戦国異伝供書
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第九十二話 尼子家襲来その十三
「一体」
「尼子家は今手負いじゃ」
「手負いの獣ですか」
「手負いの獣は猛々しいな」
「それだけに下手に追ってですか」
「攻めてもな」
そうしてもというのだ。
「傷付く、ましてや後詰は新宮党」
「尼子家の中でも猛者揃いの」
「余計に危ないわ」
攻めてはというのだ。
「だからじゃ」
「この度は、ですか」
「攻めずな」
そうしてというのだ。
「行かせるのじゃ、それにもう充分勝ったし尼子家も当面は安芸に攻めて来ぬ」
「だからですか」
「それならよい、だからな」
「これ以上攻めず」
「行かせるのじゃ」
「それでは」
「しかも追い付けるのはこの辺りの道を知っている我等のみ」
毛利家の軍勢のみだというのだ。
「大内家の軍勢は追い付けぬ」
「だからですか」
「我等だけで追ってもな」
「追い付いてでも」
「攻めるには数が足りず」
新宮党という猛者揃いの者達をというのだ。
「それでじゃ」
「こちらが深手を負いまするか」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「ここは攻めぬ」
「そうしますか」
「そうするとしよう」
「さすれば」
元網は元就の言葉に素直に頷いた、元就も弟のその顔を見てよしとした。だがここで彼は言うのだった。
「しかし陶殿は違う」
「追い付けぬと今言われましたが」
「この戦ではな、しかしじゃ」
「それでもですか」
「尼子家に勝った」
このことは事実でというのだ。
「しかも結構以上に痛手を与えた」
「それでここぞとばかりにですか」
「攻めようと言われる」
「では」
「陶殿は戦を言われる」
尼子家とのそれをというのだ。
「それこそ尼子家の本城までな」
「あの月山富田城ですか」
元網は尼子家の本城と聞いてすぐにこの城の名を出した、それも剣呑な目で。
「それは」
「いささか無謀であるな」
「あの城は山陽と山陰一の堅城です」
「天下でも屈指とさえ言われておるな」
「はい、その城を攻めようなぞ」
「迂闊にしてはな」
「痛い目に遭いますな」
「だからな」
それでというのだ。
「陶殿はそう言われるが」
「それでもですな」
「それが通って攻めてもな」
「負けますか」
「そうなる」
まさにというのだ。
「だからな」
「その時は、ですな」
「厄介なことになる。我等もな」
「尼子家との戦にですな」
「行くことになる」
「左様ですか」
「そうじゃ、だからな」
それでというのだ。
「また尼子家との戦になるぞ」
「それも今度は、ですか」
「大変な戦になるぞ」
「それでは」
「覚悟しておくことじゃ」
次の尼子家との戦はというのだ。
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