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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第43節「遥か彼方、星が音楽となった…かの日」

 
前書き
ラストバトル、開幕ッ!

推奨BGMは当然、『Vitalization』で!! 

 
「何をしたッ!?」

胎動するネフィリムの心臓、そして真っ赤に染まっていくジェネレーターを見上げ、弦十郎は叫んだ。

「ただ一言、ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけ──こちらの制御を離れたネフィリムの心臓は、フロンティアの船体を喰らい、糧として、暴走を開始するッ! そこから放たれるエネルギーは、一兆度だあああッ!」
「何てことを……ッ!?」

ツェルトはウェルのあまりの身勝手さに絶句する。
この男の器は、ただ矮小なだけではない。小さい上に底が抜けてしまっていたのだ。

「僕が英雄になれない世界なんて、蒸発してしまえばいいんだああ……ッ!」
「フッ!」
「──ひぃッ!?」

弦十郎の拳がコンソールを粉砕し、ウェルが悲鳴を上げる。
しかし、ネフィリムの胎動は止まることなく、むしろその鼓動はどんどん大きくなっていく。

「……壊してどうにかなる状況ではなさそうですね」
「──来いッ!」
「確保だなんて、悠長なことを……僕を殺せば簡単な事を──」

弦十郎はウェルの胸倉を掴み上げると、彼への処罰をとても静かな声で告げた。

「殺しはしない……お前を、世界を滅ぼした悪魔にも、理想に殉じた英雄にもさせはしない……。どこにでもいる、ただの人間として裁いてやるッ!」

それは、ウェルにとってあまりにも残酷な罰だった。
誰よりも上に立ちたかった男は、ただ一人の人間として、彼が見下し続けてきた凡百の人々と変わらない扱いの罰を受けるのだ。

「畜生ッ! 僕を殺せえッ! 英雄にしてくれッ! 英雄にしてくれよおおおー……ッ!」

情けない声を上げるウェルの首根っこを引き摺って行く弦十郎。
緒川は、そんなウェルの右腕からModel-GEEDを外すと、ゆっくりと立ち上がったツェルトの方を見る。

「あなたはどうするんですか?」

ツェルトは緒川の手から予備のModel-GEEDを受け取ると、代わりに破損したModel-GEEDを渡す。

「聞くまでもないだろ?」
「そうですか……。無理はしないで下さいね」
「ああ……必ず生きて帰る。そう約束したからな」

そう言ってツェルトはしゃがむと、右手を床に触れる。
次の瞬間、ツェルトの姿が床に空いた穴の中へと消えていった。

「緒川、脱出だッ!」
「はいッ!」

自らの向かうべき場所へと向かったツェルトを見送り、緒川はジェネレータールームを後にした。

ff

フロンティアが赤く、不気味な輝きを放ち始める。
怪しい光はどんどん強くなり、やがてフロンティアの大地は隆起し始めた。

遂にネフィリムがフロンティアを喰らう。
地下から浮き上がったネフィリムの心臓により、遺跡が崩壊していく。

「うわ……ッ!」

モニターが砂嵐となり、二課本部も何も確認出来ず。
ウェルに手錠をかけ、空き部屋にぶち込んできた弦十郎は、発令所へと駆け込む。

「藤尭ッ! 出番だッ!」
「忙しすぎですよッ!」
「ぼやかないでッ!」

藤尭が弾き出した軌道計算により、ネオ・ノーチラス周辺の岩盤、その脆い部分へと正確にミサイルが発射される。

周辺の地面を崩したネオ・ノーチラスは、フロンティアから脱出した。

と、そこで弦十郎は戻っていない職員に気が付く。

「緒川、春谷はどうしたッ!?」
「ああ、春谷さんでしたら……」

落下していくネオ・ノーチラス。
その隣を……エアキャリアが飛んでいた。

『私の事ならご心配なく。人命救助を果たした後、報告に戻ります』
「春谷……」

ホッと息を吐く弦十郎。
モニターの向こうでエアキャリアを操縦しながら、春谷は汗を拭った。



「翔ッ! 翔ッ! こっちだッ!」
「ツェルトッ!」

脱出したツェルトが、フロンティアの大地を跳躍する。
伸ばされた鎖を掴み、翔は彼を自分の方へと引っ張った。

RN式とはいえ、Model-GEEDもまたシンフォギア。バリアコーティングにより、短い間なら宇宙でも活動できる。
宙を泳ぎながら、ツェルトはようやく仲間達の元へと辿り着いた。

「ツェルト……ッ!」

マリアはツェルトの顔を見るなり、彼の元へと駆け寄り、そして抱き締める。

「ッと……。マリィ、約束通り戻って来たぞ」
「うん……」
「それと……セレナのギア、すごく似合ってる」
「もう……こんな時まで……」

ツェルトの胸から顔を離し、彼の顔を見上げるマリア。

周囲が少し、ロマンチックな雰囲気になりかけたその時……翼が叫んだ。

「おい、あれを見ろッ!」

装者達の視線の先で、赤熱化したフロンティアが溶解し、ネフィリムの心臓へと吸収されていく。

「──あれが司令の言っていた……」
「再生するネフィリムの心臓ッ!」

フロンティアを食らったネフィリムの心臓が巨大化。

赤き灼熱の巨人、ネフィリム・ノヴァが両腕を広げて咆哮した。

「そうはさせないッ!」

調の両手、両足のパーツが脱着されて変形し、調の姿に似た巨大なロボの姿となる。
完成したロボの頭部にあるコックピットへと、調は搭乗し、両腕の丸鋸を構えた。

(つい)Ω式・ディストピア〉

「はああああッ!」

同時に、切歌は大鎌の先端を三本の鉤爪状に変形させ、ブンブンと振り回す。

終虐(ついぎゃく)Ne破aァ乱怒(ネバーランド)

「やああああッ!」

二人は同時に突撃し、ネフィリムの体を切り裂く。

だが次の瞬間、二人のギアに亀裂が入り、全身からそれぞれの薄紅と緑の光がネフィリムへと吸い込まれていく。

「「ああああ……ッ!?」」

悶絶する二人。
ツェルトはその光景に、ネフィリムの特性を思い出す。

「聖遺物どころか、そのエネルギーまでも喰らっているのかッ!?」
「臨界に達したら、地上は──」
「蒸発するぞッ!」

翼と響が接近しようとしたその時、二人の間をクリスが駆け抜ける。

「バビロニア、フルオープンだああッ!!」

クリスが取り出したのは、ウェルから回収したソロモンの杖。
ネフィリムの背後に、バビロニアの宝物庫へのゲートが現れた。

「バビロニアの宝物庫をッ!?」
「エクスドライブの出力でソロモンの杖を機能拡張したのかッ!?」
「くうううううっ!!」
「ゲートの向こう、バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納できれば……ッ!」

クリスはソロモンの杖を構え、ゲートの拡大を続ける。
それは、ヒトだけを殺す力を起動させてしまった消せない過去への、彼女なりの贖罪だった。

「人を殺すだけじゃないって──やってみせろよッ! ソロモンッ!!」

そして、遂にネフィリム・ノヴァの巨体を押し込めるのに充分な大きさのゲートが開き始める。

「──これならッ!」

奏が確信した、その時だった。
これが世界の法則だと言わんばかりに、ネフィリムが動き出す。

「避けろ雪音ッ!」

翼が向かうが間に合わず、ネフィリムの剛腕はクリスを拭き飛ばした。

「──ぐあッ、杖が……ッ!」

弾き飛ばされるソロモンの杖。

それを掴み、再びネフィリムに向けたのはマリアだった。

「わたしがッ! 明日をおおおぉぉッ!」

ゲートが完全に開き、ネフィリムは真っ逆さまに落ちていく。

生きた飢餓衝動とはいえ、自分が異世界の彼方へと幽閉されようとしているのが分かるのだろう。ネフィリムは宝物子の鍵を持つマリアへと手を伸ばす。

避けるマリア。
しかし、ネフィリムは指先から、炎熱化した触手を伸ばし、マリアを絡め捕る。

「ぐ……ッ!」
「「マリアッ!」
「マリィッ!」

ネフィリムはマリアを捕まえたまま、ゲートへと落下していく。
このままでは道連れだ。

「クソッ! Model-GEEDじゃ届かないッ! どうすれば俺は……ッ!」

ツェルトの呟きに、翔は何かを思いついたようにハッとなる。

「純、もう一度手伝ってくれるな?」
「勿論だ。今度は何をするんだ?」
「俺達のフォニックゲインを、ツェルトのRN式に分配するッ!」
「了解、ぶっつけ本番だけど、やるしかないなッ!」
「お前ら、何を……?」

困惑するツェルトの両脇に立ち、翔と純がそれぞれのアームドギアを構える。

「もう一度、奇跡を起こすんだよッ!」
「俺達の力、しっかり受け止めろッ!」

そして、二人の伴装者は奏で始める。

大事な人を助けたい。そんな、小さくとも尊き願いを叶える、奇蹟の旋律を。



「格納後、私が内部よりゲートを閉じるッ! ネフィリムは私が──」
「自分を犠牲にする気デスかッ!?」
「マリアアァーーッ!」

切歌と調が、私を追いかけて来てくれている。
でも、きっと間に合わないだろう。

私だって、こんなところで死にたくはない。
けれど、ネフィリムの落下を防げるのなら、これが最善の方法だ。

「こんなことで、私の罪が償えるはずがない……だけど──全ての命は、私が守ってみせる……ッ!」

ごめんなさい、ツェルト。出来る事ならあなたと二人で、セレナが起きるのを見届けたかった。

あなたと、セレナと、それから皆で……笑い合える明日に行きたかった──

見上げた先、ネフィリムと戦う力が残ってないからと見守る事に徹していた彼がいた場所に、光が見えた。

眩しいくらいに綺麗で、小さいのに強い光。

光はものすごいスピードで、私の方へと向かってくる。

調と切歌をあっという間に追い越して、そしてネフィリムの腕に黄金の鎖を巻き付けた彼は、弾けた閃光の中から飛び出してきた。

「マリアああああああああああッ!!」

「ツェルトッ!?」

それは、王者の如き威風を放つ黄金の鎧と、高貴さの象徴たる紫の装束に身を包んだツェルトの姿だった。

RN式、エンキドゥのエクスドライブモード……束ねられた70億の絶唱から、ツェルトが掴み取った奇跡が、私に手を伸ばしていた。

「お前をもう一人なんかにさせやしないッ! 絶対に、皆で帰るんだッ!」
「ツェルト……」

いつか、彼に言われた気がする。

『俺がマリアのヒーローになってやる。マリアの事、ひとりぼっちになんか、させてやるもんかッ!』

そっか……そうよね。そんな優しい彼に支えられてきたから、私はここまで頑張ってこれたのね……。

「──それじゃあ、マリアさんの命は、わたしたちが守ってみせますねッ!」

また泣きそうになりながら顔を上げると、立花響が自信に満ちた顔で隣に立っていた。

それに続くように、続々と集まってくる仲間たち。
その全員が、私に手を伸ばしていた。

「ここで見捨てるなど、防人の名が廃るッ!」
「罪なら生きて償えよ。死んで償おうなんざ、あたしが認めねえッ!」
「マリア。わたし達、家族でしょ?」
「アタシ達はいつでも一緒、死ぬ時だって一緒デスッ!」
「でも、今はまだその時じゃない。そうだろ?」
「あんたの事はよく知らないけどさ、でもこれだけは言える……──生きるのを諦めるなッ!」

「……あなたたち……ッ!」

どうやら誰一人として、私を見捨ててはくれないらしい。

この場に居る全員が、ネフィリムと共にバビロニアの宝物庫へと吸い込まれていくことを選んでいた。

「英雄でないわたしに、世界なんて守れやしない。……でも、わたしたち──」
「ああ。俺達は、一人じゃないんだ……ッ!」

その言葉に、私は自然と微笑んでしまう。

そうね、一人じゃない。なら私は……もう何も怖くないッ!



そして、装者達とネフィリムを吸い込んだゲートは揺らぎ、静かに閉じていく。

「響いいいいい……ッ!」
「衝撃に備えてッ!」

職員全員が集まったネオ・ノーチラスの艦橋が、船体から分離。
パラシュートを展開しながら海面へと落下していく。



そして同じ頃、月の周辺を漂うフロンティアの制御室……。

「フォニックゲイン、照射継続……がはッ!」

吐き出した血で、コンソールが赤く濡れる。
だが、もう全ての工程は完了していた。

「はぁ、はぁ……月遺跡、バラルの呪詛、管制装置『アルテミス』の再起動を確認──月軌道、アジャスト開始……ッ!」

モニターに映る地球を見上げ、ナスターシャ教授は満足そうに呟く。

「……星が……音楽となって……──」



そして、最期まで子供達を想っていた一人の老科学者は、娘達が奏でる最後の音楽を聴きながら事切れた。




ff

「なんて大量のノイズ……ッ!」

次元間隔壁を抜けた先に広がる、バビロニアの宝物庫。そこは、無限とも言える程の広さを備えた武器格納庫にしてノイズを生み出し続けるプラントだった。

これまで散々見てきた小型の個体から、見るだけでも嫌になる巨大な個体まで、格納されているノイズの数は計り知れない。

「さんざんこの杖が呼び出してきた、奴らの住処だからな」
「フィーネが言ってた通り、隔壁が開きっぱなしだとしたら……迷惑極まりねぇなッ!」
「つまり狩り放題ってわけか。おもしれぇッ!」
「切り払うぞッ!」
「翔くん、純くん、サポートよろしくッ!」
「任せろッ! 正真正銘、これが最後だッ!」

そして翔はもう一度、天詔琴に弓を傾けた。

「お願い 聞かせて 僕はここにいるから 生まれたままの感情を 隠さないで──」

響き鳴りだす、新たな音。

調べを歌い、奏でられゆく新たな唄に乗せて、聖なる戦乙女達は各々の武器を抜いた。




「うおおおおおッ! いっけえええええッ!」

〈我流・超級撃槍烈破〉

響は右腕のギアを槍状に変形させ、加速。
ノイズの群れに突貫しながら真っ直ぐに突き進んでいく。

「はあああああッ!」

〈断空ノ煌刃〉

翼は両脚のブレードを巨大化。
構えた二振りと共に、巨大なノイズを微塵に斬り捨てる。

「──うりゃあああああッ!」

〈DESTRACTION SABBATH〉

クリスは全ての砲門を開き、ミサイルを一斉発射。
無数に存在する小型のノイズを焼き払いながら移動している。

「とりゃああああああッ!」

〈COSMIC∞WING〉

そして、奏が槍の先端から放ったビームが真っ赤に燃える不死鳥の形となり、ノイズの群れに穴を穿った。

「翼、久しぶりにアレ、いけるなッ!」
「うんッ! 行くよ奏ッ!」

ようやく正しい意味で並んだ両翼は、天羽々斬とガングニール、それぞれのアームドギアを同時に振るい、重ね撃つ。

蒼と橙、二色の竜巻が荒れ狂い、波のように押し寄せるノイズを瞬く間に殲滅した。

〈双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-〉



一方、切歌とツェルトは、迫るネフィリムの触手を引き付け、弾き続けていた。

ツェルトは宝物庫内に浮遊している構造物の一つを鎖で引き寄せると、それに鎖を巻き付けた。

「エンキドゥの力とは、原子変換ッ! 自身及び触れた物体の原子構造を組み換え、あらゆる形へと作り変える権能ッ!」

鎖を巻きつけられた構造物は、次の瞬間ツェルトの手の中で杖にも似た形状の剣へと姿を変える。

「マリィに手出しはさせねぇッ!」

ツェルトは回転しながら、刀身に集めたエネルギーを斬撃として放つ。

〈Sparkle/Swing〉

更に、杖先に形成したオーラから無数の光の矢を叩き込む。

〈Sparking/Melam〉

「とっととその手をマリィから放せッ! 女の子の扱いも心得てないクソデカ大食い野郎は家でピザでも食ってやがれってんだよッ!」

「くっ! 調ッ! まだデスかッ!?」
「もう少しで──ッ! 切れたッ!」

丸鋸がネフィリムの触手を切断すると同時に、シュルシャガナのアームドギアは砕け散る。

「マリィッ!」
「ひと振りの杖では、これだけの数を──制御がおいつかないッ!」

マリアはネフィリムに捕らわれている間も、ソロモンの杖によるノイズのコントロールを試みていたが、エクスドライブモードで機能拡張されたソロモンの杖でさえ制御できなくなるほど、宝物庫の中はノイズで溢れかえっていた。

「マリアさんは、その杖でもう一度宝物庫を開くことに集中してくださいッ!」
「──何ッ!?」

響の言葉の意図が分からず、マリアは思わず首を傾げる。

「外から開くなら、中から開ける事だって出来るはずだッ!」
「鍵なんだよ、そいつはッ!」

永葬奏(ながそうそう)・波紋の型〉
〈Slashbeat×ライトニング〉

伴奏と同時に接近してくる小型ノイズを、それぞれの楽器が放つ真空波で切り刻みながら、翔と純が叫ぶ。
意図を察したツェルトは、周囲を浮遊している構造物に楔を打ち込み、思いっきり振り回してノイズへとぶつけた。

「行けッ! マリアあああッ!」
「…………セレナアァァァァッ!!」

マリアがソロモンの杖をかざし、再び元の世界へのゲートを開く。
ゲートの先には、砂浜と青い海が広がっていた。

「脱出デスッ!」
「ネフィリムが飛び出す前にッ!」

マリアとツェルトがゲートへ向かい、調と切歌も続く。

「行こうッ! 奏ッ!」
「おうッ!」

両脚のブレードを切り離した翼は、奏と共に。

「ジュンくんッ!」
「ああ、今行くッ!」

〈Shooting×スターライト〉

最後の砲撃を終え、アームドギアを再びアーマーパージしたクリスも、槍を投擲し、アーマーパージのエネルギーの一部を盾で増幅してノイズを焼き払った純と共に。

そして、最後まで伴奏を続けている翔を連れて響も離脱しようとする。

「──ああッ!」

しかし、装者達を追い越して、ネフィリム・ノヴァがゲートの前に立ちふさがる。

「迂回路はなさそうだッ!」
「ならば、行く道はただひとつッ!」
「手を繋ごうッ!」

翔とツェルトもアームドギアを収納し、10人みんなで手を繋ぐ。

「マリアッ!」
「マリアさんッ!」

マリアのギアの胸部から、巨大な剣が現れる。

引き抜いた大剣を宙へと投げ、マリアも手を繋いだ。

「この手、簡単には離さないッ!」

二課とF.I.S.に分かれた並び。その真ん中で、ガッチリと手を組む響とマリア。
そして、翼と奏、クリスと純、調と切歌は口を揃えて“あの言葉を”叫ぶ。

「「最速でッ!」」
「「最短でッ!」」
「「真っ直ぐにッ!」」

マリアの剣が光り輝き、光の粒子となって10人の頭上に降り注ぐ。
粒子はやがて光のヴェールとなり、装者達を包んだ。

同時に、響とマリアのギアからプロテクター部分が外れていく。
二人のギアは変形し、合体して……やがて黄金と白銀、巨大な二つの手へと姿を変えた。

そして、中心に立つ響とマリア、翔とツェルトの四人が、最後の一節を叫んだ。

「「「「一直線にいいいいいッ!!」」」」

繋がれた巨大な手が10人を包み、回転する。
ネフィリムは触手を伸ばすが、回転する両腕は触手を弾きながら突き進んでいく。

先程、調と切歌にしてみせたように、ネフィリム・ノヴァとの接触は噛み砕かれることと同義だ。
装者達が試みるは、この巨大な敵を突破するための唯一の方策。

それは自分達を、一息では取り込めないほどの巨大・膨大なエネルギーの塊と化すことで、暴食に対抗。エネルギーを束ねて制御する響とマリアが手を取り合い、増幅することで形成した拳の形状のシンフォギアにて全身を保護し、ネフィリムを貫通する真っ向勝負だった。

『うおおおおおおおおおッ!!』

〈Vitalization〉

その技名の意は『自分の解放』。この場に揃う全員が、自らを偽ることなく、生まれたままの心をさらけ出しながら咆哮する。
手を取り合った10人の裂帛の叫び。束ねられた70億の奇跡は遂に、ネフィリムの体を貫いた。

その勢いのままゲートを飛び出し、地球へと戻ってくる装者達。
束ねたエクスドライブのエネルギーを取り込んだネフィリム・ノヴァは、その時点で臨界に到達。
赤熱化したその巨躯を保つことが出来ずに、自壊を始めていた。

だが、装者達もまた、接触の際にエネルギーのほとんど全てをネフィリム・ノヴァに暴食され、ギアの維持すらままならない状態まで追い込まれていた。

ボロボロに砕けたギア。立つこともままならない身体。

目の前の砂浜に刺さるソロモンの杖。そして、間もなく爆発するネフィリムと、開きっぱなしのゲート。

「くッ……杖が……ッ! すぐにゲートを閉じなければ、間もなくネフィリムの爆発が……ッ!」
「だが、体が、もう……ッ!」
「ここまで、なのかよ……ッ!」

マリアが、ツェルトが、奏が、声も出せない程に疲弊した調と切歌が諦めかけた、その時だった。

「まだ、だ……」
「ああ……もう一人……」
「心強い仲間は他にも……」
「仲間……?」

クリスの、純の、翼の言葉に首を傾げるマリア。
見上げる地平の向こう、こちらへと向かってくる人影を見ながら、翔と響は呟いた。

「ずっと俺達を見守ってくれていた……」
「わたしの、親友だよ……」

二人の視線の先から全速力で走って来るのは……響の親友、小日向未来だった。

(ギアだけが戦う力じゃないって、響と翔くんが教えてくれた。──わたしだって、戦うんだッ!)

足場の悪い砂浜で、転びそうになりながらも走り続ける未来。
そして、未来は遂にソロモンの杖をその手に掴む。

「お願いッ! 閉じてえええええええええッ!!」

ゲートに向かって真っすぐに、ソロモンの杖を投げる未来。

同じタイミングで、体の真ん中に大穴を空けたネフィリムの体が光り始める。

「もう皆が──誰もが戦わなくていいような世界にいいいぃぃぃッ!!」

爆発するネフィリム。
ノイズ達を巻き込み、地球に迫る爆風。

その場の全員が息を呑んで見守る中、未来の願いを乗せて飛んだソロモンの杖は、真っ直ぐにゲートへと突き進んでいき──


そして、爆風が届く直前、ほんの刹那の一瞬、紙一重のタイミングで杖はゲートに吸い込まれ、次元間隔壁は完全に閉じられた。

──そう。遂に地球は、極大災厄による脅威から救われたのだ。

「────はぁ……」

息を吐きながら膝を付く未来。
それと同時に緊張が途切れたのか、装者達は一斉に砂浜へと寝転んだ。

翔の口から、自然と言葉が漏れる。

「おつかれ、響」
「うん…………終わったね…………」

後に、『フロンティア事変』と名付けられる特異災害が、ここに幕を下ろした。

世界を救った英雄達は、秋の砂浜に寝転んで、ただ空を見上げるのだった……。 
 

 
後書き
奏「あのセリフ初耳だったから、隣の翼に合わせるのが大変だったよ……。ズレないかヒヤヒヤした」
翼「あ……なんか、ごめんね?」

次回、エピローグッ!
お楽しみに! 
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