非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第84話『捜索』
「実は大地は──方向音痴なんだ」
「……へ?」
晴登の言葉に、驚きと呆れを隠し切れない結月。しかしすぐに平静を取り戻し、
「いやいや、さすがに方向音痴でも道から外れはしないでしょ」
「違うんだ結月、アイツは度を超えた方向音痴で、道なんてあってないようなもの。山の中ともなればなおさらだ」
「えぇ…」
結月がここまで呆れた表情をするのは珍しい。だがそれほど、大地の方向音痴は筋金入りなのだ。目的地が学校や晴登の家以外だと、ほぼ確実に道に迷う。
「とにかく、早く探しに行かないと!」
「え、でももう点呼が始まるよ!」
「…だったら、先生に言ってから!」
晴登は急いで、点呼をかけようとする先生の元へと向かう。そして事情を話し、捜索を始めようとしたのだが・・・
「それは先生たちで対処しよう。君たちは班で集まって、点呼の後 待機だ」
「それじゃ人手が足りないはずです。俺たちも探します」
「いやしかし…」
「お願いします! 行かせて下さい!」
「「お願いします!」」
晴登は頭を下げてお願いする。ちらりと横を見やると、結月と莉奈も頭を下げていた。つい「俺"たち"」と言ってしまったが、協力してくれるようだ。ありがたい限りである。
「ふむ・・・だが3人じゃ許可できない。君たちも迷子になりかけない」
「──だったら、俺たちが加わったらいいですか?」
「あっ!」
驚く晴登の目の前に現れたのは、班員の男子の姿だった。いや、彼だけじゃなく、1組3班全員が揃っている。
「皆、どうして…?」
「お前が必死そうに先生の元へ向かっていくのが見えたから、何かあったんじゃないかと思ってな」
「皆で力を合わせればすぐに見つかるさ!」
「もう一度森に入るのは怖いけど、鳴守君たちにはお世話になってるから…」
「……っ!」
晴登は班員の優しさに胸を打たれる。この班の班長で良かったと、心から思った。
合わせて7人。これなら問題あるまい。
「……わかった。人手が足りないのは事実だから、君たちにも協力して貰おう。懐中電灯は持ってるかな?」
「「はい!」」
「よし。もう仕掛けは動かないようにしているから、後は道を辿って行くだけでいい」
先生はそう言うと、晴登たちを一番右の出口へ案内する。
「君たちはここのルートを頼む。くれぐれも別行動なんてするなよ?」
「わかってます」
晴登が代表して答えると、先生は頷いて戻っていった。今から他の先生にも呼びかけるのだろう。
「それじゃ、早速行こうか」
「「了解!」」
晴登たちは再び、森の中へと足を踏み入れる。
大地は大切な親友なんだ。絶対に見つけ出してやる。
*
肝試しの終わった森の中は不気味なくらいひっそりとしており、いくら仕掛けが無くなったとはいえ、恐怖心までは拭えない。今度は本物が出てくるのではないかと、そんな気がしてしまう。
「しっかし、こう手がかりが無いんじゃ、探すのは厳しくないか?」
「確かに。せめて、どのルートを通ったかでもわかればいいのに…」
分かれに分かれるこの迷路から人を探し出すなんて、無謀と言う他ない。まして、大地の班が道を外れたと仮定すると、捜索範囲はこの山全体。朝まで時間が掛かってもおかしくないのだ。
「おーい大地ー! どこにいるんだー?!」
「返事してー!」
全員で呼びかけてみるが、応答は無し。森が静かになっている今でさえ声が届かないとなると、このルートは違うのかもしれない。
「じゃあどうしようか? 一旦戻って別のルートを探す?」
「…いや、このまま分岐点まで行った方がいいだろう」
「何で?」
「鳴守がどの程度の方向音痴か知らないが、班員は別だろ。なら、わざわざ道から外れるルートを看過するとは思えない」
「なるほど…!」
伸太郎の推測は一理ある。今まで大地のことばかり考えていて、班員の存在を忘れていた。確かにまともな人たちなら、きっと大地のブレーキになってくれたはずだ。
「となると、どこで迷ったのかな?」
「それが恐らく分岐点だ。正規ルートとは別に似たような道があって、そこを通ったのかもしれない」
「ふむふむ」
つまり、大地以外のメンバーも迷ったならば、それほど紛らわしい道が存在していたということになる。はた迷惑な話だ。
「あれ? じゃあ大地が方向音痴ってのはあまり関係なくない?」
「そういうことになりそうだな」
「なーんだ、せっかくいじってやろうと思ったのに」
伸太郎の淡々とした答えに、莉奈が残念そうにする。
…いやいや、遭難していることに変わりはないのだ。そこまで楽観してはいられない。
「ねぇ、あそこが分岐点じゃない?」
「そうみたいだね」
結月の指さす方向を見てみると、確かに分岐点と思われる場所が見えた。ここが目的地であって欲しいが・・・
「…違うな。これは普通の分かれ道だ。迷う要素がない」
伸太郎の言葉に、一同はがっくりと肩を落とす。仕方ない、次の分岐点まで進むとしよう。
*
あれから分岐点を進んだり戻ったりを何回繰り返してきただろうか。そろそろ、どちらがスタートでどちらがゴールかもわからなくなってきた。
「まさか、分岐点が5つもあるルートがあるなんて…」
「そりゃ到着の時間が変わる訳だ」
それとこれは発見だったのだが、ルートによって分岐点の数も違ったらしい。晴登たちが肝試しで通ったルートは3つだったが、今しがた通ったルートはなんと5つもあったのだ。これは思った以上に捜索は大変そうだ。
「お、また分岐点に着いたぞ」
「ここってどのルートだったっけ…?」
「もう誰もわかんないよ」
しらみ潰しに探しているせいで、今の場所がわからない。見方によっては、晴登たちも道に迷っていることになりそうだ。
「おい、ちょっと待て、なんか変だぞ」
「ホントだ、道が3つある」
しかし、ここに来て変化が。今まで分かれ道は2つだったのだが、ここでは3つあったのだ。
といっても、2つは普通の道で、もう1つが獣道のような荒れた道だったのだが。
「明らかに怪しい…よな」
「まさか、ここ進んだのか…?」
普通の感性を持っていれば、間違いなくこのルートは通らないはず。だがこのレベルなら大地は迷わず進んでしまうだろうし、班員も辛うじてついて行きそうな気がする。間違いない。
「…行ってみよう」
晴登がそう言うと皆も同意して、先へと進むことになった。
*
「なぁ大地、この道ホントに合ってるのか?」
「え…あ、あぁ合ってる合ってる! 俺に任せとけって!」
「ならいいけどよ…」
大地の答えに、班員の男子が渋々だが納得する。
しかしマズいことになった。もう肝試しが始まって30分は経っているはずなのだが、未だにゴールが見えない。道もドンドン狭くなってきているし、もしかしなくても迷ったんじゃなかろうか。
「今さら方向音痴だなんて言えないしな…」
「何か言ったか?」
「い、いや何も!」
大地は班長の責任ゆえに、己が方向音痴であることを明かせずにいた。だからこそ、こんな状況に陥ってしまっている。笑えない話だ。
「それにいつまで続くんだよこの道…」
もし道が行き止まりであれば諦めもついた。しかし、こうも長々と続いてしまうと、もしかしたらゴールがあるのではと期待してしまう。人間の悪い癖である。
「どうしたもんか…」
大地は嘆きながらも、歩みを進めるしかなかった。いつかゴールに辿り着くと、そう信じて。
しかし現実とは非情なもので、唐突に"それ"は現れた。
「……ん、なんか踏んだか?」
それは卵の殻の様な、何やら固い感触だった。しかしそれは踏んだ衝撃で砕けたようである。
「何だろ──」
そう思って、大地は足元を照らした──照らしてしまった。
「うわあぁぁっ!?」
大地は驚き、後ずさる。足元には白い破片が散らばっていた。
「お、おい、いきなり叫ぶなよ!」
「いやだってこれ…」
後ずさったせいで後ろの班員にぶつかってしまったが、それどころではない。この白い破片・・・パッと見は卵か何かだと思ったが、その隣に落ちてる棒状の物を見たせいで気づいてしまった。
──これは骸骨だ。
「何でこんな所に・・・いや、山だからありえるのか…?」
「全く、どうしたんだよ大地。蛇でもいたか? いいから先に進も──うわあぁぁっ!?」
「なんだ、どうした?!」
「あ、あれ…!!」
大地が考えていると、班員の1人が唐突に叫んだ。驚いて振り返ると、彼は懐中電灯で前方を照らしたまま固まっていた。一体どうしたのか。大地が彼の灯りの照らす先を見ると・・・
「「う、うわあああぁぁぁぁ!!!!!」」
大地たちの盛大な絶叫が森の中に響いた。
*
怪しいルートを突き進む晴登たち。次第に道が狭くなり、今では人1人がやっとな幅しかない。果たして、本当にこの先に居るのだろうか。
「さすがにこれはおかしいって気づくだろ」
「いや、どうだろ。大地のことだから、もっと行っちゃうかもしれない」
「アイツそんなにヤバいのか…?」
伸太郎は訝しげに訊いてくるが、正直晴登にも答えられない。如何せん、常人が方向音痴の感覚なんてわかるはずがないのだ。今までの経験上、なんかそんな気がするだけである。
「うーん…」
「どうしたの? 柊君」
どこか悩ましげな様子の狐太郎に莉奈が問う。すると彼は首を傾げながら答えた。
「なんかさっきから嫌なにおいがするんです…」
「嫌なにおい…?」
「同感。ボクも少し気分が悪いや」
「結月ちゃんまで? 何だろう…? 晴登!」
「ん?」
狐太郎だけでなく結月まで何かを感じたようだ。莉奈は意見を仰ごうと、晴登を引き止め、今しがたのやり取りを説明する。
「…つまるところ、なんかヤバいのがこの先にあるってことか?」
「うん。遠くてよくわからないけど、凄く不気味な感じがする」
「それにこのにおい。煙…みたいな?」
「煙…?」
結月と狐太郎の話を聞き、晴登は考える。常人ならまだしも、他でもない彼らの感覚だ。気のせいだと安易に流すことはできない。一体この先に何が待っているというのか。それに煙とは──
「「うあああぁぁぁぁぁ!!!!!」」
「「!!??」」
突然、森の奥から絶叫が聴こえた。声質は男子のそれ・・・恐らく、大地たちだろう。
「…っ、行こう!」
2人の話を聞いた後だから少し躊躇ったが、親友を前にして逃げる訳にはいかない。晴登は細い道に構わず走り出す。他の人たちも後をついてきた。
「大地! そこに居るのか?!」
大きな声で呼びかけながら、先へ先へと駆け抜ける。足場が悪かろうが、枝が邪魔だろうが、知ったことか。行かなきゃならないのだ。
その時、視線の先で一筋の光が煌めく。
「大地!」
「え、晴登!? 何でこんなところに・・・いや、それどころじゃない! 悪いが急いで引き返してくれ!」
「え? ちょ…!」
光の正体は、大地の持つ懐中電灯のものだった。晴登は再会したことに安堵したのだが、どうも大地たちの様子がおかしい。というか、やけに焦っているように見える。
「ほら、戻った戻った!」
「おい、押すなって! どうしたんだよ?!」
「話は後だ! 今は引き下がってくれ!」
狭い道ゆえに追い越すことができない大地は、焦りながらも晴登たちを追い返す。理由がわからないのだが、こうなったら従うしかあるまい。
大地率いる1組1班と合流した一行は、怪しいルートから急いで脱し、ゴールへと向かうのだった。
*
正規ルートに入ってからゴールまでは早かった。もう何の仕掛けもない、ただの真っ直ぐな道なのだから当たり前ではあるが。
「は〜着いた〜!」
「死ぬかと思った〜」
大地たちはゴールに着くなり、その場に座り込む。彼らはかれこれ30分以上、森の中で気を張っていたのだ。それがようやく緩んだと言ったところか。
「無事でしたか、1班の皆さん」
「先生」
声のした方を見ると、そこには山本が立っていた。その表情からは安堵の気持ちが読み取れる。
何せ自分の担当である1組の生徒たちが森で迷い、それを1組の生徒たちが捜索に向かったのだ。心配するのも当然だろう。
「すいません先生、俺のせいで…」
「いいんです。戻ってきてくれればそれで。その代わり、何があったのか説明して貰えますか?」
「はい」
山本に促されて、大地は迷った経緯を話し始める。まぁ大方の理由は、彼が方向音痴だからということで片づけられた。班員も納得し、大地は申し訳なさそうに謝っている。
しかし晴登には、1つだけ気になることがあった。
「なぁ大地、さっき叫んだのはなぜなんだ?」
そう、彼らが絶叫した理由だ。あのお陰で見つかったと言っても相違ないが、ではなぜなのか。あの道が正しかろうと誤っていようと、肝試しの仕掛けは発動していないはずだ。それなのに、どうして彼らは揃って叫び声を上げたのか。
それが気になったから訊いてみたのだが、途端に大地は肩を抱いて震え始めた。
「お、おい、どうした大地…?」
「──墓だ。お墓があったんだ」
「え…?」
晴登はそれを聞いて絶句する。あんな外れた道の先にお墓があったというのか。
大地が言うには、道が少しだけ開けた所に、墓石がポツンと1つだけ建っていたらしい。まして、その近くには骨が散らばっていたんだと。なんと恐ろしい。
…! ということは、狐太郎の言っていた"煙"とは"線香の煙"だったのかもしれない。普段から嗅ぐ訳でもないだろうから気づかなかったのだろう。
・・・いや待て、何で線香に火が付いているんだ。
「お墓ですか…。この辺に墓地があるとは知りませんでしたね」
「へっ」
山本の言葉に、晴登は思わず変な声を漏らす。少なくとも今日の内に、学校の関係者以外が山に立ち入ることはないはずだ。そして先生は墓の存在を知らなかった。それなのに、線香の火が付いていたのはおかしい。"今日、誰かが付けたはず"なのだ。
何だか背筋がムズムズしてきた。これはいよいよ嫌な予感がする。
「それにしても、おかしな話ですね」
「何がですか…?」
山本が優しく微笑む。もう十分おかしいことだらけなのだが、これ以上何があるというのだ。頼むから、あまり嫌な予感を助長しないで欲しい。ホントにシャレにならなくなる…!
「──どの分かれ道も2本しか用意していないはずなのに、どうして3本目があるのでしょうか?」
「「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」」
山本の強烈なカミングアウトに、今日一の絶叫が森中に木霊していった。
後書き
雑なホラーオチで申し訳ありません。如何せん、怪談とかあまり知らないのでネタが無いんです…。どうも、波羅月です。
さて、今回は捜索回。ただ探して叫ぶだけの回でした。おかげで言うことが特にありません。よって早速次回を書き始めたいと思います。
次回はこの章のキーとなる話です(たぶん)。お楽しみに。
今回も読んで頂きありがとうございました! では!
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