レーヴァティン
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第百六十話 伊勢の神託その十
「だから家から煙が出るのを見られて安心された」
「竈を焚く火の煙ですね」
「それをご覧になられてな」
そうしてというのだ。
「そしてな」
「そのうえで、ですね」
「言われた、これがあるべき姿でだ」
「民を餓えさせて己だけが奢侈を極めるなぞ」
「愚の極みだ」
英雄は無表情で言い捨てた。
「あってはならない」
「左様です」
謙二もその通りだと答える。
「まさに」
「そうだ、俺は間違ってもそんな人間になりたくない」
「だからですね」
「これからもな」
「国を豊かにしていきますね」
「全ての民が、は無理でもね」
「その殆どがですね」
「常に満腹でいられる」
全ての者が無理であることは英雄もわかっていた、不幸や怠惰でそれが無理になる者はどうしてもいるからだ。だがそうした者を置いておいて彼は言うのだ。
「そうした国にだ」
「していきますね」
「これからな、日に日に豊かにしていってだ」
「民達が、ですね」
「常に満腹でいられる国にする」
またこう言った。
「そうする、さらにな」
「少なくともでござる」
智は酒を飲みつつ言った。
「酒は米から造るでござるが」
「その米をな」
「腹一杯食える世にすべきでござるな」
「誰もがな」
「そうでござるな」
「民は誰もが白い米をだ」
白米、それをというのだ。
「常に飽きるまで食える」
「そうした国にしたい」
「そう考えている」
英雄は智にも話した。
「今はな」
「それが理想でござるな、そこまで豊かになれば」
「国の力もかなりのものになっている」
「もうどの勢力もでござる」
この浮島にある彼等もというのだ。
「敵わないでござる」
「餓えた獣と肥え太った獣のどちらが強いか」
「今の話で答えは出ているでござる」
「そうだ、餓えた獣は長くは戦えない」
「しかし太った獣は長く戦える」
「それが答えだ、ではよりだ」
「政を進めるでござるな」
智は英雄にうどんをすすりつつ尋ねた、つゆは確かに墨汁の様に黒いがその黒さから想像されるまでは辛くはない。
そのうどんをすすりつつだ、智は英雄に話した。
「そうでござるな」
「そしてここではな」
「食べるでござるか」
「次はすき焼きだ」
それを食べるというのだ。
「これは言うなら宴の前の軽い食事だ」
「そうでござるな」
「これからがだ」
「本当の昼食でござるな」
「昼食はすき焼きでだ」
そしてというのだ。
「夜はな」
「伊勢海老と」
「湖の幸だ」
「そちらになるでござるな」
「そうなる、しかしここの海老は本当に美味い」
伊勢海老、それはというのだ。
「伊達ではない」
「伊勢海老は確かにちゃうわ」
耕平も笑顔でこのことを認めた。
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