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銀河転生伝説

作者:使徒
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第14話 破滅への序曲

宇宙暦796年/帝国暦487年 8月22日。
自由惑星同盟軍は帝国領への侵攻を開始すべく遠征の途に上って行った。

これに対し、帝国元帥ローエングラム伯ラインハルト、上級大将ハプスブルク公アドルフの両名に反乱軍の迎撃勅命が下る。

ラインハルトはイゼルローン回廊から出てくる同盟軍を叩くのではなく、帝国領内深くまで誘い込んで限界点に達したところを全軍で以って一気に撃つという作戦を提示した。

この作戦の肝は、イゼルローンに近接する各星系から駐留軍と共に食料物資を全て引き揚げることである。
つまりは焦土作戦。

同盟軍は解放軍・護民軍を自称している為、占領地域の民衆に生活の保証を与える責務を負う。
同盟軍のような手合いには、実に有効な作戦であった。

そして、辺境星域に赴任しているウルリッヒ・ケスラー准将に撤退を指揮せよとの命令が下る。


* * *


帝国領に侵攻した同盟軍は何の抵抗も受けぬまま、瞬く間に200あまりの恒星系をその手中とする。
その内の何割かは有人惑星を有しており、合わせて5000万人の民間人が残されていた。

「我々は解放軍だ、我々は君たちに自由と平等を約束する。もう専制政治の圧政に苦しむことは無いのだ」

「……食料が無いんだ、軍隊がみんな持って行ってしまった。自由や平等より先に、パンや肉を約束してくれんかね」

「もっ、もちろんだとも」

辺境の民衆が一番欲しているのは政治的権利ではなく食料。
所詮、現実はこんなものであった。
しかも食料を与えるだけでは何の解決にもならない。

そこで、第七艦隊司令官のホーウッド中将は技術将校で植物学や土木学に通じているフランツ・ヴァーリモント少尉を呼び、土地の改良を命じた。
この試みは成功し、同盟軍と帝国辺境の民衆との蜜月時代が幕を開ける。

だが、膨大な物資の消費量は深刻になりつつあった。

前線からは『5000万人の90日分の食料、200種にのぼる食用植物の種子、人造タンパク製造プラント40、水耕プラント60、及びそれらを輸送する船舶。解放地区の住民を飢餓状態から恒久的に救うには最低これだけ必要である。尚、この数値は順次大きなものとなるであろう』との報告が入るが、5000万人分の食料は穀物だけでも50億トンになる。
仮にイゼルローン要塞の倉庫全部を空にしたとしても穀物は7億トンにしかならないと言えば、その凄さが理解できるであろうか。

「閣下、我が軍は危機に直面しております。それも、重大な危機に」

後方主任参謀のキャゼルヌ少将は司令長官室に赴いてロボス元帥に前線の窮状を訴え、本国に要求を伝えるよう言われたが、その物資が前線まで届くかは分からなかった。
今回敵が焦土作戦を行ったことからも分かるように、帝国軍の作戦は同盟軍の補給に過大な負担を掛けることにある。
であれば、輸送船団を攻撃して補給線を断とうと試みるだろうことは一目瞭然であった。

だが、フォークはそれを理解していながらも最前線までの空域は同盟軍の占領下にあるからと一笑し、ロボスもこの事態を深刻に受け止めていなかった。

この態度にキャゼルヌは絶句し、苛立ちを抑えながらも司令長官室を出る。

「(ヤン、生きて帰れよ。死ぬにはバカバカし過ぎる戦いだ)」

彼は、切実にそう思った。


* * *


自由惑星同盟最高評議会の会議では、当初の予想と違う経過に議員たちが頭を悩ませていた。

「これでは際限が無いではないか! 帝国は我が同盟の財政を破壊するつもりなのだ。民衆を道具にするとは憎むべき方法だが……我が軍が解放と救済を大義名分としている以上有効な方法であると認めざるを得ない。もはや撤兵すべきだ」

とのジョアン・レベロの言葉に、

「賛成」

と、ホアン・ルイが賛成票を投じる。
周りの議員たちも困惑を隠せないでいた。

そんな中、某国家で『ルーピー』呼ばれた元首相と同じぐらい頭のイカれた女性議員――名をコーネリア・ウィンザーという――が碌でもないことを発言する。

「反対です。我が軍が飢餓から彼らを救えば、帝政への反発と相まって民衆の心が同盟へ傾くのは必然なのです」

この発言に、周りからも『そうだ、そうだ』『和平の必要はない』と賛成の声が上がる。

「この上は、議長のご意見を」

「前線で何らかの結果が出るまでは軍の行動に枠を嵌めるようなことはすべきではなかろう。もしもここで撤兵すれば、遠征は愚行と浪費の象徴として市民の笑い物になるだろう。つまり、我が評議会は市民の支持を失い次の選挙で敗北するということだ」

こうして、自由惑星同盟最高評議会の議員たちは同盟軍の将兵に対する死刑宣告を自ら宣言してしまった。
それがどんな結果をもたらすかも知らずに……。


* * *


――ヤヴァンハール星域――

「中尉、第十艦隊のウランフ中将と連絡をとってくれ」

「はい」

画面にウランフが現れる。

「ウランフ中将、お元気そうでなによりです」

「おお、ヤン・ウェンリーか。珍しいな、何事だ?」

「占領地を放棄して撤退しようかと思うのですが」

「一度も砲火を交えないうちにか?」

猛将であるウランフにとって、一度も戦わずに引く――というのはあまり好きではないらしい。

「敵は、焦土作戦に出て我々が餓えるのを待っています。このままでは、我々はロシアに出兵して敗北したナポレオンの二の舞になるのは明白です」

「ふむ……だが、だとすれば敵は機を見て攻勢に出てくるつもりだろう。下手に後退すれば返ってそれを誘う事になりはせんか?」

「反撃の準備は十分に整える、それが大前提です。とにかく兵が餓えてからでは遅いのです」

「………分かった、貴官の意見が正しかろう。我が艦隊も撤退の準備をさせることにする。だが、総司令部にはどうするつもりか?」

「ビュコック提督にお願いして、ロボス元帥に上申して頂こうと思います。その方が私が言うより説得力を持ちますので」

「ふむ……それが良かろう。それではな」

画面が切れる。

「(間に合えばいいのだが……)」

だが、その願いが聞き届けられることはなかった。


* * *


ハプスブルク上級大将は、今回の全権を任されたラインハルトより命令を受けていた。

「ハイネセンから前線へ輸送艦隊が派遣される。敵の生命線だ、卿に与えた兵力の全てを挙げてこれを叩け」

「承知しました」

同盟軍の輸送艦隊を襲撃し補給線を断つ重要な任務である。


<アドルフ>

こいつ(ラインハルト)に命令されるの何かムカつくわ~。

補給線を寸断しろって……これキルヒアイスの役目じゃなかったか?

ああ、なるほど。
カストロプを俺が鎮圧しちゃったから、キルヒアイスがまだ少将で艦隊司令官になってないのね。

俺の艦隊は約15000隻。
分艦隊司令としてアイゼナッハ、シュタインメッツ、ドロッセルマイヤー、ゼークト、レンネンカンプ、ミュラーの6人の少将がそれぞれ2000隻を指揮する。
これに、ソーディン、シュムーデ、ファーレンハイトの3個艦隊を合わせた約50000隻の大艦隊で作戦を行うことになる。

なら、第七艦隊に第十三艦隊と戦うのも俺の役目か。
キルヒアイスはまだ少将で率いる艦艇も3000隻程度だからな。

ところで、原作におけるキルヒアイス艦隊の戦力がヤン艦隊の4倍(約50000隻)ってのは意味不明で訳が分からん。
どっから艦隊が沸き出してきたんだ?

アムリッツァの最後だとルッツとワーレンの艦隊合わせても30000まで減ってるし……各艦隊の消耗分をキルヒアイス艦隊から補充したと考えてもかなり無理がある。

まあ、そんなのはどうでもいいか。
とりあえず、ハプスブルク領で大量の食糧物資の手配をしておこう。
反乱軍との戦いに結着がついたら、すぐさま辺境星域の民衆に供与する。

焦土作戦を決めたのはラインハルトであって俺じゃない。
そこで俺が逸早く困窮した辺境星域の住民を支援すれば、彼らの支持は俺に向くだろう。
平民の多い各艦隊の一般兵も俺の迅速な対応に好感を高めること間違いなしだな。

そしてラインハルトは……くくく、運が向いて来たぜ。


* * *


スコット提督率いる輸送艦隊は1000万トン級輸送艦500隻、護衛艦26隻から成っていた。
それを襲ったのは、ハプスブルク上級大将を総司令官とする4個艦隊50000隻。

「閣下、敵輸送船団を発見しました」

「よし、攻撃を開始しろ!」

「はっ、全艦攻撃開始! ところで、エロ本を読むのは後で自室でにしてもらいたいのですが……」

「ベルゲングリューン、お前も読みたいのか? この『熟女の罠 ~吸精鬼シリーズ4~』は今俺が読んでるから『本当は怖い幼妻 ~悪魔の小指~』か『枯れた触手 ~相手が悪かった~』のどちらかを貸してやろうか? ちなみに、これ同人誌な」

「そういうことを言っているのではありません! 今は戦闘中ですぞ」

「だって、やること特に無いじゃん。この戦況で」

「……もう勝手になさってください」

と、戦艦バルバロッサの艦橋でこのようなコントが繰り広げられていたが、攻撃を受けた同盟軍はそれどころではない。
なにせ、戦闘力の無い輸送船を含めても100倍近い数の敵に襲いかかられたのだから。

「敵ミサイル多数、本艦に接近!」

「対応不能、数が多すぎる!」

同盟軍の輸送艦隊が全滅するまで、それほど時間は要しなかった。

そして、『輸送艦が帝国軍の攻撃を受け全滅』との報告を聞いたヤンは『遅かったか、もっと早くに何か手を打っておくべきだった……』と後悔したが、後の祭りであった。


* * *


――ドヴェルグ星域――

「何? 輸送艦隊が襲われた?」

ホーウッドは、画面越しのフォークから輸送船団全滅の報を聞かされていた。

『したがって当分食料の補給は望めません。必要とする物資は現地において調達してください』

「現地で調達だと? それでは我々に略奪をやれというのか!?」

『どう取るかは閣下のご自由です。私はただロボス総司令官からのご命令をお伝えしているだけです』

フォークはそう言って、画面が切れる。
ホーウッドは悩んだ末、現地からの食料の調達を命じた。

そして当然の如く、占領地では暴動が起こった。


――ヤヴァンハール星域――

「第七艦隊の占領地で暴動が起きました。第三、第八、第九艦隊の占領地でも暴動が発生しました。いずれも軍が食料の供与を停止したり、農民たちから食糧を徴収した為です」

「まったく見事だ、ローエングラム伯」

辺境星域の民衆から食糧物資を引き揚げておいて同盟側の負担を増大させ、補給線を断つことで同盟軍に民衆への食糧の供与の中止や徴収を余儀なくさせ、当初は食料物資を引き揚げた帝国を憎み同盟軍を歓迎していた民衆の怒りの矛先を同盟軍に向ける。
まったくもって見事な策であった。


――ビルロスト星域――

第五艦隊司令官のビュコック中将はスクリーンに映るフォーク准将に怒声をあげていた。

「ワシは総司令官閣下に面談を求めたのだ。作戦参謀如きが呼ばれもせんのに出しゃばるな」

『どんな理由で面談をお求めですか?』

「貴官に話す必要は無い」

『ではお取り次ぎする訳にはいきません。どれほど地位の高い方であれ規則は遵守して頂きます』

「なに? 前線の各艦隊司令官は撤退を望んでおる。その件について総司令官のご了解を頂きたいのだ」

『ヤン中将は兎も角、勇敢を以って成るビュコック提督までが戦わずして撤退を主張なさるとは意外ですな。小官なら撤退などしません』

「そうか、では代わってやる。私はイゼルローン要塞に帰還する、貴官が代わって前線に来るがいい」

『出来もしないことを仰らないで下さい』

「不可能なことを言い立てるのは貴官の方だ! それも安全な場所から動かずにな」

『小官を侮辱なさるんですか!』

「貴官は、自己の才能を示すのに弁舌ではなく実績を以ってすべきだろう。他人に命令するようなことが自分には出来るかどうか、やってみたらどうだ!」

『…う……うう………』

「ん?」

『……うう………ああ』

「どうしたのだ?」

・・・・・

数分後、フォークは運ばれて行き、ビュコックの疑問に答えたのは総参謀長のグリーンヒル大将であった。

『提督、お見苦しいところをお目にかけました』

「どうしたのです彼は?」

『軍医の話によると、転換性ヒステリー症によって一時的に引き起こされる神経性の盲目だそうです』

「ヒステリー?」

『ええ、なんでも挫折感が異常な興奮を引き起こし、視神経が一時的に麻痺する病気だそうです。15分もすればまた見えるようになるそうですが、この先何度も発作が起きる可能性もありますので、フォーク准将休養ということになりましょう』

「ありがたい話ですな。ところで第十三艦隊から具申のあった撤退の件はいかがですかな? ワシは全面的に賛成しますぞ」

『しばらくお待ちください、総司令官閣下の御裁可が必要です』

「非礼を承知で申し上げるが、総司令官ロボス元帥閣下に直接お話しできるよう取り計らっていただけませんかな?」

『ロボス閣下は昼寝中です。敵襲以外は起こすなとのことですので、提督の要望は起床後にお伝えいたします』

「昼寝? ……はぁ~~よろしい、分かりました。この上は前線司令官として部下の生命に対する義務を遂行するまでです。ロボス閣下がお目覚めの節は、『良い夢がご覧になられましたか』とビュコックが気にしていたとお伝え願いましょう」

『提督……』

そこで、ビュコックは通信はプツッと切った。


* * *


――銀河帝国 帝都オーディン――

宇宙艦隊司令部にある一室で、ラインハルトは提督たちを集めて命令を告げていた。

「兼てからの計画に従い、総力を以って同盟軍を撃て」

「「「「「「「はっ」」」」」」」

「待て」

退出しようとする提督たちをラインハルトが呼び止め、提督たちにワイングラスが配られる。

「勝利は既に確定している。前祝いだ、卿らの上に大神オーディンの恩寵あらんことを祈って、乾杯」

「「「「「「プロージット」」」」」」

ワインを飲み干すと、グラスを床に叩きつける。

グラスは粉々になり、その姿は同盟軍の近い未来を連想させた。


宇宙暦796年/帝国暦487年、帝国標準時10月10日。
ローエングラム伯ラインハルト率いる帝国軍艦隊は、補給線を断たれた同盟軍艦隊に対して反撃を開始した。
 
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