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戦国異伝供書

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第九十五話 負け戦その八

「そして布で巻いてな」
「手当としますか」
「うむ、これはいつも言っておるな」
「戦の時は」
「傷口から病となることもある」
 このことを知っていての言葉だ。
「だからな」
「傷を負ったならば」
「しかとそうせよ」
 傷口を水で洗いその後で奇麗な布で巻いて傷口を覆えというのだ。
「わかったな」
「さすれば」
「そして戦っていくのじゃ」 
 後詰のそれをというのだ。
「よいな」
「それがし達もですな」
「無論、あと少しそうしていくぞ」
「それでは」
「その様にな。しかしお主がいてな」
 ここで元就は元網を見て言った。
「よかったわ」
「そう言ってくれますか」
「お主の武勇と采配はあってな」
 それ故にというのだ。
「そしてな」
「兄上の知略と采配もですな」
「うむ、勿論わしも采配を執るが」
「それだけではなくですな」
「お主の采配も必要じゃ」
 元網のそれもというのだ。
「攻めのそれがな」
「兄上の采配守りですな」
「退きの戦は守りだけでは駄目じゃ」
「時には攻めることも必要ですな」
「そうじゃ、攻防共にあってな」
 それこそというのだ。
「よいのじゃ」
「守り時に攻める、ですか」
「左様じゃ、わしはどちらかというと采配は守りじゃ」
 元就は自分のことをよくわかっている、自身の采配は攻めるよりも守りに向いているものであるとだ。
 そして元網のこともわかっている、彼は攻めの采配であるとだ。伊達に源義経の再来とは言われていない。
「だからな」
「この度は」
「守って攻めてな」
「そうして退いていきますな」
「そしてな」
「石見まで退き」
「領地まで下がるぞ」
 毛利家のそこまでというのだ。
「よいな」
「それでは」
「高橋家を組み入れておいてよかった」
 元就はこのことについても吉を見出して語った。
「あの家は石見の方にも影響が及んでおる」
「だから石見まで入れば」
「その後はな」
「高橋家の領地まで入れば」
「それで助かる、ではな」
「はい、それでは」
「退いていくぞ」
 戦いつつそうしていくと話してだ、そしてだった。
 元就は実際に守るだけでなく攻めることもしていった、そうして徐々に退いていった。毛利家の軍勢は尼子家の軍勢に常に攻められた。
 だがそれでも死ぬ者はかなり少なく確実にだった。
 退いていった、尼子家の軍勢が攻めても。
 槍と弓矢で防がれる、元就は弓矢を放たたせてだった。
 槍衾も作らせる、そうしつつ兵達に言った。 
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