。
「そんなんだー。私は普段強く振って、実践形式になったら6,7割で振るかなー」
「なるほど······」
二人はバッティングについて話をしながら練習をしている。
ふと、希がバットを下げた。
「ねぇ、うち全国に行きたかっちゃん」
「おぉ、いいねー。目標は大きくなくちゃねー」
「やったらっ」
希は声を少し荒げる。
「なんで、本気でやきゅうしぇんと?うちには三輪さんみたいな足はなかし、あげん守備は出来ん。正直、嫉妬しとーばい。それだけ実力があるとに、なして全力でレギュラーば取りに行かんと?······三輪さんは一緒に全国ば目指してくれんと?」
太陽の光は既になく、証明の灯りだけが二人を照らしていた。
僅かな沈黙の後、正美は困ったように笑うと、握っていたボールをいじりながら口を開く。
「……私さ、今までずっとパパと同じチームで草野球やってたんだ。練習も楽しく、みんなそれぞれの体力に合わせてやって。試合も実力関係なく全員が出れるように回して。勝ったら祝杯、負けても残念だったねーって、笑って宴会をするんだ。ずっとそんな野球をしてきたからさ……今更、勝負の世界なんて分からないよ……」
夢に出てきたおじさんは負い目に感じる必要はないというが、今の正美には他にも理由があった。
「私がレギュラーになるには、誰かが控えに回らないといけないでしょ?さっきみたいな川崎さんをみちゃうと、ね」
正美の告白が終わると、彼女はボールを籠に戻して立ち上がる。
「あはっ。今日はもう終わりにしよっか。ボールは私が片付けとくねー」
正美はいつもの笑顔に戻るとボール籠を持って部室へ歩き出す。
「ばってん、うちは全国に行きたかよ······」
希の言葉を受け、正美は一度、歩みを止めた。
「……そっかー」
正美はそれだけ答えると、振り向きもせず、再び足を動かした。
後書き
稜ちゃんのいじりやすさよ。
希ちゃんのセリフは方言変換を使っています。(https://www.8toch.net/translate/
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