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神機楼戦記オクトメディウム

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第22話 黄泉比良坂へ

 シスター・ミヤコと彼女の駆るガキノユウモンが去った後。
 そこには爆散を始めている泉美の駆るカルラノカブトと、それを今しがた仕留めた大神士郎の駆る──『タケノミカヅチ』であるのだった。
 自機を撃破されてしまった泉美は、そのままそこから降りるしかないだろう。なので、彼女は光となって地面へと降り立ったのであった。
「……」
 その様子を暫し見ていた士郎であったが、彼もそれに続く形で自身の機体から降りるに至ったのである。
 その後に待っていたのは、等身大の人間二人なのであった。無論、すぐに二人は対峙する事となる。
 そして、そのまま視線を交じわせあう二人。と、すぐに士郎は泉美に対して言うのであった。
「済まなかった。泉美とその愛機を撃墜するような事をして」
 辛うじて神器使いとしての意識が残っているが故の謝罪であるのだろうか? だが、どうやら話は少々違うようであった。
「士郎君が謝る事はないわよ。これは『手筈通り』なんだからね♪」
 そう言って泉美は人差し指を上へと向けて、茶目っ気を出して言ったのである。
「でも、気が引けるってものじゃなかったよ。『仲間』に剣を向けるなんて。それに、泉美のカルラノカブトにも『自爆させる』ような事をさせて」
 そう言うと士郎は今まで黄金に染まっていた自身の色を、再び白一色へと戻すのであった。
 それが意味する所。それは彼が決して大邪の手に堕ちた訳ではなかったという事に他ならない。
「ごめんね。優しい士郎君にこんな事をさせちゃって。本当ならそういう悪役は私が引き受けたかったんだけどね。後、あの子はこの事は気にしていないわ。少し間をおけばそのダメージは修復するから」
 そう言って泉美は、自分こそが本当は謝るべきなのだと付け加えるのであった。そんなやり取りをする中で士郎は言う。
「でも、これは大邪に『本拠地へ案内してもらう』為に必要な事だったんだよな? それで、発信機の方はどうだ?」
「ええ、バッチリよ」
 そう言うと泉美は愛用のガラホを出してパカリと開くと、その画面にはいつの間にかミヤコに付けた発信機から発せられる信号が放たれているのであった。後はこれを追って行って決着を着けるだけであるのだが、それにはもう一つ問題があったのである。
「『黄泉比良坂』へ行くには、『大邪七の首』としての俺の力が必要という事なんだよな?」
 それが答えなのであった。敵の本拠地へ向かうには、普通の手段では赴く事が出来ない状態にあるのだ。
『黄泉比良坂』。そこは1200年前に邪神が地上を滅ぼす為、その拠点として作り出した異空間なのである。故に、現実の世界には存在しない場所なのである。
 その事を一時期大邪の手先となった際に調べ上げていた泉美が知っており、その為の作戦を思い至り、それが今回の事だったという訳なのだ。
 なので、まずは発信機を大邪衆へと取り付け、その居場所を割り出させてもらうというもの。これは、泉美に大邪の力が備わった事で、異空間の人物に対してでも感知出来る仕様となっているが為に出来る事である。
 だが、居場所が分かっても敵は異空間に存在するのだ。無論、普通にはそこへは行く事が出来ないだろう。
 そこで、士郎の大邪としての力である『タケノミカヅチ』の出番であるという事なのであった。
「本当に、あのタケノミカヅチに時空を切り裂くような力があるってんだよな?」
「ええ、それは間違いないわ」
 士郎の疑問に、泉美は答えるのであった。これも『調べた』事だから間違いはないだろうと。
 そこで、「でも」と泉美は釘を刺すように士郎に言う。
「でも、今はまだそれを実行する時ではないわ。その時が来たら……頼むわよ」
「分かった」
 今はまだ敵陣に乗り込む為の準備が整っていないのである。なので、今すべき事はちゃんと体制を整える事に他ならないのだ。
 こうして二人の意見は揃ったのであった。しかし、最後に二人は互いに言いたい事があるのであった。
「話はこれで決まったな。だから、まず俺から言わせてくれ」
「お先にどうぞ」
 そう言われると、士郎は「済まない」と言いながらそれを口にし始める。
「泉美、わざと負けるというのは精神衛生的にいいものじゃなかったんじゃないのか?」
 それが士郎が聞きたかった事なのであった。例え作戦でも、負けるというのは悔しいものであるのだから。
 そう言われた泉美は、こう士郎に返すのであった。
「確かに負けってのは悔しいし、勝ち負けがどうでもいいって事は決してないわ。でも、何かを解決するには必ずしも勝ちにこだわる必要はないと、私は思うの」
「泉美……」
 その言葉に士郎は心打たれる気持ちであった。負ける事にも意味があると見出す彼女には、自身の技を磨いて勝負に勝つ為に精進してきた士郎にはないものが感じられる所なのだから。
 そんな泉美の考え方は、今後とも必要になってくるだろうと、士郎は改めてそれを重宝しようと思う所であった。
 士郎の方からの質問はこれで終わったのであった。次は泉美からであろう。
「俺の方からは以上だ。それじゃあ次は泉美の番だ」
 その言葉に頷くと、泉美は意を決したように言い切るのであった。
「士郎君。でもあれは本心でしょう? あなたが姫子さんの事を好いているという事は?」
 その事を利用するはめになってしまった泉美は、申し訳ない気持ちで言うのであった。そんな彼女に士郎は言う。
「ああ、確かに俺は前々から姫子に片思いをしていた、それは紛れも無い事実だ。でも……」
 そう言って士郎は一呼吸置いた後で、思いも掛けない事を口にするのであった。
「でも、どうやら俺は今、一番泉美の事が好きになってしまったようなんだよな……」
 言いながら頬を赤らめて、士郎はそこを指で照れくさそうに掻く仕草をするのだった。
 曰く、彼は泉美が皆の事を良く見てくれている、そこに関わった日がそう長くはないにも関わらずに惹かれてしまったとの事であった。
 それは、そんな泉美の様が自分の敬愛する兄である和希と重なるからとの事なのだった。自分が好きになる者が、より身近に憧れる人に近い方が惹かれるという事のようである。
 それを聞いた泉美も、顔を真っ赤にしてしまいながら言葉を選ぶ。
「わ、私なんかが和希さんと肩を並べられる……えっ……と」
 しどろもどろになりつつも、彼女は何とかなけなしの自分の言葉を紡いでいく。
「ありがとう……士郎君。私の事、そんな風に想ってくれていたんだ……」

◇ ◇ ◇

 そんな思いも掛けない愛の一組が成立したその後日、一同は大神家へと集っていたのであった。
 その理由は他でもない、いよいよ敵の本拠地である『黄泉比良坂』へと乗り込む為であるのだ。
 そのような一大決心故の皆のこれからの行動故に、この場には普段見ない面々もいるのであった。
 まず、大神家を取り仕切る大神和希はこの家の者だからいるのは当然として、稲田家専属のメイド長である如月アリアに、八雲家の執事である早乙女真人もこの場に駆け付けていたのだ。
 無論、彼らはこれから敵陣へと向かう一同を送り出す為である。
「士郎、気を付けて行くのですよ」
「姫子様も無理をなさらずに」
「あなた方は泉美お嬢様の大切なご友人がた。だから、無事に帰って来てくれる事をお嬢様もお望みです」
 三人の最後にそう言った真人であるが、その泉美は残念ながら今回は出陣出来ないのであった。
「ごめんなさいね、みんな。私のカルラノカブトは修復中だから、みんなと一緒には行けないわ。でも、シスター・ミヤコに付けた発信機を探知するアプリは皆のスマホにインストールしておいたからね」
 一介の女子高生が自作のアプリを作り上げてしまうとは如何なのであるが、今皆は真剣そのものである為に、それをツッコむのは無粋だと一同感じている所であるのだった。
 そんな泉美に対して口を開いたのは姫子であった。
「泉美ちゃん、ありがとう。向こうで目的を果たしたら、絶対帰って来るからね♪」
「ええ、待っているわ」
 そう言って二人は互いに微笑み合って友情の証を確かめ合うのであった。
 それに続いて、泉美は今度は千影に言う。
「千影さん、あの時はありがとう。そのお陰かは分からないけど、その後に私には目標が出来ましたよ」
「そう、それは良かったわ」
 それは、女子高生達がやるには少し禁忌に踏み込んだ行為の事である。だが、それが少なからず泉美の背中を押したのは紛れもない事実なようであった。
 そして、最後に泉美は今では最も大切な人となった士郎へと言葉を掛ける。
「士郎君も気を付けて。私の調べて知った事が正しければ、恐らくあなたには辛い展開が待っているでしょう。でも、決して希望を捨てないで欲しいわ」
「ありがとう、泉美」
 そう泉美に思わせぶりな言葉を掛けられた後、士郎は意を決して言うのであった。
「それじゃあ、姫子さん、千影さん。黄泉比良坂へ行きましょう!」 
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