《変遷者》の世界調和

　頬に当たる冷たい水に、ふわふわとしていた意識が活性化していく。
　視界一面に広がる青い空と目の粘膜を焼く太陽の光に目を細め、僕の頬をつついている碧髪の少女に驚いて起き上がる。……それにしても。

「……碧の縞模様」
「貴様！その位置を変われ!!」

　つい目に映った物を呟いてしまうと、僕より幾らか身長の低い痴女のような長髪の女性が声を荒らげた。これが噂のながもんと言う奴か……良い酒が飲めそうだ。……ながもん？
　痴女の女性は戦艦の砲台に酷似した物を複数取り付けた機械を背に付けていて、よく見ると碧髪の少女も駆逐艦をイメージしたような機械を背負っていた。うん……やっぱ艦これの長門と山風だよね。あれ、艦これってなんだっけ？
　……かく言う僕も全体的に黒いミニスカの忍者服を着ていて、革製のサイハイブーツと長袖ロングコートで和風と洋風が入り乱れた大正浪漫的な服装なんだけど。一応スパッツは穿いてるからパンチラの心配は無いし、薄い布地の腰辺りまであるマフラーで口元を隠してるから目元と絶対領域くらいしか肌は露出していない。手の露出も穴あきグローブ特有の指先くらいで、鉄壁……ではないにせよ結構露出が抑えられていて元男としても嬉しい。……元々女だったよね？
……因みに、膝辺りまで伸びた黒髪はポニーテールに纏められていて、今着ている服の差し色である赤黒い色の紐で纏められている。可愛い。武装が忍者刀と普通の拳銃に甲板風の篭手だけなのが恐いけど……そんな事より目の前の二人が長門と山風なのか確認せねば。

「あ、あの……「Hey!テートクの言ってたbattleshipは見つかったネー?」……ぁぅ……」
「あぁ、恐らくだがこの現代かぶれの忍者がそうだ」

　ちょっとコミュ障気味な僕の全力を持って敢行しようとした質問は英語混じりの女性……金剛によって砕け散り、大正浪漫を現代かぶれと言われたショックで吐血しかける。

「あの……貴女達は一体……?と言うか、ここは……?……っ!?」

　質問の直後に思考にノイズが走り、ここに酷似した海で主砲一門のみの航空戦艦を戦場に艦娘同士が戦う姿が映し出された。
その艦娘は吹雪と電によく似ていて、そのどちらも直剣や刀、大剣と言った近接武器で死闘を繰り広げている。
二人が衝突する度に戦艦の竜骨が軋み、破損が広がっていく。
今行われている戦闘を止めようと戦艦に上がってくる艦娘を主砲が吹き飛ばし、その反動で軋みが増える。それを幾度となく繰り返す内に艦娘同士の決闘は終わり、スッキリした顔の二人が司令室へと入ってきて司令官が殴り飛ばされた。
血を吐いて床を転げ回った司令官が艦娘二人を振り払って押したボタンによって戦艦が爆発した所で、意識が引き戻される。
先程の記憶以外にも夜間に沢山の艦娘を轟沈させた記憶や護送艦時代に提督を護送中に深海棲艦に襲われて提督が亡くなった記憶がフラッシュバックして、胃の中身を全て吐き出した。

「おえっ……うぅ……」
「なっ大丈夫か!?何があった!!」

胃の中身が無くなるまで吐いても艦娘を轢き殺した感触が消える事は無く、長門の声で少しずつではあるが感触が消えていく。
……ここで僕の名前を言えば殺してくれるのでは無いだろうか？

「名前と船だった頃の記憶を……思い出しまして……艦娘撃破数404、異名『艦娘殺し』の常夜です。艦種は標的艦で……武装は自決用拳銃と模造刀で……僕が艦娘になった要因は僕に殺された艦娘達の怨念……だと思います。艤装は解体して、僕を演習用の仮想標的に使うのが最も効率が良いと思います……ははは、死にたい」
「……そうか。日向鎮守府所属戦艦の長門だ。提督の言った通りの現状だな……鎮守府まで護送するから、少しの間寝ていてくれ」

やっぱり長門だった長門の言葉に疑問符が脳内を埋め尽くした直後、首への鈍痛が走って意識が途絶えた。