魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第41話:狩られる者達
前書き
どうも、黒井です。
今回、遂にクリスと透にジェネシスの魔の手が掛かります。
響と未来を和解させる事に成功した翌日…………
「ん~、昨日はいい仕事したなぁ」
二課本部の司令室にて颯人がソファーで寛ぎながら、上機嫌にゴムボールをジャグリングしていた。ただのジャグリングではない。三つのボールは投げられる度に色を変え、傍から見ていると虹の球をジャグリングしている様に見えた。
そんな彼の、彼にとっては児戯にも等しい手品を鼻歌交じりに行う様子を、近くのソファーに腰掛けた奏と翼が眺めている。
「ま、今回は確かに見事だったよ。奇跡の手品師の息子の面目躍如ってとこだね」
「今日、学院で普通に仲良くしてる2人を見たわ。仲直りできたと言うのは本当の様ね」
今回響と未来を仲直りさせた颯人の手腕、特に未来に響の想いを気付かせたその話術には奏と翼も素直に舌を巻いていた。
これで響の問題は片付いた。彼女の友情は失われる事無く、また今後は未来に対して秘密を抱える必要もなくなった。見事に丸く収まったと言える。
となると、現状直近で考えるべき問題は――――
「次はあの透とクリスって名前の2人。そんで最近のノイズ災害の原因、フィーネって奴の事だな」
「透って奴の事は深刻だぜ。どうもあいつジェネシスを裏切ったらしい。連中の事だから裏切り者は許さねえぜ」
「今こうしている間にも命を狙われているって事ですか?」
ジャグリングを続けながらも真面目な顔で告げる颯人に翼が問い掛けると、彼の代わりに弦十郎が口を開いた。
「ここ最近、街中でイチイバルとノイズの反応が短時間だけ検出されると言う事が頻繁に起こっている。恐らくその場には、透君も居ただろう」
「先日の一件で、イチイバルの装者はフィーネに切り捨てられたと見て良いでしょう。となると、利害の一致するジェネシスと手を組んでいる可能性も……」
「案の定、か。どうする旦那?」
「どうする、とは……」
「次そのノイズとイチイバルの反応が出たら、助けに行くのかって事さ」
既にクリスと透が悪人ではない事は分かっている。あの2人は響の言う通り、話せば分かってくれるだろう。そんな2人が、不条理で理不尽な暴力に晒されると言うのなら助けることも吝かではない。
いや寧ろ、助けるべきであるとすら思える。
ただし助けるにしても問題はあった。2人の所在である。
その話題が出たのを見て、朔也がイチイバルとノイズの出現が感知された場所を地図上に表示する。
「イチイバルの反応は検出される度に移動しています。現在の場所を正確に特定することは難しいでしょう」
「透ってのと一緒なら、他人の目につかない時間帯に空飛んで移動してるんだろう? なら機動力は高い。一度移動を始めれば、発信機でも付けてない限り補足するのは難しいだろうな」
言いながら颯人は三つのボールを次々と握り潰すようにして消した。と思っていたら、次の瞬間帽子をひっくり返すとそこからボールが三つ転がり出てきた。
しかしこうなるとあの2人を見つけるのは容易ではない。追われる身である以上、あの2人が一か所に留まると言う事は無いだろう。しかも2人の移動手段は飛行。その2人を正確に補足することは普通に探したのでは至難の業だ。
「なぁ颯人ぉ、魔法使って何とかならないの?」
「そんな都合のいい魔法あったらさっさと使ってるよ。ま、ウィズなら何かしらの方法で見つけられるかもしれないけど、あいつこっちから連絡取れないからなぁ」
肝心な時に役に立たないと、颯人は面倒くさそうに溜め息を吐く。
颯人に釣られるように奏も鼻で溜め息を吐くと、その勢いに押されるように背もたれに体を預け天井を仰ぎ見た。
その時、奏の視界に白い小鳥の様な物が映った。それを見た瞬間奏は目を見開き空中に浮かぶそれ――ウィズが召喚するホワイトガルーダを凝視する。
「は、颯人あれ――!?」
「あれ? あれって何……ッ!?」
奏が指差したことで、颯人もそれの存在に気付いた。
颯人が気付くのを待っていたかのように下りてきたホワイトガルーダ。その足には彼も見た事の無いウィザードリングが。
「こいつは――――?」
下りてきたホワイトガルーダに手を伸ばすと、ホワイトガルーダは足で掴んでいたウィザードリングを彼の手の上に置いた。
明らかに使えと言っているようなその仕草に、颯人は訝し気な顔になりながらもそのウィザードリングを右手中指に嵌めハンドオーサーに翳した。
〈テレフォン、プリーズ〉
「テレフォン? 通信か?」
ベルトから聞こえる詠唱でその魔法の効果に予想を着けていると、右掌に小さな魔法陣が展開された。颯人は傍から見ると何とも間抜けな姿に見えるのではと言う不安を押し殺し、恐る恐るその右手を右耳に近付けた。
「も、もしもし?」
電話する時の要領で右手の魔法陣に話し掛ける颯人の様子を、奏と翼、弦十郎が興味津々と言った様子で見守っている。傍から見ていると可笑しな光景だが、状況が笑っていられるものではない事を肌で感じ取っている為奏ですらその様子を茶化すことはしない。
『颯人か?』
果たして、魔法陣からは予想していたがウィズの声が響いた。
「何だよウィズ? こんな方法で連絡だなんて、初めてじゃないか?」
『細かい事は気にするな。今から言う場所に来い。出来れば仲間がいた方が良いな』
「どういう事だ?」
『悪いが説明している時間はない。事情は来れば分かる。場所は――――』
ウィズから手短に来るべき場所が指定され、颯人はとりあえずその場所をメモった。ここから嫌に遠い事が気になるが…………。
『急げよ。間に合わなくなるからな』
言いたい事だけを告げて一方的に通信を切るウィズ。通信が切れた証拠に魔法陣が消えると、ホワイトガルーダが颯人の指からウィザードリングを抜き取りそのまま通気ダクトに入って何処かへ行ってしまった。
あんな所から出入りしていたのかと呆れながら、颯人は帽子を被り直し奏に声を掛けた。
「ウィズが何やらお呼びだ。何でも人手があった方が良いって言うから、奏悪いけどついて来てくれね?」
「それは……アタシは構わないけど……」
奏は言い淀んでチラリと弦十郎を見た。奏としては颯人についていく事は吝かではないが、この一件は明らかに二課の装者としての活動に反している。勝手な行動は許されない。
そんな思いを込めて弦十郎を見ると、彼は快く同行を許可してくれた。
「こっちは翼と響君が居れば何とかなるだろう。俺としても、ウィズが何を思って颯人君を呼んだのか気になるしな」
「そんじゃ、お言葉に甘えて。行こうぜ奏」
「オッケー。そういう訳だから翼、後は頼むわ」
「分かった、任せて」
翼に留守の間の事を託して、颯人の元へ向かう奏。彼女が近くに来たのを見て、颯人は右手にテレポート・ウィザードリングを嵌めてハンドオーサーに翳した。
〈テレポート、プリーズ〉
魔法で転移しウィズに指定された場所に向かう颯人と奏の2人。
一瞬で場所を移動したのは、二課本部から遠く離れた何処かの林の中。
そこで2人は…………離れた所に居る複数のメイジと、今正に透に剣を振り下ろそうとしているクリスの姿を見た。
***
颯人と奏が転移する十数分ほど前――――
「くそっ!? 相変わらずしつこいな、あいつらッ!?」
透とクリスの2人は、今日も今日とて追手のメイジから逃げ続けていた。先日少しは腰を落ち着けることが出来るだろう空き家を見つけることが出来たのだが、早くもメイジ達に居場所を特定され襲撃を受け再び逃げる事になってしまったのだ。
禄に休息をとる暇も無く逃げ出す羽目になった事に透の乗るライドスクレイパーの後ろで悪態を吐くクリスだが、その手は正確に背後から追跡してくる琥珀メイジに狙いを定めアームドギアの引き金を引いた。
放たれた光の矢が琥珀メイジを撃ち抜き、コントロールを失ったメイジは背後を飛ぶ琥珀メイジにぶつかり落下していく。
一気に琥珀メイジを2人落としたクリスだが、喜んではいられない。追手はまだまだ居るのだ。しかも今回はかなり本気で2人を追い詰めるつもりなのか、いつもに比べて明らかに数が多い。ノイズが居ないのが幸いと言えば幸いだったが、代わりにメイジの数が多いので結果的に窮地に陥っていた。
このままではマズい。そう考えた透は一か八か急降下し、眼下に広がる林の中に逃げ込みメイジ達を振り切る作戦に変えた。木々にぶつかるリスクはあるが、それは向こうもお互い様だ。寧ろ向こうは人数が多い分、透達より不利である。
「ッ!?」
いきなり真下に急降下し林の中に逃げ込んだ透に、しかしクリスは何も言わずに後方への迎撃に専念した。透の読み通り、琥珀メイジ達は互いにぶつからないようにする事と木を避ける事に意識を割くあまり、動きが少し単調になって先程よりも狙い易くなっている。
クリスは単調な動きをする琥珀メイジに容赦なくボーガン型アームドギアの矢をお見舞いし続けた。
「おら、こっちくんじゃねぇお前ら!!」
ここは下手に狙うよりも弾幕を張った方が効果的と考えたクリスは、正確に狙う事を止めてとにかく引き金を引きまくった。狙いは甘くとも手数の多い攻撃に、琥珀メイジは次々と木にぶつかったり互いにぶつかり合ってその数を減らしていく。
このままいけば逃げ切れるかもしれない。
そんなクリスの淡い期待は、前方に現れた1人の魔法使いの存在により砕かれた。
「よし! 後ろは粗方片付けた。このまま、あっ!?」
クリスがふと前を見ると、そこにはライドスクレイパーに横座りしている1人の魔法使いが居た。仮面の色は紫。
言わずもがな、幹部の1人メデューサである。
〈イエス! スペシャル! アンダスタンドゥ?〉
「逃がしはしない!」
「ッ!!」
「わわっ!?」
メデューサが放った石化の魔法を回避する為、無茶な軌道を取る透。お陰で石化は免れることが出来たが、無茶な軌道を取った為にバランスを崩し木に激突しそうになってしまった。
これ以上飛び続けるのは無理だ。そう判断した透は、クリスを抱きしめると躊躇わずにライドスクレイパーから飛び降りた。
「な、わっ!?」
突然の透の行動に驚きを隠せないクリスだったが、直ぐにそれに対応し彼女自身も透にしがみ付いた。
「ぐぅっ!?」
透の咄嗟の判断が功を奏したのか、大きな怪我も無く着地に成功した2人だったが、それは窮地からの脱出を意味してはいなかった。
地面を転がりながら着地に成功し、体の節々の痛みを堪えながら立ち上がる2人の前に悠々と着地するメデューサ。そして林の奥からは、ヒュドラに率いられた琥珀メイジが5人ほど姿を現し2人を包囲した。
完全に追い詰められた状況の2人。彼らに向けて、メデューサは仮面の奥で勝ち誇った笑みを浮かべながら話し掛けた。
「ふ、これでお前達も終わりだな」
「くそ……テメェら!? 何だってそうまでして透を狙うんだよ!? もう放っといてくれよあたしらの事は!?」
「そんな事できる訳があるか。そいつは裏切り者だぞ? 裏切りには、相応の報いを受けさせるのが普通と言うものだ」
「そんな勝手な理由で…………ふざけんなッ!?!?」
[MEGA DETH PARTY]
メデューサの勝手な物言いに怒りが頂点に達したクリスは両手のボーガンをガトリングに変え、腰部アーマーを展開させ小型ミサイルと銃弾を周囲にばら撒いた。
瞬く間に周囲の木々を薙ぎ倒し地面を穿つクリスの一斉射撃。琥珀メイジも2人は吹き飛ばされたがここに来て疲労が原因か、狙いが甘くクリスの攻撃を切り抜けた琥珀メイジがいた。
クリスに近付く琥珀メイジを迎撃しようとする透。しかしその前にメデューサとヒュドラが立ち塞がった。
「お前の相手は私達だ、裏切り者」
「へっへっへっ! 精々楽しもうぜ!!」
専用の剣とライドスクレイパーで攻撃を仕掛けてくる2人の幹部の攻撃を、透もカリヴァイオリンで迎え撃つ。
「ハッハァッ!!」
振り下ろされるヒュドラの剣を受け流すと続いて放たれたメデューサの一撃を弾き、その隙を突こうとしてきたヒュドラを蹴り飛ばし流れるような動きでメデューサに斬りかかる。
しかしその動きは明らかに何時もの精細さを欠いている。体力がもう限界なのだ。度重なる連戦により既に透は満足に戦える状態ではないのである。
それでも幹部2人に対抗できているのは、偏に彼の実力と何よりもクリスを守ろうと言う決意によるものであった。
だが体力が限界に達しているのはクリスも同様だった。
「ぐっ!? がはっ?!」
「ッ!?」
聞こえてくるクリスの苦悶の声に透が弾かれるようにそちらを見ると、そこでは今正にクリスが琥珀メイジ3人による連撃で叩き伏せられているところであった。両手のガトリングはライドスクレイパーで突かれ動きを拘束されたところで背中をスクラッチネイルで切り裂かれ、アームドギアから手を離した瞬間左右の琥珀メイジ2人からの回し蹴りで蹴り飛ばされ背後の木に背中を盛大に打ち付けた。
「ぐっ、あぁ……」
木に叩き付けられ地面に膝をつくと、そこで遂に限界が来たのかイチイバルは解除されそのまま倒れこんだ。倒れたクリスを3人の琥珀メイジが囲む。
「ッ!!?」
それを見て透はクリスを助けようと琥珀メイジ3人に向けて駆け出すが、幹部2人がそれを許す筈がなかった。
「させるか!!」
ヒュドラは透が駆けだすと同時に飛び上がり、クリスと透の間に降り立つと剣を振るった。狙ったのは彼自身ではなく彼が持つカリヴァイオリン。今までと違い武器を狙った一撃に反応が遅れ、透は武器を弾かれ大きな隙を晒してしまう。
そこにメデューサの魔法が炸裂した。
「これはきついぞ?」
〈イエス! ポイズン! アンダスタンドゥ?〉
「ッ?!」
放たれた毒の魔法が透に直撃し、彼の体を猛毒が侵食する。
その身を蝕む毒に透は意識が飛びそうになるのを気力で持ち堪えるが――――
「おらよ!」
無情にも振り下ろされたヒュドラの剣による一撃がトドメとなり、透は膝から崩れ落ちた。更には変身も解除され、幹部2人の前に無防備な姿を晒してしまっていた。
「と、透ッ!? 透ぅぅぅッ!?」
傷だらけで倒れた透の姿を見たクリスは、自分も琥珀メイジに取り押さえられている事を無視して透に必死に声を掛けるのだった。
後書き
と言う訳で第41話でした。
ここから先は原作とはだいぶ異なる展開となります。どんな展開になっていくかは、次回以降をお待ちください。
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次回の更新もお楽しみに!それでは。
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