曇天に哭く修羅
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第三部
主義主張
前書き
_〆(。。)
関東領域の第三スタジアム。
横長構造の広大なスポーツ用の空間。
そこには《島崎向子》、《九月院瞬崩》、《矢田狂伯》が立っている。
フィールドのところどころには小さなクレーターが出来てしまっていた。
「どうかな向子さん? 【天地崩穿流】を継いだ27代目瞬崩の力は」
「現時点なら立華くんよりも強いだろうねぇ~。悔しいけども」
狂伯と向子はまるで道端で立ち話しているような気楽さで瞬崩を評価する。
「やっぱり強いなあぁ。流石は龍帝学園で1年の時から今まで学園最強の生徒会長をしてるだけはあるよおぉ……」
時間稼ぎの向子と戦っていた瞬崩は向子から何発も魔晄防壁で耐えられない攻撃を喰らい血を流していた。
「大人しくしといた方が良いよ~。立華くんと戦うのに支障が無い程度で抑えといたし体も暖まったでしょ~?」
プランの為にも向子が瞬崩を倒すわけにはいかなかったので加減しておいたらしい。
瞬崩にとっては屈辱だが彼にとっての最優先は紫闇と戦って勝つことなので大人しく向子の忠告を聞いておく。
「狂伯くんは戦わないの?」
「俺は見届け人かつフィクサーなんで。『今』の向子さんはともかく『真面目』な向子さんだと勝てないですし」
狂伯は顔を斜め上に向ける。
「それにそろそろ来ますよ」
「だね」
複数の着地音。
現れたのは
《佐々木凜音》を抱えた《立華紫闇》
副会長の《春日桜花》
《黒鋼焔》
《白鋼水明》
《的場聖持》
「そんじゃ俺と焔さんは凜音ちゃんと観客席で応援しとくから頑張れよ」
焔と聖持が凜音を連れていく。
「僕と向子さんは立華君が負けた時にしか出番が無いから離れとくね」
桜花と向子はフィールドの端に寄る。
「健闘を祈るよ」
狂伯も紫闇と瞬崩を残して下がった。
「やっと来たなあぁぁ立華紫闇」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
凜音と焔、聖持は立ち見席に来ていた《黒鋼弥以覇》と先代の26代目・九月院瞬崩だった《流永》が並ぶ所へ行く。
「若い頃の弥以覇に似とるな」
「江神全司にも言われたよ」
「本物の黒鋼ならともかく紛い物では我が弟子の相手にならん。この戦は27代目が勝つ。そん次はお前の番じゃ黒鋼焔」
「勝つ根拠は貴方が捨て切れなかった家族への情を27代目が捨て切れたからかい?」
流永が頷く。
「あたしは爺ちゃんからかつての貴方について聞かされている。だから言うけど60年前に負けた理由は情を捨て切れなかったからじゃあないと思うんだ」
焔がそう言うとフィールドの紫闇と瞬崩に熱が生じ会場の雰囲気が変わる。
「凜音ちゃんには辛いものになるだろうけど最後まで見てやってほしい」
聖持が優しく声を掛けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「佐々木に聞きたいんだけどさ。お前、凜音が誘拐されたことは知ってたのか? お前に助けてほしかったみたいだぞ」
「捨てたもののことなんて知ったことじゃない。それに今のぼくは佐々木青獅じゃなくて九月院瞬崩だって言わなかったっけ?」
瞬崩の言い様に対して一段と怒りが湧いた紫闇は闘争意欲が高まった。
左足を前に。
右足を後ろに。
左手は脱力して下げておき、右手は顎の下へと持っていく。
「黒鋼流・【四形ノ一《青龍》】」
「やっぱり良いなあぁ。お前と戦うのに余計なものは要らない」
瞬崩は全身の力を抜いた。
両腕を下げていく。
槍の穂先は地に着く寸前。
「動かざること山の如く」
瞬崩が放つ重い圧力に紫闇は心臓の鼓動を高鳴らせ胃を痛くした。
恐怖で冷や汗が止まらない。
それほどの好敵手なのに以前と同じで物足りなさを感じてしまう。
(ちょっと前までは解らなかった。何で強くなった佐々木をそんな風に思うのか)
でも今は解る。
『人との繋がり』を捨てたから。
今でも別の紫闇なら人との繋がりを『そんなもの』と言うに違いない。
強さに直結することは無いと。
「佐々木。お前に届かないことは解ってるがやっぱり言わせてもらう。お前は半分正しくて半分は間違ってるってな。前へ進む為に何かを捨て続けなきゃならないのかもしれないが本当に大切なもの、人との繋がりは絶対に捨てちゃあならないんだよ。そいつをこの勝負で解らせてやる」
「下らない不純物が混じったようだね立華。ぼく達みたいな奴は強くなることを求めるべきだ。純粋にね。ただ勝利を望み、他の全てを捨てる。でなきゃさ、濁る。闘争に対する姿勢と感情が。この二つが澄みきって純度の高い奴こそ最も強い。それを教えてやる」
後書き
_〆(。。)
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