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神機楼戦記オクトメディウム

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第25話 真相と決着

 黄泉比良坂の荒野にて。
 既に士郎の実の父である大神翼の駆る『スクナノヒコ』は士郎の駆る『クサナギノツルギ』の規格外の性能により撃墜され、既に四散していたのであった。
 そして、その様子を見届けた士郎も搭乗機体から降り、今では二人は生身の状態で向き合うに至っていたのである。
 暫しその状態が続いていたが、ここで翼が口を開くのであった。
「……強くなったな、士郎。父親として誇りに思うぞ」
 そうこの戦いを通して実の息子の成長を感じ取った翼に労われる士郎。そんな彼は謙遜でも自惚れでもなく、こう言葉を返した。
「それは、仲間達のような大切な人達の支えがあってこそだよ。俺一人ではここまで来れなかった」
 そう士郎は言いながら、大切な兄の事、共に戦ってくれる巫女二人の事、そしていつしか恋仲となった魔法使いの事を脳裏によぎらせていくのであった。
 その後は、今度は士郎から聞かなければならない事があるのであった。それを彼は口にする。
「それで、翼父さん。やはり俺達の前から今まで姿を消していたのは『あの人』の事が関係してるんだね?」
「ああ……」
 そう士郎が示す人、それは翼の伴侶だった人であり、士郎と和希の実の母親である人の事なのだった。
 だが、ここは実の母親でありながら息子の士郎には『あの人』と呼ばれる所から察して欲しいのである。
 そう、彼女は母親──いや、言うなれば『人間として』すら評価出来ないような人物であるのであった。
 もしかしたら、単に身勝手な人であった方が大神家の家族はまだ幸せだったかも知れないだろう。彼女は身勝手とは対極にある、毒親というタイプの人物であったのだ。
 そのような者が子供に行う仕打ちは大体決まってくるというものだ。彼女は士郎と和希に虐待紛いの接し方をしていたのである。それが単に嫌いであるなら引き離す事も容易だったかも知れないが、こういうタイプの人間の行動理念はあくまで『愛』であるから手に負えないケースが多いのだ。
 そんな彼女にとって命運を分ける事が起こるに至る。ある日彼女は兄弟に対して包丁を突き付けるという暴挙に出たのである。
 幸いにもそこには夫である翼がいた為、彼はその暴挙を止めようとしたのだ。
 しかし、そこで不幸が起こるのであった。包丁を持った母親を止めようとした弾みで、翼は誤ってその包丁で自らの妻を刺してしまったのである。
 そして、その当たり所が悪く、母親は搬送先の病院で息を引き取る事となったのであった。
 その後、事情はどうあれ翼は人を殺めてしまったのだ。故に彼は裁判に掛けられた後、刑務所に入る事となったのだ。
 しかし、前述のような事情があった為、不幸中の幸いにも刑期は短く済んだのである。
 だが、出所した翼が再び大神家に戻る事は無かったのであった。
 それは、曲りなりにも息子達の母親を殺してしまった自責の念、そしてそのような母親である事に気付けずに身を結んでしまい後に生まれる家族の幸せを滅茶苦茶にしてしまった自分自身に責任を感じた事にあった。
 しかし、それは彼が息子達の元へと帰らなかった『直接の理由』ではなかったのであった。
 そこに、例の如くシスター・ミヤコが現れたのであった。そして、言葉巧みに大邪へと勧誘していったのも同じである。
 だが、彼の場合は少しその内容が違ったのである。
 彼が、「私を邪神の手先とする気か?」と問うと、ミヤコはこう答えたのであった。
「いいえ、滅相もありません。あなたこそが大邪の大将となるのです。私達はそれに従って行くだけです」

◇ ◇ ◇

「それが、私が大邪一の首として衆を取り仕切るに至った経緯という訳だ」
「……やっぱり、抗う事は出来なかったんだよね?」
「ああ、邪神の心を支配する力は絶大だ。私でも、いや、私のような人間だったからこそ取り込まれるに至ってしまったという訳だ」
 そこまで聞いて、士郎は邪神の力の恐ろしさを再度実感する。しかし、今ならばそこから解放される好機だというものだろう。
「でも、父さんのスクナノヒコは俺が撃墜したから、もう大丈夫な筈だよ?」
 そう期待に胸を膨らませながら士郎は言う。だが、ここで翼は首を横に振るのであった。
「いや、残念ながら、お前にはもう一仕事してもらわないといけないようだ」
「どういう事?」
 思わせぶりな台詞を吐いた翼に、士郎は首を傾げる。
「神機楼は日本古来の神の名前から取られている者も多いのは知っての通りだろう? そして、スクナノヒコの由来となった少名彦神は小人の神でな……」
 そう翼が言うと、彼の元に、先程撃墜した筈のスクナノヒコの力が粒子となって集まってきたのであった。
 そして、それらは彼の体をすっぽりと覆ってしまったのだ。
 その後光が収まると、翼の姿が豹変していたのである。今の彼は、スクナノヒコを模したデザインのパワードスーツを身に纏っている状態であるのだった。
「このように、スクナノヒコはその身を小さくして持ち主を最後まで戦わせる仕様となっているようなのだよ」
「そんな……」
 折角、これで翼を大邪の手から解放出来ると思ったのに、まだ決着は着いていなかったという事のようだ。
 だが、同時に士郎はこの状況に感謝もする所であるのだった。
 それは、先程翼の搭乗機をクサナギノツルギの半ば反則的な性能により沈めてしまった事にあるのであった。故に、今のこの状況は翼と正々堂々とした勝負を行えるという好機とも捉えられるというのが士郎の考えであった。
 なので、彼は敵機の往生際の悪さを逆に利用しようと算段を決める事とした。
「では、父さん。手合わせお願いします」

◇ ◇ ◇

 そして、両者は適度な距離を取り、互いに剣を持ちながら向き合っていたのであった。
 呼吸を整えながら、相手の出方を互いに伺う。
 そんな中で士郎は考える。──相手は神機楼を身に纏っているが故にその防御は折り紙つきだろうと。対して、自分は剣神の媒体はあるものの、それ以外は生身の状態なのだ。
 故に、勝負は一瞬で着けないとこちらがやられるだろう。
 そう士郎が思い至るのと、翼が踏み込むのはほぼ同時であったのだ。
 そして、士郎は一瞬の内にパワードスーツに身を包んだ翼の懐へと潜り込んだ。そこから彼は居合いの要領で刀を振りぬいたのであった。
 それは、士郎が大神家で磨き上げた得意技で、姫子との初の手合わせの時も全戦をする事が出来た一因である。
 その自身の鍛錬と努力を信じて、士郎はこの一撃を放ったのであった。そして、二人はそのまますれ違い、最初とは逆の位置に立つに至っていた。
 そして、暫し沈黙の時が流れる。その後、口を開いたのは翼であった。
「士郎……」
 そう相手を呼んだ後に続き、彼はこう締め括った。
「見事だ、お前の勝ちだよ……」
 その相手が勝利した事を言い切ると、彼を纏っていた呪縛の鎧は粉々に砕けたのであった。 
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